2009年04月12日

読書日記126:荒野 by桜庭一樹



タイトル:荒野
作者:桜庭一樹
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
恋愛小説家の父をもつ山野内荒野。ようやく恋のしっぽをつかまえた。人がやってきては去っていき、またやってくる鎌倉の家。うつろい行く季節の中で、少女は大人になっていく。


感想--------------------------------------------------
私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さん。その受賞後第一作目が本作になります。本書は三部から構成されていますが、ファミ通文庫刊の「荒野の恋〈第1部〉catch the tail」、「荒野の恋 第二部 bump of love」が一部、二部にあたり、第三部は書き下ろしになっています。二冊の本を加えてさらに加筆修正したのが本作、という位置付けですね。

 恋愛小説家の父親を持つ山野内荒野。人の入れ替わりが激しい鎌倉の家で暮らす荒野は、少しずつ少女から大人の女になっていくー。

 本作、一人の少女:山野内荒野の話です。中学に入学したての12歳から始まり、16歳の高校一年生までの話になります。まだまだ子供であり恋や異性への興味さえない12歳の荒野は二人の友人と友情を育みながら、徐々に大人へとなっていきます。親代わりの家政婦さんが去り、新しいお義母さんがやってきて、その子供が現れ、と人の入れ替わりの激しい鎌倉の屋敷で多感な少女期を過ごす荒野の姿は、健全な少女そのものです。

 年を経るにつれて「変わりたくない」と思いながらも徐々に大人に、大人の女になっていく荒野。そして荒野だけでなく、その周りの友達や恋人も少しずつ大人になっていきます。その方向性は様々なのですが、この成長の過程の描き方が実に見事です。綿密なだけでなく、表情豊かで優しさに満ちていて、それで少しユーモアも感じさせます。

 桜庭一樹さんの作品を読むといつも思うのですが、この方は「少女」、「女」の描き方が非常に上手ですね。特に驚いたのは、多感な青春期の少女/女の心情をとても精密に表情豊かに描いていることです。大人の女性でこれだけ少女の頃の感情を理解でき、文章として表現できるというのは素晴らしいことだと思いました。(大人になってしまうと、子供の頃の感情は忘れてしまうのが普通だと思います・・・。)

 清廉で潔白な少女時代の荒野は少し変わった家で様々な大人の女性と接しながら、それでも健全に大人の女へと成長していきます。最初は「ただいま」と家に帰って、家にいる女性に「お帰り」と迎えられるだけだった荒野が、最後には「お帰り」と迎え上げるところや、最初は接触恐怖症で他人に触れることができなかった荒野が義母の影響で他人と触れ合うことができるようになっていくところなど特に印象的ですね。

 本作はある意味とても「真っ当」な少女から女性への成長物語です。逆に言うと、あまりにも真っ当で美しすぎるため、違う世界の話のようにも少し思えてしまいます。次回、桜庭一樹さんにはぜひ、「普通の」少女から女性への成長物語を書いてもらいたいな、と思いました。
 
 普通の女性の成長物語なんてつまらないかもしれませんが、青春期という人生の中で最も輝いている時期を桜庭一樹さんが描けば、きっと面白い作品になるでしょうし、より一層共感も得られるのではないかと感じました。最新作「ファミリーポートレイト」ももちろん読むつもりですが、そんな作品もぜひ読んでみたいと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2008年07月06日

読書日記69:私の男

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タイトル:私の男
作者:桜庭一樹
出版元:文藝春秋
その他:第137回直木賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。


感想--------------------------------------------------
 ここでも何度も紹介している桜庭一樹さんの作品ですね。直木賞受賞作です。一組の男女、腐野(くさりの)淳悟と、腐野花の物語ですね。父と娘であり、男と女であるこの二人を、様々な人間の視点から描いています。第一章から第六章まで、時間を遡るようにして、各章毎に異なった人の視点から物語は描かれており、少しずつ二人の過去や秘密が明らかになっていく仕組みになっています。

 テーマは桜庭さんの様々な小説の主題である、「女」、「少女」、「家族」のように思えます。(少なくとも私にはそう思えました。)家族であり、男と女である淳悟と花。「家族だから骨になっても離れない」、と言い切る花の姿は娘でありながら女性であり、薄気味悪くどこか壊れているように見えながらも、切なさも感じます。
 
 この作品、桜庭さんの作品の中では最も成熟した作品、と感じました。特にすばらしいと思ったのが、第4章。時間を遡るように描いているため、25歳から始まって、最後は10歳まで花の姿を描いているのですが、第4章、花が16歳の章では「少女」から「女」に変わっていく自分の姿を見つめる花の心情を見事に描いているなあと感じました。
 人間と獣、少女と女、家族と他人・・・。これらの境界がこの小説の中では非常に曖昧に描かれているのですが、その曖昧さを陸との境界が曖昧な冬の流氷漂うオホーツク海の様子に映して描き出しており、その比喩も見事だなあ、と思いました。

 「ブルースカイ」では現代に生きる「少女」という不思議な生き物について描き、「少女七竈と七人の可愛そうな大人」では少女が母親から決別して独り立ちしていく姿を描き、「赤朽葉家の伝説」では時代に翻弄される女性の姿が描かれていました。そして、この「私の男」では「少女」、「女」、「家族」そしてその真ん中を貫く、醜くも熱情的な「愛」を描いています。物語の重厚さでは「赤朽葉家の伝説」に軍配が上がりますが、この作品も間違いなく桜庭一樹さんの代表作と言えると思います。

 ところで、つい最近、次回の直木賞の候補作が揃いましたね。私は三崎亜記さんの「鼓笛隊の襲来」か、荻原浩さんの「愛しの座敷わらし」かな、と思っていますが・・・。さて、どうでしょうね?



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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2008年05月24日

読書日記61:赤朽葉家の伝説



タイトル:赤朽葉家の伝説
作者:桜庭一樹
出版元:東京創元社
その他:第60回日本推理作家協会賞受賞
    このミステリーがすごい!2008年版 国内部門第2位
    このミステリが読みたい!2008年版 国内部門第2位
    週間文春 2007ミステリーベスト10 国内部門第4位
    第137回直木賞候補作

あらすじ----------------------------------------------
 "辺境の人"に置き忘れたれた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の"千里眼奥様"と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。

 ―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

 ようこそビューティフルワールドへ。


感想--------------------------------------------------
 ここでも何回も紹介している桜庭一樹さんの作品です。
"少女"を描き出すことに卓越した作家さんですね。本作では"少女"ではなく、時代と共に生きた三人の"女性"を描いています。

 1950年代から現代にわたって地方の名家で製鉄業を営む赤朽葉家の三代の女性、赤朽葉万葉、赤朽葉毛鞠、赤朽葉瞳子。未来を視る力を持った"千里眼奥様"の万葉、元レディースの総長で漫画家の毛鞠、そして何者でもない、普通の"わたし"である瞳子・・・。三人それぞれがその時代に翻弄されて生きる様をとても生々しく描き出しています。

 戦後復興後の産めよ増やせよの時代に生きた万葉、成長期が過ぎ去りフィクションの中に生きる若者が世を席巻した時代に生きた毛鞠、そしてものは溢れているのに、渇きを抱えた現代を生きる瞳子・・・。三人の女性とも私の眼から見るととても強い女に見えるのですが、三人とも否応なく時代の影響を強く受けて生きています。各々の時代を迷いや悩みを抱えながらめいいっぱいいきる三人、そして最後に分かる一つの真実・・・。読み終えた後には充実した読後感が残りました。

 特に圧巻なのは、1950年代から現代にわたる徹底した時代考証と舞台である鳥取の山村の情景描写です。時代背景や村落の描写のリアルさはこの方の他の作品と比較しても随一です。相当、研究されたのでしょうね・・・。

 二段組で300ページ超とかなりの分量の本ですが、その分、読み応えは抜群です。登場人物も非常に多いのですが、特に気にもなりませんでした。テレビドラマ化された「女系家族」や「華麗なる一族」に近いイメージの本ですかね。読み応えのある本に飢えている人にはお勧めの一作です。

 しかし・・・、この方の描く作品に出てくる女性は皆強いですね。あと、直木賞受賞作の「私の男」も読んでみたいですね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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2008年05月14日

読書日記59:ブルースカイ



タイトル:ブルースカイ
作者:桜庭一樹
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 西暦1627年、ドイツ―魔女狩りの苛烈な嵐が吹き荒れるレンスの町で、10歳の少女マリーは<アンチ・キリスト>に出会った・・・。

 西暦2022年、シンガポール―3Dアーティストの青年ディッキーは、ゴシックワールドの昏い眠りの中、絶滅したはすの”少女”というクリーチャーに出会う・・・。

 そして、西暦2007年4月の日本。死にたくなるほどにきれいな空の下で・・・。3つの箱庭と3つの青空、そして少女についての物語。


感想--------------------------------------------------
 また、桜庭一樹さんの本です。この本も、ここで紹介した「少女には向かない職業」、「少女七竈と七人の可愛そうな大人」、「赤×ピンク」同様、”少女”に関する作品です。

 本作品、中世ドイツ、未来のシンガポール、そして現代と、三箇所の舞台で繰り広げられるお話です。共通点は”少女”。作者は”少女”という概念が現在の日本にだけ存在する、非常に特殊なものであるということをこの作品の中で言っています。(中世のドイツや未来のシンガポールでは”子どもの女”か”大人の女”しか存在しない、とも言っています。)

 色んな作品を読めば読むほど、作者の桜庭さんは”少女”に大きな興味を持っていることを感じます。子どもでもなく、大人でもない。社会的に強い立場に居るわけではなく、社会の役にもたいして立っていないのに、「かわいい!」という言葉で流行を生み出し社会に大きな存在感を示す少女。時には友情に篤く、時には非常に残酷で、非常に気まぐれなこの”少女”という存在を、作者の桜庭さんは、本作ではまるで人間ではない別の生き物のように描いています。(自分も昔は”少女”であったにも関らず!!)

 本作は帯に「少女という概念をめぐる3つの箱庭の物語」と書いてあるように、概念的な小説です。ですので、各話とも明確な終わり方にはなっていません。特に、第三話の終わり方とか・・どうなの?と個人的には少し思ってしまったりもします。でも逆に、”少女”という概念に関する小説なんだ、と割り切って読むとそれはそれで面白いと思います。各話に登場する女性、マリー、チャム、ソラを比較しながら読むといいのかもしれませんね。

 この方の作品は、あと日本推理作家協会賞受賞作の「赤朽葉家の伝説」と、直木賞受賞作の「私の男」は読んでみたいですね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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2008年04月26日

読書日記55:赤×ピンク



タイトル:赤×ピンク
作者:桜庭一樹
出版元:角川文庫
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 東京・六本木、廃校になった小学校で夜毎繰り広げられる非合法ガールファイト、集う奇妙な客たち、どこか壊れた、でも真摯で純な女の子たち。体の痛みを心の筋肉に変えて、どこよりも高く跳び、誰よりも速い拳を、何もかも粉砕する一撃を―
 彷徨のはて、都会の異空間に迷い込んだ3人の女性たち、そのサバイバルと成長と、恋を描いた、最も挑発的でロマンティックな青春小説。


感想--------------------------------------------------
 本作は3章から構成されていて、各章毎に異なった3人の女性(まゆ、ミーコ、皐月)の視点から物語りが描かれています。タイプの異なる3人ですが、共通するのは、それぞれガールファイトのファイターであり、ファイトを通じて成長していくこと。これは桜庭さんの作品に共通している内容ですが、少女が大人になっていく姿がうまく描かれていますね。

 泣き虫で自分から檻の外に出ることができないまゆ、みんなの求める物語ばかり演じて自分を出せないミーコ、大きな秘密を抱えて家に帰れない皐月・・・。それぞれが問題を抱えているけれど、ガールファイトや仲間との友情をきっかけとして成長していく姿がさわやかに描かれています。

 語り口は本格小説と言うよりはライトノベルに近いかな、と思いましたが、これはこれでありかなと思いました。しかしこの方の小説はテーマが一貫していますね・・・。面白いです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
posted by taka at 16:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 桜庭 一樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする