2014年08月20日

読書日記501:アニバーサリー by窪 美澄



タイトル:アニバーサリー
作者:窪 美澄
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
産む、育てる、食べる、生き抜く。その意味は、3月11日に変わってしまった。75歳でいまだ現役、マタニティスイミング講師の晶子。家族愛から遠ざかり、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。人生が震災の夜に交差したなら、それは二人にとって記念日になる。



感想--------------------------------------------------
ふがいない僕は空を見上げた」で一躍有名になった窪美澄さんの作品です。この方の作品は個人的にはとても好きです。「晴天の迷いクジラ」に「クラウドクラスターを愛する方法」、どれもいいですが、やはり最も印象に残っているのは「ふがいない僕は空を見上げた」です。本作も楽しみに読んでみました。

マタニティスイミングの指導員である七十五歳の晶子と、妊婦である三十過ぎの真菜。三月十一日の大震災の日に出会った二人は−。

生きるということと、食べるということ、そして家族。
本書を読んで感じたことはこの三つです。本書は晶子と真菜、二人の出会いから始まり、二人の生い立ちを描く場面が約三分の二を占め、その後に二人の出会いの後の生活が描かれていきます。

第二次大戦時を生き、食べたいものも食べられず、家族で身を寄せ合い、必死の思いで生き抜いてきた晶子。有名な料理研究家の娘として生まれ、何不自由なく暮らしながらも、決定的に何かに欠けた家で暮らしてきた真菜。数十年前を生きる晶子と、今を生きる真菜はあらゆる面で対照的です。食べる物が何もなく薬を飴代わりにしていた晶子と、素敵な料理を与えられながらも誰もいない食卓で、全く味わうことのできない真菜。世界の終わりのような時代を家族で身を寄せ合いながら生き抜いた晶子と、「世界なんて速く終わればいいのに」と一九九九年を待ち遠しく感じる学生時代の真菜。

そこに対照的に描かれているのは過去と今の生活の比較であり、便利さを得たと同時に何かを失った現代人の生き方であり、必死に生き、命を次の世代に繋げようとする女性の姿でもあります。

本書で特徴的だったのは、著者が「食べること」にかなり重点を置いている点です。食べることは自分の身体を作ることに繋がり、それはそのまま生きることにも繋がります。自分で料理の研究をした晶子と、料理研究科の娘に生まれた真菜。用意される食事はどちらもおいしそうですが、料理の味とは必ずしもその味だけで決まるのではなく、その食べる環境や込められた思いにも大きく依存するのだということも良く伝わってきます。

また「ふがいない僕は空を見上げた」で見られた明け透けな(言い方が悪いですね)描写は本作でもあちこちに見られます。これは著者の真骨頂ですね。この方にしか書けないのではないでしょうか。−しかし桜庭一樹さんの「ファミリーポートレート」でも感じたことですが、女性作家さんが思春期の女性とその母親の関係を描いた作品を読むと、いつもぎりぎりの線を描いているような緊張感が感じられるのはなぜなんでしょうね。母と娘である前に、同じ女である娘と母。−おそらく男はここが逆なのでしょうね。男は、男同士である前に、きっと父と息子、になってしまう。そこが男女の描き方の差なのかな、とも感じました。この関係性は決して男性作家には描けないでしょうね。

本作は私にとってはかなりの当たりでした。窪美澄さんの作品の中でも「ふがいない僕は空を見上げた」についで面白かったです。知りませんでしたが、他の作品もいろいろと出ているようですね。読んでみようと思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2014年02月01日

読書日記462:世界から猫が消えたなら by川村元気



タイトル:世界から猫が消えたなら
作者:川村 元気
出版元:マガジンハウス
その他:

あらすじ----------------------------------------------
僕の葬式。僕の枕元に集まる人はどんな人たちだろうか。かつての友達、かつての恋人、親戚、教師、同僚たち。そのなかで僕の死を心から悲しんでくれる人は、何人いるのだろうか。僕と猫と陽気な悪魔の7日間の物語。


感想--------------------------------------------------
本作は映画プロデューサーである作者が書いた初の著作です。本作は出版当時かなりの人気となり、本屋大賞の候補にも選ばれていた作品です。ようやく読むことができました。

重病により近いうちに死ぬことがわかった僕。そんな僕の前に陽気な悪魔が現れて、こう囁いた。「この世界から何か一つ消すたびに、きみの命を一日延ばしてあげよう−」


あと数日の命となった主人公。その主人公が一日を生きるために消していくものを前にして、自分の人生を振り返り、本当に大切なものに気付いていく。そんな作品です。二百ページちょっとと短い作品であり、行もそんなに詰まっているわけではないのですが、読み手に感動を与えてくれる作品かと思います。

主人公である「僕」の元恋人、飼い猫、既に他界している母、地元の時計屋で働く父。主な登場人物はこのくらいです。そして「僕」が思いをめぐらすのも主にこの人たちです。でも、いざ死ぬときになって過去を振り返ると、そこには様々な思い出があり、いろいろな記憶があり、人生の様々な場面での優しさに気付いていきます。

個人的には特に恋人との下りが良かったです。小さな街の中で、出会っても話すことは無いのに、電話をしているときだけ何時間でも会話を続けることのできる僕と恋人。自分たちの恋が小さな街の中の決まったルールに従ったものだと気付いて別れを決めた二人。そして死を前にして再開する二人。そこに感動的な言葉はないですが、逆にそうした言葉がない分、本当の気持ちが伝わってくるようで、書き方に上手さを感じました。

あとはやはり父と母の下りですね。父と反りの合わない僕。そしてそうした父と僕を常に気にかけていた母。大切なことに気付くのはいつだって遅くなってしまってから、取り返しがつかなくなってしまってからなのに、その思い出ばかりが輝いて見えます。

最後に「僕」がする決断と、その後の行動はとても素敵です。自分の人生を振り返ったとき、そこには誰しもが必ず輝くものを持っているんだな、と感じさせる一冊でした。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2013年03月02日

読書日記403:クラウドクラスターを愛する方法 by窪 美澄



タイトル:クラウドクラスターを愛する方法
作者:窪 美澄
出版元:朝日新聞出版
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「輝くような人生の流れに乗るためのボートは、どこにあるんだろう」。
誕生日を間近に控えた大晦日の朝、3年間一緒に暮らした彼が出て行った。
その原因は……

デビュー作で山本周五郎賞を受賞した実力派作家が「家族」を描く、待望の第3作。
表題作書き下ろし。


感想--------------------------------------------------
映画化もされる衝撃的な作品、「ふがいない僕は空を見上げた」で一躍有名になり、「晴天の迷いクジラ」でその地位を確立した窪美澄さんの作品です。作品のタイトルにもなっている「クラウドクラスター」とは気象関係の用語で、「積乱雲(入道雲)の大きなかたまり」という意味だそうですね。私はてっきりIT用語かと思ってしまいました…。

母が家を出て行き、女性にだらしない父と、厳しい伯母の下で育った紗登子。恋人の向井くんにも去られ、自分一人の力で生きていくことさえ覚束ない紗登子は正月に母の住む家に行くことにした−。


家庭に問題を抱えていて、成人すると同時にそんな家庭を飛び出して、がむしゃらに仕事をしてなんとか生き抜いてきた主人公の女性、紗登子。三十目前にして一人で生きることもままならず、恋愛も男の人に頼って生きるために恋愛する、という紗登子のような女性は、今の日本には多いのかもしれないな、と思います。

物語はそんな紗登子が正月に母と会い、義父と会い、母の姉妹と会い、それをきっかけとして自分を見直すことで進んでいきます。「クラウドクラスター=積乱雲(入道雲)の大きなかたまり」とはその下では突風が吹いたり豪雨になったりということで、その性格と重ね合わせて、本作の中では自分の母親のことを指す言葉として使われています。クラウドクラスター=自分の母親を愛する方法。それは普通の家庭の人にとっては簡単なことなのかもしれませんが、またある家庭の人にとってはとても難しいことになってしまうようです。

母親が去っても寂しくも悲しくなく、逆に母と伯母との諍いが絶えたことで家庭が落ち着きを取り戻したことにほっとした紗登子。そしてそんな自分に少しだけ後ろめたさを感じる紗登子。相変わらず心理描写のレベルは非常に高いです。女性にしか描けない独身女性の日常を、その過去と今を織り交ぜながら、淡々と、しかし丁寧に描く著者の腕はやはりとても高いなあと感じさせます。

しかし一方で先に述べた二作と比べると、そのインパクトは薄いとも感じてしまいます。平凡な女性の日常を丁寧に描くその腕は非常に高いですが、一方でこれくらいはやはり他の一流女性作家さんであれば書けるようにも感じますので、著者の特長が十分には活かしきれてないなあとも感じました。ただ、「ふがいない僕は空を見上げた」のようなどぎつい作品は、何度も書くことができないですし、書きすぎると飽きられますし、難しいところではあるのかな、とも思います。

本作にはさらに「キャッチアンドリリース」という中篇も含まれています。思春期を迎えた少年少女が、自分自身の身体と心の成長と、家族との距離の取り方に悩む姿を短いページで鋭く切り取った作品ではありますが、やはりこれも「ふがいない僕は空を見上げた」を読んだ後だと、見劣りしてしまいますね。どちらの作品も間違いなく良作なのですが、前作がよすぎたので、比較されてしまうのが辛いですね。

でも間違いなく力のある著者ですので、次作以降もすごく期待してしまいます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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タグ:書評 窪 美澄
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2013年02月09日

読書日記398:神様のカルテ3 by夏川草介



タイトル:神様のカルテ 3
作者:夏川 草介
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「医者をなめてるんじゃない?自己満足で患者のそばにいるなんて、信じられない偽善者よ」。美しい信州の情景。命を預かる仕事の重み。切磋琢磨する仲間。温かい夫婦の絆。青年医師・栗原一止に訪れた、最大の転機。


感想--------------------------------------------------
映画化もされた「神様のカルテ」の三冊目です。季節は夏から冬へと巡り、物語は新しい展開を迎えます。

古狐先生の抜けた穴を埋めるべく配属されたのは美人の切れ者、小幡先生だった。小幡先生は一止に厳しい言葉を投げつける−。

続編、続々編とシリーズ化される物語は例外なく一作目がヒットしているのですが、その後に続く物語が一作目を越える例というのはなかなかないように感じられます。しかし本シリーズに関してはその例外が当てはまるようですね。三作目にして前二作に勝るとも劣らない作品だと思います。

シリーズ物の強みは物語を重ねることで登場人物の個性を掘り下げて描くことが出来る点だと思うのですが、本シリーズはこの強みをきっちりと活かしています。主人公の一止、細君のハル、巨漢の外科医の砂山、二作目から加わった辰也、内科部長の大狸先生、主任看護師の東西と個性的な面々が、個性を活かして活躍しています。

本屋大賞の二位に輝いたこともある本シリーズの作品の特長は、先に挙げた個性的な登場人物だけでなく、舞台となる松本の四季折々の名所の風景や、地方特産の美味なる日本酒、さらにはそれらをきっちりと描くどこか古風なそれでいて美しい日本語にもあると思うのですが、それらもやはり前二作に劣りません。純粋に読んでいて気持ちのいい文章です。巷には多くの書籍が溢れていますが、ここまでしっかりと日本語を美しく使っている作品にはなかなか出会えないですね。物語のスタイルが確立されてきたなあ、って感じます。個人的には特に、生命を扱う病棟で24時間365日激戦を繰り広げる一止たちと、美しい松本の風景がいいコントラストを描いているな、と感じます。激戦の労を労わるような美しい風景描写にはほっとさせられます。

本作では後半にかけて物語が大きく動きます。主人公である一止が自分の足元を見つめなおし、新しい道を歩き始めるのですが、そのような選択をした一止を見つめる周りの人々の視線が優しいですね。妻のハルはもちろんのこと、御嶽荘に住む男爵や学士、同僚の医者達や看護師たちが皆、一止にエールを送ります。登場人物の優しい描き方がやはり本作のヒットの理由だろうな、と感じさせます。

医者を描いた作品というと、本作と同じくらい有名な作品として海堂尊さんの「チームバチスタの栄光」シリーズがありますが、本シリーズと対比すると面白いほど違いますね。片方は医局を巡る謀略や陰謀に満ちた話であるのに対し、片や優しさと美しさ、純粋さに満ちています。どちらがいい悪いという話ではもちろんないのですが、同じ医者を描くにしても、描き方によってここまで変わるのだな、と感じました。

本作はまだまだ続きそうですね。新しい展開が見られそうな次作が非常に楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2013年01月24日

読書日記395:きみはいい子 by中脇 初枝



タイトル:きみはいい子
作者:中脇 初枝 (著)
出版元:ポプラ社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
夕方五時までは家に帰らせてもらえないこども。娘に手を上げてしまう母親。求めていた、たったひとつのものー。それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでもみんなこの町で、いろんなものを抱えて生きている。心を揺さぶる感動作。


感想--------------------------------------------------
この本はTBS系で土曜日に放送されている「王様のブランチ」で紹介されていた本です。紹介されていたのはかなり前ですが、読んでみたいと思っていて、ようやく読むことができました。本作は本屋大賞にもノミネートされています。

切っても切れない縁で繋がった親と子。かつての子供が思い浮かべる自分の子供時代と、今の自分。そして自分の子供−。

読み終えて純粋にいい本だった、と思える本です。こういう本に出会えるから読書を続けて行くのかなと思います。

本作は「サンタさんの来ない家」、「べっぴんさん」、「うそつき」、「こんにちは、さようなら」、「うばすて山」の五編で構成される中編集です。どの話も舞台となるのは桜ヶ丘という横浜近辺の街で、各話に微妙なつながりはありますが基本的には別の話です。

本作のテーマは「虐待」です。非常に重いテーマです。子供を傷つけてしまう親、親に傷つけられる子供が、各話で登場します。家庭に問題を抱えた子供のいるクラスの担任となった先生、子供を虐待してしまう母親、かつて虐待を受け、痴呆になった親を抱える娘…。各話に登場する親子の関係はどれも独特です。しかしどの家庭も例外なく親子の関係に問題を抱えています。基本的にどの話も大人の視点から語られるのですが、自分が小さい時に受けた虐待の描写なども加わり、そうした場面を読んでいると、とても辛くなってきます。

しかし本作で語られるのは辛い面だけではありません。悲惨な状況の親子に手を差し伸べてくれる存在や、優しかった思い出など、優しさを感じさせる場面が必ず描かれていて、それが物語りに救いを与えています。

どの物語も心に響く作品ですが、個人的にもっとも響いたのは「べっぴんさん」です。
公園や外ではいい顔をするけれど、うちに帰ると娘に虐待を繰り返す母親。その母親の視点で物語が描かれるのですが、恐ろしいのはその母親の感覚があまり異常に感じられないところです。自分が受けた仕打ちを、子供に繰り返す母親。外で見せる顔とは異なる顔を部屋の中で見せる母親。読んでいると、虐待される子供だけでなく、虐待を行なう母親自身も実は被害者なんだと思わされますが、こうした母親は、実は世の中には多いのかもしれません。

本書を読んでいると「毒になる親」を思い出します。自分がされた虐待を子供に繰り返す親。止まらない負の連鎖。何気ない僅かな優しさであっても、このような連鎖を止める役には立つのだろうな、と感じさせます。

本書を読んでいると、親から子への虐待というのは、「許す」とか「許さない」とか、そういう次元の話ではないのではないか、と感じさせます。たとえどれだけ酷かろうと子供にとって親は親であり、親にとって子は子で、そのつながりは死んでも切れません。そうした運命の下に生まれた親子の関係の中で虐待が行われるというのは本当に不幸なことだと感じさせます。

また、子供というのは本当に物事を良く見ているし、大人のようにずるくないので言葉や行動をそのまま真正面から受けてしまうため、少しのことでも大きく傷付くのだということも、本作を読んでいると良く分かります。子供に対してはきっと大人に対して以上にごまかしは効かないかないのでしょうね。

私は特に筆者と近い世代であり、小さな子供がいるからいろいろと感じることが多かったのだと思いますが、それをおいても読むべき価値のある本だと思いました。


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posted by taka at 01:39| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする