2013年07月17日

読書日記426:ファミリーポートレイト by桜庭 一樹



タイトル:ファミリーポートレイト
作者:桜庭 一樹
出版元:
その他:

あらすじ----------------------------------------------
神様に代わるものって--家族? 「もう一度あたしを産んでくれないかな」。ママはマコ。その娘の私はコマコ。脇役として相応しい名前。二人の血はいつまでも繋がっている。著者の集大成、登場!



感想--------------------------------------------------
赤朽葉家の伝説」で日本推理協会賞を受賞し、「私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さんの作品です。文庫本にして七百ページ以上の大作です。

マコの娘として生まれたコマコは、ボスである母と供に、どこまでも逃げ続ける−。

物語は第一部の『旅』と第二部の『セルフポートレイト』で構成されています。第一部では逃亡を続けながら様々な街を転々と逃げ続けるマコとコマコの姿が描かれ、第二部では成長して行くコマコの姿が描かれています。本作は主人公であるマコとコマコ、特にコマコの成長の物語、と言ってもいいですね。女性の成長の物語は、この著者の十八番かと思います。

自分がひたすらに愛し続けてきた母マコ。その愛情の対象であるマコの存在と消失。それがもたらす自身への影響。そしてそんなこととは関係なく変化していく自分の環境と身体−。主人公は小さな頃から様々な本を読み、その本を唯一の友として育っていきます。そこだけは子供の頃も大人になっても変わりません。そこが主人公にとっての唯一の救いと言えるかもしれません。

しかし読めば読むほど不思議な物語です。第一部に現れるのは『老人達だけが住む街』だったり、『豚とともに暮らす街』などいかにもフィクションらしく『物語』や『童話』といった世界観の物語なのに、第二部に入り、コマコが成長して大人になるに連れて、著者の実体験に基づいた世界が語られていき、最終的にはほとんど著者の自叙伝ではないのか、と思わせるほど世界がリアルに彩られていきます。おとぎの国に住んでいた子供が、大人になるに連れて現実世界を生きざるを得なくなる姿が凄くリアルに描かれていると感じます。

また一方でやはり二部に入ってからのコマコの描き方は並大抵なものではないですね。特に二部に入って序盤、コマコの学生生活の描写のあたりはこの著者にしか書けないのではないでしょうか。「少女には向かない職業」や「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」などで一貫して少女を描き続けてきた著者ならではの描写です。さすが直木賞作家です。


『命のかかった言葉にしか、金を出して買っていただく価値はない』


登場人物の一人の言葉です。恐ろしい言葉ですが、そのとおりかと思います。この言葉に著者の作家という職業への覚悟みたいなものを感じますね。本当に物語の後半、特に二部の後ろへ後ろへと読み進めて行くと、作家を目指して行くコマコの姿が著者の姿と重なり、自分を消費しながら、命を燃やしながら作品を書いていくコマコの姿に、「この著者は大丈夫だろうか」と心配にさえなってきます。自分の命を燃やしながら紡ぐ作品。その迫力は凄まじいまでに感じるのですが、一方でここまで出し切ってしまったら、この次にどのような作品を書くのだろうか、書けるのだろうか、と不安にさえなります。(まあ杞憂でしょうが。)

そして最後、物語が終わったとき、そこには不思議な感動があります。言ってしまうと、ああ、こういう風に物語を終わらせるのか、という終わらせ方のうまさへの感動ですかね。不恰好ながらも地平線に向けてどこまでも走り続けるコマコの姿を見ていたいような、目を逸らしたいような気がしていましたが、その終わらせ方のうまさには脱帽です。

しかし作家とはたいへんな職業だなあ、と思いつつも、一人であることに寂しさを全く感じなかったり、他人のことへの興味が希薄だったりといった点は私もコマコと共通点を感じたりして、本好きの人間には相通じるところがあったりするのかなあ、と感じたりもした作品でした。

基本的にこの方の作品は大好きですので、また機を見て作品を読んでいきたいです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2011年10月19日

読書日記306:青年のための読書クラブ by桜庭一樹



タイトル:青年のための読書クラブ
作者:桜庭一樹
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
伝統あるお嬢様学校「聖マリアナ学園」。転入生・烏丸紅子は中性的な美貌で一躍、学園のスターとなる。その裏には異端児たちの巣窟「読書クラブ」の部長で、容姿へのコンプレックスを抱えたニヒリスト妹尾アザミの、ロマンティックな詭計があった…。学園の創設から消滅までの百年間に起きた数々の事件の背後で活躍した歴代の「読書クラブ」員。その、あらぶる乙女魂のクロニクル。


感想--------------------------------------------------
直木賞作家、桜庭一樹さんの作品です。この方の作品は久しぶりに読みました。この方の作品の多くに共通する、「少女」をテーマとした扱った作品です。


山の手に居を構える伝統あるお嬢様学校:聖マリアナ学園。その学園には異端児達の巣窟である「読書クラブ」が存在した−。聖マリアナ学園とその読書クラブの百年の歴史を扱うクロニクル。


本作は「烏丸紅子恋愛事件」、「聖女マリアナ消失事件」、「奇妙な旅人」、「一番星」、「ハビトゥス&プラティーク」の全五編から成る連作短編集です。聖マリアナ学園を舞台に様々な時代の様々な少女達の学園生活の一部を描いています。各話の登場人物は微妙な繋がりを見せていますね。時代の流れとともに変遷していく少女たちの姿や世相の違いも感じられます。

描かれているのはどの作品でも共通して"少女"ですね。学園という閉ざされた空間で異性と接触することなく青春を謳歌する少女たち。その姿をこの著者に特有の芝居がかった表現で描いていきます。この描き方はこの著者独特ですね。作風としては「ブルースカイ」と「製鉄天使」を足して割ったようなイメージでしょうか。時代によって異なる少女達の姿が目に浮かびます。

物語は1969年、東大紛争の頃からスタートし、二十世紀初頭の聖女マリアナの話や最終的には2019年、聖マリアナ学園が百周年を迎えるときまで、読書クラブを中心に生徒会や演劇部との接触や、"王子"と呼ばれる男性役の女生徒の選挙など様々な行事についても描かれていきます。描かれているのは著者と同性の女性ばかり。その描き方はやはり男性の描く女性像とは大きく異なりますね。まだ子供ではありながら生々しい「女」がそこにはしっかりと描かれています。

終わり方もいいですし、解説も味があっていいのですが、若干、地味な印象の作品ですね。取り立てて大きな事件もないため、この方のファンの方にはお勧めですが、その他の方は他の桜庭一樹さんの作品を読まれた方がいいかな、とも思いました。個人的には現代を包む空気を「満たされたあきらめの空気」と表現している点がとても印象に残りました。この表現は的を得ていると感じます。こんな表現を使えるとはさすがに一流の作家さんです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2011年02月09日

読書日記253:伏 贋作・里見八犬伝 by桜庭一樹



タイトル:伏 贋作・里見八犬伝
作者:桜庭 一樹
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
娘で猟師の浜路は江戸に跋扈する人と犬の子孫「伏」を狩りに兄の元へやってきた。里見の家に端を発した長きに亘る因果の輪が今開く。


感想--------------------------------------------------
直木賞作家、桜庭一樹さんの作品です。女性の成長を描くのがとてもうまい作者ですが、時代劇のようなタイトルなので、どんな作品かとても楽しみでした。作品の途中にところどころにイラストが入っているという、珍しい作品です。

人を残虐な手口で見境なく殺し、江戸の街を騒がす犬人間「伏」たち。兄の道節を頼って山から出てきた猟師の少女・浜路。道節と浜路の兄弟は「伏」を探して江戸の街を行く−。

タイトルとして「贋作・里見八犬伝」と謳っているだけあって、有名な滝沢馬琴の里見八犬伝の話を背景として作られています。「道節」や「浜路」という名前も里見八犬伝の登場人物から来ていますね。また里見八犬伝の作者である滝沢馬琴も登場します。いろいろな要素を見るにつけ、本物の里見八犬伝から多大な影響を受けていることは容易に想像できます。

本作の面白いところは、主となる浜路のストーリーの中で、滝沢馬琴の息子・滝沢冥土により『贋作・里見八犬伝』という物語がかなりのページ数を割いて語られる点です。全体の三分の一程度のページ数を割いて語られるこの物語の中で、「伏」とはそもそも何処から来たのか、里見家に生じた悲劇を基に語られています。本物の里見八犬伝では伏姫と犬の八房の夫婦から生まれた八犬士が悪を退治していくのですが、本作で語られる『贋作・里見八犬伝』の中ではこの解釈が異なって語られています。私的にはこの『贋作・里見八犬伝』が非常に面白く読めました。本筋以上に楽しめたと言ってもいいかもしれません。物語として非常に良くできていますし、何より登場する人間が非常に生きています。

本作ではこのような「物語の中の物語」として語られるストーリーが他にもあります。そしてこの「物語の中の物語」だけで、全体の半分近くを占めています。これはこれで面白いのですが、残念ながらこのせいで物語全体としてのバランスは悪くなっているように感じられました。「物語の中の物語」の方は割と深くて重く、その分、面白いのですが一方で本筋の方が軽く読めてしまいます。そして物語の最初は浜路の視点で物語を見ていたのに、後半になると「伏」の視点で物語が見えてきてしまい、なんとなくですが、物語が中途半端に見えてきてしまうのです。また物語り自体の終わり方も中途半端な感じが否めません。「伏」を完全な悪者にしなかったのはいいですが、道節と浜路の背景の描きこみが足りない分、どちらかというと私は「伏」に同情してしまい主人公に感情移入ができませんでした。

一方で「製鉄天使」でも見られたどことなく芝居がかった物語の描き方は、本作ではとてもはまっているように思われました。これは舞台が江戸時代の江戸の城下町、ということで芝居がかった描き方がとても適しているからでしょうね。少女である浜路の描き方や、少女から女性へと成長していく伏姫の描き方もとてもこの作者らしくうまいと思いました。今、大河ドラマで「江」をやっていますが、このように時代劇で女性の一生を描いたような作品はこの作者の強みをいかせるのかもしれませんね。次回作にも期待です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2010年02月20日

読書日記184:製鉄天使 by桜庭一樹



タイトル:製鉄天使
作者:桜庭 一樹
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出すーあたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』から三年、遂に全貌を現した仰天の快作。一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。



感想--------------------------------------------------
 直木賞作家:桜庭一樹さんの代表作「赤朽葉家の伝説」。本作は赤朽葉家の三代の女性の生き様を描いたこの作品のスピンオフ的な作品で、赤朽葉家の二代目、赤朽葉家毛鞠を主人公としたお話です。(本作では赤緑豆小豆という名前になっています。)ですので「赤朽葉家の伝説」をあらかじめ読んでおくととても話がよく分かります。

 本作、童話のようなお伽噺のような作品ですね。女子暴走族「製鉄天使」を率いる無敵の女総長:赤緑豆小豆が少女から大人の女性になっていくまでを描いた作品です。桜庭一樹さんは少女が大人の女になっていく過程を多くの作品で描いていますね。「少女には向かない職業」、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」、「荒野」などなど桜庭一樹さんの小説のメインテーマと言っていいかと思います。

 本作では中学入学と同時に暴走族「製鉄天使」を小豆が立ち上げるところから話が始まります。「今日が楽しければ明日死んでもかまわない」そう言ってハイウェイをひたすら走り抜ける小豆とその友人:すみれ。物語はこの二人を中心として展開されて行きますが、ある出来事をきっかけとして小豆は子供から大人へと成長して行きます。

 いつまでも楽しいことだけが続く「永遠の国」。本作では青春時代の最高の一時をそんな言葉で表現しています。これは凄くよく分かります。誰しもが青春時代に「こんな一瞬が永遠に続けばいいのに」って感じたことがあるのではないでしょうか。

 本作も桜庭一樹さんの他の作品と同様に青春時代から大人への成長を描いた作品ですが、いかんせん主人公が島根の女子暴走族の総長という特異な設定であることもあいまって、なかなか感情移入しにくい人が多いのではないかと思います。私的には少女から大人の女性への成長を描いた作品としては「荒野」の方が面白かったかな、と思いました。

 本作は桜庭一樹さんのファン、もしくは「赤朽葉家の伝説」を既に読まれている方向けの本ですね。私はそれなりに楽しく読めました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2009年10月04日

読書日記157:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない by桜庭一樹



タイトル:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
作者:桜庭 一樹
出版元:角川グループパブリッシング
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「好きって 絶望だよね」
子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。
砂糖菓子の弾丸で世界と戦おうとした少女たち・・・・・・。
稀世の物語作家・桜庭一樹の原点となる青春暗黒小説。

感想--------------------------------------------------
 「私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さんの作品です。本作は桜庭一樹さんの初期の作品だそうですね。桜庭一樹さんの経歴を見ると、本作が大きく評価されてブレイクしたらしいので、非常に期待して読みました。

奇妙な転校生:海野藻屑。その奇妙な振る舞いに振り回される山田なぎさは、藻屑の奇妙な行動の裏側にある彼女の背負う物の大きさに気付きー

 読んでの感想ですが、非常に鮮烈な作品です。
 本作まずその奇妙なタイトルに引きつけられました。「砂糖菓子の弾丸」。なんのこっちゃ?と読む前は誰しもが思うのではないでしょうか。
 本作の中で弾丸=実弾とは生きて行く為に必要なものごとを指しています。それは働くことであり、お金を稼ぐことでもあります。主人公の山田なぎさは一日も早くその"実弾"を打てるようになりたい、大人になりたい、と願っています。
 一方で海野藻屑は生きるのに必要ではないこと=砂糖菓子ばかりばらまきます。それは嘘であり、作り話であり、汚染であり・・・。そしてそんな藻屑になぎさは"べたべたに"されていきます。

 早く実弾をこめて現実と戦えるようになりたい、と願うなぎさと、現実から逃げる為に砂糖菓子をばらまき続ける藻屑。この二人はとても対照的です。(・・・名前も対照的ですよね。)そして物語はクライマックスに向けて集約されて行きます。

 虚や作り話では現実とは戦うことが出来ない・・・本作のタイトル「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」の意味はおそらくこういう意味かと思います。現実と戦う為にはその為の力を手に入れるしかありません。そしてそれはまだ少女であるなぎさと藻屑にはとても難しいことですね。

 また一方で、砂糖菓子の弾丸を撃つことができるのは女性に取っては人生の中のほんの一瞬、「少女」である時期だけです。その「少女」という、大人になってしまったら絶対に手に入れることの出来ない存在への、作者の羨望に似た感情さえも感じさせます。
 少女から女性へと移り行く中で現実と戦う為に手に入れるもの、そして二度と手にすることの出来ない失われたもの。そういった刹那の青春の時期を切り取った作品のように感じました。本当に鮮烈な作品です。
 本作のような作品を読むと、本当に作者の凄さが伝わってきますね。デビュー初期にこんな作品を作るなんて本当にこの人は天才かもしれん、なんて思いながら読んでしまいました。

 本作、最初の評価はそれほど高くなかったようですね。徐々に売れ始め、最終的にはかなりのヒットになったそうです。傑作である証拠でしょう。過去の作品ほど成熟されていない分、作品のすべてが荒々しくて尖っており、それが読者の心に刺さってきます。「少女には向かない職業」にストーリーは少し似ているかな、と思いましたが。凄い作品だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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posted by taka at 21:58| Comment(0) | TrackBack(1) | 桜庭 一樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする