2017年03月26日

読書日記633:ふたりの距離の概算


タイトル:ふたりの距離の概算
作者:米澤 穂信
出版元:角川書店(角川グループパブリッシング)
その他:

あらすじ----------------------------------------------
春を迎え高校2年生となった奉太郎たちの“古典部”に新入生・大日向友子が仮入部する。千反田えるたちともすぐに馴染んだ大日向だが、ある日、謎の言葉を残し、入部はしないと告げる。部室での千反田との会話が原因のようだが、奉太郎は納得できない。あいつは他人を傷つけるような性格ではない―。奉太郎は、入部締め切り日に開催されたマラソン大会を走りながら、心変わりの真相を推理する!“古典部”シリーズ第5弾。

感想--------------------------------------------------
アニメ実写化もされた「氷菓」から始まる古典部シリーズの第五作目です。いまは最新作で第六作目「いまさら翼といわれても」が刊行されていますね。

星ヶ谷杯こと、神高行事の一つ、二十キロメートルのマラソン大会に参加したホータロー、える、里志、伊原。ホータローは走りながら、新一年生の大日向が古典部入部をやめた理由を考えるー。

相変わらずのクオリティーです。いつもの四人の個性といい、ちりばめられた伏線から日常の些細な出来事を推理して解き明かすホータローの洞察といい、鉄板のシリーズです。今回は二十キロの距離を走りながら、その道中でホータローを追い越していくえるや伊原たちと短い会話を交わしながら推理を深めていきます。過去の回想もちりばめられていますが、「マラソン中に推理する」というこの発想がいかにも米澤穂信らしいです。

「二人の距離の概算」。このタイトルが二つの意味を持つということが最後になってわかります。このあたりの伏線もうまい。そしてホータローの一人称なのですが、省エネ人間であるホータローの個性が文章の隅々に表れていて、これもおもしろいです。

しかし、里志と伊原、付き合うことになったんですね。これが何よりの驚きです。前作からは信じられない展開ですが…。「『ごめんなさい』しか言えないかわいそうな生き物」というのが個人的には超絶ヒットしました。

実写映画化もされるようですが、正直これには期待していないです。配役を見ても、ちょっとちがうかな、という印象はあります。ビブリアのドラマ化もそうでしたが、なんか事務所の力関係が見えるようであまり原作とファンが大事にされていない気がして少し嫌です。こうした意見を払拭するくらいいいできだといいのですが。

次回作もそのうち読んでみる予定です。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年06月11日

読書日記596:世界堂書店 by米澤穂信



タイトル:世界堂書店
編集:米澤 穂信
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
世界堂書店にようこそ。米澤穂信が心から愛する傑作小説たちを、アメリカ、イギリス、フランスはもちろん、中国、フィンランド、ギリシアなどなど、世界中から選び抜きました。不思議な物語、意地悪な話、恐ろしい結末、驚愕の真相…まさに珠玉のアンソロジー。

感想--------------------------------------------------
本書は米澤穂信さんの著作ではありません。一流の作家であると同時に多くの作品を読まれていることでも有名な米澤穂信さんが、古今東西、様々な国の短編を選び、編集した作品です。含まれている作品は十五編で、日本、中国、アメリカ、ベルギー、オーストリア、ウルグアイ、ギリシア・・・と著者の国籍も様々、時代も十七世紀の作品からつい最近の作品まで様々、とまさに多種多様です。

本書に含まれている作品を読んでつくづく感じることは、「小説とは決してストーリーだけを楽しむものではない」ということです。行間にあるその時代その場所の雰囲気、精緻に練られた文章の美しさ、小説世界に生きる人々の息づかい、そうしたもの全てが小説なのだ、と感じます。

十五編の小説は長いものでも五十ページ程度、短い作品に至ってはほんの数ページのものもあります。そしてそのプロットも様々で、ストーリーだけを追っていくと「?」と感じる小説もありますが、上に書いた点を意識するとどの作品にも読み手に感じさせる何かが含まれていることがよくわかります。過ぎ去った過去、なかなか行くことのできない世界の彼方を感じる方法は映像だけではない、時に小説の方が映像よりも多くを伝えてくれることがあるのだ、ということがよく分かります。

もう一つ感じたことは、どの作品も訳が抜群にうまいことです。本書に収録されている作品のほとんどが海外の作品であり翻訳を必要とされるのですが、どの作品もとても日本語が美しいです。特に海外作品は、作者の力量はもちろんですが、翻訳家の力量も多分に必要とされるのだ、と実感します。

最後に、本書収録の作品はそのどれもが全く筋が読めません。プロットのうまさも、卓越していると感じます。読み手に何かを感じさせる作品が多く、確かに名作です。ただ、人によっては読みにくさや、意味が感じ取れない作品も多いかと思います。読書の玄人である米澤穂信さんの選であることも意識しておくべきですかね。。。

私にとってはなかなか触れることのない海外の短編名著にわずかですが触れることの出来る良作でした。最後の米澤穂信さんの解説も秀逸です。私個人としては、本書の中では「黄泉から」のストーリーと描写の美しさ、「東洋趣味」の魔都 上海を髣髴とさせる爛熟した時代、場所の描写、「石の葬式」の途中からがらりと変わるストーリー、「連鎖」の昔話のようなプロットなどが印象に残りました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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2016年04月16日

読書日記588:真実の10メートル手前 by米澤穂信



タイトル:真実の10メートル手前
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める…。太刀洗はなにを考えているのか?滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執―己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。日本推理作家協会賞受賞後第一作「名を刻む死」、本書のために書き下ろされた「綱渡りの成功例」など。優れた技倆を示す粒揃いの六編。

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。本書は「さよなら妖精」、「王とサーカス」に登場する大刀洗万智が登場する六編の短編から成る短編集です。「さよなら妖精」では学生だった万智が新聞記者を経てフリーの記者となり、記者の視点から事件の背後に隠された事実を掴んでいくという物語です。

表題作でもある「真実の10メートル手前」から、「正義漢」、「恋累心中」、「名を刻む死」、「ナイフを失われた思い出の中に」、「綱渡りの成功例」と続きますが、どの作品もミステリとしての質も、大刀洗万智の生き方を問う人間ドラマとしての質も非常に高く、さすが、最高のミステリ作家の一人である米澤穂信の作品だと思わされます。

倒産した企業の広報担当女性の失踪、高校生二人の心中、老人の孤独死、少年による幼児の殺人と、どの短編でも、扱われる事件は残酷なものが多く、さらにこれは米澤作品の特徴でもありますが、どの事件も決して安易な終わり方をしません。むしろ残酷な結末を迎える作品も多いのですが、主人公である大刀洗万智はその残酷な結末を迎える作品の中でもかすむことのない強い存在感を持っており、抑えた表現や筆致と融合することで、どの物語も単なる残虐な作品として終わらず、質の高いミステリとなっています。万智の強さが特にわかるのは「名を刻む死」ですね。最後の万智の言葉、これを放てる強さが読者を魅了します。

この大刀洗万智という人物は無表情で発想は飛躍するのですが切れ者で、記者という職業への誇りとを 内に秘めた人物として描写されています。万智の一人称であったり、他者の目線を通してだったりと視点は物語によって変わるのですが、この個性は当然ながら一貫しています。またこれは「王とサーカス」でも顕著でしたが、どの物語の根底にも記者、もっと言うと報道というもののあり方についての問いがあり、万智は常にこの問いを胸に秘めていますね。「真実は何か」と「書くべきか」という二つの問いに対して大刀洗万智が悩みながら出す答えがよく、私はこのシリーズもたいへん好きになりました。

本作の中では、やはり「ナイフを失われた思い出の中に」がいいですね。物語的な繋がりはないですが「さよなら妖精」の後の話でもあり、万智の覚悟が分かる作品でもあります。

これは米澤作 品の新しいシリーズの始まりと考えてもいいのでしょうかね?大刀洗シリーズ、次作もとても楽しみです。またおそらくテレビ化もされるでしょうね。きつい作品が多いので民放よりもWOWOW向きかもしれません。誰が大刀洗万智を演じるのだろう?なんて、まだ早いですが想像も膨らみます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年01月16日

読書日記575:遠まわりする雛



タイトル:遠まわりする雛<「古典部」シリーズ> (角川文庫)
作者:米澤穂信
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
省エネをモットーとする折木奉太郎は〈古典部〉部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか〈古典部〉を過ぎゆく1年を描いた全7編。<古典部>シリーズ第4弾! 

感想--------------------------------------------------
氷菓」、「愚者のエンドロール」、「クドリャフカの順番」に続く、折木奉太郎、千反田える、伊原摩耶花、福部里志の四人が活躍する古典部シリーズの第四弾です。本作は全七編の短編集となっていて、神山高校入学当初から次の四月までを描いています。

「日常の中の些細な謎を解く」というスタンスはこのシリーズの他の作品と変わりないのですが、本作は特に四人の心の動きに沿って描いています。そしてこの心の描写が青春小説っぽくって、とてもいいです。摩耶花と里志、えるとホータロー、この組み合わせがどうなっていくのか、次巻がとても楽しみになります。しかし青春小説としてはその心の動きがとてもゆっくりで穏やかで、読んでいる側としてはじれったくもなったりするのですが、この著者の小説は皆、そういうものであり、また展開も読者が予想していた展開と違ってきたりするので、この速度がちょうどいいようにも感じられます。

省エネモットーのホータロー、好奇心旺盛で唯一、ホータローを動かせる「私、気になります」なえる、自他ともに認めるデータベースたる里志、強気な口調と裏腹に繊細な摩耶花、とキャラがはっきりしていて、それぞれがそれぞれの個性に強いこだわりを持って動くため、物語にメリハリがでてきています。これがとてもよくって、巻を重ねるごとにどんどんと面白くなってきています。特に「クドリャフカの順番」と「遠まわりする雛」は、それまでの二作とだいぶ印象が違って、面白く読みました。

ベストセラー作家さんだけあって、どのような物語でも自在に書いて読ませてしまうあたりはさすがです。ただ、個人的にはこのシリーズは長く続けてほしいな、と感じます。小鳩くんと小山内さんの「春期限定イチゴタルト事件」から始まる小市民シリーズは続作がでてないですし、キャラも古典部シリーズよりブラックなので、こちらには期待大です。

ブラックな終わり方をする作品も多いのですが、文章力がとても高いですし、ミステリーの作りが非常にうまいのでこの方の作品は大好きです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2015年12月26日

読書日記572:王とサーカス by米澤穂信



タイトル:王とサーカス
作者:米澤穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。このミステリーがすごい!の第一位に選ばれるなど、非常に評価の高い作品です。米澤穂信さんは昨年も「満願」でこのミステリーがすごい!の第一位に選ばれていますね。いま最も面白い本を書く作家さんの一人だと思います。

ジャーナリスト大刀洗万智は滞在中のカトマンズで王族の殺人事件に遭遇する。そして取材を開始しようとした矢先、一つの死体が万智の前に現れるー

まず冒頭のカトマンズの描写からして引き込まれます。街を綿密に描き上げていて、フィクションのはずなのにノンフィクションかと思わせます。ここまで綿密に、舞台をしっかりと描く作品は少なくなったなあ、と個人的には感じます。キャラクターやプロットもそうですが何よりも描写で見せていますね。文章力の確かさもさることながら、綿密な調査を感じさせます。

物語は実際に起きた王族の殺人事件を背景に、一つの死体を巡るミステリーとして展開します。報道とは何か、記者とは何か、そうしたことを読み手に突きつける作品です。タイトルの「王とサーカス」もそうした報道の意味を問う言葉ですね。物語の途中で一度、そして最後に再び現れる言葉ですが、ニュースを伝える事の意味を万智に問いかける言葉です。(詳しくはぜひ読んでください!)

物語の構成は階層的で深いです。示された、と思われた真実と、そのさらに奥に隠された真実、そしてその裏にあるネパールという国の抱える残酷な問題。そうした事柄を一つの殺人事件の背景に潜ませてここまで完成度の高い物語を描く事のできる米澤穂信さんはさすがです。「満願」や「儚い羊たちの祝宴」など傑作の多い作家さんですが、間違いなくそのリストに加わる作品ですね。「折れた竜骨」など、普通と違う舞台や設定を下敷きにしたミステリを書くのが特徴的な作家さんですが、本作もまさにネパールという異国の地を舞台にしたミステリーということで、米澤ワールドの真骨頂だと感じました。


本作の主人公である大刀洗万智は「さよなら妖精」の登場人物です。「さよなら妖精」と直接のつながりはないですのでこの本だけでも楽しめますが、読んでおくとさらに楽しむ事ができますね。

大刀洗万智が活躍する作品は「真実の10メートル手前」が刊行予定です。こちらもぜひ読みたいですね。「氷菓」などに続く新しいシリーズの始まりでしょうか。気がつけばこの著者の作品もかなり読んでいます。次作もとても楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
posted by taka at 22:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする