2017年04月16日

読書日記635:羊と鋼の森


タイトル:羊と鋼の森
作者:宮下 奈都
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

感想--------------------------------------------------
宮下奈都さんの作品です。この方の作品は「誰かが足りない」を読んだことがあります。本書は昨年の本屋大賞受賞作です。今年は恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」でした。

板鳥さんの調律するピアノの音に惹かれ、調律を仕事として選んだ外村。板鳥さんや柳、秋野といった仲間に囲まれ、さらに双子の由仁と和音といった客と接しながら外村は少しずつ成長していくー。

表題の「羊と鋼の森」とはピアノのことを指します。羊毛で作られるフェルトのハンマーが鋼の弦を叩いて音を出すピアノ。ピアノという広大な森に入ることを決めた外村を主人公とした作品です。

読み始めて感じるのはその静けさと穏やかさです。主人公である外村が調律に魅せられ、尊敬する板鳥さんの勤務する楽器店に就職し、そこで学び、成長していく姿が描かれています。周囲にいるのは腕は確かだけど個性的な調律師である柳や秋野、さらに客である双子の女子高生、由仁や和音など。ピアノと調律を通して様々なことを感じ、成長していく外村は素直で葛藤は抱えつつもしっかりと前を向いて進んでいきます。

外村の生き方は、「3月のライオン」の主人公、零を思い起こさせます。真面目で実直な生き方しかできない外村は様々なことで悩みますが、それでも前に進んでいきます。感傷的で、外村の感情が溢れる作品なのに、その根底にあるのは静けさ。外村の故郷である北海道の山奥の零下三十度にもなる山と森の静けさです。そして読み終えると、静けさの奥から感動がこみ上げてきます。


「音楽は人生を楽しむためのものだ」


この言葉が最も印象に残りました。誰かに聞かせるためでも、ましてや競うためでもなく、ただそこにあるだけで人を楽しませる音楽。残念ながら私は音楽とは無縁の生活を送っていますが、音楽に触れている人が読むと、さらに感じるところがあるのではないか、と思います。美しい作品、という言葉がぴったりくる作品と感じました。

独り言ですが、今年の本屋大賞候補作にはそんなに読みたい本がなかったですね。。。「罪の声」は読んでみたいですが、あとはあんまり、、、といった感じです。個人的に好きなミステリー調の作品が少ないからかもしれません。本屋大賞も回を重ねて変わってきたのか、個人的な感覚が変わってきたのか、、、。本屋でも読んでみたいのはラノベ調の本が多くなってきて、携帯小説も増えているし、いろいろと変わってきているのかな、と感じたりします。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2017年02月11日

読書日記628:君の膵臓をたべたい



タイトル:君の膵臓をたべたい
作者:住野 よる
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
偶然、僕が拾った1冊の文庫本。それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった―圧倒的デビュー作!

感想--------------------------------------------------
自分はよく本屋に行くので、なんとなく売れ筋の本はわかるのですが、本書もその一冊でした。目立つところに長らく並んでいる本であることと、その奇妙なタイトルに惹かれて読んでみました。昨年度の本屋大賞二位の作品ですね。

全く予備知識なしに読みました。そのタイトルと、落ち着いたカバーの印象から大人向けの本かと思っていましたが、読み始めてすぐに若者向け、特に登場人物と同じ十代の少年向けの本と感じました。主人公は根暗で内向的で友達のいない少年。そんな少年がクラスの中でも人気のある少女とふとしたことで出会いーという話。よくある話だけど、実際にはない話だよな、四十も超えるとこうした話は読んでて寒いだけでなくて辛いよなーと思いながら読んでいました。現代版の「いちご同盟」みたいだな、なんて思ったりしていました。

しかし後半に入っていくと、この本はそんな簡単な本なんじゃない、っていうことがわかります。張られた伏線もさることながら、二人の関係に、二人の想いと言葉に、久しぶりに清々しい気持ちになりました。少しだけ引用させてください。


「偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私たちを会わせたの。私達は自分の意思で出会ったんだよ。」

「怖がらなくてもいいよ。なにがあっても人と人はうまくやっていけるはずだからね。」


物語の中で語られるこれらの言葉には本当に説得力があります。いつも一緒にいたのにお互いの方を向いていることに最後の最後でようやく気づくことのできた主人公。そしてその思いを表す言葉「君の膵臓を食べたい」。極上の青春小説ですが、私のような大人が読んでも感動する作品です。読んでよかった、と素直に思うことのできる本でした。

本作は実写映画化されるそうです。当然だな、と感じます。一方でアニメ映画化されてもいいなあ、とも感じます。絶賛されている「君の名は。」と切り口は違いますが、美麗な映像として作られればこちらも間違いなく好評になるはずです。

自分と違う人間への憧れ、恐れとの別れ。おそらく青春時代には誰しもが感じたであろうこれらの感情をうまく扱っていて、最後まで本当に清々しくて、いい本でした。この方の他の作品も読んでみようと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):SS
レビュープラス
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2016年07月17日

読書日記601:きいろいゾウ



タイトル:きいろいゾウ
作者:西 加奈子
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった―。

感想--------------------------------------------------
サラバ!」の西加奈子さんの作品です。二〇〇八年の作品ですので、もう八年も前の作品になります。

「ツマ」「ムコ」と呼び合う田舎に引っ越してきた夫婦の周囲にはいろいろな人たちと生き物が集まり楽しく暮らしていた。そしてその二人の関係はムコが東京に行く事で変化するー。

この方の作品を読むと、なんて感想を書いていいのか、いつも困ります。感想を書く事や、要約したり、まとめてみたりする事がふさわしくない小説、という印象をいつも受けるんですね。読みながらいろいろなことを感じ、感動するのですが、それをうまく伝える事のできないもどかしさを感じる小説です。ストーリーだけを書くと、なんて言う事のない話。だけどその中には、簡単には書く事のできない、いろいろなことが、詰まっています。なんていうか、すごく感覚的、って言えばいいのかな?

話はツマの視点の語りから始まります。いろいろな人、様々な生き物との出会い、そして最愛のムコさん。アレチさん、駒井さん、大地くん、洋子、カンユさん、コソク、メガデスなどなど。いろいろな生き物と人はみんなとても個性的で、ツマの生活を彩ります。小さい頃に病気で入院していたツマとそのツマに寄り添っていてくれたきいろいゾウ。幸せである事に人はなかなか気付きにくいけど、いまその瞬間にも幸せはあるんだなあ、なんていうことを感じさせてくれる作品です。

いやー、感想を書きにくい。ツマと、作者のエネルギーが満ちあふれた作品で、読み終わるとなんと言うか、とても元気になり、気付かなかった幸せに気付かせてくれる作品、といえるかと思います。小説のストーリーの作りは、なんとなく「サラバ!」と共通しているんですけどね。とてもいい作品でした。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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2016年02月13日

読書日記579:いちご同盟



タイトル:いちご同盟
作者:三田 誠広
出版元:集英社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。

感想--------------------------------------------------
三田誠広さんの作品です。今から二十年以上前の作品ですが、心に残る作品だと感じました。著者は「僕って何」で芥川賞を受賞されています。

高校進学にそして生き方に悩む良一は、ある日野球部のエース徹也に誘われて病院に行く。そこで出会ったのは入院している同い年の直美という少女だったー。

 鮮烈な作品です。その鮮烈さは二十年を経ていても色あせてはいません。確かに今の小説と比べると作りも、描かれている時代も古さを感じさせますが、そのメッセージ、終わり方には、今の小説にはない素直さ、ストレートさを感じます。
本作のタイトル「いちご同盟」ですが、”いちご”とは果物の苺のことではなく、一五、つまり十五歳の同盟という意 味です。青春の真っただ中である十五歳という年齢、その刹那を切り取って結んだ「いちご同盟」。青春という一瞬の時期を切り取った名タイトルだと思います。

 生きることに迷う良一、今という刹那に生き、そのことを自覚して過去を忘れることを恐れる徹也、余命いくばくもない直美。将来と生きることに悩む三人の姿を著者は静かにそして淡々と描いていきます。背景にあるのは良一が打ち込むピアノの調べ。これが物語にさらなる静けさと、余計なものを省いた潔さ、簡潔さをもたらしています。

 容赦なく進む時、そして訪れる結末。特に心に残るのは直美の鮮烈さです。今を生きる自分の痕跡を残そうとし、自分の感情を必死に表そうとする直美。彼女の鮮烈な生き様が良一をそして徹 也を揺り動かしていきます。終わり方も潔く、読者の心に余韻を残します。

この作品は確かに名作です。時を経て、将来に伝えられるべき本でしょうね。静かにそして熱いものを読者の心に残す本だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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posted by taka at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月06日

読書日記578:サラバ! 下



タイトル:サラバ! 下
作者:西 加奈子
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。

感想--------------------------------------------------
上巻に続き、下巻です。読み終えた直後の感想。本当にこの本を読むことができてよかった。そう思わせてくれた本です。久しぶりです。こんなに本の持つ力を感じたのは。

大学に進み、社会人となった歩。そして変わらず奇行を繰り返す姉。再婚する母。出家する父。ばらばらになる圷家と信じるものを見出せない歩。そしてー。

私が感動したのは、私がこの作品の主人公である歩と近い歳だからかもしれません。三十七歳。小さい頃に持っていた全能の力は失われて残酷な現実に向き合えない、この主人公のような人はきっと今の世の中にたくさんいると思います。前に進んでいく周囲の人間達に言いようのない苛立ちを募らせ、自分がどうすればいいのか分からない歩。ずっと受身で生きてきた人にとって自分から前に進もうとすることはきっと非常に困難なのでしょう。

軽蔑してきた家族や友人にいつの間にか追い越され、こんなはずじゃなかったのに、と悩む歩。そして信じるものを何も見つけられない歩。上巻を読む限りではこの物語はある家族を描いた物語かと思っていたのですが、この本は主人公の歩がその名のとおり歩き出すまでの物語なのですね。そしてその歩き出すきっかけとなるのがタイトルの「サラバ!」に繋がっていきます。


「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」


この言葉が全てを語っているように感じます。困難な時期に陥ったときに、自分の中に信じられるなにかを見出せるのか。そして、そもそもそれを探そうとしたのか。人によってその信じるものは違ってくるでしょうし、歩のようにそれを見出せる人は少ないかもしれません。でもそんな人にはぜひこの本を薦めたい。この本こそがその信じるものになる可能性も十分にあると感じます。


「僕は何かことが起きるといつも自分がそれにどれだけ関与しているか確認した。そして「僕は悪くない」と安心していた。」


本書を読んでいて自分的に最も突き刺さる言葉ですね・・・。痛いです。誰もがきっと少なからず何かを感じる言葉でしょう。他人の痛みを自分の痛みとして感じることができた子供の頃と、大人になった今では変わっていないつもりでも感じ方が変わっていることは誰しもが実感していることかと思います。それこそ時間という巨大な「化け物」のせいなのでしょうが、その「化け物」をうまく味方にできると強いのだということもまた、読んでいて分かります。

文章というのは読み手にこのような感動を与えられるのだなあ、と読み終えてしみじみ思いました。直木賞受賞作ですが、当然と感じます。むしろ本屋大賞は二位なんですね。一位はそんなにすごいのでしょうか。一位の「鹿の王」もそのうち読もうかと思います。

この本はぜひ映像化して欲しいと思う一方で、映像化するとその感動が半減してしまうのではないか、とも感じてしまいます。難しいですね。作品が良すぎるだけあって、原作との比較に曝されるのは必至ですから。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
posted by taka at 10:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする