2012年01月18日

読書日記323:トーキョー・プリズン by柳広司



タイトル:トーキョー・プリズン
作者:柳広司
出版元:角川グループパブリッシング
その他:

あらすじ----------------------------------------------
元軍人のフェアフィールドは、巣鴨プリズンの囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。時を同じくして、プリズン内で殺人事件が発生。フェアフィールドは貴島の協力を得て、事件の真相を追うが・・・。


感想--------------------------------------------------
「ジョーカーゲーム」の柳広司さんの作品です。本書も「ジョーカーゲーム」と同じく第二次世界大戦前後の時代を描いた作品です。後書きにも書いてありますが、こうした様々な時代や、様々な時代の偉人を描いた作品が多いようですね。

戦時中に行方不明となった知人の手がかりを得るために巣鴨刑務所を訪れたフェアフィールドは、交換条件として捕虜虐待の容疑で収監されている貴島の記憶を取り戻す手伝いをすることを要求される。時を同じくして所内で不可思議な事件が頻発する。犯人は?知人の行方は?貴島の記憶に隠された真実とは−?

戦争直後の独特な世界観をうまく題材にした作品かと思います。所内の独特の雰囲気、終戦直後の東京の街並み、日本人と連合軍の関りあい方、そういったものをうまく描いていると思います。

ミステリーパートもうまく組み立てられているな、とは思うのですが、個人的にはやや消化不良気味です。頭脳明晰な貴島が安楽椅子探偵として活躍する話かと思っていたのですが、貴島の働きが中途半端なイメージがしました。後半は主人公であるフェアフィールドと、貴島の友人であるイツオとキョウコが物語の主体になるのですが、いまいちしっくり来ませんでした。安楽椅子探偵の貴島がフェアフィールドをうまく操り、最後にはうまく脱獄していく−そんなハンニバルもどきのストーリーを期待していたのですが、その期待は残念ながらあまりいい方向ではない方向に裏切られましたね。終わり方もすっきりと終わらせようとはしているのでしょうが、ちょっと哀しい終わり方でした。

あと戦争の悲惨さの描き方が中途半端な気がします。こういった小説の中で戦争を扱い描くことは非常に難しいのですが、やはり十分には描ききれていないですね。東京大空襲や原爆の悲惨さも表面をなぞるように描かれているため、これならあえて悲惨さは描かない方がよかったのでは?と思わされます。逆に書くなら徹底的に描かないと駄目かな、とも思います。

申し訳ないですが、心情の描きこみ方、戦争の扱い方、ミステリーパートの全てについて中途半端な気がしてしまいました。「ジョーカーゲーム」やその続編の「ダブルジョーカー」は戦争直前の世界を暗躍するスパイを描いていますが、戦争の悲惨さや醜さと言ったものはあまり描かずに登場人物の直面する現実としての戦争だけを描いているために成功しているのかもしれませんね。

柳広司さんの最新作「ロマンス」もいずれ読む予定です。次回作に期待です。




総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2011年11月20日

読書日記313:アンフェアな月 by秦建日子



タイトル:アンフェアな月ー刑事 雪平夏見
作者:秦 建日子
出版元:河出書房新社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
生後三ヵ月の赤ん坊が誘拐された。錯乱状態の母親、具体的な要求をしない奇妙な誘拐犯、翻弄される捜査本部。そんな中、遺留品が発見された山中から掘り出されたものとは…バツイチ、子持ち、大酒飲み、捜査一課検挙率No.1、そして「無駄に美人」。ベストセラー『推理小説』に続く、刑事・雪平夏見シリーズ第2弾。


感想--------------------------------------------------
つい先日、公開された篠原涼子さん主演のアンフェア。本作は「推理小説」に続く、そのアンフェアの原作シリーズの第二作目です。型破りな女刑事:雪平夏見が活躍する小説として有名ですね。

生後三ヶ月の女児の誘拐事件が発生した。犯人からの要求は「お前の娘に見合うだけのものを用意しろ」というもの。凶悪犯を射殺したばかりの女刑事:雪平夏見に捜査に加わるようにとの依頼がくる−。

読んでみての感想ですが、本作は「普通の」小説とは大分違いますね。まずはその構成・文体です。三百ページ超というボリュームなのですが、だいぶ短く感じられます。改行やスペースを効果的に使っているからでしょうね。無駄な表現が限りなく削られ、文章そのものだけではなく、文体もうまく使ってスタイリッシュな仕上がりになっています。こういったところは著者が脚本家・劇作家である点も影響しているのかもしれません。

次に光るのはやはり主人公の雪平夏見のキャラクターです。女性刑事というと誉田哲也さんの作品「ストロベリーナイト」から始まる姫川玲子ものがありますが、あの姫川玲子をさらに男っぽくし、無愛想にしたのが雪平夏見、という印象です。少ない文章の中で、ぶっきらぼうな個性を撒き散らし、読者の眼を釘付けにする。こういったキャラクターはやはり刑事者では光りますね。

最後はやはりミステリーの部分でしょう。最後の最後に明かされる事件の本当の姿と、犯人の素顔。そこまで来て全ての伏線が始めてつながり、あ、なるほど、と頷くことができます。この構成はうまいですね。

飾り気の無い文体に個性的なキャラクター、練られた筋書きに各章の最後に見せる黒地に大きな白抜き文字による演出。非常に個性的な作品ですが、芯のところがしっかりとしているため、短くてもしっかりとした読み応えの本に仕上がっていますね。ドラマの話題のほうが大きいですが、原作も負けずに面白い作品だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2011年10月03日

読書日記302:無貌伝 ~双児の子ら~ by望月 守宮



タイトル:無貌伝 ~双児の子ら~
作者:望月 守宮
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界ー。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける!そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!!狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹ー。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは。第40回メフィスト賞受賞作。


感想--------------------------------------------------
先日メフィスト賞受賞作「琅邪の鬼」を紹介しましたが、本作もメフィスト賞の受賞作です。続けて読んでみました。

人の顔を奪う怪異”無貌”によって顔を奪われた探偵:秋津とその助手:望。二人は無貌からの犯行予告が届けられた鉄道王:榎木家に向かう−。

舞台は日本に類似した架空の国、時代は戦後間もなく、場所は古くから続く旧家、そしてその旧家を舞台に起こる連続殺人事件−。金田一シリーズや三津田信三さんの作品を思い起こさせる設定ですが、ヒトデナシと呼ばれる怪異が存在したりとテイストはライトノベルチックです。

ストーリーはよく練られているなあと感じました。ヒトデナシを絡めたトリックもうまいし、またラストの見せ方もうまいです。(ただ、個人的には後日譚はいらず、エピローグで終わった方が良かった気もしますが。)ヒトデナシという怪異もうまく使っているし肝となるキャラクターも個性的です。「無貌伝」というタイトルのわりには”無貌”は脇役という印象ですね。ヒトデナシという怪異が存在する世界をうまく使った個性的な作品だなあと感じました。

一方で表現はもう少しかなあ、という印象です。読んでいてとにかく冗長に感じました。心情描写や語りの部分がとても長く、途中から飛ばし読みに近い速度で読みました。三分の二くらいの長さにできるのではないかな、と思います。あと、本書を読んでいて思ったのですが、登場人物の心理描写表現が多いのですが、逆にそれが登場人物をどこか非人間的に感じさせてしまいます。わざとらしいというか、「本当の人間はこんな風に考えるだろうか?」と思ってしまうところが多いです。小説の登場人物、というよりもアニメの登場人物に近いかなあ、って思いました。ラノベと思えば気にならないかもしれませんが。あと登場人物的には秋津がいまいちなのが少し残念でしたね。


あとは、やはり「人」の描き方でしょうか。多くの言葉や文章を費やすよりも、たった一文の方がその人を正確に表現できることもあるなあ、なんて考えてしまう本でした。ラノベミステリーと思えばいいかもしれません。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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タグ:無貌伝 書評

2011年09月28日

読書日記301:琅邪の鬼 by丸山天寿




タイトル:琅邪の鬼
作者:丸山天寿
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
始皇帝時代の中国、商家の家宝盗難をきっかけに、港町・琅邪で奇妙な事件が続発する!「甦って走る死体」、「美少女の怪死」、「連続する不可解な自死」、「一夜にして消失する屋敷」、「棺の中で成長する美女」ー琅邪に跳梁する正体不明の鬼たち!治安を取り戻すべく、伝説の方士・徐福の弟子たちが、医術、易占、剣術、推理…各々の能力を駆使して真相に迫る。多彩な登場人物、手に汗握る攻防、緻密な謎解き、そして情報力!面白さ極めた、圧倒的興奮の痛快歴史ミステリー!第44回メフィスト賞受賞作。



感想--------------------------------------------------
講談社の雑誌「メフィスト」主催の「メフィスト賞」の受賞作品です。持ち込みを制度化したような賞で、「下読みは一切無しで編集者が直接必ず読む」、「面白ければ何でもあり」というのがうたい文句になっている賞です。「すベてがFになる」を始め多くのヒット作を生み出している森博嗣さんや「クビキリサイクル」の西尾維新さん、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」はじめ直木賞候補作を連発している辻村深月さんなどが歴代の受賞作家ですね。

神仙たちの住む島が時折り沖合に現れる港町、琅邪。求盗(警官)である希仁は多くの不可思議な事件に巻き込まれて行く。そんな希仁は徐福塾の異能の人々と問題の解決に取り組んで行くー。

舞台は秦の時代の中国ということですが、その時代の雰囲気はたっぷりと味わえる作品です。著者が非常に詳しいのでしょうね。その時代の文化や歴史に関する知識が深く、描き方も抜群です。いい味を出しています。

物語は求盗である希仁を一応の物語の中心に据えながら、巫医である残虎や、桃といった面々の力を借りながら問題を解決しようとするけれどうまくいかず、最後に現れる探偵役の無心という人物が全ての謎を明らかにする、という話です。アクションシーンも一部あり、時代を背景とした様々な人物(秦の始皇帝とか)も出て来たりとか、そう言う面は面白かったです。

物語はというと、多くの人物が現れるのですが、その誰もが描き方が浅い気がしました。「人」があまり生きてはおらず、その役目を果たすために作者によって配置された「駒」という感覚が最後まで抜けきりません。個性はそれぞれあるのですが、感情があまり感じられず、感情移入できそうな人物は見当たりません。また物語自体も一応はミステリ仕立てになっているのですが、無理にミステリにした観もあります。この時代の中国についてこれだけ書けるのであれば、いっそのことミステリにこだわらない方がよい気もします。

・・・ここら辺が微妙ですね。「面白ければ何でもあり」でありながらやはりミステリ仕立てでないとダメな賞なのですかね・・・?幅広く、ミステリにこだわらずに面白い作品を世に出してくれる賞であってほしいな、と感じた本でした。

また本作で荊軻という人物が過去の人物として出てきます。映画「HERO」のモデルともなったあの荊軻か、と思わず膝をうちました。著者の中国に関する知識は半端ではないようです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2011年08月21日

読書日記290:チヨ子 by宮部みゆき



タイトル:チヨ子
作者:宮部みゆき
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
五年前に使われたきりであちこち古びてしまったピンクのウサギの着ぐるみ。大学生の「わたし」がアルバイトでそれをかぶって中から外を覗くと、周囲の人はぬいぐるみやロボットに変わり-(「チヨ子」)。表題作を含め、超常現象を題材にした珠玉のホラー&ファンタジー五編を収録。個人短編集に未収録の傑作ばかりを選りすぐり、いきなり文庫化した贅沢な一冊。



感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの作品です。この方の作品は久しぶりに読みました。昔ほどたくさん作品を書かれている印象は無いのですが、いい作品が多いなあ、ってつくづく思います。

本書は「雪娘」「オモチャ」「チヨ子」「いしまくら」「聖痕」の五編から成る短編集です。最初の三作が三十ページ程度で、「いしまくら」が五十ページ程度、最後の「聖痕」が九十ページ程度の作品です。どの話も甲乙付け難く良かったのですが、あえて一つと考えると…私が好きなのは「チヨ子」か「いしまくら」かなあ、と思います。

どの作品にも共通しているのは、どこかホラーというか超常現象と言うか、現実離れした部分がどの話にもあることです。いっしょくたにしてはいけないかもしれませんが、幽霊や神に関する話ですね。

やはり宮部みゆきさんの話らしく、筆致が巧みです。詳細に情景と心理の描写を重ねて物語を紡いでいくこの丁寧な書き方はこの著者にしかできないでしょうね。特徴的なのは、どの作品もそうなのですが、ホラーでありながら物語の始まりは我々に馴染みのある現実の描写から始まります。そして宮部みゆきさんによって描かれる現実は非常に詳細なため、そこで描かれるホラーがはっきりと色をなして現れます。幽霊や神が「奇異なもの」「奇妙なもの」としてしっかりと描かれているのですね。

最近は漫画やアニメ、小説で奇想天外な設定が当たり前のように使われており、そのような物語では奇想天外な設定自体が当たり前のようになっています。
しかしこの方の作品は、どれもそうなのですが自分で見た視点、紛れも無い現実から物語がスタートしているため、現実と「奇妙なもの」「奇異なもの」がはっきりと分かります。そしてはっきりと分かりながらも、登場人物たちは皆、その「奇異なもの」「奇妙なもの」を受け止めていきます。

この方の作品を読んでいると、昔話や、怪談といったものを思い出します。日常を、現実を、今ほど大きな想像力も持たずに生きてきた時代の人だからこそ感じ得た恐怖や感動。こういったものを思い起こさせてくれます。もっと簡単に言うと、子供の頃に両親や祖父母から寝床で聞かせてもらった物語。あれですね。想像力なんてまだまだ未熟で、世の中のことなんて分からなくて、そんな時期だからこそ素直に感動し、恐れることができた物語。そういった物語を思い起こさせてくれます。

現実からスタートして「奇妙なもの」、「奇異なもの」にちょっと触れて、そして現実に戻ってくる。こんな物語がやはりこの方の作品では一番好きです。「ICO」や「ブレイブ・ストーリー」はこの方の「ゲーム好き」という趣味が色濃く反映されすぎていて、ちょっと違うかな、と感じてしまうのですが…。「クロスファイア」とか「蒲生邸事件」とか、現実の延長で現実をちょっと超えた作品、がいいですね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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