2011年10月05日

読書日記303:儚い羊たちの祝宴 by米澤穂信



タイトル:儚い羊たちの祝宴
作者:米澤穂信
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。


感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。この人の作品はついつい手に取ってしまいますね。私自身、古典部シリーズの折木奉太郎や小市民シリーズの小鳩くん&小山内さんのように屈折した主人公達にどことない魅力を感じているのかもしれません。

読書サークル「バベルの会」に関連した五つの事件−。

本作は「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの祝宴」の五編からなる短編集です。五編の短編はそれぞれ読書サークル「バベルの会」を中心に緩くつながっていますが、基本的には別の作品ですね。そして五つの短編に共通する点は、それぞれの主人公が良家の子女、あるいは良家に勤める少女(女性)であるということでしょうか。

本作に納められた各短編には「最後の一文で衝撃を与える」という趣向が凝らされています。正直「一文」というのは言い過ぎのような気がしますが、最後に作者によって仕掛けられたある仕掛けが炸裂する、というのは共通している点です。この効果が最も邪悪に動作するのは後書きでも書かれていますが「玉野五十鈴の誉れ」ですね。一応ハッピーエンドといえばハッピーエンドなのですが、終わりの後味の悪さが溜まりません。…個人的にはこういう終わり方は大好きですが。その次は「身内に不幸がありまして」ですかね。こちらもこれだけのためにこんなことをするのか、という面白さがあります。

しかしこの作品はこれまでの米澤穂信作品と少しテイストが違いますね。ストーリーテリングがうまい作家さんだとは思っていましたが、この作品は特にうまいです。五編で共通している良家、旧家の雰囲気の出し方など抜群です。ストーリーのダークさとあいまって乙一さんや宮部みゆきさんを思い起こさせます。私の中では米澤作品の中では「インシテミル」に次ぐ面白さでした。

自らの造詣の深いミステリーや古典の知識を最大限に生かしてくみ上げられたミステリーは洗練の域に達してきている気もします。正直、この作品は五編で終わって欲しくない、とさえ思いました。こういった趣向を凝らした作品は古くからのミステリー好きにはたまらないのではないでしょうか。私も多くはないですがクイーンやチェスタトンを読んでおり、そういった巨匠の話を彷彿とさせます。(短編ということで、この話のイメージはチェスタトンでしょうか)

読み手を驚かせる、良質のミステリに出会えました。千街晶之さんの後書きもいいですね。非常にお勧めです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2011年07月30日

読書日記287:氷菓 by米澤穂信



タイトル:氷菓
作者:米澤 穂信
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実ー。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。


感想--------------------------------------------------
追想五断章」や「インシテミル」の作者、米澤穂信さんのデビュー作が本書です。もう十年程前の作品ですね。本作で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してデビューしています。

神山高校に進学した折木奉太郎は姉の進めに従い古典部に入部した。千反田える、福部里志、伊原摩耶花といった個性的な古典部メンバーとともに、今日も日常の謎を解いていく−。

本作を読んで、ああ米澤穂信の原点はここか、と思いました。
私は「春期限定いちごタルト事件」に代表される小鳩くんと小山内さんの小市民シリーズから入ったのですが、本作も小市民シリーズに良く似ていますね。いや、本当は小市民シリーズがこちらに似ている、というべきでしょうか。高校を舞台として主人公が身の回りの小さな謎を解き明かしていくその筋自体は全く同じです。ただし、登場人物自体の個性は大分異なりますが。

解き明かしていく謎はそれこそ小さな謎ばかりです。しかし、最後にある一つの大きな謎、過去の古典部に纏わる隠された秘密に迫る謎を解き明かしていきます。ただ、本作は「小市民シリーズ」同様、謎解きよりも高校生活に重きを置かれていますね。ミステリよりも青春小説の色合いの方が強い作品だと感じました。

難点を挙げるとすると、まず謎自体が非常に小さくて些細なものである点が少し物足りなさを感じさせます。図書館から毎週必ず貸し出される本の謎とか…借主に聞いてみればいいんじゃない?とか思ってしまいます。(身も蓋も無いですが…)あとは主人公である奉太郎がどうも気に入りません。省エネをモットーとし、エネルギーを無駄に使うことには手を出さない…ポリシーとしては立派ですが、なんか実際にいたら嫌な奴かな、って思ってしまいます。しかも、その奉太郎が清楚な女子高生:千反田えるから頼られる、というストーリーは、うーん、男子向けの御都合的なストーリーだなあ、って思ってしまいました。実際にこんな男子高校生がいたらきっと女子には相手にされないだろうなあ、って思ってしまいます。

本作は「愚者のエンドロール」、「クドリャフカの順番」、「遠まわりする雛」、「ふたりの距離の概算」と続いていきます。あまり力は入れずに読めたら読もうかな、っていう感じですかね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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タグ:書評 氷菓
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2011年07月16日

読書日記285:犬はどこだ



タイトル:犬はどこだ
作者:米澤穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
開業にあたり調査事務所“紺屋S&R”が想定した業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。ーそれなのに舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして・・・いったいこの事件の全体像とは?犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件。新世代ミステリの旗手が新境地に挑み喝采を浴びた私立探偵小説の傑作。


感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。本作も以前に紹介した「ボトルネック」同様、五、六年ほど前の作品になります。当時は米澤穂信という作家のことは全く知らなかったのですが、今では非常に人気・実力のある作家さんとして知られていますね。

犬捜し専門の探偵事務所として開業した紺屋S&R(Search & Rescue)に舞い込んだ仕事は失踪人探しと古文書の解読。部下のハンペーと共に私こと紺屋長一郎は依頼の解決に奔走するー。

主人公が探偵事務所を開いて、探偵として活躍する−。
こんな物語は最近は減ってきたのではないでしょうか。本作はでそのある意味「王道」に則ったストーリーが展開されます。銀行員を辞めて田舎で探偵事務所を開業した主人公:長一郎に、探偵に限りなく憧れる部活の後輩で部下のハンペー。さらに事務所の近くにある行きつけの喫茶店<D&G>とそこに勤める妹の梓とその旦那の友春と、キャラクターにはなかなか味があります。

依頼の内容ですが、これは失踪人探しに古文書の解読と、あまりぱっとはしません。そしてその依頼解決の途中で野犬退治を請け負ったり、チャットを通じて助言を貰ったりと探偵というよりは普通のお兄さんがするような仕事を次々に手がけていきます。これはこれでどこか間延びしたような面白い雰囲気を出していて面白いのですが、ミステリーに期待されるような疾走感のようなものは本書ではあまり感じられません。まあ、これは読者の好き嫌いによりますが、のめり込んで読むような作品ではないことは確かです。

ストーリー展開事態はとてもよくできています。ラストはなんとなく釈然としないのですが、まあこれがこの作者の持ち味とも言えるので特に感慨もありません。ただ、やはりどうも緊迫感や疾走感がなく、その点がミステリとしての出来を少し期待より下げているのかなあ、なんて感じてしまいます。事件自体もたいしたものではないため緊迫感が感じられず、どうも「ふーん」ってな感じで読んでしまうんですよね。「春期限定いちごタルト事件」からはじまる<小市民シリーズ>のような、あらかじめ事件規模が小さいと想定される事件ならこんな展開でも良いのでしょうが、探偵が主人公の物語としては少し味気ないなあ、って感じてしまいました。

実力のある作家さんではあると思うので、次に期待です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2011年06月11日

読書日記279:ボトルネック by米澤穂信



タイトル:ボトルネック
作者:米澤穂信
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。



感想--------------------------------------------------
「インシテミル」、「追想五断章」などで何度も紹介している米沢穂信さんの作品です。五年ほど前に刊行された作品のようです。

亡くなった恋人、ノゾミを弔うために東尋坊を訪れていたリョウは誘われるように断崖から足を踏み外す。そしてリョウが目覚めたのは、自分の代わりにいるはずのない「姉:サキ」が存在する「可能世界」だった−。

先に述べた「インシテミル」や「追想五断章」、そして「春期限定イチゴタルト事件」に始まる小鳩くんと小山内さんが活躍する「小市民シリーズ」を読んではいるのですが、私は米沢穂信という作家がずっとどこか捉えどころのない作家だなあと思っていました。色がないというか、なんというか、決まったパターンがなく、それでいていつも読者を魅了する作品を描く不思議な作家さんという印象でした。

本作「ボトルネック」を読んでもその印象は大きくは変わらなかったのですが、とりわけこういう青春ものの描き方がうまい作家さんなんだな、という印象を持ちました。特に主人公リョウの心理描写はうまいですね。青春作品というと、どうしても作品を描く作家さんにとっては過去のものである青春を描くことになるため、必要以上に美化されていたり、青春をとても甘く描いたり、逆に暗く描いたりしていて、現在進行形で青春時代を生きている人にとっては同調しにくいことも多いのですが、本作はそんなことがありません。非常に暗い部分はあるのですが、実際に十代を生きている人々でも同調できる部分があるのではないでしょうか。

本作の解説に書かれていたのですが、本作のアイデアを思いついたのは1997年頃とのことですね。ここですぐに思い浮かぶのが、大ブームとなった「新世紀エヴァンゲリオン」です。この映画版「まごころを君に」が上映されたのがちょうどこの頃ですね。本作を読んでいて感じたのですが、作者はこの映画にアイデアを得たのではないでしょうか。「自分の存在する世界とは別の世界が存在する」というくだりや自分の存在意義を問う辺りは、エヴァのラストに共通しているなあと感じました。またこういう問いは青春時代に共通しているものなのかもしれません。

ただ、ネタバレになってしまいますが本作はその最後がかなり衝撃的であり、悲劇的でもありますね。「自分が世界に対してどんな影響を与えようが、そんなもの意に介さず、生きていることが大切なことなんだ」。これは口で言うことは簡単ですが、実際に絶望している人に対して言うには難しい言葉かもしれません。特に純粋な十代の青春時代を送る人にとっては。「自分がここにいていい」と認めることができたエヴァのラストとは対照的なストーリーですが、その描き方は秀逸で、青春時代の痛みを鋭く強く描いています。

米澤穂信、いいですね。また読んでみたいです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 18:18| Comment(0) | TrackBack(2) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月16日

読書日記210:秋期限定栗きんとん事件<下> by米澤穂信



タイトル:秋期限定栗きんとん事件 下
作者:米澤穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ-。


感想--------------------------------------------------
小鳩くんと小山内さんが活躍する「小市民シリーズ」。「秋期限定栗きんとん事件 上」の続きです。連続放火事件の犯人を追う瓜野くんと小鳩くん。それに瓜野くんと付き合い始めた小山内さんに、小鳩くんと付き合い始めた仲丸さん。物語は徐々に徐々にと核心に迫っていきます。

最後まで読み終わっての感想ですが・・・、まあ、こうなるだろうなあ、というのが率直な感想です。予定調和的ではありますが、面白かったです。やはり本シリーズは小山内さんと小鳩くんが表に出てこないとダメですね。瓜野くんではちょっと役不足でした。本巻の最後の方、いつものように小鳩くんと小山内さんが動き始めてからが本当の意味での物語の始まりですね。瓜野くんは・・・、上巻を読んでいる限り、まさに小市民的な男の子だなあ、と思っていたのですが、本巻の最後ではかわいそうな男の子になってしまっていました・・・。

 本シリーズは殺人事件などの大きな事件ではなく、身近に起こる小さな、事件と呼ぶことさえ出来ないほどの小さな謎を小山内さんと小鳩くんが解いていく、という話です。本作の魅力は「謎」そのものではなく、あくまで小鳩くんと小山内さんのキャラクターにあると私は思っています。(特に小山内さんのキャラクターですね。)そういう意味では、やはりこの二人が前面に出て、かけあいながら話が進んで行かないと、本シリーズの魅力は半減してしまいますね。

 「小市民シリーズ」の最初の作品、「春期限定いちごタルト事件」ではいちごタルトは小山内さんの復讐の動機になるだけでした。しかし、続く「夏期限定トロピカルパフェ事件」ではトロピカルパフェは小山内さんと小鳩くん、二人の別れの象徴として上手く使われ、本作では栗きんとんはやはり二人の仲直りの象徴として上手く使われています。マロングラッセと栗きんとん。甘いシロップでコーティングして栗自体を甘くするマロングラッセと、煮た栗を丁寧に裏ごしして作る栗きんとん。
この違いを二人がその「狐」と「狼」の本性を隠しながら小市民を目指す姿勢と絡めてうまく表現されています。ここらへんの表現力はさすがです。

 さて、本シリーズ、続編は出るのでしょうか?高校に入学したばかりだと思っていた二人も、気がつけば残すのは三年の冬だけ。「冬期限定〜」、楽しみにしています。

 最後に・・・やっぱり小山内さんのキャラクター、好きですね。敵に回すとここまで恐ろしいとは。。。瓜野くんがかわいそうです・・・。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 22:10| Comment(0) | TrackBack(1) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする