2016年10月09日

読書日記613:マルドゥック・アノニマス 2



タイトル:マルドゥック・アノニマス 2
作者:冲方丁
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
企業の内部告発者ケネス・C・Oの行方を追うなかで、ウフコックはパートナーのロックと弁護士サムを“クインテット”による惨殺された。保護証人を失ったイースターズ・オフィスは事件不成立により調査を中断するが、ウフコックはサムの遺志を継いで“クインテット”への潜入捜査を始める。ハンターの緻密な戦略のもと、アンダーグラウンドを制圧する“クインテット”の悪徳を、ウフコックはただ傍観するほかなかった。

感想--------------------------------------------------
待ちに待っていた「マルドゥック・アノニマス」の二巻です。表紙の絵は<クインテット>の首領 ハンターと彼に付き従う三匹の猟犬たち。全てを均一化(イコライズ)しようとする彼が主人公の巻です。

相棒を<クインテット>に殺されたウフコックは彼らの首領、ハンターの動きを探りだす。しかしウフコックは次第に、彼に自分と共通点がある事に気付き始めるー。

圧倒的な迫力とテンポで繰り広げられる異能者<エンハンサー>と街を支配する五つの勢力の戦い、悪逆を尽くしながらも街を徐々にイコライズしていくハンター、そんな彼に惹かれていくウフコックと、全く読者を飽きさせません。特にこの巻では、悪逆でありながらも類い稀なる精神力を持つ<クインテット>の首領、ハンターが緻密に描かれており、その魅力にウフコックだけでなく読者も惹かれていきます。三匹の犬を連れている姿から「マルドゥック・ヴェロシティ」のクルツを思い起こさせますが、その統率力とカリスマ性は彼を遥かに超え、ボイルドを連想させます。

息つく暇もない展開と、手に汗握るエンハンサーのバトル、マルドゥック市の根幹に一歩一歩近付いていくハンター。バロットやウフコックの出番はほとんどないのですが、すごく面白いです。このままハンターたちがどこまで迫れるのか、すぐにでも続きを読みたくなります。

街を”均一化”しようとするハンターと”匿名(アノニマス)”で街を救おうとするウフコック。ハンターたちクインテットとウフコックたちイースターズオフィスの戦いは次第に”一つを目指すもの”と”個であることを願うもの”の戦いになっていきそうです。ここにバロットやイースターがどう絡んでくるのか、楽しみで仕方ありません。

本巻の最後は物語の行く末を暗示しますね。一巻の冒頭で描かれていたガス室の中で死を待つウフコックと、そこに現れるあの人。この物語はどこまで続くのでしょうか?先が早く読みたい、という気持ちと、読み終えたくない、と思う気持ちの板挟みになる作品です。三巻も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年05月07日

読書日記591:マルドゥック・アノニマス 1 by冲方 丁



タイトル:マルドゥック・アノニマス 1
作者:冲方 丁
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
『マルドゥック・スクランブル』から2年―自らの人生を取り戻したバロットは勉学の道に進み、ウフコックは新たなパートナーのロックらと事件解決の日々を送っていた。そんなイースターズ・オフィスに、馴染みの弁護士サムから企業の内部告発者ケネス・C・Oの保護依頼が持ち込まれた。調査に向かったウフコックとロックは都市の新勢力“クインテット”と遭遇する。それは悪徳と死者をめぐる最後の遍歴の始まりだった。


感想--------------------------------------------------
楽しみに待っていたマルドゥック作品の第三作目、「マルドゥック・アノニマス」。その第一巻目です。いつ出るのかと思っていましたが、ようやく出ました。あとがきに書いてありますが、「マルドゥック・スクランブル」が刊行されてから十三年が経っての刊行です。待ちに待った、という感じですね。

イースターズ・オフィスで新しいメンバーたちと事件解決に取り組むウフコックとイースター。そんな一人と一匹のもとに新しい事件が舞い込む。それは新たな激闘の始まりだったー。

十年以上の時を経ているというのに、数行を読み進めるとすぐにマルドゥック・スクランブルの世界に戻る事ができます。ドクター・イースター、金色のネズミのウフコック、そしてルーン・”バロット”・フェニックス。おなじみのメンバーとおなじみのマルドゥックシティ。そして繰り広げられる特殊な能力を持つ強化者(エンハンサー)同士の戦い。テンポの良い文章で語られる、頽廃したマルドゥック・シティで繰り広げられるバイオレンスアクションはまさに一級品のSFです。日本SF大賞を受賞した第一作目の世界を継承する世界がここに繰り広げられていること自体に感動しますし、読み進めるとどんどんと物語に引き込まれていきます。

マルドゥック・スクランブル」がルーン・バロットの再生を、「マルドゥック・ヴェロシティ」がデムズデイル・ボイルドの生き様を描いた作品だとすると、本作「マルドゥック・アノニマス」はウフコック・ペンティーノの死に様を描いた作品との事です。しかし第一巻である本巻を読んだだけではまだその死に様にまではたどり着いていませんね。イースターズオフィスの面々と新たな敵<クインテット>という特殊な能力を持つエンハンサー同士のバトルに終始し、それはそれで十分に読み応えはあるのですが、ウフコックの死に様については断片的に顛末が語られていくだけです。

少女・バロット、タフガイ・ボイルドの二人と比較すると悩めるネズミ・ウフコックは、キャラ的にやはり少し弱い印象があり、なかなかその死に様で読者を魅了する事は難しいと思いますが、この先の展開には期待大です。個人的にはやはりバロットにウフコックを使ってほしいなあ、と思います。バロットとウフコックのコンビは、ファンとしてはやはり見てみたいですね。次巻も楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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2015年05月04日

読書日記538:黒い季節 by冲方 丁



タイトル:黒い季節
作者:冲方 丁
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
身のうちに病を飼い、未来を望まぬヤクザ「藤堂」、記憶を喪い、未来の鍵となる美少年「穂」、未来を手にせんとする男「沖」、沖と宿命で結ばれた異能の女「蛭雪」、未来を望まずにはいられぬ少年「誠」、誠と偶然で結ばれた異能の女「戊」―縁は結ばれ、賽は投げられた。世界は、未来は変わるのか?本屋大賞作家、冲方丁が若き日の情熱と才能をフル投入した、いまだかつてない異形のエンタテインメント。

感想--------------------------------------------------
冲方丁さんの作品です。一九九六年に刊行された本作は、第一回スニーカー大賞の金賞受賞作であり、著者のデビュー作でもあります。「ばいばい、アース」や「マルドゥック・スクランブル」などSF・ファンタジーの名作を生み出してきた著者のルーツとも言える作品かと思います。

ヤクザの藤堂と拾った記憶喪失の少年 穂(すい)、同じくヤクザの沖と異能の女 蛭雪、そして数奇な運命の下に生まれた少年誠と、異能の女「戌(ほこ)」。三組が入り混じり、異能の者同士の「祭り」が繰り広げられる―!!

典型的な、異能の者同士のバトルファンタジーです。昔で言うと、荒俣宏さんの「帝都物語」をもっとライトに、ファンタジックにした感じでしょうか。血飛沫が舞い、妖術めいた術が飛び交い、とエンターテイメント要素満載です。文章表現の美しさ、読む者を引き込む文章力の確かさ、などは当時も今も変わりません。さすが金賞受賞作、圧倒的なエンターテイメントとして読者を引き込んで放しません。

三組の登場人物の係わり合いも読む者を引き込みます。穂の面影に分かれたかつての妻を思い出す藤堂、お互いに運命的に惹かれあう誠と戌、妖しくも惹かれあう沖と蛭雪。最も印象的なのは私的には誠と戌でしたが、どの組合せもそこに確かな感情がしっかりと描かれています。

しかし、「マルドゥック・スクランブル」や「ばいばい、アース」と比べると少し見劣りしてしまう部分があるのも否めません。それは本作が四百ページ足らずの作品であるのに、主要な登場人物が上に書いた三組もあるからでしょうね。無駄をそぎ落とした読みやすい文章とは言え、やはりこれだけの内容を書くのにこのページ数は少なく感じられます。また「マルドゥック・スクランブル」のバロットや、「ばいばい、アース」のベルのように核となる主人公がいないこともその理由かと思います。「主人公の成長を描く」という側面がこの二作では強かったですが、本作ではバトルファンタジーに終始しているように感じられます。

個人的にはバーの主人、鹿島と店員のさやがいい味を出していると感じました。いろいろと書きましたが、和風テイストのエンターテイメントとしては非常に完成度の高い作品ですし、なにより冲方丁ファンは必読ですね。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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2014年10月22日

読書日記511:はなとゆめ by冲方丁



タイトル:はなとゆめ
作者:冲方丁
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
わたし清少納言は28歳にして、帝の妃である中宮定子様に仕えることになった。華やかな宮中の雰囲気に馴染めずにいたが、17歳の定子様に漢詩の才能を認められ、知識を披露する楽しさに目覚めていく。貴族たちとの歌のやり取りなどが評判となり、清少納言の宮中での存在感は増していく。そんな中、定子様の父である関白・藤原道隆が死去し、叔父の道長が宮中で台頭していく。やがて一族の権力争いに清少納言も巻き込まれていき…。『天地明察』の異才が放つ最新歴史小説!


感想--------------------------------------------------
冲方丁さんの作品です。「天地明察」、「光圀伝」に続く歴史小説ですが、本作は「枕草子」で有名な清少納言を主人公に据えた小説です。

歌人 清原元輔の娘として生まれた清少納言は、一条帝の中宮、定子に仕えるべく内裏に入る。定子との係わり合いの中で、いつしか清少納言は定子を守り通すことを心に誓うようになる−。

「天地明察」の渋川晴海、「光圀伝」の徳川光圀、そして本書の清少納言と、この筆者の描く歴史小説の主人公は、一般的にはなかなか取り上げにくい人々なのではないかと思います。歴史小説ではどうしても合戦が主となるため、平和な時代を生きた人々は描きにくい、というのがその理由です。ましてや激動の世ならともかく、平安の世を生きた人々など書いて面白いのだろうか−と思うのですが、この著者の手にかかるとこうも面白くなるのか、と驚かされます。


本書では清少納言の半生と、彼女が枕草子を書くに至るまでが描かれているのですが、まず清少納言の生きた平安の世がとても分かり易く描かれており、予備知識が無くてもすらすらと情景が目の前に浮かんできます。内裏に入る前の身の上の話、内裏に入り、定子に仕えるようになった清少納言、そして政敵との戦いで疲労していく定子−。いかなる脅威をも風雅を武器に受け流していく清少納言と定子、二人の姿が平安の世を浮き彫りにしていきます。今と全く価値観の異なる世の中を、丁寧に描く腕はさすがだな、と感じさせます。


「光圀伝」を読んでいても感じたのですが、本書でもやはり強く感じるのは平安の世と今の、死生観の圧倒的な違いです。それまで元気だった人が流行り病によって二、三ヶ月後にはこの世を去ってしまう。そんなことが珍しくない世の中では、人の死は必定であり、生きているいまこそ楽しまなければならない、そんな風に誰もが感じていたのではないでしょうか。そしてそれだからこそ栄えたのが風雅であり、歌なのだろうと感じられます。移り行くものへの愛惜の思いも、今とは比較にならないほどに強かったのでしょうね。

本当にこの作者には驚かされてばかりです。これだけ丁寧に平安の世を描く人が、「マルドゥック・ヴェロシティ」のバイオレンスに満ちたサイバーパンクな世界を描いている人と同じとはとても思えません。才能の塊のような人なのではないかと感じさせます。

政敵である藤原道長により内裏を追われ、落ちぶれていく定子。しかしそれでもその凛とした佇まいは変わりません。枕草子を書くに至った清少納言の心情描写といい、素晴らしい作品だと思います。SFも面白いけれど、歴史小説も面白いと言うのは本当に凄いですね、この著者は。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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2014年08月03日

読書日記497:マルドゥック・フラグメンツ by冲方 丁



タイトル:マルドゥック・フラグメンツ
作者:冲方 丁
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
『マルドゥック・スクランブル』『ヴェロシティ』、そして第3部『アノニマス』

刊行開始から8年を経て、コミック化、劇場アニメ化と、なお広がりをみせるマルドゥック・シリーズ。
本書ではバロット、ウフコック、ボイルドの過去と現在、そして未来を結ぶ5篇に加え、
『アノニマス』を舞台にした書き下ろしを収録。
さらに著者のロング・インタビュウ、『スクランブル』幻の初期原稿を抜粋収録するシリーズ初の短篇集


感想--------------------------------------------------
冲方丁さんのマルドゥック・スクランブルマルドゥック・ヴェロシティに続く作品です。本作は短編集ということで、マルドゥック・スクランブル、マルドゥック・ヴェロシティ、さらに未刊行のマルドゥック・アノニマスに関連した六編さらに冲方丁さんへのインタビューまで載せた本となっています。

内容はマルドゥックシリーズに大きく関連してきますので、マルドゥック・スクランブル、マルドゥック・ヴェロシティに大きく関ってきます。従って本書を読む前に、この二シリーズは読み終えておいた方がいいですね。物語は短編なのですが、設定がこの二作と関ってくるため、読み終えていないと理解が厳しいかと思います。ボイルドを主人公とした作品が多く、特にマルドゥック・ヴェロシティのファンにはたまらない作品かと思います。

一方で、これから刊行予定のマルドゥック・アノニマスのプロローグ的な位置付けの作品も二編ほどあります。マルドゥック・アノニマスの設定、描かれる成長したバロットとその仲間たち、アシュレイやウフコックの生き様、そして死。嫌が応にも期待は高まります。

しかし何と言っても本作で最も印象に残ったのは冲方丁さんのインタビューです。マルドゥックシリーズ二作を書き終え、さらに新装版へと進化し、これから描かれるマルドゥック・アノニマスにも言及したこのインタビューはマルドゥックシリーズのファンなら必読です。新装版で何が変わったのか、どのように進化していくのか、アノニマスでは何が描かれるのか、そうした内容が全て凝縮されています。

本作は短編集ですので、物語的なものはなく、タイトルの通り、まさに断片(フラグメンツ)です。しかしその断片が本作をさらに盛り上げていきますね。何よりも、何度も書きますが、アノニマスへの期待をさらに高めていきます。これも何度も書きますが、アノニマスまだですかね。本当に楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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