2015年06月13日

読書日記544:ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻
作者:宮部みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
もう一度、事件を調べてください。柏木君を突き落としたのは――。告発状を報じたHBSの報道番組は、厄災の箱を開いた。止まぬ疑心暗鬼。連鎖する悪意。そして、同級生がまた一人、命を落とす。拡大する事件を前に、術なく屈していく大人達に対し、捜査一課の刑事を父に持つ藤野涼子は、級友の死の真相を知るため、ある決断を下す。それは「学校内裁判」という伝説の始まりだった。

感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」の二巻です。一巻に続いて読んでみました。

柏木卓也の死を巡って混乱する城東第三中学。そしてさらにもう一人、生徒が亡くなり、混乱の度合いは増していく―。

一巻を読み終わった段階では、まだ弱冠の退屈さがある、と感じていた本作ですが、二巻を読み出すともう止まりません。だれるだなんて大変失礼だったと感じさせる出来です。各登場人物の心理描写の深さ、ますます混迷を深めていく城東第三中を巡る各人の思惑、どれも「さすが、宮部みゆき」と思わされます。

本書で際立っていた点の一つ目が、登場人物の心理描写です。思い通りにいかない生活に追い詰められ、両親の殺害を企てる少年の描写があるのですが、その心理描写の深さ、切迫感など、本当に自分がその立場にいるかのように感じられます。そしてさらに恐ろしいことに、その殺人が、その少年が感じるように「やらなければならないこと」のように感じられてくるのですね。このあたりの描き方は、もうこの著者でなければできないのではないかと思います。本当に凄いと感じるとともに、恐ろしささえ感じます。


二つ目が、各人の思いのすれ違いの描き方です。生徒、教師、親、警察という登場人物のほとんどが、「よかれ」と思って行動をしているのに、それが裏目に出て二人目の犠牲者を出してしまい、混迷を深めることになっていきます。何をやっても裏目に出て、すれ違いを生んでしまう、というストーリーは湊かなえさんの作品でよく見られますが、正直、この作品はその描き方のうまさでは湊かなえさんの作品の上をいっていると感じます。

告白」などで湊かなえさんはその心のすれ違いを切れ味良く、鋭く描いていましたが、一方で、「こんなこと本当に現実で起こり得るのか?」と感じさせるところもありました。しかし本作はそのすれ違いの描写こそじわりじわりと忍び寄るような描き方ですが、その描写が読者の心情に寄り添っているため、非常に現実感と切迫感を読者に感じさせます。ここまで読者の心に寄り添った文章が書けるのは東野圭吾さんとこの方だけではないかと思います。本当にうまいです。

本作は、既に五百ページの文庫を二冊読み終えていますが、まだまだ序章にしか過ぎません。本当の物語はここから始まるんだ、速く続きを読みたい、というのが読み終えての感想です。続きも楽しく読むことにします。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2015年06月07日

読書日記543:ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻

作者:宮部みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か、自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった――。ひとつの死をきっかけに膨れ上がる人々の悪意。それに抗し、真実を求める生徒たちを描いた、現代ミステリーの最高峰。

感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの作品です。少し前の作品ですが、映画化もされ、何より東野圭吾さんに並ぶミステリの大御所の作品なので、ヒットしている作品かと思います。各巻五百ページを超える文庫本が六冊ということで、自身の代表作である「模倣犯」に並ぶ大作です。

クリスマスの夜に中学校の校舎から一人の男子生徒が落ちて死んだ。彼の死は自殺か?他殺か?彼の死をきっかけに、子供と大人、様々な人間の思いが交錯していく―。

読んで感じるのは、相変わらずの描写のうまさです。これはこの著者の特徴ですね。多くの文章を使って登場人物一人一人の内面を緻密に、繊細に描き出します。多くの文章を費やすため必然的に物語りは長くなるのですが、この方の本はその描写が真に迫っているため読み手が自然と引き込まれ、長さを感じさせません。これは「模倣犯」でも感じたことですね。

一方で「模倣犯」との違いはその展開の緊迫感です。次々と女性を拉致し、殺していく「模倣犯」の展開と、一人の少年の死を巡って各人の思いが交錯する本作では、やはり「模倣犯」の方が展開はスリリングです。少年の死以外に大きな事件がおきないため、正直、本作は前半を読んでいるだけではだれてしまいそうにもなります。

しかし物語が後半へと進むにつれて、この作品の本当の面白さが読者に伝わるようになり、それが理解できてくると物語りは俄然、面白くなってきます。この物語で著者が描きたいこと、それはつまり、「大人」と「子供」の心のすれ違いに他なりません。一人の少年の死と、その死が他殺だと告発する告発状に踊らされていく大人たち、そしてそんな大人たちを冷静に眺めつつも、大人の保護の下で暮らさざるを得ないがために大人たちに巻き込まれていく子供たち。この物語は殺人を描いた者ではなく、「大人」と「子供」の心のすれ違いを描いた作品なのだ、と理解し、そうした見方ができるようになると、この作品の面白さは俄然、増してきます。

同級生の死に何も感じないことに罪悪感を抱く涼子、同級生の死をきっかけに復讐を企てる樹理、親に翻弄され自分を殺して生きる健一、そして自分の子供の同級生の死と告発状に踊らされる親と教師たち―。滑稽なのは踊らされている親たちで、第一巻の本作では、登場する子供達は誰もが驚くほど冷静に、客観的に物事を見ています。そしてその子供たちは、次第に結束していきます。

正直、このような見方で読む作品なのだ、と理解できてもそれでもやはり、これだけの分量だと第一巻を読み終えた段階ではまだだれて感じてしまいますね。各巻が五百ページを超える分量のため、全てを読みきるには相当な時間がかかりそうです。じっくりと読んでいこうかと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

2015年05月23日

読書日記541:ラスト・ワルツ by柳 広司



タイトル:ラスト・ワルツ

作者:柳 広司
出版元:KADOKAWA/角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
疾走する特急車内、仮面舞踏会、ドイツの映画撮影所―加速する頭脳戦、ついに最高潮へ!世界各国で展開する“究極の騙し合い”に生き残れ。日本最高峰のスパイ・ミステリ。

感想--------------------------------------------------
ジョーカー・ゲーム」、「ダブル・ジョーカー」、「パラダイス・ロスト」と続く、戦時中の陸軍スパイ機関、通称「D機関」のメンバーとそのD機関を立ち上げた「魔王」こと結城中佐の活躍を描く「ジョーカー・ゲーム」シリーズの最新作です。このシリーズはすべて読んでいますが、外れがないです。

本作には「アジア・エクスプレス」、「舞踏会の夜」、「ワルキューレ」の三編が収録されています。相変わらずどの話もクオリティが高いです。そして鉄道、恋愛、映画、と少しずつ各物語に色をつけているのも面白いです。飽きさせない工夫、といったところでしょうか。

陰のように暗躍するD機関の面々と結城中佐の活躍はこれまでのこのシリーズに比較しても遜色ありません。個人的に三作の中で最も印象に残ったのは結城中佐の活躍する「舞踏会の夜」です。華やかな舞踏会と華族、迫る戦争の足音、そして活躍する結城中佐。戦時下の閉塞感と、舞踏会に束の間の楽しみを見出そうとする華族の姿が、本編の主人公である顕子の生き方と重なります。また「アジア・エクスプレス」もミステリものであり、犯人を特定する方法と、その犯人のさらに上を行くD機関のメンバーの活躍が非常に面白かったです。

「ワルキューレ」は本作の半分を占める中編です。ナチス支配のドイツを描いた本作には実在の人物であるナチスドイツの宣伝省ゲッペルスが出てきたりと、かなり派手な(?)作品です。そして読んで最後まで分かる主人公の正体、など大掛かりな作品というイメージですね。ただ、最後に明かされる謎が、本編とあまりリンクしていない点が少し残念でした。

総じてどの作品もクオリティが高いです。なによりも時代考証が半端ないです。戦時下というと悲惨な描き方をする作品が多いですが、ここまでダイナミックに書かれた作品は珍しいと思います。戦時下で繰り広げられるしびれるような諜報戦を堪能できますね。

本シリーズはまだまだ続けてほしいですね。次作も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2015年05月09日

読書日記539:その女アレックス



タイトル:その女アレックス
作者:ピエール ルメートル (著), 橘 明美 (翻訳)
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
本書はイギリス推理作家協会賞をはじめ、「このミステリーがすごい!」の海外小説部門や本屋大賞の翻訳小説部門などで一位となった本です。数々の賞を受賞した本とあって、期待して読んでみました。

帰り途中、男に拉致されたアレックス。木製の檻に監禁された彼女はなんとか脱出を試みるが―。

期待通りの作品です。久しぶりに熱中し、時が経つのを忘れて読みふけりました。ミステリで、しかも海外小説でここまで熱中する本を読んだのは本当に久しぶりです。

特筆すべき点はいくつもあるのですが、まずはそのストーリー展開です。本書は第一部から第三部までの三部構成となっているのですが、同じ連続した話を描いているにもかかわらず、それぞれで展開ががらりと異なってきます。誘拐されたアレックスを捜索する第一部に対し、第二部、第三部では全く話が変り、その度に読者を唖然とさせます。そして各部の構成も卓越しており、最後まで読者をひきつけます。本当に、最後まで眼を離せません。ここまでの緊迫感あるミステリを読んだのは久しぶりです。

二つ目は登場する各登場人物の個性です。本書は主人公となるアレックスの話を中心としつつも、カミーユ警部を中心とするルイ、アルマン、ル・グエンといった警察側の捜査陣の話も平行して展開されていきます。そしてこの捜査陣の各メンバーの個性が際立っています。ニコチン中毒の母のせいで低身長であり、拭いきれない過去を背負ったカミーユ、金持ちでいつもブランド物で身を固めているルイ、けちで倹約家のアルマン。彼らのやり取り、かけあいも絶妙で、作りこまれた個性を感じさせます。

そして三つ目はその訳です。本作は四百五十ページを越えるページ数の作品であり、字も小さく、中身の充実した本なのですが、翻訳本とは思えないほど非常に読みやすいです。それがなぜか?と考えてみると、文章のテンポが非常にいいんですね。短文が連続し、その短文が状況を細かく説明すると同時に物語にリズムを生み出し、読者を物語の中に引き込んでいきます。これはもともとの文章のよさもあるでしょうが、読み手に気遣ったその翻訳のうまさにもあるのではないかと思います。

最後の最後で分かる、アレックスの真の狙い、そしてカミーユたちのとる行動。―ネタバレになるのであまり書けませんが、私は本書の最後の文章に書き手の、そして刑事たちの思いが凝縮されていると感じました。

「われわれにとって大事なのは、真実ではなく正義ですよ」

誘拐や殺人を扱う作品なので、凄惨な描写は多くあります。しかしそれだけでこの本を敬遠してしまうのはあまりにも惜しいです。そのプロットといい、キャラクターといい、卓越した作品です。―著者であるピエール・ルメートルの作品、つまりはカミーユ警部が活躍する作品は他の作品も邦訳される予定であり、本書は映画化もされるようですね。当然のことかとも思います。またそれらの作品も楽しみにしたいと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

2013年12月07日

読書日記453:殺戮にいたる病 by我孫子 武丸



タイトル:殺戮にいたる病
作者:我孫子 武丸
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
永遠の愛をつかみたいと男は願ったー。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。



感想--------------------------------------------------
*この書評にはややネタバレが含まれますので未読の方はご注意ください。

本書「殺戮にいたる病」は我孫子武丸さんによる作品です。かなりのエログロ作品だとは分かっていましたが、文庫での評価も高かったので読んで見ました。

連続殺人鬼 蒲生稔は永遠の愛を掴むために次々と凶行を重ねていく−。

構成として、本書はエピローグから始まります。凶行の果てに捕まった連続殺人鬼 蒲生稔。そして物語はそこから数ヶ月遡り、稔の視点、彼の家族である雅子の視点、彼を追う刑事である樋口の視点が切り替わりながら物語が進んでいきます。

文体は読みやすく展開も気になってどんどんと先に読み進めていくことができます。一方で殺人の描写は本当に厳しいです。ここまで書くのかと読むのを躊躇わせるような描写の数々に目を背けたくなります。

本書の大きな魅力は、本書には大きな「仕掛け」がしてあるということですね。最後の最後まで読んで「え?なにこれ?」って思われる人も非常に多いのではないかと思います。仕掛けがあることを知らずに読んでいると、百パーセント騙されるでしょうね。このトリックのうまさはピカイチです。本書は一九九六年が初版のため、もう二十年近く前の作品になりますが、それでもこのトリックは光ります。ほとんどの読者が騙されるのではないでしょうか。

しかし一方で、そのトリック以外のところに眼を向けると、かなり厳しいです。前向きになれる要素があまりない、残酷なシーンが延々と繰り返されるので読んでいるとだいぶ暗くなってきます。

読み手を選ぶ本ですね。エログロ系が大丈夫な人はいいですが、そうでない人は避けたほうがいい本だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス