2017年03月11日

読書日記631:愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ



タイトル:愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ
作者:打海 文三
出版元:角川グループパブリッシング
その他:

あらすじ----------------------------------------------
月田椿子は亡くなった桜子を思って泣いたことは一度もなかった。爆弾テロの惨劇の映像が思い出され苦しめられるような経験もなく、そういう自分を責めたこともなかった。桜子の死を否認しているわけではなく、そもそも死んだのが桜子なのか椿子なのか、いまでもよくわからない。内乱16年目の夏、椿子が率いるパンプキン・ガールズは、きょうも首都圏のアンダーグラウンドで進撃をつづけている―。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんの作品、「愚者と愚者」の下巻です。「裸者と裸者」と同じく、主人公は上巻の海人から下巻では月形椿子に移ります。

二子の片割れ、自身の分身である桜子を失った椿子。しかし彼女は涙を流すことなく女の子たちを率いて戦場と化した都心で笑い生きていくー。

戦闘に次ぐ戦闘、そして流される血と転がる死体。パンプキンガールズ、黒い旅団、常陸軍、我らの祖国、etc、etc。この巻で描かれる東京はまさに地獄絵図、現代の中東の某国のような、いくつもの戦闘部隊が覇権を争うすさまじい戦場です。飛び交う銃弾や迫撃砲、躍進する戦闘ヘリに装甲車、そして交錯する様々な人々の思い。

でもしかし、そこにセンチメンタルな感情はみじんもなく、いまその瞬間を生きる「女の子」の姿が生き生きと描かれています。生き生きと今を生き、そして銃弾に倒れて死んでいく女の子たち。そこに描かれているのは紛れもなく生で、現実の戦争を生きる人々に最も近いのではないかと感じさせます。

刹那を生きる椿子をはじめとする女の子たちの生き様の描き方、発せられる言葉がとてもいいです。彼女たちを「女の子」と呼んでいるのが、なによりいいですね。

そして吉田伸子さんによるあとがきがまた秀逸です。他界された打海文三さんの以下の言葉がなによりいいですね。


「人類の過去を振り返ると、目も当てられないほどひどい歴史なんですよね。それを考えると、半分やけくそのような気分ですが、こうしてエンターテイメントとして表現した世界の方が、教訓めいたお話よりよっぽど現実に即していると思うんです。」


そう、椿子たちにリアリティを感じるのは、彼女たちが一時的な感情に惑うことなく物語の中で生きて、生を謳歌し続けているからなんですね。そこに読者は、物語の中を生きる海人たちと同じように、魅了されるんですね。

物語の途中、未完のまま他界されたのが残念でならない作品です。続きの作品もぜひ読んでみようと思います。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2017年03月05日

読書日記630:愚者と愚者(上) 野蛮な飢えた神々の叛乱



タイトル:愚者と愚者(上) 野蛮な飢えた神々の叛乱
作者:打海 文三
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
応化16年、爆弾テロが激発している内戦下の首都圏で、規律ある精鋭部隊として名を馳せる孤児部隊の司令官に、佐々木海人は20歳にして任命された。教育を受ける機会を逃したまま、妹の恵と弟の隆を養うために軍隊に入り、やがて仲間とともに戦場で生きる決意を固めた。そして、ふと背後を振り返ると自分に忠誠を誓う3500人の孤児兵が隊列を組んでいたのだった―。『裸者と裸者』に続く、少年少女の一大叙事詩、第2弾。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんの作品、「裸者と裸者」の続きです。「応化クロニクル」と呼ばれる本シリーズは上下巻の本作に加えて「覇者と覇者」がありますが、著者急逝のため未完となっているそうです。

常陸軍内部で確固たる地位を確立した海人は「黒い旅団」との激闘に巻き込まれていくー。

「裸者と裸者」で確立された世界観と各登場人物の個性を下敷きに、さらに苛烈な生き様が展開されていくのが本作です。主人公は「裸者と裸者」の上巻と同じく海人に戻っています。下巻の主人公、月形椿子の生き様にも興味はありますが、それはまた下巻で語られるようです。

無骨な描写は相変わらずですが、本書では関東一帯を舞台に様々な勢力が入り乱れての大混戦の様相を呈してきます。常陸軍、政府軍、宇都宮軍、パンプキン・ガールズ、紅い月、ンガルンガニ、中国マフィア、などなど。その中で確固たる地位を確保している海人の生き様は、「裸者と裸者」での描写よりも安定していて、人間的に見えます。

様々な主義主張の違いがぶつかりあう本作では"ゲイ"がストーリーに欠かすことのできない主軸となっていますが、これがすこしだけ違和感がありました。ここまでの存在感を示すほどに描く必要があったのかな?とは感じます。

戦闘の描写は相変わらず苛烈です。これは良い意味ですね。敵味方区別なく、容赦なく戦場を描ききるこの筆力は著者の魅力です。最後の結末も予想がついたとはいえ、読み終わるまで目が離せませんでした。

飾り気がなく無骨でありながら人の生き様の本質を描くような本作は本当に面白いです。下巻も読む予定です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2017年01月14日

読書日記624:裸者と裸者(下) 邪悪な許しがたい異端の



タイトル:裸者と裸者(下) 邪悪な許しがたい異端の<〈応化クロニクル〉><〈応化クロニクル〉> (角川文庫)
作者:打海 文三
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
両親の離婚後、月田姉妹は烏山のママの実家に引越し、屈託なく暮らした。そして応化九年の残酷な夏をむかえる。東から侵攻してきた武装勢力に、おじいちゃんとおばあちゃんとママを殺されたのだ。十四歳の姉妹は、偶然出会った脱走兵の佐々木海人の案内で、命からがら常陸氏へ逃げ出した。そして――戦争を継続させているシステムを破壊するため、女性だけのマフィア、パンプキン・ガールズをつくり世界の混沌に身を投じた――。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんの「裸者と裸者」の下巻です。このシリーズは「応化クロニクル」と呼ばれているらしいですね。続編として「愚者と愚者」、「覇者と覇者」があります。著者急逝のため未完なのが残念ですね。

戦乱の東京を生き抜くために月形姉妹は女子だけの戦闘集団パンプキン・ガールズを結成する。東京UF、政府軍、反政府軍、2月運動など様々な勢力が交錯する”シティ”での戦闘は苛烈さを増していくー。

読み手をぐいぐいと引っ張って読ませる本です。多くの戦闘集団と登場人物が交錯し、立ち位置や勢力図が目まぐるしく変わるのですが、さほど混乱をきたさないのは上巻があるからでしょう。佐々木海人という個人が幾つもの戦場を潜り抜けて頭角を現していく上巻に対し、下巻は月形姉妹という二人の女子が主人公ですが、その冷徹さや壊れ方は海人にも負けません。

下巻まで読んでようやくわかりましたが、本作の著者の文体は「無骨」と言っていいかもしれません。飾りが全くなく、簡潔で、冷徹で、事実を淡々と描いていきます。想像や感情といった不確かなものの入り込む余地のないその文体は戦場の描写によくあっています。また、戦場に生きる月形姉妹たちの生き方にもあっていますね。現実、生と死、そういった生々しいものの痛さが伝わってくる文体です。

東京、神奈川の一画を舞台とした物語は現実的な描写でぐいぐいと進んでいきます。流される血と失われる仲間。そして衝撃の結末。どこにも救いなどなく、その救いのなさがまた一方で清々しくもある小説です。特にラストの死体屋の言葉がそれをよく表していると感じました。幻想も感傷も期待も希望もなく、あるのはただ一瞬一瞬の現実だけ。そのような戦場の描写がすごくうまく読み手を引き込む作品です。

なかなかジャンル分けの難しい作品ですね。青春小説というには戦場の描写が生々しすぎるし、ラノベというには硬派すぎます。戦争小説かと言われると月型姉妹やパンプキン・ガールズの描き方はまた少し違う気もします。


きっとこれが「打海文三」の作品で、ジャンル分けなんて不要なんでしょうね。伊坂幸太郎さんが「3652」で絶賛していたのが少しわかる気がします。他の作品も読んでみようと思います。特に「私の愛したゴウスト」が期待大ですね。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2017年01月01日

読書日記623:裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争



タイトル:裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争<〈応化クロニクル〉><〈応化クロニクル〉> (角川文庫)
作者:打海 文三
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
応化二年十一月未明、〈救国〉をかかげる佐官グループが第1空挺団と第32歩兵連隊を率いて首都を制圧。同日正午、首都の反乱軍は〈救国臨時政府樹立〉を宣言。国軍は政府軍と反乱軍に二分した。内乱勃発の年の春にすべての公立学校は休校となった。そして、両親を亡くした七歳と十一ヶ月の佐々木海人は、妹の恵と、まだ二歳になったばかりの弟の隆を守るために、手段を選ばず生きていくことを選択した――。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんという著者のことは実はよく知りません。この作品を読もうと思ったきっかけは伊坂幸太郎さんが作品、「3625」で打海さんを絶賛していたから、というものです。加えて、この作品のあらすじを読み、その世界観に「読んでみたい」と思ったからです。

政府軍と反政府軍が戦闘を繰り広げる日本。戦争孤児となった佐々木海人、恵、隆の三兄弟は、その日を必死に生き延びていくー。

舞台は近未来の日本。財政破綻や武装蜂起などにより戦乱の地と化した日本を舞台に、主人公である佐々木海人が家族を守り、少年兵として必死に生き抜きのし上がっていく姿を描いた作品です。戦争孤児、麻薬、マフィア、そして目を覆うばかりの残虐行為と激しい戦闘。戦争作品にはつきものの光景ですが、日本を舞台に描かれた作品は少ないと感じました。

常陸軍に入り、その中でのし上がって力を蓄えていく海人は少年兵でありまともな教育を受けていないのにまっすぐで、その生き様は読者に感銘を与えます。この海人の性格があるからこそ、最後まで読み通せたと言ってもいいかと思います。

軍の中で出会う様々な仲間たち、そして出会いと別れ。戦争作品なので簡単に人が死んでいく様は読んでいて厳しいですが、海人のまっすぐな生き様が救いとなります。文体はとても淡白で淡々と事実を積み重ねていく書き方です。そしてそれが本作では非常に生きています。これが濃厚な描き方をされていると、読み切れなかったのではないかと思います。

本作は下巻に続きます。下巻は同じ舞台ながら主人公が切り替わります。最後まで読み終えたときに何が見えるのか、楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2016年11月14日

読書日記618:グラン・ヴァカンス 廃園の天使T



タイトル:グラン・ヴァカンス 廃園の天使T
作者:飛 浩隆
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「いちど観てみたいわ、春を。ここには夏しかないものね」 ぼくは柔らかい春の雨を想像した。美しく残酷な夏の終わりに―― 日本SF大賞受賞作家の初長篇、待望の電子書籍化。仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。

感想--------------------------------------------------
飛浩隆さんの作品です。国内のSF作品としては非常に有名な作品ですので読んでみました。二段組み三百ページ超とボリュームもあり、読み応え十分な作品です。

千年ものあいだ夏が続く「夏の区界」に暮らすAI、ジュールやジュリーたちの前に、区界を消し去る蜘蛛たちが現れる。「鉱泉ホテル」に立てこもったAIたちは硝子体を武器に蜘蛛たちと戦うがー。

本書を最後まで読み終えて、もっとも心に残った言葉は、「清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである」というあとがき(ノート)に書かれた言葉です。この言葉を持って作品全体を見直すと、なるほど、この作品は間違いなく最上のSFだと再確認できます。

AIと蜘蛛たちの戦い、硝子を操る五人の女たち、ジュールと得体のしれない右目の欠けた老ジュール、そして鉱泉ホテルや夏の区界に生きる様々なAIたち。残虐さと、エロスと、苦痛に満ちた作品です。蜘蛛たちを操るランゴーニによって劣勢に追い込まれるAIたち。そもそも夏の区界とはなんなのか、ここに生きるAIたちの役割は、ランゴーニの目的はー。
読み終えてもこれらの謎が完璧に解けたとは言い切れません。物語は終末を迎えますが、それは新たな始まりでもあります。ただ作者が書くように清新さと、残酷さと、美しさ、これだけははっきりと胸に残ります。

本作がなぜSFの傑作の一つと呼ばれるのか?それは読み終えて読者の胸に鮮烈な印象を残すからに他なりません。蜘蛛たちの作り出す造形、分解され、食われ、取り込まれるAIたちの苦痛、ジュールとジュリーの鮮やかな心、そして鳴き砂の広がる夏の区界の砂浜。ストーリーよりも、文章の描き出す映像や音、そういったものが心に残りました。

何よりも胸に残るのが、鳴き砂の広がる砂浜と海ですね。この海のイメージが夏の区界という名称や「グランヴァカンス」というタイトルと重なって、緩やかな海のイメージを描き出します。

清新さと残酷さと美しさ。

確かにこれらが満喫できるSFの傑作です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス