2014年04月05日

読書日記475:影法師 by百田 尚樹



タイトル:影法師
作者:百田 尚樹
出版元:
その他:

あらすじ----------------------------------------------
頭脳明晰で剣の達人。将来を嘱望された男がなぜ不遇の死を遂げたのか。下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は竹馬の友、彦四郎の行方を追っていた。二人の運命を変えた二十年前の事件。確かな腕を持つ彼が「卑怯傷」を負った理由とは。その真相が男の生き様を映し出す。『永遠の0』に連なる代表作。



感想--------------------------------------------------
ベストセラーとなった「永遠の0」や「海賊と呼ばれた男」の作者、百田尚樹さんの作品です。作品毎にテーマが変わる方ですが、この作品は時代ものですね。江戸時代の茅島藩という仮想の藩での出来事を描いた作品です。

茅島藩の筆頭家老である名倉彰蔵は、磯貝彦四郎の死を知った。磯貝彦四郎は彰蔵の竹馬の友であり、頭脳明晰、剣の達人でもあった−。

磯貝彦四郎と、名倉彰蔵こと戸田勘一。本作は二人の男の友情の物語です。父を失い、悲嘆に暮れる勘一とそれを叱咤する彦四郎。いつしか固い絆で結ばれた二人はある事件をきっかけに袂を分かつことになりますが、それから数十年の後に起きた事件が再び二人を結びつけていきます。

時代劇ではありますが、以前に紹介した浅田次郎さんの「一刀斎夢録」や冲方丁さんの「光圀伝」のような重厚さはありません。従って時代劇独特の趣や粋といったものはそこまで感じさせませんが、一方で非常に読みやすく、すらすらと文章が頭に入ってきます。

百田尚樹さんの上手さは本作でも存分に生きているのですが、この方の上手さはそのストーリー展開なのかなと、感じます。それは舞台がどのようなものでも関係なく、生かされています。伏せられた謎、語られる過去、そして分かる驚愕の事実−。王道的なストーリー展開なのですが、読み終えたときには清々しい感動があります。「一刀斎夢録」ほどの完璧な読了感は感じず、どちらかというとあっさりとした終わり方ではあるのですが、それでも読み手をここまで惹き付けるのはさすがに上手いなあ、と感じます。良くも悪くもひねたところが全くないんですね。素直に感動できる作品です。

上にも書きましたが、読みやすくひねたところがないため、三百ページを超えているのでかなりあっさり読める作品です。逆に言うと、こういう作品を書ける方だからこそ、多くの方がこの方の作品を読み、支持されるのかな、と感じます。なんというか、時代ものの入門書のような読みやすさです。

本書には多くの登場人物が現れますが、その誰をも憎むことができず、いい人で、それがまた感動を誘います。こうした物語の創り方は、この方の作品の全てに共通しているのですが、やはり上手いです。ストーリーを書くのはお手の物なのでしょうね。

「永遠の〇」や「海賊と呼ばれた男」などメジャーな作品は読んできましたが、まだまだこの方の作品は楽しめそうです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2013年11月20日

読書日記449:夢を売る男 by百田 尚樹



タイトル:夢を売る男
作者:百田 尚樹
出版元:太田出版
その他:

あらすじ----------------------------------------------
敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦…。牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とはー。現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。



感想--------------------------------------------------
永遠の0」や「海賊とよばれた男」と大ヒット作を連発している百田尚樹さんの作品です。一作ごとに異なるテーマを取り上げている方ですが、本作で取り上げているのは「出版業界と小説家」です。

丸栄社に編集者として勤める牛河原は作家を志す人間にジョイントプレス方式という出版方式を持ちかける。それは出版社と作者が共同で出資して本を出版する方式だった−。

本書は特に文章を書く人間にとっては非常に面白く読める本かと思います。
このブログを書いている私も、非常に面白く読めました。
本書で描かれているのは、自分の虚栄心や自己顕示欲のために本を出版しようとする人々と、そういった人々に出版という夢を与えて金を稼ぐ出版社の編集者の姿です。自分は凄い男だ、私は他のママ達とは違う、そう思い込んでいる虚栄心と自己顕示欲に満ちた人々に「出版」という夢を見せて法外な金をとっていくわけです。もちろん、こうした人たちの書いた本など売れるわけないですが、それでも出版という夢をかなえたことで満足するわけです。本書に描かれているような人々はきっと実際にいるのでしょうね。皮膚の下に隠された虚栄心や自己顕示欲がこれでもかとばかりに描かれていて、読んでいて滑稽です。

本書には他にも今の出版業界と小説家の現状が、『こんなに書いちゃって大丈夫なの?』と不安になるくらいに赤裸々に書かれています。滅多切りですね。本書は大田出版から出版されていますが、他の出版社からはきっと出版できないのではないでしょうか。

本書は丸栄社の編集者:牛河原を中心にした全十章の話で構成されていますが、特に面白かったのは、五章の「小説家の世界」ですね。ダメすぎる売れない小説家と、そんな小説家の本を出版せざるを得ない出版社の姿がボロクソに書かれていて笑えてきます。全く売れないのに虚栄心だけが残されたどうしようもない作家たち。百田尚樹さんだからこそ、ここまで描けたのでしょうね。


「小説を書く奴なんて、たいてい頭がおかしいんだ」


本作の中での牛河原の台詞です。こういう台詞を書いている百他尚樹さん自身も小説を書いているわけですから、自分で自分のことを「頭がおかしい」と言っているわけですよね。こうした台詞、現在の文学界、出版業界を憂える台詞があちこちに散りばめられていて、本当に面白かったです。にやにや笑いながら読んでしまいました。


「毎日、ブログを更新するような人間は、表現したい、訴えたい、自分を理解してほしい、という強烈な欲望の持ち主なんだ。こういう奴は最高のカモになる」


編集者 牛河原の言葉です。かくいう私もブロガーですので、虚栄心をくすぐられて法外なお金を出さないように気をつけねば…なんて思いながら読んだ本でした(笑)


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2013年06月01日

読書日記419:海賊とよばれた男 下 by百田 尚樹



タイトル:海賊とよばれた男 下
作者:百田 尚樹
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
敵は七人の魔女(セブン・シスターズ)、待ち構えるのは英国海軍。敗戦後、日本の石油エネルギーを牛耳ったのは、巨大国際石油資本「メジャー」たちだった。日系石油会社はつぎつぎとメジャーに蹂躙される。一方、世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP)に支配されていたイランは、国有化を宣言したため、国際的に孤立し、経済封鎖で追いつめられる。イギリスはペルシャ湾に軍艦を派遣。両国の緊張が走る一触即発の海域に向けて、一隻の日本のタンカー「日章丸」が極秘裏に神戸港から出港したー。世界を驚倒させた「日章丸事件」に材をとった、圧倒的感動の歴史経済小説、ここに完結。「この作品は『小説』という形をとっていますが、登場人物はすべて実在しました。そしてここに描かれた出来事は本当にあったことです。この奇跡のような英雄たちの物語が、一人でも多くの日本人に届くことを心から願っています」(百田尚樹)



感想--------------------------------------------------
先日、紹介した「海賊とよばれた男」の下巻です。上巻で終戦までの国岡鐡造の半生を描いていたのに対し、下巻では終戦後から亡くなるまでの後半生を描いています。

セブン・シスターズ(七人の魔女)と称される海外メジャーの石油会社群によって追い詰められた国岡商店は、政治的な問題により世界の石油会社から関係を絶たれていたイランの国営石油会社から石油を輸入することを決める。しかしその実現のためには途方もない苦難が待ち構えていた−。

読み終えての感想ですが、まずこの本に描かれていることが全て紛れもない事実である、ということに驚きを覚えます。イギリス海軍の眼を欺き、イランからの石油輸入に成功した日章丸。外油と呼ばれる外国資本の石油企業の連合に一矢を報いる形となったこの事件の顛末には、読みながらも胸のすく思いがします。

また日章丸事件の後の国岡商店の様々な活動も凄いです。たった十か月での製油施設の建設、当時はまだ先進的だった海上からの石油のパイプラインによる輸送など、どれも苦労なくしては実現できないことばかりですが、国岡商店はその苦労をものともせずに成功させていきます。

本書のなかで最も感銘を受ける部分は、国岡商店の店主である国岡鐡造の「人間尊重」の精神ですね。国岡鐡造はこの精神を言葉だけではなく、実践として国岡商店に徹底的に浸透させていきます。この「人間を信じる」という態度の徹底ぶりには脱帽です。このゆるぎない信条と、「私欲に走らない」という精神が支柱にあるため、国岡商店は成功を収めることができたのだ、と言い切ることができるかと思います。

一方で少し感じるのは、この本の出版されたタイミングです。昨今の尖閣問題や竹島問題、中国、韓国、北朝鮮などとの関係から、「日本」という国を強く意識せざるを得ない今の時期にこうした「日本のために尽くした」偉人の物語が発行されると、どうしてもその裏には何かナショナリズムめいたものの存在を感じてしまいます。しかしこの本がそうしたナショナリズム的な意味合いで使われているのだとすれば、それはきっと違うのだろうな、とも感じます。

本書を読むと分かりますが、この本の主人公である国岡鐡造(出光佐三)の生き方は、彼が日本を代表する石油会社のトップとして成功したから、という理由で称賛されるものではなく、まさに上にも書いた「人間尊重」を貫いた、という点で凄いのだ、と感じられます。逆に言うと、彼が日本人だからとか、石油会社を大成功させたから、というのは結果論なんかであったりして、本質ではないんだろうな、とも感じさせます。本質的なのは、社員を家族と思い、人間を信頼し、利益優先ではなく、国のため、消費者のために働くその精神なのだ、と強く感じます。

これは日本という国の特長なのかもしれませんが、「戦争で日本人はすごく悪いことをしてきたんだ」という自責の念に過度に走ったかと思えば、その反動のように「日本人の誇りを失ってはならない」といったナショナリズムに走ったりします。他の国もそうなのかもしれませんが、特に日本という国はこの両極端を行ったり来たりする振れ幅が大きい気がします。(島国でなかなか外から日本を見る機会が少ないからかもしれませんが、きっと日本人は「日本」という国自体を客観的に見ることが苦手なのでしょうね。)そして、繰り返しになりますが「昔はこんなすごい日本人がいたんだ」的な「日本万歳」につながる思想の道具として本書が使われるのであれば、それは違う気がするし、国岡鐡造という人はそんな観点から語られるような人ではないと強く感じます。


本書を読む限りにおいて、国岡鐡造という人は外交関係の全くなかったイランからの石油輸入を誰よりも早く実践に移し、さらに冷戦中の当時のソ連からも原油を輸入したりしており、本当に「国民(消費者)の役に立つならなんでもやる」という強い意志を持った人なんだな、ということがよく伝わってきます。国岡鐡造にならって一読者として考えるべきことがあるとすると、それはきっと「周囲の人たちのために自分にできることは何なのか?」と考えることなのかな、と感じました。国という垣根が以前よりは低くなった現在においては自国のことだけでなく、世界の行く末を案じ、私欲を捨てて考えること。これがきっと国岡鐡造の言いたかったことなんだろうな、と感じました。

先にも書きましたが、作品を重ねるごとにこの著者の作品は面白くなっていきます。特に本書では主人公である国岡鐡造と彼を取り巻く人々の生き方がとてもダイナミックに描かれていて、七百ページを超える作品なのに一気に読んでしまいました。著者は本書を執筆中に何度か倒れて救急車で運ばれているそうですが、それだけの熱意を感じる本です。まさにプロフェッショナルの仕事です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2013年05月29日

読書日記418:海賊とよばれた男 上 by百田 尚樹



タイトル:海賊とよばれた男 上
作者:百田 尚樹
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「ならん、ひとりの馘首もならん!」--異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とは--出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベル、『永遠の0』の作者・百田尚樹氏畢生の大作その前編。




感想--------------------------------------------------
本屋大賞となった百田尚樹さんの作品です。「永遠の0」など、この方の作品は本当によくヒットします。上下巻で七百ページ強の大作の、今回は上巻です。

石油の販売を手がける国岡商店は終戦を迎え、大きな危機に瀕していた−。

本作は実在の人物、出光興産の創業者:出光佐三の人生を描いた作品です。明治、大正、昭和という激動の時代を、国のため、人々のため、家族のために昼夜を問わず働き、いくつもの大胆な施策で国岡商店を盛り上げていった国岡鐵造(出光佐三)を主人公に物語は進んでいきます。

「永遠の0」や「モンスター」を読んでも感じたことですが、著者は調査に基づいた執筆が本当に上手い方だと感じます。「永遠の0」でも描かれていましたが、戦争に向かう当時の日本の情勢や、その時代を生きた市井の人々、当時の商売のあり方や、商人としての生き方などが、しっかりとした調査を背景に、とても丁寧に描かれています。こうした描き方はこの方は抜群に上手いですね。当時の情勢が目に浮かぶようです。

物語は利益を優先することなく、国のため、人のために商売を営み、他の店の何倍も働くことで利益を上げて店を大きくしていった国岡商店とその創業者、国岡鐵造の生き様が中心に描かれています。特にこの主人公の国岡鐵造という人はすごいですね。本書を読んでいると行動力、判断力、決断力、と全て揃った人のように見えます。また苦境に陥った時には、常日頃からの心がけを見てくれていた人が必ず助けてくれます。このあたりも立志伝中の、伝記にでも出てきそうな人のように感じられます。

上巻は第二次世界大戦の終戦、日本の敗北から始まり、当時の国岡商店の様子、立たされた苦境、さらには時代を遡り、国岡鐵造の生まれたところから終戦までで終わります。有名な日章丸の話は下巻ですね。

本書、文体も読みやすく、あっという間に読めてしまう秀作だとは思うのですが、一方で今の日本でこのような本が大ヒットするということに、少し違和感を感じてしまう部分もあります。

本書の内容は、簡単に言ってしまうと「優れた志と、勤勉さを持った人が、激動の時期を多くの人に助けられながら、国のために人のために生き、成功していく話」であって、まさに「古きよき日本の姿」を描いた作品とも言えるかと思います。

こうした「昔はすごい人がいた」的な話が売れる背景としては、今の日本に行き詰まりを感じている人が多い、ということが言えるかと思います。アベノミクスともてはやされながら、一向に景気の上向きを実感できない人々、特に高度成長期を経験している世代にとってはこの話に描かれている「優れた志と勤勉さで成功できる」過去の話というのは、魅力的に映るのだろうなとも感じます。

しかし一方でこの物語のような話にいつまでも酔いしれていていいのだろうか?と感じるのも確かです。もし仮に今の世にこの物語の主人公のような人物がいたとしても、おそらくここまでの成功は望めないだろうし、ここまでの破天荒な活躍も出来ないだろうな、とも感じます。それは今の世の中は明治、大正、昭和初期とは比較にならないほど高度化し、システム的になり、無茶が通る隙間が限りなくゼロになっているからだと思います。きっと、鐵造のような型にはまらない人間は今の世では生きていくことが非常に難しいのではないかと感じます。

さらに言ってしまうと、当時はシステムがそこまで発達していなかったため、何をするにも人の手を介す必要があり、そこには人間同士の繋がりが生まれる余地があり、そのつながりを通じて自分の人間性を売り込むこともできました。しかし今では人の手がシステムに置き換わることでほとんど人間性が介在する余地がなくなってきています。例えば当時は石油を人間が台車に運んで売り歩いていたため、国岡商店の人々と買い手の間に人の繋がりが生じていましたが、今では何でも通販で変えるため、そこに人間性の関る余地はなくくなってきていると感じます。

言いたいのは「当時と今の日本は全然別の社会であり、今の世の中で『人のつながり』や『破天荒さ』といったものを過度に社会に求めるのは何か違う」ということですね。「国のために」「人のために」という鐵造の理念こそ継ぐべきものであり、その方法論まで真似するのはちがうかなあ、って感じました。

本書は爆発的に売れているそうですが、きっと年配者を中心にヒットしているんだろうな、と感じます。十代、二十代の人々がこの本を読んでどう思うのか、正直なところを聞いてみたい気もしますね。「時代遅れ」と言う人、「すごい」と言う人、おそらく分かれるだろうな、とも感じます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2013年04月27日

読書日記412:モンスター by百田尚樹



タイトル:モンスター
作者:百田 尚樹
出版元:幻冬舎
その他:

あらすじ----------------------------------------------
田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・未帆。彼女の顔はかつて畸形的なまでに醜かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だったー。



感想--------------------------------------------------
先日読んだ、「永遠の0」の作者、百田尚樹さんの作品です。「海賊とよばれた男」で本屋大賞を受賞し、本作「モンスター」が高岡早紀さん主演で映画化されたりと、今、絶好調の作家さん、という印象です。

醜い風貌に生まれたため誰にも相手にされず、周囲から蔑まれて育った和子。整形により美しい顔へと変貌を遂げた彼女は名前を変えて初恋の男性に近づこうとする−。

「永遠の0」でも感じたこの著者の特徴なのですが、とにかく調査に裏付いた記述、描写が作品ですごく生きています。「永遠の0」では戦争、本作では美容整形と分野は全く違いますが、その調査の深さ、幅の広さ、解釈の仕方、描き方というのは非常に優れていると感じました。
本作でも、顔のどの部分をかえるとどのような印象を相手に与えるのか、目や鼻がどうだと美しく見えるのか、美容整形としてどのような方法があるのか、といったことを読者を飽きさせることなく丁寧に詳細に説明し、読んでいてなるほどと思わされる箇所が非常に多かったです。

例えば、「平均的な顔を人は美しいと思うようにできている」「光背効果により何か一つに秀でた人(=美しい人)は他の全てが優れているように思われる」といった下りは非常に面白く、学術的にも証明されているようで、ふんふんと思いながら読み進めました。

一方で物語としての構成がどうかというと、これは私はいたって普通、良くも悪くもない、と感じました。醜い風貌の女性が美しく生まれ変わり、初恋の男性に会いに行く−というのはストーリーとしてはよくありそうです。ただ、その「美しく生まれ変わる」という部分の描き方が、先述の通り、リサーチに基づいて非常にしっかりと、読者の興味を引くように書かれているため、全体の物語がすごく面白く読めてきます。これは「永遠の0」も同じと感じました。「永遠の0」でもおそらく物凄い時間をかけて調査されたであろう、戦争に関する話が、読者に分かりやすいように、それでいて真実に則して、敬意を持って描かれていて、それが読者を惹きつけ、「永遠の0」を名作足らしめているのだと思います。(「永遠の0」の中でも、祖父の足跡を辿る姉弟の物語の部分は、ほとんど読者に意味を持たないかと思います)

「永遠の0」と比較して本作は物語の占めるパートが広く、その分、ストーリーの構成力や表現力が重要になるのですが、その部分もとても読みやすく、「永遠の0」よりもはるかに進歩していると感じます。しかし一流のストーリーテラーと評される作家さんと比較すると、いたって普通に感じられました。何度も繰り返しになりますが、やはり調査力とその調査した内容の書き方で魅せる作家さんですね。著者はもともとテレビ番組の放送作家なので、そこでのた経験が生かされているのかもしれません。

しかし整形により美しくなった和子への男の態度の豹変ぶりは、読んでいて笑ってしまうほどです。いくらなんでもここまでじゃないだろ…と思ってしまいますが、、、。男の愚かさを感じます。。。蔑まれて育った和子の心の歪みや、美人に言い寄る男の滑稽さといったものの描き方はうまいと感じました。そして最後は、、、和子は幸せだったのか、微妙な結末ですね。男の情けなさばかりが印象に残りました。

本作は映画化されるにあたって、大九明子さんという女性の方が監督をつとめられます。読んでいて感じたのですが、本作は同じ物語、脚本でも男性の目線から描くか、女性の目線から描くかで読む者、観る者への印象が大きく変わる作品だと思います。映画化された本作の印象が、本の印象とどう変わるのか、楽しみではあります。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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タグ:モンスター
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