2016年01月23日

読書日記576:サラバ! 上



タイトル:サラバ! 上

作者:西 加奈子
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。

感想--------------------------------------------------
西加奈子さんの作品です。もともと読んでみたいと思っていた作家さんなのですが、本屋大賞の候補にもなっていて、面白そうだと思って読んでみました。上下巻、各三百五十ページほどの本です。

西加奈子さんの本は初めて読みますが、とても読みやすい本です。書き方もそうなのですが、何より読んでいて「わかる、わかる」と頷ける場面がとても多いと感じます。物語は圷(あくつ)家の長男、歩の出生から始まる物語です。存在感の薄い父、母である前に女であろうとする母、変わり者で常に母とぶつかる姉、そしてそんな家で存在感を消しながら過ごす歩。イラン、大阪、エジプト、再び日本、と場所を変えながら歩の出生から高校時代までが上巻では描かれています。

作者は女性なのに、男子の思春期の考え方をよくここまで書けるな、と感動すら覚えました。変わり者の姉の影響を受けまいと存在感を消す歩、エジプトでの運命的な出会い、そして崩壊していく圷家。とんでもない家族の中でうまく存在感を消して居場所を作り生きようとする歩ですが、その描き方には全く悲壮感がなく、むしろ思わず笑ってしまうような描写が多くて、とても楽しく読めてしまいます。普通に読んだらこんな家庭に生まれたら(特にこんな姉を持ったら)悲劇なのですが、それを感じさせません。これは著者の独特な書き方によるものだと思います。

「姉はまたやらかしていた」
↑この描写、好きです。特に同性のリアルな視点で描いているので、特にいいです。

母の離婚をきっかけに女だらけの家に一人住み、姉が怪しげな宗教にはまり始めた歩。…なんか、連ドラにするにしても奇抜な話なのですが、描写がリアルなのに面白くって、目が離せません。なるほど、この作家さんは売れっ子と呼ばれる訳ですね。…同性の目から見ても歩は中高生にしては自意識が低すぎですね…。なんか植物みたいです。

次巻も続けて読む予定です。楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2015年08月29日

読書日記555:何者 by朝井リョウ



タイトル:何者
作者:朝井 リョウ
出版元:新潮社
その他:第148回(平成24年度上半期) 直木賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
朝井リョウさんの作品です。この方の作品は「桐島、部活やめるってよ」を読んだことがあります。著者は本書で直木賞を受賞しています。

拓人、光太郎、端月、隆良、理香の五人は、お互いに情報交換しながら、就職活動を続けていく。お互いを思いやりながら活動を進めていく五人だがー。

この著者の本を読むのは本作が二作目ですが、一作目の「桐島、部活やめるってよ」よりは格段に面白く読むことができました。内容はかなりブラックなのですが、SNS、ツイッターでの自己表現と人の本当の内面の違いなどに鋭く切り込んでいて、こういうことはきっと良くあることなんだろうな、と感じさせるリアリティもありました。

集団から離れたどこか遠くから冷ややかな傍観者の視点で見ることで「自分は他者と違うんだ」という優越感に浸る。そうした感覚はもしかしたら大小の差こそあれ、誰もが持っているのかもしれません。そして他者が「何者か」になっていく様を眼の前で見せ付けられることに焦りを感じるということもよくあることだと思います。本作は就職活動を通じて彼らのそうした心の動きをしっかりと浮き彫りにしていると感じました。特に最後の四十ページあたりは秀逸です。明かされる真実があったり、糾弾があったりしてページを繰る手がとまらなくなりました。(最後の最後は少し綺麗にまとめすぎている気もしましたが。)

でも、ここで書かれているような「自分が何者になるのか」という問いかけは何も就職活動の話だけではないと感じました。むしろ就職してからがこの問いかけがスタートするケースが多いのではないかと思います。自分は何者なのか、この会社で何者になれるのか、この分野で何者になるのか。しかしその問いかけは結局のところ、現実と折り合いをつけるところで終わります。思い描いていた自分が何者かになった姿と、現実が完全に一致することは滅多になく、ある程度のところで妥協せざるを得ず、そのことを「大人になる」といった言葉で表現したりもするのですね。

他者の視点と自分の視点があって、その中で築かれるのが「自分」だとすると、就職活動というのは圧倒的に「他者視点」で構成される自分が必要とされる場なのでしょうね。だから自分を見失うことが多くなるのだと思います。「他人がどう思おうが自分は自分」とまで強く思い切ることができればいいのでしょうが、社会人経験のない学生にそこまでを求めるのは酷でもあり、やはりこのような経験は誰しもが通る道で、そこを経て自己が形成されていくのかな、と感じたりもしました。

…しかし、この年齢になってこのような本を読むと、若い頃を思い出して少し恥ずかしくもなりますね。。。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2015年01月25日

読書日記524:空中ブランコ by奥田 英朗



タイトル:空中ブランコ

作者:奥田 英朗
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。

感想--------------------------------------------------
直木賞作家、奥田英朗さんの作品です。本作が直木賞の受賞作ですね。もう十年も前の作品ですが、積んだままになっていましたので読んでみました。

サーカス団員の公平は空中ブランコを得意技としていたが、失敗が続いていた。そんな公平が訪れた精神科で待ち受けていたのは、伊良部という奇妙な医師だった−。

本作に掲載されているのは、「空中ブランコ」、「ハリネズミ」、「義父のヅラ」、「ホットコーナー」、「女流作家」の五編です。様々な理由で精神的な問題を抱えている人々と奇妙な医師、伊良部をユーモア満載で描いています。伊良部の助手の看護師、マユミも含めて奇妙な人々満載で、読んでいて最高に面白いです。

個人的に面白かったのは最後の「女流作家」ですね。作家の方が描いた「女流作家」の抱える心の悩みがリアルで、他の作品も面白かったですが、本作が随一でした。

本作はリーダビリティが良く、ユーモア満載で簡単に読める作品なのですが、一方で重みや中身の深さ、というものはあまりありません。ですので、読む人を選ぶ作品と言えるかと思います。

本作も以前、阿部寛さんや釈由美子さんら出演でドラマ化されているそうです。絵にしやすい作品と言えるかと思います。本作の肝は精神科医 伊良部の奇妙さなのですが、原作の伊良部よりもドラマの伊良部は数倍格好よくなっていますね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
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2014年12月21日

読書日記518:さようなら、オレンジ



タイトル:さようなら、オレンジ
作者:岩城けい
出版元:筑摩書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。第29回太宰治賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
この方の本は初めて読みます。本屋大賞の候補に選ばれていたので読んでみました。今までに読んだことのないタイプの本です。

戦火に追われて故国を離れ豪州で暮らすことになったサリマ。肉を捌く仕事をしながら通う語学学校で、彼女はハリネズミと呼ばれる日本人と出会う−。

祖国を離れ、二人の子供と豪州で暮らすサリマ。乳飲み子を抱えて同じく豪州で暮らすハリネズミ。物語はサリマの視点に時折りハリネズミの手紙を交えながら、淡々とした語り口で進んでいきます。そこに描かれているのは「生きること」とでも言ったらいいでしょうか、祖国を離れ、子供を奪われ、それでも生きていく二人の女性です。

はじめは異端児として、周囲に溶け込むこともできずに暮らす女性たち。しかし彼女達は周囲の様々な人々との交流を通して少しずつ今いる自分の場所を、居場所に変えて生きていきます。そこに描かれている音は強い女性の姿ですが、一言で片付けられるものではありません。故国と、言語と、子供と、夫と、様々なものに縛られながらもそれでも自分をしっかりと抱えて生きていこうとする女性。様々な悲劇をも乗り越えて、強く生きていこうとする女性。この物語の主人公は二人の女性ですが、これは女性が主人公でなければ成り立たない物語ですね。

物語にはある仕掛けがあり、最後にそれがわかるようになっています。淡々と進みすぎる点が気にはなりますが、百七十ページ程度足らずと短い作品ですので、簡単に読めました。なかなか読んだことのないタイプの本です。異国で暮らす人間と言うのを題材に作品を書くのは日本人にはなかなか難しいと思うのですが、うまく描いていると感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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2014年09月28日

読書日記506:ヘヴン by川上未映子



タイトル:ヘヴン
作者:川上 未映子
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
“わたしたちは仲間です”ー十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える“僕”は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。芸術選奨文部科学大臣新人賞・紫式部文学賞ダブル受賞。


感想--------------------------------------------------
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芥川賞作家、川上未映子さんの作品です。ヘヴンというタイトルとは裏腹に重苦しい内容の作品でした。*本レビューにはネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。

同級生の二ノ宮たちから酷いいじめを受けていた僕は、同じように苛められていた女子、コジマから手紙をもらった−。

心情の描写、情景の描写が非常に細やかで、その描写を通じてさらに登場人物の心情を掘り下げていく、というような作品です。主人公の僕、心を通わせるコジマ、僕をいじめる二ノ宮、その仲間の百瀬、そして僕の母。登場人物は多くはありませんが、その各登場人物の心情を情景描写や何気ない会話を通じて掘り下げていきます。

斜視である僕の眼を好きだといってくれるコジマ、意味のあるものごとなんて何一つない、と言う百瀬、そして今とは違う世界に移ろうとする僕。物語は繊細な心情描写を軸に、ところどころに凄惨とも言えるいじめのシーンを交えながら、ゆっくりと進んでいきます。

非常に繊細な作品です。僕、コジマ、いじめる側でありながら一人だけ違う雰囲気を醸し出す百瀬。各人の物事の考え方、各人にとっての世界のあり方、それらを各人の言葉や雰囲気、仕草などを交えて丁寧に描いていきます。

物語自体は読んでて苦しくなる箇所が何箇所もあり、正直、辛い内容の本ではありました。しかし読んだことを後悔する類の本ではありません。終わり方は悲しいですね。美しくはあるのですが、その美しさがコジマの不在をどこまでも際立たせます。かつて同じ世界に生きたコジマ。最高の友達であったコジマ。その彼女を置いて、別の世界に移って全てを忘れて生きていく僕。これは誰の身にも起きたことなのだろうな、と感じます。感受性豊かな中学時代だからこそありえた世界。世界が狭かった頃、それは美しく言うと青春の一こまでもあるのだろうな、と感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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レビュープラス
posted by taka at 07:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする