2013年01月26日

読書日記396:殺人鬼フジコの衝動 by真梨幸子



タイトル:殺人鬼フジコの衝動
作者:真梨幸子
出版元:徳間書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして、新たな人生を歩み始めた十歳の少女。だが、彼女の人生は、いつしか狂い始めた。人生は、薔薇色のお菓子のよう…。またひとり、彼女は人を殺す。何が少女を伝説の殺人鬼・フジコにしてしまったのか?あとがきに至るまで、精緻に組み立てられた謎のタペストリ。最後の一行を、読んだとき、あなたは著者が仕掛けたたくらみに、戦慄する!



感想--------------------------------------------------
「殺人鬼フジコの衝動」そのタイトルがまず衝撃的です。タイトルからしておどろおどろしく、血や殺人のにおいがしますが、まさにその通りの内容でした。

両親からの虐待を受けていたフジコは一家惨殺を契機に人殺しへの道へと堕ちていく−。

まあ、フジコという女性が、不幸を絵に描いたような女性です。虐待、いじめ、駄目な男との結婚、浮気、子供への虐待、借金…。そしてそうした自分の境遇を悲観し、他人を妬み、どん底に落ちていきます。その負の感情がこれでもかとばかりに溢れていて、読んでいてだんだんと辛くなってくるのですが、不思議と目を逸らすことができません。物語は、フジコという女性の人生はどこに辿り着くのか。そればかりが気に掛かってきます。

主人公であるフジコの負の感情の描き方は秀逸です。どす黒い暗黒の感情の渦巻く女性の心境をしっかりと描いています。この描き方は男性では無理なのではないかと感じます。
しかし一方で主人公以外の人間にややリアリティのなさを感じてしまいもします。さくさくと殺されていく人間の呆気なさぶり、一人の人間を殺したという事実の描き方の軽さ、そうしたものが相まって、どこかリアルから浮いている気がしてしまいます。これは好き嫌いが分かれるところでしょうが、人を殺すと言うことの重さをこれでもかと描く東野圭吾さんの作品なんかと比べると、特に感じます。人がさくさくと殺される「悪の教典」では被害者の人間も「生きて」いるため、殺される唐突さぶりが逆に物凄く生きてくるのですが、本作ではそこまで犠牲者も生きていないため、まさに人形劇っぽく見えてしまいます。

あとはやはり感情表現かな、と思います。主人公であるフジコの感情を直接的に描きすぎているため、殺人鬼としての狂気と不幸を背負った女の寂しさは伝わってくるのですが、不気味さは伝わってきません。ここらへんが少し開けっぴろげすぎて、深みがないように感じました。物語の構成はうまくて、最後で隠された事実が分かる点もいいと思うのですが、そこまで衝撃的な事実でもないため、「ふーん」で終わってしまうのが少し残念です。

好き嫌いの激しく分かれる作品だと思いますが、私には少し物足りなく感じました。殺人現場を直接的に描くのではなく、第三者の客観的な視点を交えてフジコの不幸や狂気を浮き上がらせていく方が、怖さは感じたかな、と思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):C


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2013年01月10日

読書日記393:犯罪 byフェルディナント・フォン・シーラッハ



タイトル:犯罪
作者:フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), 酒寄 進一 (翻訳)
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。-魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた珠玉の連作短篇集。ドイツでの発行部数四十五万部、世界三十二か国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作。



感想--------------------------------------------------
この本は国内外で様々な賞を受賞して話題となった本です。一時期は書店の棚に何冊も平積みにされていました。

本作は全200ページ程度の本に十一編もの短編が詰まった連作短編集です。各短編に共通している点は「犯罪」。全ての物語で犯罪者と犯罪が扱われており、弁護士である「私」の視点を交えながらその犯罪について語られていきます。

犯罪を扱っている作品ですが、主題は犯罪そのものではありません。多くの作品で主役となるのは犯罪を犯す犯罪者であり彼らの人生です。本書では各登場人物が犯罪を犯すに至った経緯が淡々とした語り口で語られていきます。喜劇に悲劇、物語で語られる各犯罪者の人生は実に様々です。日本にいては実感の出来ない、凄まじい格差と多種多様な民族で構成されるドイツだからこその、様々なストーリーに読者はいつしか没頭していきます。

冒頭にも書きましたが全200ページに対して十一編の短編が詰まっているので、一話はせいぜい二十ページ程度、短い物だと十ページ程度の作品もあります。しかしこの作品の特徴とも言える淡々とした語り口が逆に各登場人物の感情や個性を際立たせ、短いページ数ながらどの物語も味わい深い物に仕上げています。この語り口の上手さ、物語の簡潔さが一つの大きな魅力となっています。

また物語の多くでは犯罪者の人生の様々な側面を見ることが出来ます。私が特によかったと感じたのは「フェーナー氏」、「チェロ」、「エチオピアの男」の三編です。「フェーナー氏」では長年連れ添い愛し続けた妻を七十を越えてから斧でめった打ちにして殺したフェーナー氏の人生が語られます。裁判の場で明らかにされる聖人のような彼の心の奥の苦悩。これこそが人間ドラマだと感じさせられます。また残酷なまでの悲劇である「チェロ」と、最後に読者に涙を浮かべさせる「エチオピアの男」のどちらも、人間ドラマとして、とても光っています。

本書を読み終えて感じるのは、「犯罪」とは何なのかということです。特にこれは最後の「エチオピアの男」で強く感じます。何が罪なのか。そして何が裁きなのか。そうした問いにもさらっと答え、いい終わり方を見せる「エチオピアの男」は特に感動的な一編でした。

本書の著者は元々弁護士であり、自身の体験を基に本作を書かれているそうです。そうした点も物語にリアリティを与え、味わい深い物に仕上げています。あっさりとした、しかし読み応えのある大人の作品だと感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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タグ:書評

2012年07月18日

読書日記361:楽園のカンヴァス by原田マハ



タイトル:楽園のカンヴァス
作者:原田マハ
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間ー。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。


感想--------------------------------------------------
「カフーを待ちわびて」で日本ラブストーリー大賞を受賞した原田マハさんの作品です。本作はTBS系の「王様のブランチ」でも紹介されており、帯にも「早くも「2012年ナンバーワン」の声!」とも書かれていて期待を持って読みました。

MOMAのアシスタント・キュレーターであるティム・ブラウンは画家アンリ・ルソーの隠れた名作を保有するという億万長者から招待を受ける。そこでティムはルソーの隠れた名作の真贋鑑定を依頼される−。

本作は絵画を巡る物語です。その絵画とは本作の表紙にもなっているアンリ・ルソーの名作「夢」。本作はMOMAのキュレーターでルソーを愛するティム・ブラウンと、同じくルソー研究の第一人者:早川織絵の真贋評価の話が表の話として進行する一方で、日曜画家と称され、存命中は高い評価を受けることのなかったアンリ・ルソーと、「夢」に登場する女性「ヤドヴィガ」の話が裏の話として進行します。ルソーはどのような生涯を送ったのか。また億万長者バイラーの保有するルソーの作品は真作なのか。物語が進むと供にその謎は紐解かれていき、最後には静かな感動が味わえます。

本作はティム・ブラウンと早川織絵、アンリ・ルソーとヤドヴィガという二組の男女の恋の話でもあります。しかしその描き方はやはりこの作者らしい、優しい描き方になっていると感じました。恋を表には押し出さず、あくまでも名作の真贋を見分ける話として物語を進め、最後にはいくつかの謎が解かれていくその構成は巧みです。二組の男女だけでなく、絵画を巡る金銭的な欲望の話や、多くの人間の思惑が入り乱れる話も描かれています。このあたりはさすがにキュレーターとしての経験のある著者ですね。経験がないとなかなか書くことが難しい話だな、と感じました。

本作にはピカソをはじめとする何人もの画家や、『夢』をはじめとするいくつもの絵画が登場します。特に絵画はあらかじめ知っているとその画像をイメージしながら本を読むことが出来るので、いいですね。「夢」だけは表紙に使われているのでわかるのですが、他の絵についてはウェブで調べるなどして読むとさらに本作を楽しめそうです。

2012年度ナンバーワンかはまだわかりませんが、かなりの良作であることは確かです。この本を読むと絵画を見たくなりますね。美術館にでも行こうかな、と思うような本です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年02月18日

読書日記329:ユリゴコロ by沼田まほかる



タイトル:ユリゴコロ
作者:沼田まほかる
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。そして書いたのは誰なのか。謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー!



感想--------------------------------------------------
沼田まほかるさんの作品は初めて読みます。この方の作品は「九月が永遠に続けば」がよく行く本屋に山積みにされていました。本作もこのミスの第四位にランクインしていました。今、売り出し中の作家さんだと思います。本屋大賞にもノミネートされてますね。

不慮の事故で母親を失い、父親も末期の癌に侵されていることを知った亮介は、実家の押入れで古びたノートを見つける。そこに記されていたのは、生々しい殺人の告白だった−。

本書は三百ページ弱の作品ですが、主に殺人の告白が書かれた手記の部分と、亮介の実生活のパートから構成されています。読んでいて、生々しく狂気に満ちた手記の部分の緊迫感と、実生活のパートでよいメリハリができていると感じられました。ただ個人的にはどうしても殺人の告白手記の続きをどんどん読みたくなってしまいますね…。この手記の描き方は非常にうまく、ここを読むだけでも著者が非常に実力のある作家であることが分かります。

実生活と手記の告白が次第に重なり合い、そして最後には感動の終局を迎える−。一言で言うとそういう作品ですが、その物語の構成、展開はうまいです。ミステリーでここまで手記をうまく活用した作品はこれまでにないかもしれませんね。物語はミステリーにありがちな殺伐とした展開ではなく、むしろ静かに愛に溢れた展開を見せます。亮介と洋平の兄弟、突然事故によりこの世を去った母、末期癌の父、痴呆症の祖母、突如として姿を消した恋人、とかなり不幸の色の濃い家族なのですが、そこは余り重さを感じさせず、わりとさらりとして描いています。その描き方が静かな展開と重なって独特の何ともいえないピュアな雰囲気を醸し出しています。こうしたミステリの描き方は、ああ女性の作家さんだな、と感じさせます。男性にはなかなか描けないのではないでしょうか。

難点はほとんどないのですが、いくつか挙げるとすると、もう少し家族各人を深く描いてもよかったかな、と思います。さらりと描いているのがすごくいいのですが、一方で事故で死んだ母のことなどはもう少し深く描いても良かったかな、と感じました。あとは物語を読んでいて、四分の三ほど読んだところで物語り全体に隠されているトリックに気付いてしまったことですね。後半は、ああこうなるのかな、と思っていた通りに物語が進みました。うまいストーリーで最後も感動的で、なんら作品を損ねるものではないのですが、予想がついてしまったのでちょっと興ざめしてしまいました。ただ、先のストーリーが分かったとしてもやはり物語の描き方はうまいですし、感動させられますね。

この方は先にあげた「九月が永遠に続けば」も注目されている作家さんですね。いろいろと出しているみたいなので、また読んでみたいと思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年02月15日

読書日記328:ジェノサイド by高野和明



タイトル:ジェノサイド
作者:高野和明
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。傭兵・イエーガーは不治の病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。二人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかになるー。


感想--------------------------------------------------
本作は「このミステリーがすごい!2012年版」国内編の第一位、山田風太郎賞受賞などに輝いている作品です。昨年の中頃からずっと話題に上がっており、どこの書店でも見かける作品です。ずっと読みたいと思っていたのですが、ようやく読むことができました。

薬学部の大学院に通う古賀研人は、亡き父の指示にしたがい未だ治療法の見つかっていない難病の創薬にとりかかることになる。一方、民間の傭兵会社に勤めるジョナサン・イェーガーはアフリカ奥地での特別任務に就くことになった−。

本作では、日本、アフリカ、アメリカという三つの舞台を次々と切り替えながら物語が進行していきます。傭兵のイェーガー、大学院生の研人、そしてホワイトハウスと、各所で繰り広げられる物語が次第に絡み合い、最後に一つとなって行きます。まずこの展開がうまいですね。「このさきどうなるの?」っていうところで次の舞台に物語が移り、その先が気になって仕方ありませんでした。

次に、これが本作で最も印象に残ったところですが、そのデータ量の凄まじさです。本作では創薬の話をはじめ、アメリカの傭兵の日常、アフリカの内戦、ホワイトハウスの内幕、果ては人類の進化と様々な話が出てくるのですが、そのどれもが物凄い深さで語られています。特に創薬の話は非常に専門的ですね。ここまで書けるようになるには有機化学に関する相当の知見を得る必要があったのではないでしょうか。そして各話がこういった深いデータの裏づけで語られているため、読んでいてリアリティが非常に高く感じられます。人の心情だけでなく、様々な事象に関する専門的なデータを積み上げながら物語を構成していく。読みながら、なるほどこういう書き方もあるんだなあ、と素直に納得させられます。

物語に登場する各人物の描写も生きていますね。イェーガー、研人、そして途中から登場するルーベンスと、各人の立場、思惑がその背景と供に生き生きと描かれています。個人的には特に傭兵部隊の場面の緊迫した描き方がよかったです。

本作を一言で言い表すと、「超一級のエンターテイメント」と言えるでしょうか。
アクションあり、ハラハラドキドキあり、そして涙ありとハリウッド映画顔負けの展開ですね。読み終わった後の読後感も良く、素直に面白いと言える作品だと思いました。

TBS系の「王様のブランチ」に著者である高野和明さんが出演されているのを見ましたが、作成までに数年の月日がかかっているそうですね。収集したデータの量が半端なく、どのデータに何が記載されているかを書き記したノートがあるというのには非常に驚きました。ご本人は映画化するならぜひ自分で監督をなんていうこともおっしゃっていましたね。ネタバレになるのであまりかけませんが、スケールの大きさを保ったまま、現実にはありえない存在を含めてうまく映画化するのは、非常に難しいだろうなあ、とも思います。題材がよく、非常にスケールが大きな話なので、日本風にアレンジしてスケールダウンすることは避けて欲しいなあと、一ファンとしては感じます。

あと、本作ではアフリカの少年兵が出てくるのですが、この少年兵の話の箇所も印象に残りました。アフリカの少年兵の現実については「EDEN」でも語られていましたが、とんでもなく悲惨な現実と向き合わざるを得ない人間がいることを教えてくれた作品でもありました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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