2009年03月25日

読書日記121:フィッシュストーリー by伊坂幸太郎



タイトル:フィッシュストーリー
作者:伊坂幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「なあ、この曲はちゃんと誰かに届いてるのかよ?」売れないロックバンドが最後のレコーディングで叫んだ声が時空を越えて奇蹟を起こす。デビュー第一短編から最新書き下ろし(150枚!)まで、小気味よい会話と伏線の妙が冴える伊坂ワールドの饗宴。


感想--------------------------------------------------
ゴールデンスランバー」や「死神の精度」、「アヒルと鴨のコインロッカー」で有名な伊坂幸太郎さんの作品です。本作は「動物園のエンジン」、「サクリファイス」、「フィッシュストーリー」、「ポテチ」の全4話の短編(中編?)から構成される短編集になります。一部、他の作品の登場人物が出てきたりもしていて、伊坂ファンはニヤリとするのではないでしょうか?

「なあ、この曲はちゃんと誰かに届いてるのかよ?」売れないロックバンドが最後のレコーディングで叫んだ声が時空を越えて奇蹟を起こす。

 この案内書き通り、やはり一番印象に残った話はこの「フィッシュストーリー」ではないでしょうか。"二十数年前"、"現在"、"三十数年前"、"十年後"の四つの時代の物語が一つの短編の中で展開され、結果としてあるロックバンドの最後の曲が世界を救うことになります。この綿密なストーリーの展開はさすが伊坂幸太郎さんだ、と思わせます。

 あと印象に残ったのは「ポテチ」でしょうか?塩味とコンソメ味の「ポテチ」を取り違えたことで号泣する今村。読者にもその理由がわからないまま、最後にその涙の理由が判明したところで分かる張り巡らされた伏線の数々に感動さえ覚えます。そして、万年代打の"尾崎"の打席で起こる奇跡。話の作りの巧みさ、抑えられた表現で感動を与える描写の見事さ、黒澤に代表される各キャラクターの個性の見事さ、どれをとっても一級です。さすがですね。ちなみにこの黒澤は「サクリファイス」では主役なのですが、「ラッシュライフ」にも登場しています。このように微妙に他のストーリーとキャラクターが被っているのも本作の特徴でしょうか。表面上には見えない、抑えた優しさや感情を表現するのがうまいとあらためて感じました。

 このフィッシュストーリーは映画化もされています。いま、まさに上映中です。伊藤淳史さん、多部未華子さん、森山未來さんなど、個性溢れる俳優さんが出演しています。加えて映画版では原作と内容を少し変えているようですね。映画版では「すい星が衝突して世界が滅ぶ」という設定になっていましたが、これは「終末のフール」の内容ですね。ここら辺、複数の作品を組み合わせて上手く仕上げているのではないでしょうか。「アヒルと鴨のコインロッカー」を映画化した中村義洋監督の作品です。どんな出来に仕上がっているのか楽しみです。

 本作、一編一編の物語が短いため、他の伊坂作品と比べるとどうしてもボリュームが足りないかな、と感じてしまいます。でも伊坂作品が好きな方にはお勧めです。「アヒルと鴨のコインロッカー」、「死神の精度」、「フィッシュストーリー」に続き、「重力ピエロ」も今度映画化されるそうですね。「陽気なギャングが地球を回す」も映画化されていますし、凄いです。伊坂幸太郎さんの作品の独特のテンポは今の日本の映画にうまくマッチしているのではないでしょうか。個人的には、次は本屋大賞にも輝いた「ゴールデンスランバー」を映画化してほしいですね。期待してます。

 

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2008年11月01日

読書日記96:魔王



タイトル:魔王

作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。


感想--------------------------------------------------
ゴールデンスランバー」などで有名な伊坂幸太郎さんの作品です。出版されたのは少し前ですが、最近、文庫になりました。

 本作、「魔王」の章と、「呼吸」の章から構成されています。「魔王」の章は安藤が主人公、「呼吸」の章は安藤の弟の潤也が主人公となっています。ファシズムへと世の中の流れが傾きつつある近未来の日本で、「考えろ考えろ」と常に考えることで活路を見いだそうとする安藤、それに対し世間から距離を取り自然の中で過ごすことで世間の波に逆らう潤也。さらに、自分が念じた言葉を相手に必ず喋らせることができる安藤と、1/10以上の確率でならなんでも当てることのできる潤也。二人のスタンスや持つ特殊な能力は対照的ですが、世間の大きな波に対してささやかな抵抗を示そうとする、という点では共通しています。

 本作のタイトル「魔王」とは、シューベルトの曲、「魔王」のことを指しています。曲中、お父さんから子供の命を奪い去って行く恐ろしい魔王。その魔王とは誰のことを指しているのか?これは最後まで分からず、読者の想像に依るしか無いのですが、物語の一つのキーではあります。
 もう一つのキーが、作中、ファシストの象徴のような首相候補 犬養が好んで引用する宮沢賢治の作品ですね。「注文の多い料理店」で、料理店の言うがままにコートを脱いで銃を置いて、店の奥に進んで行く猟師たち。その姿は国家の言うままに従う日本国民と大きく被っています。

 本作、結局言いたいことは「時代の流れ、と言う大きな流れの中で、個人に何が出来るか」ということなのでしょうね。安藤は考えることで、潤也は世間と距離をとることでファシズムに傾く時代の流れに対抗します。その結果、どうなったのか?ささやかな抵抗の結果は?それはきっと、本作の将来を描いた、最近出たばかりの「モダンタイムス 」で語られるのでしょうね。
 正直、本作だけでは中途半端な終わり方、という印象が否めません。きっと「モダンタイムス」まで読んで始めて面白さがわかるのでしょうね。

 本作、伊坂幸太郎さんの作品にしては珍しく思想的な色合いの濃い作品と感じました。(「テーマとはしていない」、とあとがきで伊坂幸太郎さんは言っていましたが・・・。)でも、「死神の精度 」に出てきた死神、「千葉」が出てきたりして、伊坂作品の好きな人にはお勧めです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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タグ:書評 魔王
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2008年08月24日

読書日記79:ゴールデンスランバー



タイトル:ゴールデンスランバー
作者:伊坂幸太郎
出版元:新潮社
その他:本屋大賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
 仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ。」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えたー。
 精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界ー、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成


感想--------------------------------------------------
 伊坂幸太郎さんの作品です。本屋大賞を受賞した作品ですね。前回の直木賞の候補作にもノミネートされたそうですが、伊坂幸太郎さんは「執筆に専念したい」と断ったそうです。候補に挙がっていれば、ほぼ確実に直木賞を受賞していたのではないでしょうか。

 首相暗殺の犯人に仕立てられてしまった"青柳雅春"。警察から逃げる"青柳雅春"と、彼を陰ながら助ける学生時代の仲間たち。ケネディ暗殺をモチーフに仕上げられたストーリーは、サスペンスでありながら伊坂幸太郎さんの作品独特のユーモアに溢れています。そして精緻に張り巡らされた伏線。ああ、この人がここで出てくるのか、とか、ここでこう繋がるかのか、とか・・・読んでいて思わず、なるほどとうなずいてしまいます。伊坂幸太郎さんの作品は何作か読んでいますが、この作品はその中でもかなりサスペンステイストに溢れた作品かと思います。

 さらに素晴らしいのは、単なるサスペンスに終わらず、青柳雅春とその仲間の学生時代の逸話を要所に挟むことによって「色あせない、学生時代の友情」といったものも表現しています。仲間とファミレスでおしゃべりしてバイトした、楽しかった大学時代。その時の仲間が陰ながら"青柳雅春"を支える姿はいいですね。
 他にも、ヘッドフォンをつけてショットガンを持った大柄な警察官とか連続殺人犯とか、脇役もいい味出してます。

 「感動作」という意味合いでは、作品的には「死神の精度 」の方が上かな、私は思います。でも、「作り込まれた」という意味合いではこの作品は伊坂幸太郎作品の中でも随一だと思います。そしてきっと、いや間違いなく、この作品も映画化されるでしょうね。その時誰が"青柳雅春"を演じるのか・・・今から楽しみです。

 ・・・最近、ここで紹介している作品はほぼAかSの評価ですね。まあ、面白そうな本しか読んでいないから当然と言えば当然ですが・・・。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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2008年06月22日

読書日記66:チルドレン



タイトル:チルドレン
作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々―。
何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

感想--------------------------------------------------
お馴染みの伊坂幸太郎さんの作品ですね。WOWOWで坂口憲二さん主演でドラマかもされたそうです。
本作品は、「バンク」、「チルドレン」、「レトリーバー」、「チルドレンU」、「イン」の5作品から構成される短編集です。短編集といっても登場人物はほぼ共通していて、簡単に言ってしまうと”陣内”を中心とした物語となっています。各話ともそれぞれ異なった陣内の友人の目線から話が描かれています。どの話にも登場する陣内に翻弄される人たち・・・。一見身勝手なようでいて、本質を突いて憎めない陣内のキャラクターの描き方がとても見事です。(実際にいたらかなり迷惑な人だと思いますが・・・。)
 ユーモアとウィットに富んだ会話、予想のできないストーリーの展開、読後には暖かい気持ちになれるラストの締め方など、さすがとしかいいようがありません。
 この「チルドレン」はこの方の作品では「砂漠」に似ているかもしれませんね。サスペンスではなく、ユーモアとウィットに溢れた短編集です。
 特に気に入ったフレーズはタイトルのチルドレンに関連した陣内のセリフ。「子供のことを英語でチャイルドと言うけれど、複数になるとチャイルズじゃなくて、チルドレンだろ。別物になるんだよ。」だから集団になると子供は一人でいる時とは別人になるらしいです。・・・うまいですね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
posted by taka at 20:29| Comment(2) | TrackBack(1) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月21日

読書日記42:死神の精度



タイトル:死神の精度
作者:伊坂幸太郎
出版元:文藝春秋
その他:日本推理作家協会賞短編部門受賞

あらすじ----------------------------------------------
ある時は恋愛小説風に、ある時はロード・ノベル風に、ある時は本格推理風に……様々なスタイルで語られる、死神の見た6つの人間模様。


感想--------------------------------------------------
 伊坂幸太郎さんの作品です。6編の短編から成る短編集です。今度映画化されると聞いて読んでみました。

 担当となった人間を死なすか生かすか決めるために人間界に降りてきた死神の「千葉」と、担当となった人間とが織り成す人間模様が、ユーモアを交えながら、時にせつなく、時にすがすがしく描かれています。
 死神だけに、普通の人間とは少しずれた千葉と、担当となる人間の交わす会話が絶妙です。少しずれていながらも、本質をずばりと突いてくる千葉の言葉にいろいろと考えさせられます。

 死神は基本的には担当となった人間は死なすため、各話の登場人物はほとんど死んでいくことになるのですが、そこには全くと言っていいほど悲壮感がありません。むしろ滑稽ですらあります。私が思うに、これは根底に「人間は必ず死ぬ」という絶対的な前提があり、その前提をほとんどの登場人物が受け入れているからでしょうね。「早かれ遅かれ人は必ず死ぬ。であれば、人が死ぬことは当たり前であり、死を恐れるよりも、今日を、今を、どのように生きるかが一番大事ではないか?」全編を通して、こう言われている気がします。

 この本、私は同じく伊坂幸太郎さんの作品で、ここでも紹介した「終末のフール」とよく似ているな、と思いました。こちらは小惑星の衝突により地球が滅んでしまう話ですが、やはり、「残された時間でどう生きるか」というところが主題ですね。

 死や地球滅亡という状況を目前にしながらも、自分らしく小さなことにこだわったり、ちょっとしたことで喜んだり怒ったりする人間というのは愚かだけどとても愛らしく感じられます。特に本作「死神の精度」では「人間」と対となる存在として「死神」が描かれているため、より強くそれを感じました。

 本作、6編の短編から構成されていますが、特に最後の一編、「死神対老女」は最高です。最後の一編にふさわしい作りでした。
 また映画版では主人公の「死神」を金城武さんが演じるそうです。作中の死神のイメージにぴったりです。今から楽しみですね。きっと見に行きます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
posted by taka at 00:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする