2015年06月20日

読書日記545:アイの物語 by山本弘



タイトル:アイの物語

作者:山本 弘
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、かつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。

感想--------------------------------------------------
SFの名作ということで読んでみました。期待を超える素晴らしい作品でした。

人が衰退しマシンが栄える世界。マシンとの戦闘で怪我をし囚われた僕にアイビスという名の美しいマシンは、いくつもの物語を語る。それはどれも人とマシンの不思議な関係を描いた物語だった―。

日本のSFということで「新世界より」や「マルドゥック・スクランブル」、「虐殺器官」などを思い浮かべていたのですが、同じSFでありながら、これらの作品とはかなり違います。派手なバトルシーンは少しだけで、血が流れることもなく、人とマシン(AI)との関係について、アイビスという名の女性マシンが優しく語っていく物語です。

人とマシンの関係性を語る中で浮き彫りにされていくのは、人という種族の限界と、それを超えていくマシン(AI)、理解し合うことができない者同士が許しあうことの大切さ、物語の持つ力、などです。自らの中に矛盾を内包し、倫理的でも論理的でもない行動をとる人間に対し、常に倫理的であり論理的であり、最良の行動を選択しようとするマシン。知的生命体としての限界に行き着いてしまった人類と、それを超えてどこまでも行こうとするマシンたち。本書はそうしたマシンと人の関りを描いた、アイビスが語る七つの物語と、それぞれの物語の合間でのアイビスと「僕」の会話のパートから成り立っているのですが、アイビスが語る物語がどれも素晴らしく、まさに「物語の力」を感じさせます。

感動的な箇所はいくつもあるのですが、やはり私的に最も感動したのは最後の物語からエピローグまでです。精神的にも肉体的にも限界を持ち、地球の上に縛り続けられたまま、世界のあちこちでテロや戦争を繰り返す人類。しかし人の生み出した物語やフィクション、マシン、つまりは想像と創造の産物は、こうした精神的・肉体的な限界をやすやすと超えて、広大な、誰も見たことのない世界に旅立っていきます。「人の本当にすばらしい点というのは、ここにない何かを想像し、創造できることなんだ」ということがひしひしと伝わってくる作品です。

本書を読み終えると、主人公と同じように、自分が決してマシンを超えることのできない人という種であることに少し傷付くかもしれません。しかしこの「アイの物語」という本もまた想像の産物であり、それを書いたのは人間である、ということに救われた気になるのもまた事実です。アイビスのようなマシンがいない現在では、物語は人が紡ぎ、人が伝えるしかないのですが、この本のような物語は将来まで伝えられて欲しいなあ、と感じた作品でした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

2015年05月17日

読書日記540:ニューロマンサー byウィリアム・ギブスン



タイトル:ニューロマンサー
作者:ウィリアム・ギブスン (原著), 黒丸 尚 (翻訳)
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ケイスは、コンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だが、その能力を再生させる代償に、ヤバイ仕事をやらないかという話が舞いこんできた。きな臭さをかぎとりながらも、仕事を引き受けたケイスは、テクノロジーとバイオレンスの支配する世界へと否応なく引きずりこまれてゆく。話題のサイバーパンクSF登場!

感想--------------------------------------------------
SFの中には世界的な名作と呼ばれる作品がいくつかありますが、本作もその一つです。発行されたのは一九八六年。ウィリアム・ギブスンという著者の名前とともに、後世語り継がれるSFの名作が、本作、「ニューロマンサー」です。

コンピューターカウボーイのケイスは、モリィとともに電脳空間と現実空間を行き来しながら世界を駆け巡る・・・!!

最初に言ってしまいますが、初読で本作を理解することはほぼ不可能です。未来の千葉シティから始まる物語は、和と洋、仮想と現実といった様々な概念が入り混じり、圧倒的なボリュームで読者に襲い掛かります。さらにこうしたSF小説のご多分に漏れず、十分な説明がなされないままに物語が進行するため、正直、最初は意味がわかりません。しかし、それでも本書の凄さは伝わります。飛び交う言葉、一行後の展開が全く読めないスリル感、これらはSFの名作に通じるものだと思います。

読み進めていくと、一九八六年発行の本作は、後世の様々な作品に影響を与えたであろうことがわかります。攻殻機動隊やマトリックスなどの面影があちこちに垣間見れますね。首のジャックに接続して電脳空間へダイブし、他人の眼を借りて世界を疾走する―。今では当たり前となったこうした物語の原点が本作になります。

読んでいて面白いのは、いたるところに「日本的なもの」が出てくるところです。日立や三菱、富士通、手裏剣、忍者・・・。サイバーパンクであり、現実も交え、あらゆるものをごちゃまぜに扱いながら、そのスピード感で最後まで引っ張ってしまうその熱は凄いですね。SFの名作と呼ばれるわけです。

はっきり言ってしまうと、一読した今でもストーリーはほとんど理解できていません。現実と仮想の区別も、誰が敵で誰が味方なのかも、よくわからずにただただ、最後まで引っ張られてしまった、という感じです。もう一回読んでみようかな、と思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2015年02月15日

読書日記529:みずは無間



タイトル:みずは無間
作者:六冬 和生
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
土星探査というミッションを終えた俺は、やがて太陽系を後にした―予期せぬ事故に対処するため無人探査機のAIに転写された雨野透の人格は、目的のない旅路に倦み、自らの機体改造と情報知性体の育成で暇を潰していた。夢とも記憶ともつかぬ透の意識に立ち現われるのは、地球に残してきた恋人みずはの姿だった。法事で帰省する透を責めるみずは、就活の失敗を正当化しようとするみずは、リバウンドを繰り返すみずは、そしてバイト先で憑かれたようにパンの耳を貪るみずは…あまりにも無益であまりにも切実な絶対零度の回想とともに悠久の銀河を彷徨う透が、みずはから逃れるために取った選択とは?第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
ハヤカワSFコンテストの第一回受賞作です。おもしろいSFが読んでみたい!ということで読んでみました。

太陽系を超えて広大な宇宙を行く無人探査機のAIと化した天野透は、学生時代に付き合っていたみずはのことを思い出していたー。

無人探査機のAIが主人公というなんとも不思議な作品です。恋人だったみずは、貪欲なまでに何でも欲しがったみずは。そんなみずはの思い出を振り切るように走る無人探査機とその無人探査機が生み出すDという生物(?)、サーフという同様な無人探査機…。悠久の時を超えて旅をする無人探査機の視点で描かれる物語は、繰り返しになりますがなんとも不思議な雰囲気を醸し出します。

最後の選評にも書かれていますが、この作品の凄いところは、人間だった時の恋人であるみずはとの関係やみずはの人格表現と宇宙を行く無人探査機という完全に別個の視点がバランスをとりながら融合しているところにあります。日常を生きるみずはと、深宇宙を行く天野透。この全く異世界の二つの存在が、透の回想を通して見事に同じ世界に描かれているんですね。

宇宙をいく無人探査機の描写には、まさにSFという表現が散りばめられています。コヒーレンス、ナノ砂、重力子、電磁波…。悠久の時を自己を改造しながら宇宙を漂う透の自我。数千年の時が一瞬に過ぎていくこの描写は、文章でなければ語ることはできなかったでしょうね。理解が追い付かず、読むのに四苦八苦する部分もあり、かなり読むのに時間がかかりました。

このように非常に独創的な作品ですが、しかし私にとってはそこまで面白い、とは感じられませんでした。SFという観点から見ると非常に独創的で価値があるのかもしれませんが、エンターテイメントとしてみると、そこまででは、、、と思ってしまうんですね。終わりもなんだか淡々としており、読み終わって「いい本を読んだな」と思える作品ではありませんでした。あと、表現が非常に難しく難解で、それも理由の一つと言えるかと思います。同じハヤカワSFコンテスト作品では以前に読んだ「ニルヤの島」の方が個人的には面白かったですね。

非常に独創的な作品ではありますので、そういった意味ではSF好きの人にはお勧めの本ではあります。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス

2015年02月08日

読書日記528:ニルヤの島



タイトル:ニルヤの島

作者:柴田勝家
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
【第二回ハヤカワSFコンテスト受賞作】「死後の世界がない」ことが証明された時代。ミクロネシアを訪れた学者ノヴァクは、死出の舟を造り続ける日系の老人と出会う……驚嘆の文化人類学SF。

感想--------------------------------------------------
SFを読んでみようと思い、本書を手に取りました。本書は第二回ハヤカワSFコンテストで大賞を受賞した作品です。SFではあるのですが、既存のSFの概念からは外れた、独特な世界観の作品です。

ミクロネシア経済連合体に赴いたノヴァク教授は船を作り続ける老人に出会う。死後の世界が失われた世界で唯一死後の世界を信じるモデカイトの教徒、アコーマンと呼ばれるチェスのようなゲームを続ける男、不浄と呼ばれる男と行動を共にする女−。死後の世界が失われた世界で、人の行き着く先は−。

独特な世界観であり、章毎に次々と主体が入れ替わっていく作品です。主観時刻や生体受像と呼ばれるSF的概念、ミクロネシアの様々な島を結ぶ大環橋とそこに住む人々、死後の世界が失われた世界で死者を船に乗せて「ニルヤの島」と呼ばれる彼岸に送り続けるモデカイトの教徒たち。静かで印象的で断片的で独特ではありますが、そこには確かに今のこの世界とは別の世界があります。

SFというものが、今の我々の住む世界と異なる世界を描き出し、読み手をわくわくさせるものであるのならば、この本はまさしくSFです。しかし一方で、この本で描かれている世界観や概念は難解であり、一筋縄では理解はできません。物語の最後に至るまで、それぞれのパートで描かれている人物同士がどのように関係してくるのかわからない点も、読みにくさを増す要因となっています。

失われた死後の世界と、模倣子(ミーム)と呼ばれる人の存在を規定し後世に伝える因子。この「死後の世界が失われた世界」という定義は特に概念的で難しいですね。「死後の世界」自体が概念的であるのに加えて、それが「失われた世界」というのはさらに概念的だからでしょうね。

文章は決して読みにくくなく、SFではあるのですが現実感を感じさせる筆致であり、難解ではあるのですが、没頭して読んでしまいました。全くもって本作がデビュー作とは思えないほどです。難解ではありましたが、十分に楽しめました。ただ、ここまでの作品を一作目で書いてしまうと、次の作品をどのように書くか、そこが非常に難しくなってくるとは感じます。特に本書は著者の専門である民俗学を前面に押し出していますので、なおさらですね。非常に個性的な方のようですが、二作目、三作目でどれだけの進歩を見せてくれるのか、とても楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

2014年10月16日

読書日記509:オービタル・クラウド by藤井太洋



タイトル:オービタル・クラウド
作者:藤井太洋
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb制作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミ(デブリ)の不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーション(ISS)を襲うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリの調査を開始した。その頃、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデブリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだった──電子時代の俊英が近未来のテクノロジーをリアルに描く、渾身のテクノスリラー巨篇!


感想--------------------------------------------------
本書の作者は「Gene Mapper」という自費出版のSF作品が爆発的に売れて大成功した方です。本作「オービタル・クラウド」とは「軌道の雲」という意味で、宇宙関連のSF作品となります。その表紙のイメージに惹かれて読んでみました。

流れ星の情報を送るWebサービス<メテオ・ニュース>を運営する木村和海は奇妙な振る舞いを見せるロケットの残骸を見つけた。それは全世界を震撼させる宇宙テロの幕開けだったー。
本作を読んでまずはじめに感じるのはその圧倒的な理系分野の知識です。航空宇宙、情報分野の知識がこれまでもか、と散りばめられており、この分野が好きな人はすぐにのめり込んでいくのではないかと思います。地磁気を活用した画期的な推進システム「テザー推進システム」が本書の核となりますが、この分野の知識がある人には読みやすいかもしれませんが、知見がない人にはかなり難しいかもしれません。

物語の舞台もSFらしく東京から始まり、シアトル、テヘラン、セーシェルと世界中にわたり、壮大です。地上から軌道へ、さらに宇宙へ、と大きな物語となっていきます。CIAが出てきたり、北朝鮮、中国、とSFならではの設定ですね。このあたりはSFでありながらサスペンス的要素も含まれています。

物語の核となる技術の裏付けもしっかりしており、物語の規模も壮大なのですが、一方で物足りなさを感じるところもあります。一言で言ってしまうと登場人物に「深み」が足りなく感じるのですね。航空宇宙分野に関して天才的な冴えを見せるカズミ、ITの天才、アカリ、CIAのブルース、クリス、空軍のダレルなどなど登場人物は多いのですが、総じてその人格が浅く感じてしまいます。どの登場人物も怒るべき時に怒り、喜ぶきときに喜び、悲しむべき時に悲しんでおり、何の矛盾もないのですが、逆にそれが人物を薄く感じさせる要因となってしまっています。現実の人間を思い浮かべると、そんな人は逆にまれですし、セリフもどこか薄っぺらいんですね。場面に言葉がそぐわない、というのではなく、 「そんなこと普通は言わないだろ…」っていうセリフが言葉としてぽんぽんでてくるからでしょうね。作り物の人形同士が物語を組み上げているような奇妙な違和感を少し感じました。

必要なのは人物の作込みかな、と感じます。辛い時に泣く人もいれば、笑う人もいる。そうした個性をどう作り込んでいくのか、そこが課題ですね。逆にそれがうまくできた時にはもともとの知識が半端ない作者なので、SFの第一人者となっているのではないかと感じました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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