2014年01月25日

読書日記461:一刀斎夢録 下 by浅田次郎



タイトル:一刀斎夢録 下
作者:浅田 次郎
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
沖田、土方、近藤ら仲間たちとの永訣。土方の遺影を託された少年・市村鉄之助はどこに消えたのかー維新後、警視庁に奉職した斎藤一は抜刀隊として西南戦争に赴く。運命の地・竹田で彼を待っていた驚愕の光景とは。百の命を奪った男の迫真の語りで紡ぐ鮮烈な人間ドラマ・浅田版新選組三部作、ここに完結。



感想--------------------------------------------------
浅田次郎さんの新撰組三部作の三作目、「一刀斎夢録」の下巻です。新撰組三番隊隊長 斎藤一の話もいよいよ佳境に入っていきます。

甲府で負け、会津で負け、負けて逃げ続けた斎藤一は、ついに警察官となり、西南戦争に赴くこととなる。そこで出会ったのは−。

上巻に続き、浅田次郎さんの文章は読み手を引き込んでいきます。何よりも斎藤一の語り口の描き方が素晴らしいです。最初に上巻を読み始めたときは「なぜ過去を振り返る語り方にしたのだろう?」と思ったのですが、読み終えてその意味が良く分かります。この物語は幕末の動乱を生き抜いた斎藤一が振り返って語るからこそ、重みがあり、読み手に伝わるのですね。

読み終えての感想ですが、本作で著者が描きたかったのは「新撰組」そのものではなく「時代の変化に取り残された者たち」なのかな、と感じました。武士の世が終わり、明治という時代に変わり、それでも刀を手放せず人を切ることで生きる「武士」という者たち。西郷隆盛をはじめ、死に場所を見つけて潔く死んで行く者たちを斎藤一は勝者と呼び、無様に生き残るしかなかった自分を敗者と語ります。

乃木稀典、山縣有朋、西郷隆盛、そして新撰組の面々に斎藤一。変わり行く時代を背景として各々の生き様、死に方を対比することで幕末の動乱に翻弄された人々の人生を描くと供に、新しき大正の世を生きようとする梶原中尉の生き方をも浮き彫りにしていきます。この描き方は非常に上手いです。歴史上の人物を描きつつ、そこにフィクションを織り交ぜることで物語として素晴らしいものに仕上げていく。歴史上の人物を扱っているため中途半端なことをやってしまうと大きな失敗を招きそうですが、浅田次郎さんにそんな心配は無用ですね。

本作は物語として完成しているだけでなく、あちこちに「粋」を感じさせる言葉や言い回しも使われています。こうした言い回しが出来る作家さんもあまり多くは無いのではないでしょうか。文章にリズムがあり読んでいると引き込まれるだけでなく、その重厚な世界観といい、読み終えたときに感じさせる読了感のよさといい、完璧な時代小説だと思います。新撰組三部作の三作目から入ってしまいましたが、一作目、二作目も読んでみようかと思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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posted by taka at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・時代小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月22日

読書日記460:一刀斎夢録 上 by浅田次郎



タイトル:一刀斎夢録 上
作者:浅田次郎
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「飲むほどに酔うほどに、かつて奪った命の記憶が甦る」ー最強と謳われ怖れられた、新選組三番隊長斎藤一。明治を隔て大正の世まで生き延びた“一刀斎”が近衛師団の若き中尉に夜ごと語る、過ぎにし幕末の動乱、新選組の辿った運命、そして剣の奥義。慟哭の結末に向け香りたつ生死の哲学が深い感動を呼ぶ、新選組三部作完結篇。



感想--------------------------------------------------
浅田次郎さんの作品です。この方の作品はかなり前に「鉄道員(ぽっぽや)」を読んだことがあるだけです。本作と「壬生義士伝」、「輪違屋糸里」の三作で、「浅田次郎の新撰組三部作」と呼ばれているようです。

明治天皇が崩御し、大正の世となった日本。梶原中尉は剣術のライバルである榊から風変わりな老人の話を聞く。その老人とは、かの新撰組 三番隊隊長 斎藤一であった−。

新撰組を描いた作品と言うと、すぐに思い浮かぶのは司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」と「新選組血風録」です。どちらも優れた作品でしたが、特に土方歳三の生涯を描いた「燃えよ剣」は傑作だと感じていました。

しかし本作も負けず劣らず相当に面白いですね。新撰組 三番隊隊長 斎藤一と言えば、一番隊隊長 沖田総司に負けず劣らずの剣の達人と言われている人です。斎藤一を一躍有名にしたのはやはり「るろうに剣心」でしょうね。実写映画版では斎藤一を江口洋介さんが演じていました。

本作は幕末の世を生き抜いた斎藤一が大正の世から幕末を振り返る、という作品です。人を切ることに明け暮れた幕末の世、そして大政奉還により追われる身となった新撰組。独自の死生観を持って人を斬り、死に場所を求めていく斎藤と新撰組の面々。斎藤一こと一刀斎が当時を振り返っているため、語り口は斎藤の一人称ですが、この一人称が非常によく生きています。この語り口なしでは本作はここまで面白くはならないかと思います。

また「大正の世から幕末を振り返る」という描き方も非常に生きています。斎藤一の生き方と対照的な生き方をする人物として乃木稀典が出てきます。二○三高地で多くの犠牲を出した大将ですね。西南の役での不始末を侘び、明治天皇の後を追って殉死する乃木大将と、死に場所を求めつつも死ぬことができずに生き延びてきた斎藤一。同時代を生きた死生観が全く異なる二人描くことで物語にいいコントラストが描かれています。

本書を読んで思うのは、何よりも日本語のうまさ、文章としての深みです。売れっ子作家、人気作家という人は多くいますが、こうした日本語の文章をしっかりと書き、文章の美しさで読み手を魅了できる作家さんというのは随分と少なくなってきた気がします。少し以前で言えば吉川英治さんや司馬遼太郎さんでしょうか。こうした方々の作品を読んでいると本当に日本人として生まれて日本語の作品を読むことができてよかった、と感じます。

さて上巻は新撰組がだいぶ追い詰められたところで終わります。下巻も楽しみに読むことにします。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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posted by taka at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・時代小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月16日

読書日記153:利休にたずねよ



タイトル:利休にたずねよ
作者:山本兼一
出版元:PHP研究所
その他:第140回直木賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
飛び抜けた美的センスを持ち、刀の抜き身のごとき鋭さを感じさせる若者が恋に落ちた。
堺の魚屋の息子・千与四郎ー。後に茶の湯を大成した男・千利休である。
女のものと思われる緑釉の香合を
肌身離さず持つ利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、
気に入られ、天下一の茶頭に昇り詰めていく。利休は一茶人にとどまらず、
秀吉の参謀としてその力を如何なく発揮。秀吉の天下取りを強力に後押しした。
しかし、その鋭さゆえに、やがて対立。
秀吉に嫌われ、切腹を命ぜられるー


感想--------------------------------------------------
 山本兼一さんの直木賞受賞作品です。初めて読む方の作品ですね。

 美しき物を追い求めることにかけての熱情の激しきことは及ぶ者のいない男、千利休。その艶やかな詫び茶の根底には美しき女人の影が見え隠れする。香合に隠された秘密とはー。

 本作、利休が秀吉から切腹を命じられた場面から始まります。そして章を追う毎に少しずつ過去へ遡りながら視点を変えて、利休の人となり、利休とその周囲の人間の関係を露にしていきます。
 秀吉や利休の妻:宗恩などから語られる利休の姿は、表面上は冷静ですが美しき者へ対する熱情は人一倍の男です。美しき者を手に入れるためなら平気で他の物を犠牲にするー。そんな利休の姿はとても人間らしく、貪欲です。

 その利休の美への執念の源となっているある女性ー。この女性が本作では大きなポイントなのですが、その見せ方がとてもうまいです。もう故人となってしまっているその女性の正体とはー?その女性の謎に引き込まれてページを繰る手が止められません。

 もうひとつ素晴らしいと感じたのは本作における茶の席の描き方です。
 本作、20を超える章から構成されるのですが、そのほとんどの章で茶の席が描かれています。利休の自宅の茶室や黄金の茶室、野点の風景など、その場面や使用される道具は異なるのですがどの描写も非常に美しく趣があります。
 20を超える章で茶の席が描かれていれば、普通はどこかで飽きを感じてしまうのでしょうが、本作ではそういうことがまるでありません。それぞれの章で描かれている茶の席はそれぞれがそれぞれの個性、色、味を持って描かれています。この描写力は並大抵なことではありませんね・・・。凄いです。

 さらに、これだけ時代考証のされた作品を作るための事前調査も相当大変だったでしょうね。茶器や釜、当時の建築物や衣装、食べ物、お菓子など、詳細に調べた上で、現在の人にも分かりやすい描写で描いています。本当に当時の様子が目に浮かぶようです。

 気品のある文体で描かれた重厚であり艶やかな作品。まさに利休の生き方のような作品ですね。直木賞受賞も納得の一冊でした。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・時代小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする