2014年03月26日

読書日記472:ソロモンの犬 by道尾 秀介



タイトル:ソロモンの犬
作者:道尾 秀介
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。



感想--------------------------------------------------
直木賞作家 道尾秀介さんの作品です。「背の眼」がホラー、「カラスの親指」が少しコミカルなドタバタ犯罪劇、という印象でしたが、本作は青春小説です。しかしそれでありながら当然、ちゃんとしたミステリーでもあるわけで、そこが道尾秀介さんの作品であるところです。

静、京也、智佳、ひろ子の大学生四人は、カフェに集まっていた。そして静は切り出す。「この中に人殺しがいるのか、いないのか、ちゃんと話し合おう-」

ラットマン」や「カラスの親指」、「龍神の雨」、そして本作を読んでいると、この作者の作品の完成度は非常に高いと感じます。ミステリー小説の第一人者というと、私はすぐに東野圭吾さんと宮部みゆきさんを思い浮かべるのですが、本作の作者もその二人に匹敵する領域に近づきつつある、とさえ感じます。

まず物語の組み立て方のうまさです。本作を読み進めていくと、作者の作ったいくつかの仕掛けにうまい具合に捕らえられていきます。途中までは「この後はきっとこういう展開になるだろう」と考えながら読んでいくのですが、その読みがことごとく外されます。しかしだからと言ってその読みが外れたのが嫌ではありません。むしろ「あ!こんな展開になるのか」と驚かされるんですね。私もある程度はミステリを読んでいるつもりですが、こういう展開を見せる作品はそんなにないのではないかと思います。

あとは青春小説としての完成度ですね。青春の「残酷さ」と言ったらいいのか、それもしっかりと描かれています。もちろん、その逆の甘酸っぱさも、ですね。特に智佳に恋する静の描き方は読んでいてイタいくらいです。

犬の性質、というのをミステリの仕掛けとして使いながら、青春小説の要素も絡ませ、それでいて謎もしっかりと描ききる。-非常に物語の完成度が高いとしか言いようがありません。ミステリとしての完成度や万人受けする簡潔な描き方、登場人物の描き方はまだ東野圭吾さんの方がうまい気がしますが、この著者にはそれを補って余りあるいい部分があると感じます。

癖はありますが、個人的には本作も読み終えてすっきりと終るいい作品でした。(途中まではかなり心配していたのですが…)これまでにも数多くの作品を書いていますし、このまま行けば将来的にはこの方が日本のミステリ界を背負っていくのかな、と感じたりもします。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年11月14日

読書日記384:カラスの親指 by道尾秀介



タイトル:カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
作者:道尾秀介
出版元:講談社
その他:第62回日本推理作家協会賞受賞作。

あらすじ----------------------------------------------
人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。

感想--------------------------------------------------
直木賞作家、道尾秀介さんの作品です。この方の作品を読むのは久しぶりな気がしますね。様々な作品で様々な賞を受賞されている著者さんですが、本作でも日本推理作家協会賞・長編及び連作短編集部門を受賞されています。

闇金のために堕ちる所まで堕ちて詐欺師となった武沢とテツさんのもとに一人の少女が舞い込む。そして人生の逆転を賭けた彼らの戦いが始まる−。

道尾秀介さんの作品はこれまでに「向日葵の咲かない夏」や「龍神の雨」、「ラットマン」などを読んでいて、物語の名手だという認識はもともとあったのですが、本作はそれらの作品とはまた違ったテイストの作品になっています。人生に敗れた二人の詐欺師が主人公なのですが、そこに悲壮感はあまりなく、どちらかというと二人の掛け合いにユーモアが感じられます。

道尾秀介さんの作品を読むたびに感じるのですが、この方はどんな作品でも書くことができますね。「背の眼」がホラー、「龍神の雨」や「ラットマン」がミステリだとすると、同じミステリでも本作はユーモアに満ちた、また一味違った作品です。このユーモアの具合から、本作は伊坂幸太郎さんの作品に雰囲気が似ているなあ、って感じました。私はこうしたテイストの作品は非常に好きなので、個人的には本作はこれまで読んだ道尾作品の中でもかなりの上位に入る作品でした。道尾作品はどれも秀逸なのですが、どこか暗さを感じさせる作品が多かったので少し敬遠気味だったのですが、本作はだいぶ違いました。

物語はさすがに道尾秀介さんの作品だけ合って、とてもよくできています。物語が二転、三転し、最後には凄くすっきりとした形で物語を読み終えることができます。物語の中に施された様々な伏線と、最後に明かされる意外な結末は読者にこれぞミステリーと納得させますね。さすがに物語の名手です。

本作では鳥の英名が各章の名前となっています。HERON、STARLING、ALBATROSS…。物語の随所に鳥の名前が現れ、そして最後の章、CROWで本当のカラスは誰なのかが明かされていきます。この物語の創りもうまいです。

しかし、本作を読んでいて思うのですが、本当にユーモアに満ちたミステリのお手本のような作品ですね。単なる犯罪劇に終わらずに登場人物各人の人生の再出発を物語の中に含めているあたりや、物語の終わり方と言い、本当に非の打ち所がありません。やはり物語の構築力と、人間の描き方が卓越しているからこそ、この方の描く作品はどれも秀逸なのでしょうね。

本作は映画化され、もうすぐ公開されるそうです。主人公:武沢役を阿部寛さん、相棒のテツさんを村上ショージさん、さらにやひろ役を石原さとみさんと、豪華な実力派揃いの顔ぶれです。ユーモアに満ちた大活劇が見られるのではないでしょうか。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2011年10月09日

読書日記304:ラットマン by道尾秀介



タイトル:ラットマン
作者:道尾秀介
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト・姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇する。次々に浮かび上がるバンドメンバーの隠された素顔。事件の真相が判明したとき、亮が秘めてきた過去の衝撃的記憶が呼び覚まされる。本当の仲間とは、家族とは、愛とはー。



感想--------------------------------------------------
直木賞作家、道尾秀介さんの作品です。文庫化されている作品、ということで本作を手に取ってみました。

谷尾、桂、竹内の三人とバンドを組む姫川には誰にも話していない秘められた過去の記憶があった。そして今、練習中のスタジオで不可解な事故に遭遇する−。

龍神の雨」の感想でも書きましたが、道尾秀介さんの作品は昔の作品から比べるとどんどんと進化している気がします。デビュー作の「背の眼」に見られた冗長な語り口は影を潜め、静かにそして的確に登場人物たちの心情を、その揺れを描いていますね。これは「龍神の雨」でも感じていましたが、本作を読んで特にそう感じました。静かに、そしてしっかりと読者の心に染み入る文章です。

ミステリのパートは「龍神の雨」を既に読んでいたこともあって予想はつきました。しかしその更に先を行く「ラットマン」にはさすがに気がつきませんでした。この作品のタイトルともなっている「ラットマン」とはいたずら書きのような絵のことを指します。多くの人の顔に紛れ込むと人の顔に見え、多くの動物達に紛れ込むと鼠に見えるその絵のことを「ラットマン」と呼び、周囲の影響によって物事の近くの影響を受けること、つまりは思い違いを起こすことをそのように呼んでいます。このタイトルをこの作品では実にうまく使っています。

あと、本作の後書きはあの「新宿鮫」の大沢在昌さんが書かれています。大沢在昌さんと言えばミステリ界の大御所ですが、その大沢在昌さんが、この十年のあいだにデビューした作家の中で最も読んでいるのが道尾秀介さんらしいですね。後書き自体もさすがに一流の作家さんだけあって非常にうまいです。

後書きの中で特に印象に残ったのが、「道尾秀介は、日本のある年代の人々をごく自然に描いていて、しかしそれが確かな日本人の変質を表しているのだ」という一文です。この部分には非常に納得できました。最近、出てきている道尾秀介や米澤穂信、伊坂幸太郎などは確かに「変質した日本人」を描いていて、それが非常に印象に残るから、読者もそれに反応するのかもしれません。しかし、その中に会っても「ごく自然に」描いているのは道尾秀介さんだけかもしれません。

また一方で、道尾秀介さんの作品を読んでいると、その物語の根底にどことない哀しさと静けさを感じます。本作もその例に漏れません。バンドの話なのに騒々しさは全く感じられず静けさと少しの哀しさが感じられ、その程合いが読んでいてちょうどいいのですね。この描き方は他の方には真似できないこの人の特徴なのだと思います。一方で伊坂幸太郎さんの物語の根底にあるのはユーモア(ブラックユーモア?)、米澤穂信さんの作品の根底には何かダークなものが感じられます。この三人を勝手に比較すると、道尾秀介さんの作品が良くも悪くも万人受けするように感じられます。

この方の作品はまだまだ味読のものが多いです。「月と蟹」「光媒の花」などは読んでみたいと思います。また後書きでもう一つ印象に残ったのがこの文です。
「もっと根源的なもの、書かずにはいられない、彼(道尾秀介さん)の中の何かが、物語る力になっている、と私は思う」
こんな作家さんの作品がつまらないわけがありませんね。次も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2011年06月22日

読書日記281:龍神の雨 by道尾秀介



タイトル:龍神の雨
作者:道尾秀介
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。


感想--------------------------------------------------
道尾秀介さんの作品です。「月と蟹」で直木賞、「光媒の花」で山本周五郎賞、本作「龍神の雨」で大藪春彦賞とここ数年で数多くの文学賞を受賞している、いま最ものっている作家さんの一人ですね。

蓮と楓、辰也と圭介の二つの家族の運命が激しい豪雨に誘われるようにして交錯する。そして起こる一つの殺人−。

本作、ストーリーの展開と各登場人物の心理描写が非常に巧みです。特にストーリー展開は秀逸の一言に尽きます。本作は一章から四章+最終章で構成されているのですが、三章までの展開と四章以降の展開で印象ががらりとかわります。この展開の巧みさは実に見事です。何の予備知識もなく本書を読んだのですが、その展開に一瞬、呆然としました。そして本作に対する印象も大きく変わりました。なるほど、文学賞を受賞するだけのできです。

ストーリー展開が何よりも見事なのですが、登場人物の心理描写も実に見事です。血の通わない父親と暮らす蓮と楓、そして同じく血の通わない母親と暮らす辰也と圭介。唯一の兄弟、兄妹への思いと血の通わない親への鬱屈した思い。そういったものの描写が激しい雨の描写と重なって実に見事に描かれています。本作のテーマはおそらく家族というものへの思いなのでしょうが、そのくだりも見事です。ミステリーの枠を超えて、人間ドラマとしても十二分に成り立つほどのしっかりとしたできばえです。

伏線の張り方も非常に巧みです。作品の後半になって、ああ、あの伏線はここで生きてくるのか、と驚かされます。また龍にまつわる伝承の取り入れ方やその龍と重ねて描く人の描き方、そういったものもうまく、どこかホラー的な感覚さえ読み手に感じさせます。ミステリーとホラーを組み合わせたような作品の描き方は著者の持ち味ですが、その持ち味にはますます磨きがかかっていますね。

道尾秀介さんの作品はこれまで「背の眼」や「向日葵の咲かない夏」などを読んできていて、ミステリー作者としては一流の作家さんだなと思っていました。しかし本作を読むとその腕前にさらに明らかに磨きがかかっていることが分かります。年を経るごとに、作品を重ねるごとにその作品がどんどんと面白くなっていく。こんな作家さんの作品を読みたくないわけがありませんね。「月と蟹」や「光媒の花」、「カササギたちの四季」も読んでみたいと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2010年05月22日

読書日記203:背の眼 by道尾秀介



タイトル:背の眼
作者:道尾 秀介
出版元:幻冬舎
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。


感想--------------------------------------------------
いまや押しも押されぬ売れっ子作家、道尾秀介さんの作品です。道尾さんは本作で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞されています。道尾さんの作品は本ブログでも「向日葵の咲かない夏」と「片眼の猿」を紹介しています。

ホラー作家の道尾は白峠村の河原で耳にした不気味な声の真実を探りに、霊探求家の真備とその助手の北見とともに再び白峠村を訪れるー。

本作、読み終えての感想ですが、非常によく作り込まれているな、という点が印象に残りました。白峠村に残る伝承「天狗伝説」、未解決の少年の失踪事件、真備の過去や旅館の亭主の過去も含めて、全てが最後には一つにつながっていくストーリー構成の上手さはさすがです。またストーリーの途中で随所に見られる霊に関する蘊蓄や、天狗伝説、白という字の成り立ちなど、よく調べられているなあ、と驚きを覚えました。

ただ、不満点としては、これは巻末の選評にも書かれていましたが、非常に話が冗長な気がしました。おそらく、出版されているのでこれでもそうとう削られているのだと思いますが、それでも冗長な気がします。そしてストーリーが冗長なため、「畳み掛けるような怖さ」というのが本作にはあまり感じられませんでした。最初のうち、道尾が一人で活動している段階ではまだそれも感じられたのですが、真備が出てきてからはあまり感じられなくなりましたね。

あと、この真備というキャラクターが本作で探偵のような役回りを演じるのですが、非常に頭が切れるためホラーでありながら真備が出てくるだけで情景に「安心感」が感じられてしまいます。「ああ、真備がいるから大丈夫だろ」みたいな。そのため、やはりホラーでありながらあまり怖くなくなってしまいます。真備はもっと地味な活躍でも良かった気がしますね。道尾と北見をもっと前面に出すと、怖さが引き立った気がします。

あと少しネタバレになりますが、北見と途中に出てくる子供の主要人物が人間離れした能力を持っています。これもちょっとどうかな?と感じました。物語を進める上で、最後の最後をうまくまとめる上で、必要な能力とは思うのですが、物語が破綻しかねない能力の為、「どうなの?」というところです。

ただ、物凄く力を込めて、丁寧にまとめた作品であることは疑いありません。道尾作品の原点とも言える作品ですかね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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