2013年04月20日

読書日記411:あるキング by伊坂幸太郎



タイトル:あるキング
作者:伊坂幸太郎
出版元:徳間書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
この作品は、いままでの伊坂幸太郎作品とは違います。意外性や、ハッとする展開はありません。あるのは、天才野球選手の不思議なお話。喜劇なのか悲劇なのか、寓話なのか伝記なのか。キーワードはシェイクスピアの名作「マクベス」に登場する三人の魔女、そして劇中の有名な台詞。「きれいはきたない」の原語は「Fair is foul.」。フェアとファウル。野球用語が含まれているのも、偶然なのか必然なのか。バットを持った孤独な王様が、みんなのために本塁打を打つ、そういう物語。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの少し前の作品です。「あるキング」のキングは野球の王様のことを指します。弱小チーム仙醍キングスに入ることになる野球の王、山田王求の生涯を語った本です。

仙醍キングスの熱烈なファンである山田家に生まれた王求(おうく)。野球の王になるべくして生まれた彼には、しかし波乱万丈の生涯が待っていた−。

本書を読み終えて感じることですが、実に伊坂幸太郎さんらしい作品です。あとがきに、「自分の好きなように書いた」とありますが、まさしくその通りで、伊坂テイスト満載の作品です。

読み始めてすぐ分かるのですが、本作はシェイクスピアの作品、「マクベス」の設定をいたるところで流用しています。マクベスの有名な文章、"Fair is foul,and foul is fair."を基に「フェアはファウル、ファウルはフェア」として野球の言葉として使っていますし、マクベスに登場する三人の魔女になぞらえた黒ずくめの三人組がいたるところで現れます。従ってマクベスを読んでいるとより楽しめるのでしょうが、読んでいなくても十分に楽しめます。(ちなみに私はマクベスは未読です。)

物語は王求の生涯を追う形で少しずつ進んでいきます。野球の王となるべくして生まれた王求が、親や友人達に小さくない影響を与えながら成長していく姿が、伊坂幸太郎さん独特のユーモアと洒落っ気に満ちた筆致で描かれています。王求のために全てを捧げる両親、王求に何とかつなごうとする野球部の友人、王求を何とかプロ野球選手にしようとするバッティングセンターの管理人−。

物語を通じて、王求本人の視点から物語が語られることはあまりなく、王求の才能に惹かれた人々の視点からの語り口で物語りは展開していきます。その特異な王となるべき才能は多くの者をひきつけずにおかず、その才能は多くの人々の人生を変えていきます。

「お前の本塁打が世の中の、不安や苦痛を、悲しみや恐怖をごっそり宇宙にまで飛ばすこともできる」

本書で印象に残った言葉です。恐らくプロ中のプロ、まさにキングとまで呼ばれるに至った人にはそのような力があるのだろうな、と直感的に感じさせます。これは野球に限った話ではないですね。プロの放つ才能に満ちた芸術的な一撃はどんな分野であれ見るものに感動と衝撃を与え、その言葉通りに不安や苦痛を、悲しみや恐怖を吹き飛ばしてしまうのでしょう。

王と呼ばれる者だけが持つその得意な才能を目の当たりにした者達は皆、その才能に酔いしれますが、一方で本人にはその才能を発揮できる時間は限られているのかもしれません。ただ、そのような才能を持つ者はいつまでも現れ続け、人を魅了し続けるのだということを暗示させる本作の終わり方は、やはり伊坂幸太郎さんの作品らしくて好きです。

さて次の伊坂作品は「残り全部バケーション」を読もうと思います。伊坂作品の独特のテイストは人を選ぶかと思いますが、私は好きです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2013年01月02日

読書日記391:夜の国のクーパー by伊坂幸太郎



タイトル:夜の国のクーパー
作者:伊坂幸太郎
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからないー。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの書き下ろし作品です。あとがきに書かれていますが、本作は書き下ろしのちょうど十作目にあたるそうですね。これもあとがきを読んで初めて知ったのですが、伊坂幸太郎さんの作品は、本作も含め、大江健三郎さんの作品に大きな影響を受けているそうです。

鉄国の兵士達に占領された小さな国の猫、トムは蔓に縛られた人間に出会う−。

本作はこれまでの伊坂作品と一味違った作品です。これまでの伊坂作品は、超能力が出てきたり、死神や孫悟空といった不思議な存在がでてきたりはしますが、あくまで現実世界が舞台でした。しかし本作の舞台は現実の世界とは異なる世界です(一応、繋がってはいるようですが…)。この点が物語りに大きな違いを生み出しています。猫が喋ったり、杉の木が動いたりと、どこか御伽噺のような印象も受けます。

物語の語り口は伊坂幸太郎さんの作品らしい語り口です。猫の視点からユーモアを交えながら人間の行動を描くその描き方は、非常にこの方らしいです。また物語の組み立て方もやはりこの著者らしく、最後に明かされる謎と相まって、うまいです。

しかし一方で物足りなさも感じます。いろいろとその理由を考えてみたのですが、その最たるものはやはり緊迫感のなさかな、と思いました。「グラスホッパー」や「マリアビートル」、「ゴールデンスランバー」などでは、主人公が追われていたり、何か使命を抱えていたりして、さらに登場人物が次々と殺されていったりと物語がめまぐるしく動き、先の読めない緊張感が物語りに常に漂っていました。しかし本作にはその緊張感や活気が感じられません。猫が主人公だからというわけではないでしょうが、どこか物語がのんびりしていて、引き込まれる感覚があまりないのですね。(それでも飽きずに最後まで読ませてしまうあたりはさすがと言えると思いますが。)

物語の展開もさほど激しくなく、大きな事件もそんなに起こらず、主人公に危険が及ぶわけでもないのでどこか他人事のような感じがしてしまうのですが、それでも最後まで読ませ、最後に明かされる謎で読者を唸らせるあたりはさすがです。しかし単純なミステリとして見てしまうと少し間延びした感がありますし、伊坂幸太郎の作品として読むと、エンターテイメント性や、物語の内に秘められた思いも、そんなに強くは感じられはしませんでした。ただ、こうした作品は伊坂幸太郎さんとしては初めてかと思いますので、今後こうした分野でも十分に面白い作品を出されるのだろうな、という予感のようなものは十分に感じさせる作品でした。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2012年11月21日

読書日記386;PK by伊坂幸太郎



タイトル:PK
作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
その決断が未来を変える。連鎖して、三つの世界を変動させる。こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が見ている未来とはー。未来三部作。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。ようやく読むことができました。最新作「夜の国のクーパー」はまだ暫く読むことができなさそうです。

ワールドカップの最終予選、その日、絶不調だった小津はなぜPKを決めることができたのか−?

本作は「PK」、「超人」、「密使」の三編からなる中編集のような作品です。各話は微妙に繋がりがある内容になっていて、それがいい味を出しています。そして、各話の中でも場面や視点、時代が次々と変わり、ばらばらだった話が一つの結末に収束していきます。このあたりの物語展開のうまさや、文章に散りばめられた思わずニヤッと笑ってしまうようなウィットの数々はやはり伊坂幸太郎さんだなあと思います。感じ方は人それぞれだと思いますが、個人的には、本当に読んでいて楽しいです。

ストーリーは何て言うのでしょうね、最近のこの著者の作品らしく、かなり抽象的です。自分の信念を貫くことや、勇気、そういったことがテーマなのだろうな、って思います。なんかよくわかるような、わからないような内容なのですが、凄く楽しく読めてしまい、そして読み終わったときに、なんかすっきりとする読後感が残ります。このあたりは本当にうまいです。

日常的らしい場面を描いているのに、ところどころに非日常的な描写が出てくるのも本作の特徴かもしれません。スーパーマンが現れたりとか、時間を止めたりとか、未来を予知したりとか。でも伊坂ワールドではそこがあまり違和感なく、すんなりと書かれてしまうんですよね。「SOSの猿」の孫悟空のように。そこがまたいいんですが。

伊坂幸太郎さんの作品は、初期の「重力ピエロ」や「死神の精度」といった作品に対して、最近の「モダンタイムズ」や「SOSの猿」では「システム」のような少し難しい、抽象的な概念を扱っていると感じることがありました。本作でもその抽象的な概念を扱っていることは扱っているのですが、中編集という作品柄か、その扱い方がこれまでの作品に比べてだいぶ軽いなあと感じます。そして扱いが軽い分、読むほうも軽く読めてしまいます。結果、扱っているのは抽象的で難しい概念なのに、すごく読みやすくて面白いなあ、と感じました。

『勇気は伝染する』、『勇気はそれを持った人にしか教わることができない』
本作で使われているこれらの言葉は、すごく胸に染みます。このような言葉を大袈裟ではなく簡単に軽く使って、読み手を感動させる、というのも伊坂幸太郎さんの持ち味だなあって感じます。こういったところはどの作品でも共通しているように感じました。

まだまだ伊坂ワールドは堪能したいですね。「夜の国のクーパー」も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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タグ:伊坂幸太郎
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2011年02月16日

読書日記255:マリアビートル by伊坂幸太郎



タイトル:マリアビートル
作者:伊坂幸太郎
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込みー物騒な奴らが再びやって来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き下ろし長編。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。本作は「グラスホッパー」の続編的な位置付けですね。物語は違いますが、「グラスホッパー」に登場した人物が何人も登場します。

東京発盛岡行きの新幹線「はやて」に乗り合わせた殺し屋たち。一つのトランクを巡って殺し屋たちの狂想曲が幕を開けるー。

伊坂幸太郎さんらしい作品です。何も考えずに、純粋に娯楽として読める本です。
本作は東京発盛岡行きの新幹線「はやて」を舞台に、何人もの殺し屋たちの視点を切り替えながら物語が進んでいきます。息子を殺されそうになった「木村」、「木村」の息子を殺そうとした中学生の「王子」、トランクと人を運ぶように依頼された二人の殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、最高に不運な「七尾」。各人の思惑を乗せて新幹線は東京駅を発車します。

印象的なのは各人の個性の描き方です。人を絶望させることを何よりも快感と感じる「王子」や元アル中の「木村」、機関車トーマスが大好きな「檸檬」に文学好きな「蜜柑」、そしてお人好しで自分の不幸をどこまでも呪い続ける「七尾」。この各人の個性の描き方がずば抜けているため、物語がとても生きています。個人的には「王子」の描き方がうまいと思いました。読み手の誰もが頭に来るのは、きっとこの「王子」ではないでしょうか。

物語は中盤から後半にかけてさらに登場人物が増えていきます。そしてその誰もが「物騒な奴ら」です。本当に笑ってしまうほど誰もが悪人です。(善人は「グラスホッパー」にも登場していた人物、一名だけですかね。)しかしこの「物騒な奴ら」は皆、決して憎めません。その誰もがどこか愛嬌を持ち、己の哲学を持っているため、どこか愛しささえ感じてしまいます。物語が進むに連れて一人、又一人と舞台を去っていくのですが、ちょっとした寂しささえ感じてしまいます。本作は映画で言えばB級アクション映画かもしれません。しかしその作りは精巧です。

本作にも伊坂作品ならではの細かい伏線がいろいろと張り巡らされています。しかし本作ではそれが炸裂することよりも、その伏線はダミーであり、他のところで驚かされることが多いように感じました。特に物語り後半で登場する二人組や、グラスホッパーにも登場した押し屋の役割には驚かされます。うまく読み手の期待を裏切って、それ以上の驚きを用意しているように感じられました。あと、物語の後半でタイトルである「マリアビートル」の意味が分かります。(既に御存知の方もいらっしゃるかもしれません。)「グラスホッパー」の続編だと言われればなるほど、という意味でした。

本作は2010年度のこのミスでも多くの人が一位に推している作品です。総合順位は六位とそんなに高くはありませんでしたが、物語の作りだけなら文句無しの一位ではないでしょうか。最近は「モダンタイムズ」や「SOSの猿」でちょっとこれまでと違う路線に行こうとしていた伊坂幸太郎さんですが、本作のような従来のテイストの作品も文句無く面白いですね。次回作にも期待です。




総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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2010年11月13日

読書日記240:バイバイ、ブラックバード by伊坂幸太郎



タイトル:バイバイ、ブラックバード
作者:伊坂幸太郎
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「理不尽なお別れはやり切れません。でも、それでも無理やり笑って、バイバイと言うような、そういうお話を書いてみました」(伊坂幸太郎)。

太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語!


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。伊坂幸太郎さんの作品としては今、最新作の「マリアビートル」が発売されていますね。本作はその一作前の作品となります。

五人の女性と交際していた星野一彦は、不幸が重なり<バス>に乗せられて遠くに連れられていくことになってしまった。一彦は遠くに行く前にそれぞれの女性と別れるため、巨漢の女性繭美とともに女性たちを訪れていく−。

本作は全六章で構成されており、五章までは一章ごとに一人の女性との別れのエピソードが描かれています。そして六章で一彦のその後が描かれています。女性は一般女性や子持ちの女性、ちょっとエキセントリックな女性に女優と、様々です。それぞれの個性をうまく描きわけながら、それぞれの女性に対してちょっとしたエピソードが展開される、というストーリーになっています。

本作も本当に伊坂幸太郎さんらしい作品です。独特の語り口は健在で、それぞれ異なる個性の女性との別れをユーモアたっぷりに描いています。特にいい味を出しているのが巨漢の怪獣のような女性、繭美の存在です。文章を読んでいる限り本当に女なのか疑いたくなるような人物ですが、この女性の傍若無人振りが物語りにいいアクセントを与えています。「チルドレン」に出てきた陣内のような存在ですね。「砂漠」にも似たようなキャラクターが出てきました。伊坂幸太郎さんの作品ではときどきこのような強烈な個性を持つキャラクターが現れては物語を引っ掻き回していき、物語にいい刺激を与えていますね。

各女性とのエピソードは思わず笑ってしまいつつも、最後にはほろっと感動させるような何かが隠されています。この作りが絶妙にうまい。これはさすが伊坂幸太郎さんですね。物語はやや尻切れトンボ的なイメージがあって、もう少し先まで書いてくれればよかったのにな、なんて思いもしましたが、よいつくりであることは間違いありません。

また、本作は太宰治の作品「グッド・バイ」に刺激を受けて書かれたとのことです。「グッド・バイ」も本作同様、主人公が様々な女性に別れを告げに行く話しですね。

本作、伊坂テイストの生きた、ファンには確実にお勧めの本です。ちなみに私は最後まで繭美がマツコ・デラックスさんに見えてしょうがありませんでした。映像化されるとしたら繭美役はマツコさんで確定でしょうね。主人公はやはり加瀬亮さんあたりになるのかな−。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 23:57| Comment(0) | TrackBack(1) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする