2013年01月24日

読書日記395:きみはいい子 by中脇 初枝



タイトル:きみはいい子
作者:中脇 初枝 (著)
出版元:ポプラ社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
夕方五時までは家に帰らせてもらえないこども。娘に手を上げてしまう母親。求めていた、たったひとつのものー。それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでもみんなこの町で、いろんなものを抱えて生きている。心を揺さぶる感動作。


感想--------------------------------------------------
この本はTBS系で土曜日に放送されている「王様のブランチ」で紹介されていた本です。紹介されていたのはかなり前ですが、読んでみたいと思っていて、ようやく読むことができました。本作は本屋大賞にもノミネートされています。

切っても切れない縁で繋がった親と子。かつての子供が思い浮かべる自分の子供時代と、今の自分。そして自分の子供−。

読み終えて純粋にいい本だった、と思える本です。こういう本に出会えるから読書を続けて行くのかなと思います。

本作は「サンタさんの来ない家」、「べっぴんさん」、「うそつき」、「こんにちは、さようなら」、「うばすて山」の五編で構成される中編集です。どの話も舞台となるのは桜ヶ丘という横浜近辺の街で、各話に微妙なつながりはありますが基本的には別の話です。

本作のテーマは「虐待」です。非常に重いテーマです。子供を傷つけてしまう親、親に傷つけられる子供が、各話で登場します。家庭に問題を抱えた子供のいるクラスの担任となった先生、子供を虐待してしまう母親、かつて虐待を受け、痴呆になった親を抱える娘…。各話に登場する親子の関係はどれも独特です。しかしどの家庭も例外なく親子の関係に問題を抱えています。基本的にどの話も大人の視点から語られるのですが、自分が小さい時に受けた虐待の描写なども加わり、そうした場面を読んでいると、とても辛くなってきます。

しかし本作で語られるのは辛い面だけではありません。悲惨な状況の親子に手を差し伸べてくれる存在や、優しかった思い出など、優しさを感じさせる場面が必ず描かれていて、それが物語りに救いを与えています。

どの物語も心に響く作品ですが、個人的にもっとも響いたのは「べっぴんさん」です。
公園や外ではいい顔をするけれど、うちに帰ると娘に虐待を繰り返す母親。その母親の視点で物語が描かれるのですが、恐ろしいのはその母親の感覚があまり異常に感じられないところです。自分が受けた仕打ちを、子供に繰り返す母親。外で見せる顔とは異なる顔を部屋の中で見せる母親。読んでいると、虐待される子供だけでなく、虐待を行なう母親自身も実は被害者なんだと思わされますが、こうした母親は、実は世の中には多いのかもしれません。

本書を読んでいると「毒になる親」を思い出します。自分がされた虐待を子供に繰り返す親。止まらない負の連鎖。何気ない僅かな優しさであっても、このような連鎖を止める役には立つのだろうな、と感じさせます。

本書を読んでいると、親から子への虐待というのは、「許す」とか「許さない」とか、そういう次元の話ではないのではないか、と感じさせます。たとえどれだけ酷かろうと子供にとって親は親であり、親にとって子は子で、そのつながりは死んでも切れません。そうした運命の下に生まれた親子の関係の中で虐待が行われるというのは本当に不幸なことだと感じさせます。

また、子供というのは本当に物事を良く見ているし、大人のようにずるくないので言葉や行動をそのまま真正面から受けてしまうため、少しのことでも大きく傷付くのだということも、本作を読んでいると良く分かります。子供に対してはきっと大人に対して以上にごまかしは効かないかないのでしょうね。

私は特に筆者と近い世代であり、小さな子供がいるからいろいろと感じることが多かったのだと思いますが、それをおいても読むべき価値のある本だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2012年10月07日

読書日記376:イニシエーション・ラブ by乾 くるみ



タイトル:イニシエーション・ラブ
作者:乾 くるみ
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説ーと思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。


感想--------------------------------------------------
イニシエーション・ラブという小説のことは何度か聞いたことがあり、「最後から二行目で物語が大きく変わる」という物語の内容もよく耳にしていました。その噂もあって前々から読んでみたいと思っていたのですが、ようやく読むことができました。


合コンの席でマユと出会った鈴木。恋に落ちた二人は、甘い夏の一時を過ごして行く−。

物語の舞台は八十年代後半。携帯電話もなく連絡には公衆電話を使い、テレビでは「男女七人夏物語」が放映されていた時代。しかし時代に関係なく男女はいつも恋に真剣で、必死で、互いを求めていきます。本作はSideAの五章とSideBの五章の計十章に分かれているのですが、とくに前半の五章では合コンで出会ったマユに惚れて、初めて女性と付き合うことになった鈴木の心情がとても細かく精緻に描かれているなあって感じます。このあたりの描写は、女性の作家さんなのにとてもうまく男性の心を描いているなあ、って感じました。初めてのデート、初めての彼女、初めてのクリスマス……。揺れ動く鈴木の心と、徐々に見えてくるハッピーエンド。そうした描き方はとてもうまいです。

またSideBに入ると大学時代の話から一転し、鈴木が就職し東京に出たところから話が始まります。遠距離恋愛となった鈴木とマユ。そして次第に離れて行く鈴木の心。切ないなあ、って思っていたところで、最後の二行目で物語が一転する、という仕掛けです。

実際のところ、「最後の二行目で」というのは言いすぎですね。その数行前から仕掛けは分かってきますし、あらかじめ「仕掛けがある」という意識を持って読み進めていけば、再読するまでもなく仕掛けに気付いていきます。(実際私は読んでいて「ああ、こういうことか」と気付くことができました。)

仕掛けに気付いたところでの感想は、「やっぱり女性のほうがしたたかだな」ということです。男性目線でのストーリー進行であり、男性の苦悩や葛藤がメインで描かれているのですが、本作で描かれている女性たちは皆、その一枚上を行っている気がしました。一枚上を行っているだけでなく、男性のようなへまをしないようにぬかりがありませんね。(このあたりは読んでいただくくとよくわかるかと…。)まあ実際もこのようなもんでしょうね。

恋愛を中心とした本編の描き方は普通にいいとは思うのですが、仕掛けのところばかりが気になってしまい、少し冗長に感じられてしまいました。「最後の二行の衝撃」ばかりが気になって、先を読み進めることばかり考えてしまうのですね。物語的には面白い本だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年09月16日

読書日記371:西の魔女が死んだ by梨木 香歩



タイトル:西の魔女が死んだ
作者:梨木 香歩
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。


感想--------------------------------------------------
この本は新潮文庫の百冊として取り上げられていた本です。毎年のように取り上げられていた本ですので、いつか読んでみたいと思っていましたが、ようやく読むことができました。

中学に進むと同時に学校に行かなくなったまいは、おばあちゃんの家に預けられることになった。おばあちゃんの家でまいは”魔女”としての修業を積んでいく。その基本は、何でも自分で決めることだった−。

本書には190ページ程度の本編に加えて、主人公まいのその後を描いた30ページ程度の「渡りの一日」という短編も収録されています。本作が刊行されたのは平成十三年ですので、今から十年前。文章を読んでも少し昔の作品だな、ということがわかります。

作品は英国から日本に嫁いできた祖母と、その祖母の家に預けられたまいの交流を中心に話が進んでいきます。田舎の自然に囲まれた生活の中で、祖母の言葉を頼りに大事なものを理解していくまい。まいは心を開いて客観的に物事を受け入れて行くことを学んでいきます。こうした「祖母との交流を通して大事なものに気付いていく」というストーリー展開は特に小中学生の課題図書としては使いやすいでしょうね。新潮文庫の百冊として長く読み続けられているのも納得できます。

しかし一方で良くも悪くも典型的で教科書的な展開の作品はやはりどこか古く感じてしまいます。また「最後の3ページ涙が止まりません」というキャッチフレーズは大袈裟に感じられました。表現が直接的すぎるというか……本に読みなれた人にとっては少し「?」という感じかもしれません。今の時代、よい本、感動的な展開の本は数多くありますので、この本以上に感動できる作品もたくさんあるよな、って感じてしまいました。

上にも書きましたが、小学生・中学生の道徳の教科書的な内容ですので、そのくらいの年の人にはお勧めできます。しかし大人の方は他の本を読まれた方がいいと感じました。また追加されている「渡りの一日」は完全に蛇足ですね。本編の続きとしてどれだけの意味があるのかもよくわかりませんし、まいの成長を描いている話、というわけでもありません。文学作品になっているかも怪しいと感じました。

実写映画化は既にされているようですが、本書を読んでいるとなんとなく宮崎アニメを思い出しますね。豊かな自然に彩られた祖母の暮らす田舎の風景はアニメ化すると非常に映えるでしょうね。ただ、あとは少しストーリーに脚色を加えたほうがよいかとは思います。まいの母や父も少し顔を出すだけであまり人間的な面を見せずに終わって行くので本作そのままでは消化不良に感じます。「おおかみ−」がヒットしている細田守さんの監督でもいいかもしれませんね。「時をかける少女」みたいにリメイクしてくれると、非常にいい作品になるかと思います。

本作は課題図書としてはいいのでしょうね。ただ、私に取っては期待していたほどではないなあ、という印象でした。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2012年09月13日

読書日記370:誰かが足りない by宮下 奈都



タイトル:誰かが足りない
作者:宮下 奈都
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちとを、丹念にすくいとっていく。



感想--------------------------------------------------
本作も「ピエタ」や「ジェノサイド」、「ユリゴコロ」などと同じように2012年の本屋大賞にノミネートされていた作品です。結果的には三浦しをんさんの「舟を編む」が大賞を受賞されていますが、ノミネートされた作品はどれも例外なく面白かったので、本作も楽しみに読んでみました。

駅前にあるおいしいと評判のレストラン「ハライ」。ある夕方、そのレストランに居合わせた客には、それぞれのドラマがあった−。

本作は「予約1」から「予約6」までの六章と、明示的には書かれていませんが、プロローグ、エピローグ的なレストラン「ハライ」の内容を描いた箇所から構成される本です。六章もあるのに全体で180ページ足らずと短い内容の本です。

本作は十月の終わりの夕方のレストラン「ハライ」の場面描写から始まります。おいしいと評判で常に予約がいっぱいの「ハライ」。その夕方に、そこに居合わせることになった六組のお客の、「ハライ」で食事をするに至るまでの物語が、各章で描かれています。しかし、そのレストランには一つ、いるべき人のいない「誰かが足りない」席があります。そして本作のタイトルにもなっているこの「誰かが足りない」というのが、各章に通じるコンセプトであり、この「誰かが足りない」という文言で作品は幕を閉じます。

各章で描かれている「ハライ」に予約をすることになる人々の境遇は様々です。認知症になりかけの老女、カメラ越しにしか世界と接することのできない青年、仕事に疲れた女性。各章の主人公の多くが日常に悩みを抱え、行き詰まりを感じています。そしてその行き詰った心情の描き方が、本作では非常にうまいです。これはやはり女性である著者の特徴でもあるとも思うのですが、心情の描き方、すくい上げ方が繊細です。ちょっとした心情の揺れもさらりと描かれています。そしてそのことが物語にそこはかとない寂しさと切なさを与えています。

各章は決してハッピーエンドで終わるわけではありません。しかし各話に共通しているのは、「『ハライ』に行こう」という言葉が各章の登場人物たちの人生を変えるひとつのきっかけになっているということです。とてもおいしい料理を提供するレストランに行くことが、人生の転機になる。こんな経験はあってもおかしくはないかと思います。

美しい記憶がそのままその人の美しさを支えるわけではないように、悲しい記憶が人のやさしさを支えることがあるように、いいことも、悪いことも、いったん人の中に深く沈んで、あるとき思いもかけない形で発露する。

本作でもっとも印象に残った文章です。人生のありようをそのまま語ったような文章ですね。著者の人生経験と、人生というものに対する洞察の深さがうかがい知れます。どのような経験でもその人の受け取り方次第であり、その受け取り方が人生を深くし、人を成長させる。そう言っているようにも聞こえます。

本作は各章で様々な登場人物の人生と、その転機について語られていき、最後にレストラン「ハライ」の場面に戻ります。最後に語られる著者の「誰かが足りない」という事実へ対する解釈はとてもいいですね。ラストの五行。この五行が物語をとてもあたたかいものへと仕上げてくれています。さらっと読めてしまうため淡白な印象もありますが、本屋大賞ノミネートに恥じない良作だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年08月29日

読書日記368:陽だまりの彼女 by越谷 オサム



タイトル:陽だまりの彼女
作者:越谷 オサム
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようでーその秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。



感想--------------------------------------------------
「女子が男子に読んでほしい小説No1」というセールス文句に、手にとって買ってみました。この方の作品は初めて読みます。あちこちの本屋で目立つ場所に置かれているのを眼にする本です。

中学時代の同級生、真緒に偶然にも再会した浩介。「学年有数のバカ」と言われていた真緒は美しい女性へと変貌を遂げていた−。

読み始めてすぐに感じたことですが、とても読みやすい本ですね。真緒と浩介、二人を中心に物語は進んで行くのですが、二人の会話のテンポがとてもよく、とんとんと読み進めることができます。三百ページ以上の本ですがあっという間に読み終わりました。

また真緒と浩介、二人の関係がとてもいいですね。間に中学時代の回想を挟みながら進んで行く二人の恋愛模様がまさにバカップルを地で行く感じで、読んでいて微笑ましくなってきます。まさにベタ甘な恋愛小説です。最初の方を読んでいると、二人の会話の書き方がなんとなくこなれていないかな、なんて感じていたのですが、読み進めるうちにどんどん引き込まれていきますね。いいです。

一方で「女子が男子に読んでほしい小説No1」というキャッチフレーズはどうですかね…。真緒のキャラクターが男性が思い描く女性像のステレオタイプと言う感じで、男子的には読んでいて楽しくていいのですが、女子的にはいらっと来る人もいるかもしれないな、なんて思いました。二人の描き方があまりにも甘すぎるため、ちょっと受け入れにくい人もいるかもしれませんね。

物語は後半に向けて意外な展開を見せ、最後にはほろっとさせる言い終わり方を見せます。正直、こうした展開は全く想定していませんでしたので驚きました。最後のちょっと感動させる終わり方は個人的にはとても好きです。物語を読み返すとところどころに多くの伏線が張られていたことがわかりますね。楽しくてそして感動して、涙も流すことの出来るいい作品だと感じました。

本作のような作品は映像化に向いていると思います。長期ドラマ化するにはめりはりが足らない気がするので、映画化ですかね。浩介が瑛太で真緒が井上真央かなーとか勝手に想像してしまいます。またラストシーンの映像も簡単に眼に浮かびます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 23:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする