2009年08月26日

読書日記149:片眼の猿



タイトル:片眼の猿-One-eyed monkeys
作者:道尾 秀介
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
盗聴専門の探偵、それが俺の職業だ。目下の仕事は産業スパイを洗い出すこと。楽器メーカーからの依頼でライバル社の調査を続けるうちに、冬絵の存在を知った。同業者だった彼女をスカウトし、チームプレイで核心に迫ろうとしていた矢先に殺人事件が起きる。俺たちは否応なしに、その渦中に巻き込まれていった。謎、そして・・・。ソウルと技巧が絶妙なハーモニーを奏でる長編ミステリ。


感想--------------------------------------------------
向日葵の咲かない夏」で紹介した道尾秀介さんの作品です。

 盗聴専門の探偵:三梨は他の人にはない能力で盗聴を行っている。自分と同じように特殊な眼を持つ冬絵と出会い・・・。

 本作、ミステリですが、いわゆる"ミスディレクションもの"です。"ミスディレクションもの"というと、「葉桜の季節に君を想うということ」が有名ですね。序盤では語られない隠された設定があり、それが物語の後半になって分かる、というお話です。

 少し読むと主人公:三梨の耳が普通ではない、ということが分かります。尋常ではない聴力を示す三梨。その聴力の秘密はその耳にありそうですが、その謎は秘められたまま物語は進みます。冬絵の眼についても同様ですね。最後になって物語の全貌、登場人物の正体が分かり、読み手は驚愕することになります。

 ミスディレクションの設定は非常に巧みです。全貌が分かったときに改めてその設定の素晴らしさに驚きます。また登場人物も個性的ですね。話し方が変な野原のじいさん、トランプを扱うトウヘイ、双子のマイミとトウミ。奇妙な彼らが物語にアクセントを与えているとも思います。特にトウヘイのトランプ予言はひねりがきいていますね。

 本作、確かにミスディレクションやトランプ予言、そして「片眼の猿」が示す本当の意味などはよくできているなあと思います。しかしこのような小技が効いている一方で、物語の芯の部分が軽い気がします。ミスディレクションも見事なのですが、その設定に矛盾が生じないように物語の構成に制限が出てしまい、窮屈な印象も受けます。また物語の根幹が何なのか、殺人事件なのか、冬絵の正体なのか、秋絵の死の真相なのか定まらないため、ふらふらしている印象があります。殺人の真相も「これで終わり?」という感じです。
 またキャラクターも個性的な面子が多いのですが、その裏返しとしてキャラクターが浮きすぎていて、現実離れした物語になってしまっているという印象もあります。本作品の主要なメッセージである「本質は見た目ではない、自尊心を持って生きろ」というメッセージもいまいち軽く感じてしまいます。

 「向日葵の咲かない夏」もそうですが、この方の作品は小技のところばかり生きていて、物語の本筋がいまいち?と感じることが多いですね。本質が生きていないとミステリとしての印象は薄く記憶には残りません。他の作品はどうでしょうか?本作、非常に読みやすかったので他の作品もまた読んでみたいと思います。
 

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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posted by taka at 17:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 道尾 秀介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月06日

読書日記135:向日葵の咲かない夏  by道尾 秀介



タイトル:向日葵の咲かない夏
作者:道尾 秀介
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。



感想--------------------------------------------------
 初めて読む作家さんです。ホラー、ミステリ作品ですね。私は本書を読んで乙一さんを思い出しました。作品全体に漂う雰囲気がどことなく似ています。(ホラー、ミステリという分野だから、というだけかもしれませんが・・・。)

 本書、読み始めた時と読み終わった時でだいぶ作品への印象が変わりました。最初はオカルト系かと思っていたのですが、もっと人間の狂気を深く描いた、内面的恐怖を感じさせる作品でした。

 主人公のミチオ、妹のミカ、二人の母親、S君、トコ婆、古瀬さん、岩村先生・・・。登場人物のほとんど全員がどこかおかしく、普通ではありません。何気ない日常を送っているようにみえて、どこかに狂気を持っています。そして、物語が進むに連れて、徐々にその狂気が姿を現してきます。

 何気ない日常を送っているように見えて、人間はみな多かれ少なかれ狂気を抱えている。そしてその狂気を押し殺し、狂気から逃げて日常を暮らしている。作者はそのように言っているように見えます。確かに我々の生きる現実には逃げ出したくなるような嫌なことが多々あります。それにぶつかったときに人間はどうするのか?本作の主人公であるミチオのような小さな少年はどうするのか・・・?本作の最後にミチオが取った行動は哀しいですが、現実かもしれません。

 本作、人によりますが、読後感は決してよくはありません。救いもありません。それが乙一さんの作品との最大の違いかな、と感じました。甘すぎる作品も辟易してしまうのですが、ストーリーに全く救いのない作品も私はあまり好きではありません。ミステリ作品としての技巧、心理描写の深さ、トリックや仕掛けの巧みさ、そういったものも重要ですが、私は物語を読む際にやはりストーリーのどこかに救いがほしいな、と感じてしまいます。そうでないと・・・やはり哀しくないですか?(救いの無い作品として私は真っ先に「慟哭」を思い浮かべてしまいます。あれはトリックは素晴らしいと思うのですが、いかんせん、読後感がダメでした・・・。)

 この方の他の作品も色々な賞を受賞したり、ノミネートされたりしています。特に「背の眼」は読んでみようかな、と思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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posted by taka at 21:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 道尾 秀介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする