2010年06月13日

読書日記209:秋期限定栗きんとん事件〈上〉 by米澤穂信



タイトル:秋期限定栗きんとん事件〈上〉
作者:米澤穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。-それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。


感想--------------------------------------------------
 米沢穂信さんが描く小鳩くんと小山内さんの『小市民』シリーズ。本作はその第三作目になります。本作は上下巻の二冊構成になっており、さらにこれまでの二冊(「春期限定いちごタルト事件」、「夏期限定トロピカルパフェ事件」)は短編集だったのに対して本作は上下巻にわたって一つの大きな事件を扱っています。

夏に互恵関係を解消した小鳩くんと小山内さん。お互いに新しい恋人と付き合い始め―。

 前作、「夏期限定トロピカルパフェ事件」の最後で別れた小鳩くんと小山内さん。本作では小鳩くんは仲丸さん、小山内さんは瓜野くんという新しいパートナーと付き合い始めます。そして、本作は新聞部員である瓜野くんと小鳩くんの視点が入れ替わりながら物語が進んでいきます。市内で連続して発生する放火事件。新聞部員としてその犯人を追う瓜野くん。そして仲丸さんと楽しいデートを続ける小鳩くん。小山内さんと小鳩くんのペアに慣れた読者にとって、この展開は新鮮ですね。

 しかし正直言って、上巻を読んでいる限りでは少しいまいちに感じてしまいます。まず本シリーズの売りはなんといっても小市民を目指しながらも小市民になり切れない『狐』の小鳩くんと『狼』の小山内さんのキャラクターだと思います。しかし、上巻ではむしろ瓜野くんが主人公的な立場で発言を繰り返すため、その面白さが生きていません。小鳩くんと仲丸さんの掛け合いや、友人の氷谷くんと犯人を探す瓜野くんの行動、推理はそれなりに面白いのですが―、まあ並みのミステリの面白さです。事件も小さな放火程度なのでハラハラ感もないですし。

 さらにこの瓜野くんというのが、性格的に残念な、見栄っ張りで自我の強い本当の意味での「小市民」なのでいまいちです。後半、小山内さんと小鳩くんが本格的に動き始めると面白くなってきますね。

 本作は間違いなく、他のシリーズ作品を読んでいる方向けですね。前作までを読んでいて、小山内さんと小鳩くんがどんな人間なのか、なんで二人が互恵関係を解消したのか、そこが分かっていないと面白くないですね。

 本巻、小鳩くんが本格的に動き始めた物語のちょうどいいところで終わります。下巻が楽しみになりますね。上巻は正直、前振り程度、と思って読んだ方がいいかとも思います。下巻に期待です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2010年04月11日

読書日記196:夏期限定トロピカルパフェ事件 by米澤穂信



タイトル:夏期限定トロピカルパフェ事件
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。


感想--------------------------------------------------
小山内さんと小鳩くんが活躍する<小市民シリーズ>、「春期限定いちごタルト事件」に続く第二弾です。小山内さんも小鳩くんも高校二年生になりました。

互恵関係にある小山内さんと小鳩くん。夏休みに入った小鳩くんの前に、<小山内スイーツセレクション・夏>と書かれたお菓子屋さん一覧の地図を持った小山内さんが現れ・・・。

 前作「春期限定いちごタルト事件」でも大活躍した小山内&小鳩コンビ。本作では既に各キャラクターの性格や位置付けがはっきりと分かっているため、最初からとまどうことなく楽しむことができました。

 本シリーズ、やはりいいのは小山内さんと小鳩くんのキャラクターですね。おとなしそうな好青年に見えつつ、その実は賢しらに知恵をひけらかして謎を解くことが大好きな『狐』の小鳩くん。童顔に低い身長から小学生でも通りそうな姿でありながら、甘い物が大好き、でも『復讐』することはもっと好き、という『狼』の小山内さん。この二人が時に協力し合い、時にお互いに駆け引きをし合いながら日々を平穏に過ごす「小市民」を目指すわけですが、ときたま(いつも?)見せる『狐』と『狼』の顔とのギャップがたまりません。一作目、「春季限定いちごタルト事件」ではまだまだ本性を見せていなかった二人ですが、本作では本性全開ですね。いい感じです。

 本作では序章から一〜四章と終章の全六章から構成されています。小山内さんと甘い物を食べに行きつつ小さな事件(小さくない事件もありますが)を解いていく訳ですが、この小山内さんと小鳩くんの性格と二人の関係の描き方が絶妙ですね。
 特に小山内さんの描き方はすごくうまいと思います。読んで行くと分かるのですが、「小山内さんが無邪気に笑った」という表現があっても、もう素直にその言葉通りの意味として捉えられなくなってきます。「ああ、また何か裏があるんだな」、「今度はどんな復讐のネタを見つけたのかな」って勘ぐらずにはいられません。そしてそういう方向に読者の心理を持って行く描き方はやはり作品の書き手の技術が優れているからできるのでしょうね。

 あとは最終章の最後の部分ですね。ネタバレになってしまいますが、二人が互恵関係を解消して別れるシーンがあります。その別れの悲しさをとっても甘い夏季限定トロピカルパフェをうまく使って描いています。ああうまいなあ、って本作の最後の一文を読んでしみじみ思いました。

 本シリーズ、内容はライトノベルチックでとても軽く学生さん向きかな?って思うところもあるのですが、細部まで設定がしっかりしているし大人が読んでも十分面白いですね。ここまで読んだら続きの「秋期限定栗きんとん事件」も読まない訳には行きません。

 それにしても、小山内さんって一般人なんですかね・・・。復讐の手際の良さを見ていると、なんかどこかの国の諜報員に見えて仕方がありません・・・。

  

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2010年02月24日

読書日記185:春期限定いちごタルト事件 by米澤穂信



タイトル:春期限定いちごタルト事件
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。


感想--------------------------------------------------
このミスの作家別ランキングでも上位に食い込んだ米澤穂信さんの作品です。以前、たいへんおもしろく読ませていただいた「インシテミル」も映画化されるそうですね。どのように映画化されるのか、とても楽しみです。

 本作は「夏期限定トロピカルパフェ事件」、「秋期限定栗きんとん事件」と続く小鳩&小山内コンビが活躍する作品の第一作目です。

同じ高校に入学した小鳩くんと小山内さんは小市民を目指しつつもいろいろな謎に巻き込まれていくー

 本作は高校を舞台にした連作短編になっています。高校生活で起こるちょっとした謎を小鳩くんと小山内さんが解いていく、というものです。その謎とは、なくなったポシェットの探索だったり、美術部に置き忘れられた二枚の絵画の意味をとくことだったりととても小さなことなのですが、その謎に二人は真剣に取り組んで行きます。・・・なんか読んでいて昔はまった赤川次郎さんの作品に雰囲気が似ているなあ、って思ってしまいました。

 最初、読み出した時は本作の面白さはよくわからなかったのですが、読み進むに連れて、即ち小鳩くんと小山内さんのキャラクターが分かってくるに連れてどんどんと面白くなって行きます。ものごとから距離を置き、一歩引いて見るくせのある小鳩くんと小動物のような仕草で人の背後に回り込むことが得意なおとなしい小山内さん。しかしてその本性はー。・・・続きは読んで下さい。いやあ面白いです。

 過去を洗い流して、現状に満足して生きる=小市民として生きることを目指す小鳩くんと小山内さん。でもなかなか周りはそれを許してくれなさそうです。ついつい本性が出てしまう二人の行動や言動が、逆に読んでいてとても楽しかったりします。この二人+小鳩くんの幼なじみ:健吾くんのキャラクターが受け入れられるかどうかで、本作の評価は分かれるかと思います。すんなり受け入れられた私はとても楽しく読むことができました。

 どこか独特でマイペースな小鳩&小山内コンビ。なんかずっと見ていたくなる二人ですね。表紙の絵も物語のイメージを膨らませてくれるとてもいいイラストでした。続きも読む予定です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2009年11月18日

読書日記165:追想五断章 by米澤穂信



タイトル:追想五断章
作者:米澤穂信
出版元:集英社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編


感想--------------------------------------------------
以前、「インシテミル」で紹介した米澤穂信さんの作品です。「インシテミル」が個人的にかなり面白かったので読んでみました。最新作ですね。

 本作を読んでの感想ですが、まず「インシテミル」と全体の雰囲気が全く異なることに驚きました。「インシテミル」はどちらかというと軽い印象の作品ですが、本作はどことなく暗く、重い雰囲気の作品です。主人公を始めとする各登場人物の背景の重さがこの雰囲気を醸し出しているのかもしれませんね。どんよりとした曇り空を連想させるような、じんわりとしみ込んでくるような作品です。

 結末が伏せられた五つの断章を追う芳光は筆者の秘めた想いに気付いて行くー

 最後まで読み終わっての感想ですが、構成の巧みさはやはりこの作者ならではだな、と感じました。これは「インシテミル」と共通していますね。本作は、主人公が、亡くなった父親が書いた五編の小説を追う女性と協力してその小説を探して行く、というストーリーなのですが、最後まで読んで分かる五つの断章に秘められた想いとその設定のうまさにはやはり驚きます。

 ただ残念なのは謎が解けても誰も救われない、というところでしょうか。最後まで読んで可南子の母の死の真相がはっきりしても、どうもすっきりしませんね・・・。
 この小説で最も印象に残ったのは可南子の言葉でしょうか。「嘘でも本当でも生きている間に父の口から聞きたかった」という可南子の言葉は胸に刺さります。ただ、この小説探しの旅を通じて自分の生き方を見つめ直し、行き詰まって苦しい状態から一歩を踏み出そうとする芳光の姿には少しだけですが希望を見いだせます。
 残念ながらやはりどうしても作品全体には暗い印象が漂いますね。主人公も、主人公の伯父も、母も、みんな行き詰まっていて次の一歩を踏み出せません。その状態が読み手にも伝わってきて苦しさを感じさせます。

 ・・・救いはやはり"愛"でしょうか。ここでいう愛とは家族愛ですね主人公を愛する母の気持ち、可南子を愛する父の気持ち・・・。切ない作品で人によって好き嫌いは分かれると思います。読んでいて苦しくなる人もいるかもしれません。でも繰り返しになりますが構成の上手さには唸らずにはいられません。作者の才能を感じさせる作品でした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2009年07月29日

読書日記145:インシテミル by米澤穂信



タイトル:インシテミル
作者:米澤穂信
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
バイト雑誌を立ち読みしていたビンボー大学生・結城は、ひとりの少女から声をかけられて……。この夏、究極の殺人ゲームがはじまる


感想--------------------------------------------------
 初めて読む作家さんのミステリーです。抜群に面白く、最後まで一気に読んでしまいました。ここまで熱中して読んだのは「告白」以来かもしれません。ページをめくる手が止められませんでした。

 求人雑誌の片隅に掲載されていた破格の報酬のバイトに応募した結城は、他11人の応募者と共に地下の閉鎖施設「暗鬼館」に連れて行かれる。バイトの内容はここで7日間過ごすだけ。しかし結城はその夜、自分の部屋の枕元に置かれた箱の中から「殴殺」と書かれたメモと金属の棒を見つける。その晩から究極の殺人ゲームが始まった・・・。

 本作、閉鎖された地下施設の中で12人の男女が一人、また一人と殺されていくお話です。「犯人は誰なのか?」、「次に殺されるのは自分かもしれない」、そういった疑心暗鬼の中、また一人、また一人と減っていき、残された人々はさらに追いつめられていく・・・。ミステリ好きの方はよくご存知かもしれませんが、この設定自体はアガサ・クリスティの名作「そして誰もいなくなった」をモチーフにしています。ただ、やはり現代風に作られていますので、「そして誰もいなくなった」よりは大分軽いですね。

 本作、作者が相当なミステリ好きらしく、至る所に名作ミステリの話がでてきます。「まだらのひも」、「Xの悲劇」、「僧正殺人事件」などなど。本作自体は「ガード」と呼ばれるスーパーロボットの登場に代表されるあり得ない設定が多くちりばめられていて、かなり現実離れした感はありますが、それでもミステリ部分はよく出来ているなあ、と感心します。

 最近の多くの作家さんの作品は登場人物の人間性や感情表現が非常にうまく、ミステリーであっても「人間ドラマ」になっている作品が多い気がします。一方で本作ではあまり人間性や感情表現には深く踏み込んでおらず、本来の「ミステリー」としての面白さだけで勝負している気がします。この潔さ、簡潔さが逆に面白さを引き立てていると思います。
 閉鎖された地下の施設に閉じ込められた12人の男女、一人に一つずつ与えられた凶器、不思議な雰囲気を醸し出す少女、高額な報酬・・・。これだけあれば余計な物はいりませんね。上手くこれらの設定を料理して作り上げた傑作と呼べる一品かと思います。

 でも、あまり本作は有名ではないですね・・・。やはりミステリ好き以外には受けないのかな?ちなみにタイトルの「インシテミル」はThe Incite Mill・・・「煽動された殴り合い」みたいな意味みたいです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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posted by taka at 22:44| Comment(0) | TrackBack(1) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする