2016年05月15日

読書日記592:戦場のコックたち



タイトル:戦場のコックたち

作者:深緑 野分
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
一晩で忽然と消えた600箱の粉末卵の謎、不要となったパラシュートをかき集める兵士の目的、聖夜の雪原をさまよう幽霊兵士の正体…誇り高き料理人だった祖母の影響で、コック兵となった19歳のティム。彼がかけがえのない仲間とともに過ごす、戦いと調理と謎解きの日々を連作形式で描く。第7回ミステリーズ!新人賞佳作入選作を収録した『オーブランの少女』で読書人を驚嘆させた実力派が放つ、渾身の初長編。

感想--------------------------------------------------
王とサーカス」に続きこのミスの二位になっていた作品です。初めて読む作家さんです。

コック兵となったティムはノルマンディー上陸作戦から従軍する。そこで出会ったのは眼鏡のエドやディエゴ、ライナスといったかけがえのない仲間たち。しかし戦争はさらに激しさを増していくー。

全350ページほどの作品ですが二段組みでかなり読み応えはあります。全五章にプロローグとエピローグを加えた作品で、各章の中でティムやエドたち仲間が、戦場で出くわす小さな謎を解いていく、という話です。確かに謎解きの要素はありますが、第二次世界大戦でヨーロッパ戦線を戦う連合軍での仲間同士の絆の描写の方が大きいと感じました。この仲間同士の絆と謎解きがうまく融合していて、「コック兵」という立ち位置も謎にうまく絡み、物語を分厚いものにしています。

読みながら、途中からどんどんと面白くなっていく作品です。物語は最初の方こそ訓練の描写だったりしますが後半に行くほど戦闘は熾烈を極めるようになり、戦友たちも失われていきます。正直、戦争映画並みのきつさで、謎解きよりも戦争ものの小説、と言われた方がしっくりくるかもしれません。

謎解き、戦友たちとの出会いとわかれ、戦争に慣れていくティムと仲間たち…。各要素が絡み合い、最後に迎える結末は悲しくもすっきりとした感想を読者にもたらします。分量に見合った、重厚さを読み手に与える作品ですね。第二次大戦のヨーロッパの状況をこれだけ調べ上げた著者の力量にも感服です。重厚であり、すっきりとした感触をも与える良作だと思います。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2015年10月24日

読書日記564:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻
作者:宮部 みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ひとつの嘘があった。柏木卓也の死の真相を知る者が、どうしても吐かなければならなかった嘘。最後の証人、その偽証が明らかになるとき、裁判の風景は根底から覆される―。藤野涼子が辿りついた真実。三宅樹理の叫び。法廷が告げる真犯人。作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰、堂々の完結。20年後の“偽証”事件を描く、書き下ろし中編「負の方程式」を収録。

感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの大作「ソロモンの偽証」の最終巻です。本作の主人公である藤野涼子の二十年後を描いた書き下ろし中編である「負の方程式」まで含めて本巻もやはり五百ページ超と、トータルで三千三百ページ超の超大作です。読み終えるとやはり達成感を感じます。

召還される最後の証人。そして明かされる真実。柏木卓也の死の真実とはー。

各登場人物の一挙手一投足まで丁寧に描き、そこに各人の心情を投射する描き方は全巻通じて共通しています。そして読み終えて感じるのは各登場人物への著者の愛情といえるほどの思い入れです。中には被告人:大出俊次のようなどうしようもない個性の登場人物もいるのですが、その描写にさえも愛情を感じます。ひねた人間が一人もおらず真っすぐに真実を探ろうとする法廷の面々の描き方は、中学三年生という年齢とも相まってすっと、読者の胸に落ちてきます。

明かされる真実には、正直に言うとそこまでの意外性は感じませんでした。むしろ「もっと早く真実にたどり着けたはずなのになぜにそこまで回り道をした?」と感じた部分もあります。しかし最後の証人尋問は圧巻です。ここの部分は一文一文を、一語一語を熟読してしまいました。

読み終えて感じるのは死んだ柏木卓也という人間の個性の描き方のうまさです。「小さな仙人」と呼ばれる彼のような人格の持ち主は、確かに中学生にもいると思いますが、なかなか描くのが難しい個性でもあると思います。その卓也を両親や友人の目からしっかりと浮き彫りにし、描き出していきます。この柏木卓也という個性の描き方、そこにぶれがなく、彼を物語の中心に据えて描けるだけの強さを持たせて描いていることができる、といったところがやはりこの著者の作り込みのうまさかな、とおもいました。(言っている事がわかりにくいですかね、、、)。

「模倣犯」と比べるとインパクトは落ちるかもしれませんが、中学三年生を主人公としてその心情を中心に描き込まれた良作だと感じました。ただ、「ソロモンの偽証」というタイトルの意味が最後までよくわかりませんでした。。。(あとがきに少し書いてありましたが。)

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

2015年10月17日

読書日記563:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻
作者:宮部 みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
空想です―。弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は何もない、と。城東第三中学校は“問題児”というレッテルから空想を作り出し、彼をスケープゴートにしたのだ、と。対する検事・藤野涼子は事件の目撃者にして告発状の差出人、三宅樹理を証人出廷させる。あの日、クリスマスイヴの夜、屋上で何があったのか。白熱の裁判は、事件の核心に触れる。

感想--------------------------------------------------
「ソロモンの偽証」文庫版全六巻の第五巻です。本巻も五百六十ページ程度と、非常に分厚いですが、一気に読んでしまいました。このリーダビリティの良さはなんなんでしょうね。。。

遂に開廷した学校内裁判。柏木卓也の死の真相に迫るため、検事側、弁護側共に譲らず舌戦を繰り広げる。柏木卓也の死の真相はどこにあるのかー。

第一部が事件を客観的に伝え、第二部が当事者である生徒たちの目線から事件をとらえていたのに対し、第三部では様々な登場人物の視点からこの法廷を描いています。それは刑事の佐々木であったり、廷吏のヤマシンであったりするのですが、本巻ではそのように様々な人の目から法廷を描く事で、城東三中で起きた事件と、その関係者の素顔を浮き彫りにしていきます。大人の視点と中学生の視点を混ぜる事で、各人がどのように感じたのか、どのような意図があったのか、などが明らかにしていくこの描き方はさすがです。

一文一文は簡潔で読みやすいのに、その積み重ねで複雑な人間心理や事件を巧みに作り上げていく。このような描き方は東野圭吾さんにも通じるものがあると思います。東野圭吾さんは簡潔な文で切れ味よく、一方で宮部みゆきさんは簡潔な文をいくつも積み重ねて重厚に、といった具合でしょうか。読みやすい文章というのは、売れっ子作家さんの共通点なのでしょうね。

本巻では学校内裁判の様子が描かれていますが、これまでの巻で語られてきた内容を改めて様々な証人の口から喋らせているので、既に二部まで読んでいる読者にとってのサプライズは多くはありません。しかし証人の描写や陪審員の心情の揺れなどを読んでいると、決して飽きる事はありません。そして本巻の最後に、それまで明かされていなかった真実が明かされていきます。このあたりのストーリーの組み立て方は絶妙です。下巻への期待が嫌が応にも高まりますね。

いくつも謎がまだ残されていますが、ここまで読んできてやはり一番怪しいと感じるのは、天才的な切れを見せる「あの人」ですね。詳細は避けますが、ここまで読んでくるとさすがに読者も気付いてくるはずです。

あと一冊で本作品も終わりです。三千ページを超える作品なのに、それを感じさせません。最後まで一気に読み切ろうかと思います。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2015年09月20日

読書日記559:ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻
作者:宮部みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
いよいよ動き出した「学校内裁判」。検事となった藤野涼子は、大出俊次の“殺人”を立証するため、関係者への聴取に奔走する。一方、弁護を担当する他校生、神原和彦は鮮やかな手腕で証言、証拠を集め、“無罪”獲得に向けた布石を着々と打っていく。次第に明らかになる柏木卓也の素顔。繰り広げられる検事と弁護人の熱戦。そして、告発状を書いた少女が遂に…。夏。開廷の日は近い。

感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんのソロモンの偽証の「第二部:決意」の下巻です。折り返し点をすぎたところですね。

学校内裁判へ向けて準備を進める検察側:藤野涼子たちと、弁護側:神原和彦と野中健一。周囲の大人たちや友人たちを巻き込みながらも徐々に裁判の日は近付いてくるー。

上巻同様、子供たちの心に寄り添った丁寧な描写は変わりませんね。検事側の藤野涼子、佐々木吾郎、荻尾一美、弁護側の神原和彦、野中健一。彼らの心理描写は抜群です。特に際立っているのは、上巻の感想にも書きましたが野中健一の描写です。藤野涼子と神原和彦の二人は中学生?と思えるほどの頭脳の切れを見せますが、野中健一はほんとうによくいる中学生として描写がされているため、読み手としても親近感が湧きます。この野中健一を軸に、物語は上巻に加えて少しずつ進展を見せていきます。

下巻では上巻になかった新しい謎や動きが見えてきます。その一つが弁護側である神原和彦ですね。彼は何者なのか?彼は死んだ柏木卓也とどのような関係にあったのか?彼は柏木卓也の死にどのように関与しているのか?これらの謎が少しずつ膨らんでいくのが本巻ですね。そして本巻では本物語りの最初、「第一部:事件」上巻の冒頭部分に出てきた小林電器店が登場します。そして冒頭部分に登場した電話ボックスの少年が誰なのか?という謎に戻っていきます。

このあたりの物語展開はやはりうまいです。膨大なページ数を費やしているだけあって物語の展開もゆっくりなのですが、決して飽きることはありません。少しずつ、しかし確実に物語は展開し、新しい事実と新しい謎を提示しながら物語は進んでいきます。そしてすべての謎と、いくつかの嘘を混ぜながら、物語は最後の舞台、法廷へと進んでいきます。

本巻を読んでいると、やはりこの神原和彦という得体の知れない少年が物語のキーパーソンのように感じられます。柏木卓也の死にどのような形で彼が関与していたのか、他校の生徒でありながら、なぜ彼が弁護側に立ったのか、その謎がおそらく最後の法廷で明かされるのだと思います。・・・しかし、ミステリファン、宮部みゆきファンとしては、もう一捻りがほしいですね。最後に明かされる真実と同時に、読者が予想もしていなかった新しい事実が明かされたりすると、最高です。

最後の「法廷」も楽しみに読むことにします。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

2015年09月12日

読書日記558:ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻



タイトル:ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻
作者:宮部 みゆき
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
二人の同級生の死。マスコミによる偏向報道。当事者の生徒達を差し置いて、ただ事態の収束だけを目指す大人。結局、クラスメイトはなぜ死んだのか。なにもわからないままでは、あたし達は前に進めない。だったら、自分達で真相をつかもう―。そんな藤野涼子の思いが、周囲に仲間を生み出し、中学三年有志による「学校内裁判」開廷が決まる。求めるはただ一つ、柏木卓也の死の真実。

感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」の文庫版全六巻、その第三巻です。「決意」の章の第一部という位置付けになりますね。

同級生、柏木卓也の死を巡るごたごたに巻き込まれた城東三中。その中で、さらにもう一人の同級生、浅井松子も死に至る。藤野涼子は意を決し、学校内裁判を提案する―。

一巻、二巻が事件の発生とその推移、そしてその事件を巡る生徒、親、教師、警察、テレビ局などの思いの交錯とすれ違いを描いていたのに対し、本巻からは完全に視点が生徒に切り替わります。学校内裁判を提案した藤野涼子、犯人かもしれないと疑われる大出俊次、裁判で弁護士を務めることになった神原和彦と彼の補佐を勤める野中健一。主にこの四人を中心に事件の関係者との会話に費やされていきます。

物語の進み方もぐっとスローダウンしています。一巻、二巻が事件が発生したクリスマスイブから夏休み前までを描いていたのに対し、本巻では夏休み前から夏休みはじめ前までのほんの数日間を描いているに過ぎません。描かれている期間が短くなっている分、その密度はどんどんと増してきています。

もう一つ特徴的なのは描かれている生徒の表情や動作の描写の細やかさです。事件を描いていた一、二巻に対し、三巻では明確に対象が生徒に切り替わっていますね。もともとが細かい描写表現の得意な作家さんですので、その描き方には感嘆させられます。特にうまいのが弁護士の補佐を勤める野中健一の内面と仕草の描写です。いろいろな生徒が登場しますが、この作品の中で最も感情移入できたのは野中健一です。優等生であり強くもあり美人でもある藤野涼子や、不良の大出俊次、飄々とした神原和彦と違い、野中健一はどこか鬱屈した内向的な性格をしており、このあたりが最も読者に親近感を覚え易いキャラクターなのだと思います。

そして物語は少しずつ、終盤へと向けていろいろな展開がでてきます。そしてそこに読者は期待せずにはいられないんですね。「はたして柏木卓也の死は、本当に自殺なのか?」と。まだまだ本作を読んでいる限りは自殺の線が濃厚です。しかし、本当に自殺なのか?どんでん返しがあるのではないか?という期待は感じさせます。当然ですね。著者があの宮部みゆきなのですから。

ここまでで既に千五百ページは読んでいるのですが、まだ半分です。文庫版にしてトータル三千ページを超える大作を読み終えたとき、そこには何が見えるのか?期待して続きを読んで行きたいと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス