2016年11月05日

読書日記617:祈りの幕が下りる時



タイトル:祈りの幕が下りる時
作者:東野圭吾
出版元:講談社
その他:吉川英治文学賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの作品です。代表作である「麒麟の翼」と同じく刑事 加賀恭一郎が活躍する作品です。加賀恭一郎と父親の関係については「赤い指」に描かれていましたが、本作では加賀と母親の関係が描かれています。

東京の下町で女性の他殺体が発見され、その近くでホームレスが焼死体で発見された。事件と自分の過去に繋がりを感じた加賀は、激しく動揺するー。

全くもって、非の打ち所のない作品です。加賀刑事と湯川博士の活躍する作品はどれも一級品ですが、その中でも本作は読み終えて鳥肌が立つほどの作品です。奇を衒うでもなく、加賀や松宮といった刑事たちの地道な捜査が事件の謎を解きほぐしていくのですが、その過程が絶妙です。徐々に見えてくる事件の真相、そこに隠された一つの家族の姿、そして起きる悲劇と、そこにさらに追い討ちをかける悲劇ー。じわりじわりと感動が押し寄せてきます。仙台で一人で死んだ加賀の母親の姿とその生き様も重なり、読み終えたときには爽やかな読後感が残ります。

加賀刑事ものは数多く出ていますが、「赤い指」、「麒麟の翼」などなど数ある東野作品の中でも本当にはずれがありません。いや、はずれがないどころかほぼ全てがミステリーの最高峰といえる作品だと思います。奇想天外なトリックはないですが、人の心の描き方、簡潔な文章、あきさせない展開と、最高峰の人間ドラマであり、ミステリーです。

人生を描いているから、と言ってしまえばそれまでですが、そんな生易しいものではありません。そこには人間の感情の奥深くまで描かれています。本作はぜひ多くの方に、東野圭吾ファンにもそうでない人にも読んでもらいたい作品です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年04月02日

読書日記586:カッコウの卵は誰のもの



タイトル:カッコウの卵は誰のもの
作者:東野 圭吾
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
スキーの元日本代表・緋田には、同じくスキーヤーの娘・風美がいる。母親の智代は、風美が2歳になる前に自殺していた。緋田は、智代の遺品から流産の事実を知る。では、風美の出生は? そんななか、緋田父子の遺伝子についてスポーツ医学的研究の要請が……。さらに、風美の競技出場を妨害する脅迫状が届く。複雑にもつれた殺意……。

感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの作品です。本作品はちょうどWOWOWでドラマ化されていますね。緋田風美を演じるのは土屋太鳳さん、そして父、緋田宏昌を演じるのは伊原剛志さんと豪華な顔ぶれです。積んだままになっていた本書を読み出したきっかけは、まさにWOWOWでドラマ化された事ですね。内容としては東野圭吾さんらしい、ミステリーと人の心の機微の合わさった作品かと思います。

「カッコウの卵は誰のもの」というこのタイトルは、繋がっていなかった父子の関係を比喩的にさしているのだろうと思って読み進めていたのですが、実は違っていました。この点が本書を読んで驚いた点ですね。ストーリーに大きな影響はないのですが、この「カッコウの卵」が指すものについては「あれ?」という感じでしたね。

本書は個人的には、東野圭吾さんの作品にしては随分とミステリーの仕立てには甘さがあるようにも感じました。脅迫状、そして爆発事件へと物語は発展していくのですが、最後に明かされるその動機や真相に緻密さはあまり感じられず、むしろ父子や科学といった面が強く前面に出ている物語と感じました。ミステリーの部分よりも、宏昌の葛藤の部分の描写の方が強いですね。ちなみに本作の主人公は土屋太鳳さん演じる緋田風美ではなく、父の宏昌の方ですね。緋田風美は脇役ですが、WOWOWのドラマではここを膨らまし、風美の出番を多くしているようです。

簡潔で平易な文を積み重ねて人の心を揺さぶる物語を編み上げていく腕前は確かですが、個人的には多少の読みにくさはありましたが、先日の「人魚の眠る家」の方が好きですかね。良作ですが、東野圭吾さんにはもっともっとと期待してしまいます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年03月05日

読書日記582:人魚の眠る家 by東野圭吾



タイトル:人魚の眠る家
作者:東野圭吾
出版元:幻冬舎
その他:

あらすじ----------------------------------------------
娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前だった。娘がプールで溺れた―。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか―。

感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの作品です。書き下ろしで、昨年の11月頃に刊行された作品です。

水の事故で意識を失った瑞穂。脳死に限りなく近い状態となった瑞穂に対して、父の和昌と母の薫子は最先端の医療を施すがー。

重い作品です。「脳死」というテーマがまず重いです。「人の死とは何か、生とは何か」という問題に踏み込まなければならず、実際にこのような方が家族にいる方もいらっしゃることを考えると、余程の覚悟を持ってこのテーマを作品として扱うことを決められたのだろうな、と感じます。

脳死した娘、そしてその娘をなんとかして取り戻そうとする父母、違和感を感じる第三者ー。物語は一人の死を巡り様々な人間の思いがぶつかり、交錯していきます。 各人の抱える葛藤を生々しく描き出す筆力はさすがと、思わされます。

最初は扱っているテーマの重さや各人の思惑の葛藤などから読みにくさを感じたのですが、最後まで読み終えた時には、よい物語を読んだ、と感じられる話でした。ただ、やはり物語だけあってあまりにもきれいすぎる終わり方なので、様々な論はあるかと思い、評価の分かれる作品だとは思います。現実にこのような問題に直面している人からしたら、大きな違和感を感じるかもしれません。ただ、個人的には変に現実的な終わり方よりもよほどよかったかと感じました。

「この世には狂ってでも守らなきゃいけないものがある。そして子供のために狂えるのは母親だけなの」

この一文が刺さります。
また本書 にでてきた心臓移植をせざるを得ない子を持つ親の描写にも胸が痛みました。私も小さな子供を持つ親だからかもしれませんが、子供がこのような状況になったらどうするのか。またこのような事故は可能な限り減らすにはどうすればいいのか。そのあたりを真剣に考えさせられました。

上にも書きましたように客観的にみると評価は分かれると思いますが、本書は個人的には東野圭吾さんの作品の中でもかなり良い作品だと感じました。ベテラン中のベテランですが、まだこれだけの本を出すのか、と思わされ、まだまだ東野圭吾も読まなければ、と思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2015年12月13日

読書日記570:天空の蜂



タイトル:天空の蜂
作者:東野 圭吾
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき…。驚愕のクライシス、圧倒的な緊迫感で魅了する傑作サスペンス。

感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの、かなり前の作品です。福島第一原発の事故があったからでしょうか、今年の夏頃に映画化もされています。

奪取された軍用大型ヘリ『ビッグB』は原子力発電所『新陽』の真上に自動操縦で誘導された。燃料が切れ、ヘリが墜落することを阻止するためにテロリストとの攻防が始まるー。

ヘリの設計士である湯原の視点を中心に、設計士、刑事、原発の操縦院、犯人を追う刑事と物語は様々な人間の視点を交えながら進んでいきます。東野圭吾さんの作品独特の淡々としていながらも簡潔な語り口で物語は進んでいきます。原発の仕組みやヘリを無線操縦する仕組み、そういったものが適切に語られていくのは、もともとが理系の出身である東野圭吾さんだからでしょうね。説明的な部分も読みやすく、軽水炉と増殖炉の違いなどもよくわかりました。

物語ははらはらする展開があり、プロットもしっかりしていて読みやすいのですが、個人的には微妙に山谷がないなあ、と感じました。人の心に迫る物語を多く書いている作家さんですが、SF的なテクニカルな部分の描写が多くなると、なぜか淡白な印象を受けます。個人的にはやはりこの人の作品は「容疑者Xの献身」で有名な探偵ガリレオこと湯川学が活躍する作品か、「新参者」などで有名な刑事:加賀恭一郎が活躍する作品がいいですね。読者の心に迫る作品が多いです。

はずれ、というわけではありません。普通に見ればかなりの秀作です。ストーリーもいいし、終わり方もいいです。ただ、この方の作品全体で見ると、普通の作品と感じました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2015年07月25日

読書日記550:プラチナデータ by東野圭吾



タイトル:プラチナデータ

作者:東野圭吾
出版元:幻冬舎
その他:

あらすじ----------------------------------------------
国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。その開発者が殺害された。神楽龍平はシステムを使って犯人を突き止めようとするが、コンピュータが示したのは何と彼の名前だった。革命的システムの裏に隠された陰謀とは?鍵を握るのは謎のプログラムと、もう一人の“彼”。果たして神楽は警察の包囲網をかわし、真相に辿り着けるのか。


感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの作品です。「パラドックス13」同様、本書も東野作品にしては珍しいSF色の強い作品です。とは言っても、やはりミステリー作品ですが。

DNA検索システムで全ての殺人の犯人を割り出せる近未来、ある殺人事件の犯人としてDNA検索システムが割り出した犯人は、システムの構築に携わった神楽だった。冤罪を晴らすため、神楽は逃走を開始する―。

近未来の話ですが、上にも書いたようにSFというよりもミステリ作品です。殺人事件の濡れ衣を着せられた神楽と、彼の行方を追う刑事の浅間の二つの視点から物語りは語られていきます。

なぜ濡れ衣を着せられたのか?本当の真犯人は誰なのか?殺人の真の目的は?、といった謎解きの部分はやはりミステリの名手だけあって読ませます。またこれは東野作品すべてに共通することですが文が簡潔で、表現が読み手に寄り添っているため五百ページ近い作品であるにもかかわらずどんどん読んでいくことができます。

一方でSF的なつくりの方は、やはり世で言われるSF作品と比較するとその作りが簡潔すぎるため、なんとなく物足りなさを感じます。これは文章がうまい人の特徴かもしれませんね。簡単に読める分、物語があっさりしすぎていると感じてしまうのですね。特に最後の終わらせ方は、図ったかのようなうまい終わり方で、逆に違和感を感じてしまうほどです。

連続殺人の真犯人は誰なのか、その裏に隠された「プラチナデータ」とは何か―。物語の謎は深いのですが、その回答の見せ方があまりにもあっさりしているのと、どうしても神楽が二重人格であるという特徴に無理があるように感じてしまいますね。最後に分かる真犯人も「え、こんな簡単にばれちゃうの?」とい感じてしまいます。


決して悪くはないのですが、やはりこの著者は純粋なミステリが向いていると感じます。「ガリレオシリーズ」や「恭一郎シリーズ」の方が、個人的には好きでした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
posted by taka at 13:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 東野 圭吾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする