2012年10月07日

読書日記376:イニシエーション・ラブ by乾 くるみ



タイトル:イニシエーション・ラブ
作者:乾 くるみ
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説ーと思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。


感想--------------------------------------------------
イニシエーション・ラブという小説のことは何度か聞いたことがあり、「最後から二行目で物語が大きく変わる」という物語の内容もよく耳にしていました。その噂もあって前々から読んでみたいと思っていたのですが、ようやく読むことができました。


合コンの席でマユと出会った鈴木。恋に落ちた二人は、甘い夏の一時を過ごして行く−。

物語の舞台は八十年代後半。携帯電話もなく連絡には公衆電話を使い、テレビでは「男女七人夏物語」が放映されていた時代。しかし時代に関係なく男女はいつも恋に真剣で、必死で、互いを求めていきます。本作はSideAの五章とSideBの五章の計十章に分かれているのですが、とくに前半の五章では合コンで出会ったマユに惚れて、初めて女性と付き合うことになった鈴木の心情がとても細かく精緻に描かれているなあって感じます。このあたりの描写は、女性の作家さんなのにとてもうまく男性の心を描いているなあ、って感じました。初めてのデート、初めての彼女、初めてのクリスマス……。揺れ動く鈴木の心と、徐々に見えてくるハッピーエンド。そうした描き方はとてもうまいです。

またSideBに入ると大学時代の話から一転し、鈴木が就職し東京に出たところから話が始まります。遠距離恋愛となった鈴木とマユ。そして次第に離れて行く鈴木の心。切ないなあ、って思っていたところで、最後の二行目で物語が一転する、という仕掛けです。

実際のところ、「最後の二行目で」というのは言いすぎですね。その数行前から仕掛けは分かってきますし、あらかじめ「仕掛けがある」という意識を持って読み進めていけば、再読するまでもなく仕掛けに気付いていきます。(実際私は読んでいて「ああ、こういうことか」と気付くことができました。)

仕掛けに気付いたところでの感想は、「やっぱり女性のほうがしたたかだな」ということです。男性目線でのストーリー進行であり、男性の苦悩や葛藤がメインで描かれているのですが、本作で描かれている女性たちは皆、その一枚上を行っている気がしました。一枚上を行っているだけでなく、男性のようなへまをしないようにぬかりがありませんね。(このあたりは読んでいただくくとよくわかるかと…。)まあ実際もこのようなもんでしょうね。

恋愛を中心とした本編の描き方は普通にいいとは思うのですが、仕掛けのところばかりが気になってしまい、少し冗長に感じられてしまいました。「最後の二行の衝撃」ばかりが気になって、先を読み進めることばかり考えてしまうのですね。物語的には面白い本だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年09月16日

読書日記371:西の魔女が死んだ by梨木 香歩



タイトル:西の魔女が死んだ
作者:梨木 香歩
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。


感想--------------------------------------------------
この本は新潮文庫の百冊として取り上げられていた本です。毎年のように取り上げられていた本ですので、いつか読んでみたいと思っていましたが、ようやく読むことができました。

中学に進むと同時に学校に行かなくなったまいは、おばあちゃんの家に預けられることになった。おばあちゃんの家でまいは”魔女”としての修業を積んでいく。その基本は、何でも自分で決めることだった−。

本書には190ページ程度の本編に加えて、主人公まいのその後を描いた30ページ程度の「渡りの一日」という短編も収録されています。本作が刊行されたのは平成十三年ですので、今から十年前。文章を読んでも少し昔の作品だな、ということがわかります。

作品は英国から日本に嫁いできた祖母と、その祖母の家に預けられたまいの交流を中心に話が進んでいきます。田舎の自然に囲まれた生活の中で、祖母の言葉を頼りに大事なものを理解していくまい。まいは心を開いて客観的に物事を受け入れて行くことを学んでいきます。こうした「祖母との交流を通して大事なものに気付いていく」というストーリー展開は特に小中学生の課題図書としては使いやすいでしょうね。新潮文庫の百冊として長く読み続けられているのも納得できます。

しかし一方で良くも悪くも典型的で教科書的な展開の作品はやはりどこか古く感じてしまいます。また「最後の3ページ涙が止まりません」というキャッチフレーズは大袈裟に感じられました。表現が直接的すぎるというか……本に読みなれた人にとっては少し「?」という感じかもしれません。今の時代、よい本、感動的な展開の本は数多くありますので、この本以上に感動できる作品もたくさんあるよな、って感じてしまいました。

上にも書きましたが、小学生・中学生の道徳の教科書的な内容ですので、そのくらいの年の人にはお勧めできます。しかし大人の方は他の本を読まれた方がいいと感じました。また追加されている「渡りの一日」は完全に蛇足ですね。本編の続きとしてどれだけの意味があるのかもよくわかりませんし、まいの成長を描いている話、というわけでもありません。文学作品になっているかも怪しいと感じました。

実写映画化は既にされているようですが、本書を読んでいるとなんとなく宮崎アニメを思い出しますね。豊かな自然に彩られた祖母の暮らす田舎の風景はアニメ化すると非常に映えるでしょうね。ただ、あとは少しストーリーに脚色を加えたほうがよいかとは思います。まいの母や父も少し顔を出すだけであまり人間的な面を見せずに終わって行くので本作そのままでは消化不良に感じます。「おおかみ−」がヒットしている細田守さんの監督でもいいかもしれませんね。「時をかける少女」みたいにリメイクしてくれると、非常にいい作品になるかと思います。

本作は課題図書としてはいいのでしょうね。ただ、私に取っては期待していたほどではないなあ、という印象でした。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2012年09月13日

読書日記370:誰かが足りない by宮下 奈都



タイトル:誰かが足りない
作者:宮下 奈都
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちとを、丹念にすくいとっていく。



感想--------------------------------------------------
本作も「ピエタ」や「ジェノサイド」、「ユリゴコロ」などと同じように2012年の本屋大賞にノミネートされていた作品です。結果的には三浦しをんさんの「舟を編む」が大賞を受賞されていますが、ノミネートされた作品はどれも例外なく面白かったので、本作も楽しみに読んでみました。

駅前にあるおいしいと評判のレストラン「ハライ」。ある夕方、そのレストランに居合わせた客には、それぞれのドラマがあった−。

本作は「予約1」から「予約6」までの六章と、明示的には書かれていませんが、プロローグ、エピローグ的なレストラン「ハライ」の内容を描いた箇所から構成される本です。六章もあるのに全体で180ページ足らずと短い内容の本です。

本作は十月の終わりの夕方のレストラン「ハライ」の場面描写から始まります。おいしいと評判で常に予約がいっぱいの「ハライ」。その夕方に、そこに居合わせることになった六組のお客の、「ハライ」で食事をするに至るまでの物語が、各章で描かれています。しかし、そのレストランには一つ、いるべき人のいない「誰かが足りない」席があります。そして本作のタイトルにもなっているこの「誰かが足りない」というのが、各章に通じるコンセプトであり、この「誰かが足りない」という文言で作品は幕を閉じます。

各章で描かれている「ハライ」に予約をすることになる人々の境遇は様々です。認知症になりかけの老女、カメラ越しにしか世界と接することのできない青年、仕事に疲れた女性。各章の主人公の多くが日常に悩みを抱え、行き詰まりを感じています。そしてその行き詰った心情の描き方が、本作では非常にうまいです。これはやはり女性である著者の特徴でもあるとも思うのですが、心情の描き方、すくい上げ方が繊細です。ちょっとした心情の揺れもさらりと描かれています。そしてそのことが物語にそこはかとない寂しさと切なさを与えています。

各章は決してハッピーエンドで終わるわけではありません。しかし各話に共通しているのは、「『ハライ』に行こう」という言葉が各章の登場人物たちの人生を変えるひとつのきっかけになっているということです。とてもおいしい料理を提供するレストランに行くことが、人生の転機になる。こんな経験はあってもおかしくはないかと思います。

美しい記憶がそのままその人の美しさを支えるわけではないように、悲しい記憶が人のやさしさを支えることがあるように、いいことも、悪いことも、いったん人の中に深く沈んで、あるとき思いもかけない形で発露する。

本作でもっとも印象に残った文章です。人生のありようをそのまま語ったような文章ですね。著者の人生経験と、人生というものに対する洞察の深さがうかがい知れます。どのような経験でもその人の受け取り方次第であり、その受け取り方が人生を深くし、人を成長させる。そう言っているようにも聞こえます。

本作は各章で様々な登場人物の人生と、その転機について語られていき、最後にレストラン「ハライ」の場面に戻ります。最後に語られる著者の「誰かが足りない」という事実へ対する解釈はとてもいいですね。ラストの五行。この五行が物語をとてもあたたかいものへと仕上げてくれています。さらっと読めてしまうため淡白な印象もありますが、本屋大賞ノミネートに恥じない良作だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年08月29日

読書日記368:陽だまりの彼女 by越谷 オサム



タイトル:陽だまりの彼女
作者:越谷 オサム
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようでーその秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。



感想--------------------------------------------------
「女子が男子に読んでほしい小説No1」というセールス文句に、手にとって買ってみました。この方の作品は初めて読みます。あちこちの本屋で目立つ場所に置かれているのを眼にする本です。

中学時代の同級生、真緒に偶然にも再会した浩介。「学年有数のバカ」と言われていた真緒は美しい女性へと変貌を遂げていた−。

読み始めてすぐに感じたことですが、とても読みやすい本ですね。真緒と浩介、二人を中心に物語は進んで行くのですが、二人の会話のテンポがとてもよく、とんとんと読み進めることができます。三百ページ以上の本ですがあっという間に読み終わりました。

また真緒と浩介、二人の関係がとてもいいですね。間に中学時代の回想を挟みながら進んで行く二人の恋愛模様がまさにバカップルを地で行く感じで、読んでいて微笑ましくなってきます。まさにベタ甘な恋愛小説です。最初の方を読んでいると、二人の会話の書き方がなんとなくこなれていないかな、なんて感じていたのですが、読み進めるうちにどんどん引き込まれていきますね。いいです。

一方で「女子が男子に読んでほしい小説No1」というキャッチフレーズはどうですかね…。真緒のキャラクターが男性が思い描く女性像のステレオタイプと言う感じで、男子的には読んでいて楽しくていいのですが、女子的にはいらっと来る人もいるかもしれないな、なんて思いました。二人の描き方があまりにも甘すぎるため、ちょっと受け入れにくい人もいるかもしれませんね。

物語は後半に向けて意外な展開を見せ、最後にはほろっとさせる言い終わり方を見せます。正直、こうした展開は全く想定していませんでしたので驚きました。最後のちょっと感動させる終わり方は個人的にはとても好きです。物語を読み返すとところどころに多くの伏線が張られていたことがわかりますね。楽しくてそして感動して、涙も流すことの出来るいい作品だと感じました。

本作のような作品は映像化に向いていると思います。長期ドラマ化するにはめりはりが足らない気がするので、映画化ですかね。浩介が瑛太で真緒が井上真央かなーとか勝手に想像してしまいます。またラストシーンの映像も簡単に眼に浮かびます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年07月14日

読書日記360:すべて真夜中の恋人たち by川上 未映子



タイトル:すべて真夜中の恋人たち
作者:川上 未映子
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
孤独な魂がふれあったとき、切なさが生まれた。その哀しみはやがて、かけがえのない光となる。芥川賞作家が描く、人生にちりばめられた、儚いけれどそれだけがあれば生きていける光。『ヘヴン』の衝撃から二年。恋愛の究極を投げかける、著者渾身の長編小説。


感想--------------------------------------------------
川上未映子さんの作品は初めて読みます。この方は「乳と卵」で芥川賞を受賞された方です。他の作品では「ヘヴン」が有名ですね。

フリーで校閲の仕事を請け負う冬子は石川聖以外に友達がいない。そんな彼女はカルチャーセンターで三束さんと出会う−。

全編を通じて静かで穏やかな作品です。主人公の冬子と、編集者の聖の二人の女性が非常に対照的ですね。内向的で友達も少なく与えられた環境で流されるように過ごして行く冬子と、男勝りで仕事もできて次々と付き合う男を変えていく聖。二人は仕事では非常によいパートナーとして過ごしていきます。

自分を押し出すことに必要性も感じず、ただただ毎日を流されるように過ごす冬子。彼女はアルコールの力を借りないとカルチャースクールに出かけることも、誰かと面と向かって話をすることもできません。でも、この本を読んでいると感じるのですが、彼女のような女性は世の中には一定数はいて、今もきっとどこかで彼女のような悩みを抱えて苦しんでいるのだろうな、と思います。そんな彼女の世界は、六十手前の男性、三束さんと出会うことで少しずつ変わって行きます。毎週の出会い、束の間の楽しい一時、そしていつしか芽生えて行くはかない気持ち−。

この著者は冬子の何気ない日常の所作を描きながら、冬子という女性の存在を際立たせ、どのような女性なのか、何を考え、どのような生活を過ごしている女性なのかを読者に示していきます。この描き方がとてもうまいです。日常の些細な動作、何気ないいくつもの日常的な描写、そうしたものを積み重ねながら冬子の心理を痛いまでにはっきりと描いていきます。

本書で印象的なのは「光」というものについて冬子と三束さんが繰り広げる会話です。光を巡る何気ない会話と、「光」と「触れる」ということの類似点。そうしたことを話しながら少しずつ深まって行く二人の関係。静かで穏やかで、それでいてどこか追い詰められたような冬子の日常。この描き方は他の方にはまねできないのではないでしょうか。

本作、最後は少し哀しい、だけど前を向けるような終わり方だと思いました。次は「ヘヴン」ですかね。また読んでみたいと思う作家さんでした。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする