2013年11月16日

読書日記448:プールの底に眠る by白河 三兎



タイトル:プールの底に眠る

作者:白河 三兎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。彼女は、それでもとても美しかった。陽炎のように儚い一週間の中で、僕は彼女に恋をする。あれから十三年…。僕は彼女の思い出をたどっている。「殺人」の罪を背負い、留置場の中でー。誰もが持つ、切なくも愛おしい記憶が鮮やかに蘇る。第42回メフィスト賞受賞作。



感想--------------------------------------------------
第四十二回メフィスト賞の受賞作です。雰囲気のあるタイトルとカバーに、読んでみようと思いました。

自殺しようとしていた<セミ>を見つけた僕<イルカ>は彼女に恋をした−。

この方の作品は初めて読みましたが、まず最初に感じたのはとても文章のうまい方だ、ということです。雰囲気の作り方がとても上手く、僕と、<セミ>を初めとする登場人物の心の描き方やその距離感などの表現がとてもうまいです。村上春樹さんの作品の文章に似ていると感じましたし、実際に他の書評でもそのように言われているようです。村上春樹さんの文章と<似てる>と評されるような文章をかけるだけでも凄いことだと感じます。

物語は三十を超えて刑務所に入っている僕が、十代の日々を思い返す回想方式で進んでいきます。「一日目」から「七日目」までの七章と第八章「未来へ」の全八章から構成されています。自殺しようとしていたところを助けた<セミ>と、幼馴染み<由利>の二人の女の子の間で揺れ動く僕。その心の動きの描き方がとてもうまいです。様々な逸話や小物を使いながら物語を高めて行くその描き方を読んでいると、本当にこの人は村上春樹作品が好きなんだろうなあ、と思います。物語の終わらせ方もうまいです。特に終わりの二、三ページは凄くいいです。こういう終わらせ方で物語が終わると、それだけで「読んでよかった」と思えますね。

一方で難点もあります。特に<似ている>と評される村上春樹さんの作品と比べると−ノーベル賞の候補に上がるような人と比べてしまうのはあまりに酷な気もしますが−いろいろと感じる点もあります。

一番に思うのは「必然性」かな、と思います。本作では村上春樹作品と同じように様々な小物が登場します。巨人の四番打者のサインの入ったバット、カバ公園のカバ、スイカなどなどですが、そのものが本作では「それでなくてもいい」ように感じるのですね。村上春樹さんの作品では出てくるものに対して代替品がありません。「1Q84」で使われるのはヤナチェックのシンフォニエッタでなければならないですし、「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」に出てくるのはリストの『巡礼の年』でなくてはなりません。村上春樹作品では物語とそれに出てくる全てのものが深いところで結びついているのに対し、本作ではその物が「配置されている」に過ぎないように感じるのですね。

あとは物語の筋が本作は複雑で、読んでいてそのうちに冗長に感じてくるところがあります。物語の出来はいいのですが、それが複雑で、読み手は何度か読み返す必要が出てきます。村上春樹作品ではあたかも自分がその物語に迷い込んだかのような感覚さえ感じます。


しかしこれらを除けば物語の、特に文章の質は凄く高いです。ポテンシャルの高さは非常に感じる方ですので、次の作品がとても楽しみです。また読んでみようかと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2013年06月26日

読書日記424:緑の毒 by桐野夏生



タイトル:緑の毒
作者:桐野夏生
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
妻あり子なし、39歳、開業医。趣味、ヴィンテージ・スニーカー。連続レイプ犯。。水曜の夜ごと、川辺は暗い衝動に突き動かされる。救命救急医と浮気する妻に対する、嫉妬。邪悪な心が、無関心に付け込む時ー。



感想--------------------------------------------------
桐野夏生さんと言えば、「OUT」、「柔らかな頬」などのヒット作を生み出している著名な作家さんです。私は映画化もされた「東京島」しか読んでいませんが、女性の持つ『毒』のようなものをその雰囲気も含めてしっかりと描く作家さんと言う印象です。本作もどちらかと言うとグロい系かな、と思います。肉体的にというよりも精神的にくる感じです。

昼間は医者の仮面を被った連続レイプ犯:川辺康之。嫉妬と言う名の緑の毒に侵された彼により、被害者や周囲の人間の運命は狂わされていく−。

連続レイプ犯の話というと、普通、それだけで読むのに抵抗を覚えるグロテスクな話、という印象を受けます。しかし本書を読んでいて強烈な印象を受けるのは、そこよりも犯人である川辺康之の悪行により露わになる被害者や周囲の人間の、嫉妬、恨み、怒り、憎しみといったものに満ちた心の描き方の方です。

本書は全十四章から構成されており、章ごとに視点が切り替わっていきます。犯人である川辺、その妻で不倫をしているカオル、川辺の被害者、川辺の病院の看護師…。そこで描かれる人々は皆、心の奥に様々な鬱屈を抱えていて、それが読者にはひしひしと伝わってきます。この心の奥の鬱屈の描き方こそが著者の真骨頂ですね。

登場人物のほとんどは女性です。主人公の川辺の犠牲者も現れるのですが、本書を読んでいるとむしろ川辺は道化のような役回りにさえ感じられてきます。女性たちの様々な鬱屈した心のせめぎ合いの中で、軽薄な立ち居振る舞いをし、妻:カオルの不倫からくる嫉妬の感情に背中を押されるようにして犯行に走る川辺。滑稽すぎる彼の姿には、カオルの言葉にもあるとおり、『嫌悪』よりも『可哀そう』という言葉が似合う気がします。

最後はまあ当然の結果と言えば当然の結果に終わるのですが、加害者も被害者も含め、関係する登場人物のどす黒い心の奥底の感情の描き方ばかりがやはり記憶に残りますね。純粋とか無垢とかいう言葉とは正反対にある、どぎつい、しかし生の、むき出しの感情が赤裸々に描かれていて、しかもその描き方がうまくて、読む方は目を離せませんでした。
ただ、どぎつい表現が苦手な方にはおすすめできないですね。。。

『OUT』とかも読もうかとも思いましたが…、長編を読むかは考え中です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2013年05月04日

読書日記413:丸太町ルヴォワール by円居 挽



タイトル:丸太町ルヴォワール
作者:円居 挽
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
祖父殺しの嫌疑をかけられた御曹司、城坂論語(しろさかろんご)。彼は事件当日、屋敷にルージュと名乗る謎の女がいたと証言するが、その痕跡はすべて消え失せていた。そして開かれたのが古(いにしえ)より京都で行われてきた私的裁判、双龍会(そうりゅうえ)。艶やかな衣装と滑らかな答弁が、論語の真の目的と彼女の正体を徐々に浮かび上がらせていく。


感想--------------------------------------------------
数年前の「このミス」の国内部門の十一位、「ミステリが読みたい!」の新人賞国内部門の二位に輝いた作品です。いつもと違ったミステリを、と思い、手に取ってみました。

祖父殺しの嫌疑をかけられた御曹司、城坂論語は自身の無実を証明すべく、私的裁判「双龍会」に挑む−

構成、謎解き、舞台ともに非常に個性的で独特な作品です。京都を舞台に城坂論語、御堂達也、瓶賀流、龍樹落花、といった洒落た名前の個性的な登場人物が縦横無尽に駆け巡ります。文章の流れ、テンポ、会話のリズムといったものが抜群にいいですね。特にお互いの会話の掛け合いのテンポが抜群によく、気が付くとどんどんと読み進めてしまいます。

本作はリアルな心情描写で読者を魅了するタイプの作品ではなく、このように掛け合いや、テンポで読者を楽しませるタイプの作品ですね。京都という舞台も相まって、本作を読んでいると西尾維新さんや「夜は短し歩けよ乙女」の森見登見彦さん、「鴨川ホルモー」の万城目学さんなどを思い出します。主題はミステリですが、ライトノベル色の強いミステリーですね。最近はこうしたタイプの作品が非常に多いように感じられます。

物語は中盤から後半にかけて「双龍会」と呼ばれる私的裁判を舞台に展開していきます。被告である論語を巡り、検事役と弁護役が双方様々な手段を用いて自分達の主張を通そうとしていきます。私的裁判なので裁判官を認めさせることができれば嘘でも偽りでも構わない、というところがミソですね。凄く面白い設定だと思います。

物語の見せ方、着地のさせ方もうまいです。読者を欺くいくつかのトリック、終わりに分かる真実など、うまく読者を最後まで引っ張り続けるため、途中で飽きることなく最後まで読み続けることができました。正直、三章で終わったらどうしようと思っていたのですが、期待通りにどんでん返しがあったりして、満足の行く作品でした。

…難点とすると、この物語は登場人物の魅力や、心情の深い描きこみで魅せる作品ではないため、何作か続くと飽きが来てしまうかもしれないな、というところですね。登場人物も個性的ではありますが西尾維新さんの作品ほどではないですし、今回の作品で様々な「意外性」を用いたトリックを使ったり、目新しい設定で目を引いたりしているため、二作目、三作目もこれで物語を作って行くのはきついのではないかな、と感じました。物語の盛り上げ方も、「会話の掛け合い」といいつつも会話と会話の間の説明的な文で読者の理解を促しつつ物語を進めて行っていますので、単純な会話のやり取りだけで読者を引き込む方法とは少し違ったりしています。

本作、一作だけであれば、設定も凝っていますし、登場人物も、謎もとてもよくできているかと思います。ただシリーズ化するとなると、「ずっと見ていたい」と思わせるほどの魅力を持った登場人物がいない点や、毎回のトリックで読者をいかに飽きさせないかの工夫が必要といった点がポイントになってくると感じました。毎作、設定や登場人物を全く変えて物語を作っていったほうが面白い作品になるかもしれない、と感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2013年04月06日

読書日記408:インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実 by真梨幸子



タイトル:インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実
作者:真梨幸子
出版元:徳間書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
一本の電話に、月刊グローブ編集部は騒然となった。男女五人を凄絶なリンチの果てに殺した罪で起訴された下田健太。その母である下田茂子が独占取材に応じるというのだ。茂子は稀代の殺人鬼として死刑になったフジコの育ての親でもあった。茂子のもとに向かう取材者たちを待ち受けていたものは…。


感想--------------------------------------------------
本作は「殺人鬼フジコの衝動」の後日談にあたる作品です。ですので「殺人鬼フジコの衝動」を読んでいることが前提となる作品です。

「殺人鬼フジコの衝動」と変わらず、グロい作品です。本作は、猟奇殺人の罪で起訴されたものの、結果として無罪となった殺人犯、下田健太の母、茂子への取材に向かう取材班の視点で物語は進んで行きますが、下田健太が本当に無罪なのか?有罪なのか?そこが焦点となります。

全体的な印象として「殺人鬼フジコの衝動」よりも本作の方がストーリー構成がしっかりしているように感じられました(あくまで相対評価ですが)。徐々に深まって行く謎の描き方や登場人物の心情の描き方が、本作の方がだいぶこなれている印象を受けます。「殺人鬼フジコの衝動」ではフジコのとことんネガティブな心情ばかりが描かれていてやや押し付け気味にさえ感じられ、少し食傷気味にも思えたのですが、本作ではだいぶ抑えて書かれているように感じます。

ただ、物語はやはり大量殺人を描いたものであり、その中に殺人鬼の葛藤のようなものが描かれている訳でもないので、読んでいて感情移入が出来るかというとそうでもありません。また物語展開は後半まではいいのですが、最後の展開が少しいきなり過ぎるように感じました。なんというか、、、そこまでじっくりためて登場人物の心情や謎を描いていたのに、行動と展開が急すぎて少し唖然とした感じです。物語としては一応、かたがついているのですが、、、やはり後味は悪いですね。いくつか張られていた伏線も回収されるのですが、あまり大きな印象は受けませんでした。

グロい描写がどの作品でも売りにされているのですが、そこにうまく登場人物の心理を、葛藤を結びつけて行く必要がありそうです。「女性の怖さ」みたいなものが前面にでているのですが、東野圭吾さんの作品のような、犯罪者のやりきれない葛藤のようなものが描かれてくると、また違った印象の作品になるのではないかと感じました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2013年02月13日

読書日記399:孤虫症 by真梨 幸子



タイトル:孤虫症
作者:真梨 幸子
出版元:講談社
その他:メフィスト賞受賞作

あらすじ----------------------------------------------
「週に3度、他の男とセックスすることを習慣にして」いる主婦・麻美。彼女の不倫相手が、次々と身体全体に瘤のようなものを作って原因不明の死を遂げる。彼女自身の肉体にも異変が起こる。女同士の憎悪や嫉妬、母娘で繰り返される愛憎劇。一見幸せな主婦の誰にも言えない秘密とは……。メフィスト賞受賞作。(講談社文庫)


感想--------------------------------------------------
殺人鬼フジコの衝動」の作者である真梨幸子さんのデビュー作であり、第三十二回メフィスト賞の受賞作です。あとがきにも書いてありますが、本当に"グロい"作品です。さわやか系しか受け付けない人は絶対に読んではいけない作品です。

週に三回、夫以外の男と関係を持つことを習慣としている麻美。しかし、関係を持った男が次々と原因不明のまま死んでいく-。

冒頭にも書きましたが、本当に"グロい"作品です。「殺人鬼フジコの衝動」もかなり衝撃的でしたが本作も負けていません。ホラーテイストも強いですが、むしろこの気持ち悪さがこの著者の持ち味なのだろうな、と感じさせます。

本の中身についてですが、私は「殺人鬼フジコの衝動」の後に本作を読みましたが、私的にはこちらの作品の方が面白く感じられました。(どちらも十分に気持ち悪いのですが…。)「殺人鬼フジコの衝動」は特に後半にかけてフジコのキャラクターが少しずつ崩れている印象を受け、物語の書き方も軽くなってくるのに対し、本作の方が物語としての構成がしっかりとしており、最後にわかる謎の部分までしっかりと組み立てられているという印象を受けます。本作がデビュー作ですので、相当の手間をかけて作成されたのだろうな、と思われます。

物語は一人称視点でまずは人妻:麻美の視点で展開していくのですが、女性作家に特有のねっとりとした気持ちの悪さの描き方が実にうまく、物語を読み進めるにしたがい現れる謎と相まってどんどんと読み進めてしまいます。こうした描き方はおそらく男性には無理だろうな、と思います。

さらに物語のタイトルともなっている「孤虫症」ですが、この内容については読み進めながら理解していただければと思います。個人的にはこの「虫」が特に本書では気持ちが悪く、それにうまく男女の愛憎や嫉妬、性などが絡まって、冒頭から申し上げているグロさがうまく引き出されていると感じます。登場人物の大半は女で、男はわき役的に表れるだけだからかもしれませんが、「女」の醜さというものがしっかりと表に現れていて、気持ちは悪いのですが、この書き方はこれでありだな、とも感じさせます。

メフィスト賞の授賞作としては本作はあたりの部類に入ると思います。西尾維新さんや辻村深月さんまでは行かないと思いますが、固定ファンがつく作家さんだろうな、と感じさせます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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タグ:孤虫症 書評