2010年08月18日

読書日記222:オー!ファーザー by伊坂幸太郎



タイトル:オー!ファーザー
作者:伊坂 幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて-。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。この前「バイバイ、ブラックバード」が出版されて人気ですね。本作は「バイバイ、ブラックバード」の前に出版された、一作前の作品になります。

4人の父親、鷹、葵、悟、勲と一緒に住む由紀夫はひょんなことから騒動に巻き込まれていく−。

読み終えての感想ですが、本作は純粋に面白かったです。あとがきで作者自身が語っていますが、本作は新聞に連載されていた作品で、執筆時期としては本屋大賞を受賞した「ゴールデンスランバー」よりも前になるそうで、伊坂幸太郎さんの第一期の最後の作品にあたるそうです。本作より後の作品である「魔王」や「モダンタイムス」には体制やシステムへ逆らおうとする人々の話が書かれていて面白さの中にもどこかしら政治的な意思を感じてしまうのに対し、本作にはそういったものがなくて純粋に楽しむことができます。

本作は伊坂幸太郎さんのテイストが満載ですね。洒脱なユーモア、張り巡らされた伏線の数々、ユーモア満載の中にほろりとさせる部分が入っているのも非常にうまいです。まさにこれぞ伊坂幸太郎、という感じで楽しく読めました。四人の父親もギャンブル好きの鷹、女性にもてる葵、真面目で博識な悟、筋肉質で教師の勲と、とても対照的な性格で描かれていていいです。また脇役の多恵子、牛蒡男、鱒二なんかもいい性格しています。

本作、基本はユーモア満載の作品なのですが、ちょっと考えさせられるのは由紀夫が思い浮かべる葬式の場面です。四人のうちの誰かが亡くなり、由紀夫と三人の父親で見送る−そんなシーンです。−父や母はいつか自分よりも先に死んでいく−。そんな当たり前のことを思い出させるシーンですね。これは父親が四人いようが変わらず、逆にそのように父や母が子より先に死んでいくのはその逆よりもよほど幸せで当たり前なことであるとは思います。−いつかは迎えるその光景を予想しつつも今を生きていく−。これが重要かもしれないです。

最近の伊坂幸太郎さんの作品は、面白いですがその中に結構深みがあって、考えさせられる部分が多かったのですが、本作は文庫化された「砂漠」みたいなテイストで、純粋に楽しく読める本でした。まあ、どちらも伊坂幸太郎さんらしいですね。伊坂幸太郎さんの作品は、合わない人にはおそらく全く合わないでしょうね。私はどちらのテイストも好きですが。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2010年03月03日

読書日記187:SOSの猿 by伊坂幸太郎



タイトル:SOSの猿
作者:伊坂幸太郎
出版元:中央公論新社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ひきこもりの青年の「悪魔祓い」を依頼された男と、一瞬にして300億円を損失した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空ーー。物語は、彼らがつくる。伊坂幸太郎最新長編小説。


感想--------------------------------------------------
 伊坂幸太郎さんの最新作です。本作は読売新聞に連載されていた作品で、漫画家:五十嵐大介さんと共同で構想した世界観に基づいてそれぞれに作り上げた作品の一つになります。五十嵐大介さんは「SARU」という本作と対になる作品を描かれていますね。

 本作「私の話」と「猿の話」という二つの話が交互に展開されていきます。「私の話」では遠藤二郎という男がひきこもりの青年の「悪魔祓い」を引き受けるところからスタートし、「猿の話」では株の大量誤発注の原因を調べる男:五十嵐真の視点で物語が進んで行きます。そして話が展開するに連れて微妙に交錯する二つの話と、時折見え隠れするご存知西遊記の主人公:孫悟空。物語がどこに向かうのか?どのような結末を迎えるのか?読んでいても全く想像がつきませんでした。

 本作には伊坂幸太郎さんらしいエッセンスがたくさん詰まっていますね。株の誤発注は何が原因なのか?悪いのは誰なのか?その原因を探ってもさらに新しい原因に突き当たり、結局何が悪いのか、なかなか判断がつきません。こういった点は「モダンタイムス」によく似ていると感じました。全てが複雑に絡み合い、全てに善悪の両面があるため「本当に悪いもの」がなかなか判別できない現代に対して、西遊記の世界では正しいのは三蔵法師や孫悟空で悪いのは妖怪たちとはっきりしています。ここらへんもうまく対比として使っているのかな、と感じました。

 あと構成の巧みさもやはり伊坂幸太郎さんですね。二つの話がどこでつながるのかと思いきや、三分の二を過ぎた当たりでうまく話が繋がり、「ああ、なるほどこういうことか」と納得させられます。ここら辺の上手さはさすが伊坂幸太郎さんです。

 ただ本作はどうも私は読み終えてもすっきりとはしませんでした。
 エクソシストや西遊記、システムのバグ問題やフロイト・ユングの心理学にまで踏み込んで様々な論を展開している一方で、そのどれもが中途半端というか、不完全燃焼な気がします。結末を迎えて物語を読み終えたときの印象も「で、それでどうなの?」と言った感じです。途中色々な謎や疑問は残されたままなんか結末だけポン、と与えられた感じです。新聞連載という枠組みの中だからなのでしょうか?本当に全部語ればはっきりすると思うのですが、いろいろと省略されている感じです。本作は300ページ程度の作品ですが、きっと本作で扱われている全ての要素に付いて語り尽くすには、本当はこの倍くらいはページ数が必要なのでは?と思いました。また、「SARU」を読めばいろいろと分かる部分もあるのかもしれませんね。

 モダンタイムズといい本作といい、伊坂幸太郎さんはなんかだいぶ難しいテーマに最近は取り組まれているような気がします。そしてどうもなかなか私はそのテーマについて行け無くなっている気もします。私なんかはどうしても本を読むとその本のテーマやメッセージについてばかり考えてしまいますが、本作中でも言っているようにそういうことに囚われること無く大きな目線でものごとを捉えて読むといいのかもしれませんね。
 伊坂幸太郎さんは次はどんな作品を出すのでしょうか?個人的には「重力ピエロ」や「死神の精度」、「砂漠」などが好きなので、ああいうテイストの作品が出てくれると嬉しいですが・・・次回作も楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2009年06月10日

読書日記136:重力ピエロ by伊坂幸太郎



タイトル:重力ピエロ
作者:伊坂幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とはー。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。



感想--------------------------------------------------
 何度も紹介している伊坂幸太郎さんの作品です。昔、読んだ作品ですが映画化されるということで読み直してみました。私は、本作と「死神の精度」が、最も伊坂幸太郎さんらしい作品かと思います。

 伊坂幸太郎さんの作品は張り巡らされた伏線、ウィットに富んだ会話が持ち味ですが、本作もその持ち味は十分に生きています。主人公:泉水とその弟:春の会話はウィットに富んでいるだけでなく温かさも感じられます。そして、物語を最後まで読んで分かる物語の全貌と張り巡らされた伏線の意図、泉水と春の本当の心情。素晴らしく良く出来た物語です。この方の作品の構成の巧みさにはいつも驚かされます。

 本作で最も強調されているのは間違いなく「家族の絆」です。泉水、春、そして二人の両親が過去の悲しい出来事を乗り越えて、日々を前向きに生きていく姿はいいですね。ともすればお涙頂戴的な展開になりそうな物語を、ユーモアと優しさでうまく支えていると思います。なにより心に残るのはやはりタイトルの元となった「重力ピエロ」のフレーズでしょうか。

「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」
「その通り。わたしやあなたは、そのうち宙に浮かぶ」

以前、本作を読んでから何年も経つのに、不思議とこのフレーズだけは忘れませんでした。
ともすると、皮肉や嫌み、あてこすりに満ちた言葉ばかり発してしまう大人が多い中で、こんな前向きな、ユーモアに満ちた言葉を発することが出来る親を持った子供達は幸せだ、と私はつくづく思います。

 本作、まさに今、映画化されて上映中ですね。
 泉水を加瀬亮さん、春を岡田将生さん、父親を小日向文世さん、母親を鈴木京香さんが演じているそうです。原作の雰囲気に近い役者さんばかりですね。あと、夏子さんを吉高由里子さんが演じていますね。吉高由里子さんはドラマ:「ラブ・シャッフル」や「白い春」に出ていますがとても演技力のある女優さんだと思います。本作でどんな演技を見せてくれるのか楽しみです。

家庭の事情により映画館に足を運ぶのは難しいですが・・・、そのうち見てみたい作品です。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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2009年04月29日

読書日記128:陽気なギャングの日常と襲撃 by伊坂幸太郎



タイトル:陽気なギャングの日常と襲撃
作者:伊坂幸太郎
出版元:祥伝社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
人間嘘発見器成瀬が遭遇した刃物男騒動、演説の達人響野は「幻の女」を探し、正確無比な“体内時計”の持ち主雪子は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリの久遠は殴打される中年男にー史上最強の天才強盗4人組が巻き込まれたバラバラな事件。だが、華麗なる銀行襲撃の裏に突如浮上した「社長令嬢誘拐事件」と奇妙な連鎖を始め…。絶品のプロット、会話、伏線が織りなす軽快サスペンス!伊坂ブームの起爆剤にして、映画化で話題の「陽気なギャング」ここに待望の復活。



感想--------------------------------------------------
今、最も売れている作家の一人、伊坂幸太郎さんの作品です。本作は「陽気なギャングが地球を回す」の続編的な位置付けになります。ストーリー自体はつながってはいないのですが、成瀬、響野、雪子、久遠の四人の登場人物は共通しています。ですので、まずは本作を読む前に「陽気なギャングが地球を回す」を読んだ方が、よく話がわかります。

誘拐された筒井ドラッグの令嬢:良子を追う四人だが・・・。

 本作、巧妙な伏線、軽快な会話、というのは他の伊坂作品と同様に素晴らしいです。特に主人公四人の軽快でユーモアに富んだ会話は他の伊坂作品と比べても群を抜いているのではないでしょうか。私が一番最初に読んだ伊坂作品が「陽気なギャングが地球を回す」だったのですが、他の小説と一線を画すその軽快な会話に圧倒されたのを覚えています。

 一方で、本作には「モダンタイムス」のようなメッセージ性は全くありません。よくも悪くも「娯楽」として楽しめるストーリーになっています。なんか軽い本を読みたいな、という方にはお勧めです。この「陽気なギャング」シリーズは先にも書いた巧妙な伏線、軽快な会話が最大限生きていますので、ある意味最も伊坂幸太郎さんらしい作品、ということができますね。

 「陽気なギャング」シリーズは二作しか出ていませんが、本シリーズから伊坂作品にのめり込んでいった方も、私のように多いのではないでしょうか。最近伊坂幸太郎さんの作品にはちょっと重い内容のものが多いですので、こういった軽めの本がまた出てくるととてもうれしいですね。三作目も期待しています。

 余談ですが、「ラッシュライフ」まで映画化されるのですね・・・。この方の作品はいったい何作映画化されるのでしょうか。凄いですね・・・。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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2009年04月18日

読書日記127:モダンタイムス  by伊坂幸太郎



タイトル:モダンタイムス
作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
検索から、監視が始まる。 漫画週刊誌「モーニング」で連載された、伊坂作品最長1200枚。


感想--------------------------------------------------
実家に忘れてきました。何を?勇気を。
そんな印象的な言葉で始まる、「ゴールデンスランバー」などで有名な伊坂幸太郎さんの最新作です。本書は同じく伊坂幸太郎さんの作品である「魔王」の数十年後の世界の話になっており、「魔王」で登場した人物も何人か登場します。ですので、事前に「魔王」を読んでおくと、本書をさらに楽しむことができます。

 システムエンジニアの渡辺は、ある言葉を組み合わせてネットで検索すると検索した人間が酷い目に遭うことに気づいた。ネットのむこうにある真実とは?システムの正体とはー?

 本書のタイトルである「モダンタイムス」は数十年も昔のチャールズ・チャップリンの名作、「モダン・タイムス」から来ています。資本主義社会の中で機械の一部のように働く人間を描いた本作は、資本主義社会を風刺した作品としても有名です。

 本作の主題もチャップリンの「モダン・タイムス」とほとんど同じです。ネットの裏で、検索をかけた人間に対して酷いことを行っていたのは悪人でも悪の組織でもなく"資本主義国家"という名前の形の無いシステムでした。その資本主義国家という"システム"の一部となり、「仕事だから」、「そういうことになっているから」という理由で他人を痛めつけることでも何でも行う人々の姿はチャップリンが描いた資本主義社会の部品となった人間の姿と重なります。そして、またそのシステムの一部となっている人間達の姿は我々現代(モダンタイムス)を生きる人間の姿とも重なります。

 「仕事だから」、「そういうことになっているから」、「仕方がないことだから」。そんな理由をつけて、我々人間はシステム化された資本主義社会のルールに従っていろいろなものを切り捨てて生きていきます。時に切り捨てられたものの中には、人間らしさや優しさ、他人に対する思いやりといった大切なものが含まれていることもあります。この小説はそんな我々に警鐘を鳴らしているようにも見えます。「そのルールに従う必要があるのですか?」、「"仕事だから"という理由で大切なものを捨てていませんか?」、「本当に大切なものは何ですか?」と。

 本作、伊坂幸太郎さんの作品らしく、至る所に印象的な言葉が出てきます。「人はそれが"仕事"であればどんなことでもやる」というナチスのアイヒマンの言葉の引用などがそれにあたりますが、最も印象に残った言葉は、やはりチャップリンの代表作である「ライムライト」の中の言葉、「人生を楽しむには勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい」という言葉でしょうか。いい言葉だと思います。そして、人生を楽しむにはシステムの裏側を覗き、既存のルールを疑うことへの"勇気"が必要だよ、と言っているようにも見えます。

 人は国家といった大きな世界の前では本当に無力です。本作の中に出てくる作家:井坂好太郎は「小説で世界を変えたかった」という言葉を発します。(この言葉は本書の作者:伊坂幸太郎さんの言葉でもあるかと思います。)結果として主人公達は、大きな世界を変えることは出来ないけれど、小さな世界である目の前の困っている人を変える・助けることは出来ると気付いていきます。この姿がまた素敵です。

 最近はこのような"目に見えないシステム・社会・不安"と戦い、足掻く作品が多いですね。このブログで紹介した「不器用な赤」や「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」もそうでしょうか。最悪の不景気に見舞われ、テレビをつければ80-90年代の歌謡特集などばかり目立って、かなり行き詰まった感のある今の日本社会では、誰もが少しずつ"資本主義社会"というシステムに疑問やいら立ちを持ち始めているのでしょう。本作、伊坂幸太郎さんの集大成と言える作品と感じましたが、次はどんな作品を出してくれるのでしょうか?楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 15:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする