2015年08月29日

読書日記555:何者 by朝井リョウ



タイトル:何者
作者:朝井 リョウ
出版元:新潮社
その他:第148回(平成24年度上半期) 直木賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
朝井リョウさんの作品です。この方の作品は「桐島、部活やめるってよ」を読んだことがあります。著者は本書で直木賞を受賞しています。

拓人、光太郎、端月、隆良、理香の五人は、お互いに情報交換しながら、就職活動を続けていく。お互いを思いやりながら活動を進めていく五人だがー。

この著者の本を読むのは本作が二作目ですが、一作目の「桐島、部活やめるってよ」よりは格段に面白く読むことができました。内容はかなりブラックなのですが、SNS、ツイッターでの自己表現と人の本当の内面の違いなどに鋭く切り込んでいて、こういうことはきっと良くあることなんだろうな、と感じさせるリアリティもありました。

集団から離れたどこか遠くから冷ややかな傍観者の視点で見ることで「自分は他者と違うんだ」という優越感に浸る。そうした感覚はもしかしたら大小の差こそあれ、誰もが持っているのかもしれません。そして他者が「何者か」になっていく様を眼の前で見せ付けられることに焦りを感じるということもよくあることだと思います。本作は就職活動を通じて彼らのそうした心の動きをしっかりと浮き彫りにしていると感じました。特に最後の四十ページあたりは秀逸です。明かされる真実があったり、糾弾があったりしてページを繰る手がとまらなくなりました。(最後の最後は少し綺麗にまとめすぎている気もしましたが。)

でも、ここで書かれているような「自分が何者になるのか」という問いかけは何も就職活動の話だけではないと感じました。むしろ就職してからがこの問いかけがスタートするケースが多いのではないかと思います。自分は何者なのか、この会社で何者になれるのか、この分野で何者になるのか。しかしその問いかけは結局のところ、現実と折り合いをつけるところで終わります。思い描いていた自分が何者かになった姿と、現実が完全に一致することは滅多になく、ある程度のところで妥協せざるを得ず、そのことを「大人になる」といった言葉で表現したりもするのですね。

他者の視点と自分の視点があって、その中で築かれるのが「自分」だとすると、就職活動というのは圧倒的に「他者視点」で構成される自分が必要とされる場なのでしょうね。だから自分を見失うことが多くなるのだと思います。「他人がどう思おうが自分は自分」とまで強く思い切ることができればいいのでしょうが、社会人経験のない学生にそこまでを求めるのは酷でもあり、やはりこのような経験は誰しもが通る道で、そこを経て自己が形成されていくのかな、と感じたりもしました。

…しかし、この年齢になってこのような本を読むと、若い頃を思い出して少し恥ずかしくもなりますね。。。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2015年01月25日

読書日記524:空中ブランコ by奥田 英朗



タイトル:空中ブランコ

作者:奥田 英朗
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。

感想--------------------------------------------------
直木賞作家、奥田英朗さんの作品です。本作が直木賞の受賞作ですね。もう十年も前の作品ですが、積んだままになっていましたので読んでみました。

サーカス団員の公平は空中ブランコを得意技としていたが、失敗が続いていた。そんな公平が訪れた精神科で待ち受けていたのは、伊良部という奇妙な医師だった−。

本作に掲載されているのは、「空中ブランコ」、「ハリネズミ」、「義父のヅラ」、「ホットコーナー」、「女流作家」の五編です。様々な理由で精神的な問題を抱えている人々と奇妙な医師、伊良部をユーモア満載で描いています。伊良部の助手の看護師、マユミも含めて奇妙な人々満載で、読んでいて最高に面白いです。

個人的に面白かったのは最後の「女流作家」ですね。作家の方が描いた「女流作家」の抱える心の悩みがリアルで、他の作品も面白かったですが、本作が随一でした。

本作はリーダビリティが良く、ユーモア満載で簡単に読める作品なのですが、一方で重みや中身の深さ、というものはあまりありません。ですので、読む人を選ぶ作品と言えるかと思います。

本作も以前、阿部寛さんや釈由美子さんら出演でドラマ化されているそうです。絵にしやすい作品と言えるかと思います。本作の肝は精神科医 伊良部の奇妙さなのですが、原作の伊良部よりもドラマの伊良部は数倍格好よくなっていますね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
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2014年12月21日

読書日記518:さようなら、オレンジ



タイトル:さようなら、オレンジ
作者:岩城けい
出版元:筑摩書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。第29回太宰治賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
この方の本は初めて読みます。本屋大賞の候補に選ばれていたので読んでみました。今までに読んだことのないタイプの本です。

戦火に追われて故国を離れ豪州で暮らすことになったサリマ。肉を捌く仕事をしながら通う語学学校で、彼女はハリネズミと呼ばれる日本人と出会う−。

祖国を離れ、二人の子供と豪州で暮らすサリマ。乳飲み子を抱えて同じく豪州で暮らすハリネズミ。物語はサリマの視点に時折りハリネズミの手紙を交えながら、淡々とした語り口で進んでいきます。そこに描かれているのは「生きること」とでも言ったらいいでしょうか、祖国を離れ、子供を奪われ、それでも生きていく二人の女性です。

はじめは異端児として、周囲に溶け込むこともできずに暮らす女性たち。しかし彼女達は周囲の様々な人々との交流を通して少しずつ今いる自分の場所を、居場所に変えて生きていきます。そこに描かれている音は強い女性の姿ですが、一言で片付けられるものではありません。故国と、言語と、子供と、夫と、様々なものに縛られながらもそれでも自分をしっかりと抱えて生きていこうとする女性。様々な悲劇をも乗り越えて、強く生きていこうとする女性。この物語の主人公は二人の女性ですが、これは女性が主人公でなければ成り立たない物語ですね。

物語にはある仕掛けがあり、最後にそれがわかるようになっています。淡々と進みすぎる点が気にはなりますが、百七十ページ程度足らずと短い作品ですので、簡単に読めました。なかなか読んだことのないタイプの本です。異国で暮らす人間と言うのを題材に作品を書くのは日本人にはなかなか難しいと思うのですが、うまく描いていると感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
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2014年09月28日

読書日記506:ヘヴン by川上未映子



タイトル:ヘヴン
作者:川上 未映子
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
“わたしたちは仲間です”ー十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える“僕”は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。芸術選奨文部科学大臣新人賞・紫式部文学賞ダブル受賞。


感想--------------------------------------------------
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芥川賞作家、川上未映子さんの作品です。ヘヴンというタイトルとは裏腹に重苦しい内容の作品でした。*本レビューにはネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。

同級生の二ノ宮たちから酷いいじめを受けていた僕は、同じように苛められていた女子、コジマから手紙をもらった−。

心情の描写、情景の描写が非常に細やかで、その描写を通じてさらに登場人物の心情を掘り下げていく、というような作品です。主人公の僕、心を通わせるコジマ、僕をいじめる二ノ宮、その仲間の百瀬、そして僕の母。登場人物は多くはありませんが、その各登場人物の心情を情景描写や何気ない会話を通じて掘り下げていきます。

斜視である僕の眼を好きだといってくれるコジマ、意味のあるものごとなんて何一つない、と言う百瀬、そして今とは違う世界に移ろうとする僕。物語は繊細な心情描写を軸に、ところどころに凄惨とも言えるいじめのシーンを交えながら、ゆっくりと進んでいきます。

非常に繊細な作品です。僕、コジマ、いじめる側でありながら一人だけ違う雰囲気を醸し出す百瀬。各人の物事の考え方、各人にとっての世界のあり方、それらを各人の言葉や雰囲気、仕草などを交えて丁寧に描いていきます。

物語自体は読んでて苦しくなる箇所が何箇所もあり、正直、辛い内容の本ではありました。しかし読んだことを後悔する類の本ではありません。終わり方は悲しいですね。美しくはあるのですが、その美しさがコジマの不在をどこまでも際立たせます。かつて同じ世界に生きたコジマ。最高の友達であったコジマ。その彼女を置いて、別の世界に移って全てを忘れて生きていく僕。これは誰の身にも起きたことなのだろうな、と感じます。感受性豊かな中学時代だからこそありえた世界。世界が狭かった頃、それは美しく言うと青春の一こまでもあるのだろうな、と感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2014年08月31日

読書日記502:森に眠る魚 by角田光代



タイトル:森に眠る魚
作者:角田 光代
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通して心をかよわせるが、いつしかその関係性は変容していた。ーあの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎ合い、それぞれが追いつめられてゆく。凄みある筆致で描きだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。渾身の長編母子小説。



感想--------------------------------------------------
直木賞作家である角田光代さんの本です。この方の作品は「八日目の蝉」が個人的には大ヒットでした。

小さい子供を持つママ同士、友達となった千花、容子、瞳、繭子、かおり。気の合う仲間同士だった五人の関係は、子供の小学校の受験などをきっかけに次第に変化していく−。

ふとしたことをきっかけとして、それまで順調だった人間関係に少しずつ変化が現れ始め、坂道を転がるように人間関係が崩壊していく−その様を丁寧に描いた作品です。少しずつおかしくなっていく各人の心の有様が非常に克明に描かれているため、読み手は気付かない内に文章に引き込まれていきます。

母と娘の関係性を描いた「八日目の蝉」は紛れもない傑作でしたが、母親の生き方を描いた本作も優れた作品であることは間違いないかと思います。順調な人生を歩んでいたはずなのに、気が付くと真っ暗な森の中を彷徨っている自分−母親。何があろうとも、たとえ世界が滅んだとしても、今日も明日も半年後も家族の食事をつくり、洗濯をし、家事をしているであろう母親。同じことを行ないながら続いていく頑強なはずの日々が、しかし一度その日々に疑問を持ってしまうと呆気ないほど簡単に壊れてしまう。その有様がリアルに描かれていて、読者の心に迫ります。あらずじを知らずに読んだのですが、本作は登場人物たちと同じ環境の母親が読むべき本かな、とも感じました。

本作を読んでいると、人間関係というもの自体が非常に恐ろしくも感じられてきます。円満にスタートしたはずの人間関係は、しかしどこかでバランスが崩れると一気に壊れて行き、そのリアルな様を読んでいると、「現在、順調な人間関係も、全ていつかはこのように崩壊するのではないか?」とさえ感じてしまいます。うかつに本心を曝け出すことの怖さなんかも感じてしまい、読んでいて怖さを感じる本でもありました。

物語の最後はそれぞれのママにそれぞれの終わり方が用意されていて、どれもがハッピーエンドではありませんが、満足のいく終わり方でした。母親の心情をリアルに描いた作品であり、その人間関係の機微の怖さを感じる本ではありましたが、、同時に家庭の日々を頑強なものにしていくのは、きっとこうした母親なんだろうな、と感じる本でもありました。−しかし実際にはこの本に書かれているママたちよりもよほどおかしくなっているママもいるんでしょうね。最後まで読んでそんなことを感じる本でもありました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 20:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする