2017年02月04日

読書日記627:サブマリン



タイトル:サブマリン
作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。そうだろ? いつもの仕事と一緒だ。俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目な時は駄目だ」/「でも」/うるせえなあ、と言いたげに陣内さんが顔をしかめた。/「だいたい陣内さん、頑張ってる時ってあるんですか?」/と僕は言ったが電車の走行音が激しくなったせいか、聞こえていないようだった。(本文より)

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。「チルドレン」と同じ家裁調査官の陣内さんと武藤くんが活躍する作品です。主人公の陣内さんのキャラクターがとても生きているシリーズですね。傍若無人で無茶苦茶だけど人情味のある陣内さん。この人のキャラクターがとてもいいです。

陣内さんと武藤くんは無免許運転で死亡事故を起こした少年の調査を受け持つことになった。その少年は過去に両親と友人を事故で失っていたー。

本作のテーマは「人生の中のどうしようもないことに、どうやって向き合うか」ということかと思います。この作品の中には陣内さんと武藤くんが受け持つ事故や犯罪の関係者が何人か出てきますが、その多くが、「どうしようもないこと」に人生を翻弄されています。

故意ではないのに人を死に追いやってしまった人。最愛の人を不慮の事故で亡くした人。そうした登場人物を通して著者は読者に様々な答えのない問いをぶつけてきます。「善意を持っているのに人を死に追いやってしまった人」と「悪意の塊なのに人をまだ死なせてはいない人」ではどちらが問題なのか、悪人なら殺してもいいのか、などは答えの決して出ない問いです。一般人の多くはこうした問いとは遠いところで生きていくことができますが、不幸にしてこうした問いを突き付けられてしまう人もいて、そうした人たちを陣内さんと武藤くんは真摯に見つめていきます。

非常に扱いが難しいこのようなテーマをよく作品にできたな、というのが正直な感想です。答えの出ない問いを突き付けられたまま、あるいは予期せぬ事故で人殺しの汚名を一生背負ったまま生きていくことになってしまった人というのは確かに存在して、そうした人たちの生き方をしっかり見つめている、と強く感じました。陣内さんと武藤くんのキャラが重くなりがちなテーマを軽くしていて、読み進めることができます。

眼の見えない永瀬や、チャールズ・ミンガス、ローランド・カークといったミュージシャンを通して著者が訴えたかったのは、「それでも生きていた方がいいに決まっている」ということかな、と感じました。人生は答えのない問いに溢れている。絶望的な状況に追い込まれ、「自分なんかが生きていていいのだろうか」と考えてしまうこともある。でも、それでも生きていい方がいいに決まっている。その強さが上記のミュージシャンたちや陣内さんからは感じました。

傍若無人の陣内さんの話、おもしろいです。このシリーズももっと続きが読みたいですね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年10月29日

読書日記616:3652 by伊坂幸太郎



タイトル:3652: 伊坂幸太郎エッセイ集

作者:伊坂 幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
エッセイが得意ではありません―。自らはそう語る伊坂幸太郎がデビュー以来ぽつぽつと発表した106編のエッセイ。愛する小説、映画、音楽のこと。これまた苦手なスピーチのこと。憧れのヒーローのこと。趣味を語る中にも脈々と流れる伊坂的思考と、日常を鮮やかに切り取る文体。15年間の軌跡を辿った、初のエッセイ集。裏話満載のインタビュー脚注に加え、幻の掌編2編を収録。

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんのエッセイ集です。「3652」というタイトルは10年という意味だそうです。"2"はうるう年の2ですね。3652日です。ただ、文庫本の本書では15年分のエッセイが掲載されています。

エッセイの内容は、様々ですが、好きな本や音楽、映画について語られた内容が多いです。あとは干支の話ですね(笑)。毎年、その年の干支にちなんだエッセイを書かれており、そのネタ探しに苦しんでいる様がよく伝わってきます(笑)

エッセイの中身は伊坂幸太郎さんならではですね。肩の力の抜けるようなユーモアと、本や音楽への情熱に溢れています。本書の中で伊坂幸太郎さんは様々な本を推薦していますが、ほとんど読んだことがないんですよね。打海文三さんの作品は読んでみようと思いました。あらすじをアマゾンで読んでみましたが、私好みでもありそうです(笑)。

”いつだって私は世の中のことが心配だ”

著者が後半に書いていた言葉です。しかし、この方の作品を読んでいると、あまりそれを感じさせません。そこがいいところなんでしょうし、伊坂作品が受ける理由かな、とも感じました。切羽詰って余裕がなくなっていくばかりの世の中では、伊坂作品に出てくるユーモアや、切羽詰っているのにどこか面白みを感じさせる登場人物が受けるのかな、なんて感じました。

嬉しいことに、本書に出てくる伊坂作品は全て読んでいました。また次回作も楽しみにしています。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年03月13日

読書日記583:ジャイロスコープ by伊坂幸太郎



タイトル:ジャイロスコープ
作者:伊坂幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時…”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。様々な書籍に書かれた短編を集めた短編集ですね。この人にしては珍しく、文庫です。

本書には全七編の短編が掲載されていますが、それぞれ伊坂作品らしい作品もあり、チャレンジしているな、と思わされる作品もあり、でもやはりどれも伊坂幸太郎作品らしく、ファンとしては楽しめる作品ばかりでした。

本書の中で最もよかったのは「彗星さんたち」ですね。「彗星さん」とは新幹線の清掃係の方たちのことです。東京駅の東北新幹線のホームに行くとよく眼にしますよね。私もよく新幹線使うので眼にすることが多いですが、彼らの会話が中心で成り立っているこのお話は絶妙です。彗星さんたちの心使いやお互いを思いやる会話、そこに微妙に絡むちょっとした謎。読み終えて少し温かい気持ちになるいいお話です。「一人では無理がある」もいいお話ですね。ほっこりとするお話でした。

チャレンジしているな、と思わされたのは「ギア」ですね。近未来を舞台にした、変な生き物の出てくる話です。この話には続編的な話もあるようで、いつか読んでみたいと思いました。

その他の「浜田青年ホントスカ」や「if」、「二月下旬から三月上旬」は伊坂作品っぽいですね。少し謎があり、伏線があり、ユーモアがあり、と安定の面白さでした。そして最後の「後ろの声がうるさい」が全ての話をまとめるお話、という位置付けです。

本書は短編集ですので、長編ほどの重さやボリュームは感じません。しかし伊坂ファンなら読みでしょうね。また最後にデビューから十五年を迎えた伊坂幸太郎のインタビューが載っていました。様々な作品について触れているのですが、私はそこに書かれている全ての作品を読んだことがありました。読んできたなーという感じですが、飽きは全く感じません。この先も伊坂ワールド、楽しみにしています。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2015年09月06日

読書日記557:火星に住むつもりかい?



タイトル:火星に住むつもりかい?
作者:伊坂 幸太郎
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが…。今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?そのとき!全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。全く予備知識なく本書を開きました。タイトルである「火星に住むつもりかい?」から火星に関係したお話なのかと思っていましたが、これは一種の反語表現に過ぎないことが読んでいてわかりました。伊坂テイスト全開のお話です。

平和警察が住民を支配し、怪しい者を処刑する近未来。そんな平和警察に立ち向かう全身黒ずくめで謎の武器を操る「正義の味方」が現れる。彼の正体は?そして世界はどうなっていく?

伊坂作品の中では「魔王」や「モダンタイムズ」と似たテイストの作品です。この二作品が「システム」というやや抽象的なものを敵としていたのに対し、本作では「平和警察」という明確な敵が描かれています。他の伊坂作品にも通じる少しユーモアを交えたような、外したような描写は健在です。ただ、平和警察による拷問、処刑のシーンがかなり克明に描かれていてそこは少し読むのがきついですね。苦しむ人の描写は描く側も読む側もきついのだとは思いますが。

物語は、平和警察により害を受ける人々、つなぎのヒーローに助けられる人々、そして”ヒーロー”の正体を調べる平和警察の捜査官、さらにある理容室の一室の描写を交えながら進んでいき、後半で物語が大きく動いていく、という作りになっています。個人的に特に印象に残ったのは、第三章の”ヒーロー”の生い立ちの部分ですね。悲しみと、苦しみの中から生まれたヒーロー。その生い立ちは胸を打ちます。どこまでも生々しく、偶然に登場することになるこのヒーローの描き方はとてもうまい、と感じます。物語の結末も意外性があって、とてもいいです。ここはネタバレになるので書きませんが、どんでん返しがあったりして、満足のいくものでした。


世の中がよくなることはない。でも、この世界で生きていくしかない。それが嫌なら火星にでも行って暮らすしかない。


この世界で生きていくことの覚悟をつきつけるような一文です。どのようなヒーローが現れたとしても、世の中が急激に変化することなんてあり得ない。たとえ変化しても、その揺り戻しがいつかは現れ、元に戻る。それでもこの世界で生きていくしかない。厳しい文ですが、いい文でもあると思います。本当に、その通りだと感じます。次の作品も楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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2015年04月12日

読書日記536:アイネクライネナハトムジーク by伊坂幸太郎



タイトル:アイネクライネナハトムジーク
作者:伊坂幸太郎
出版元:幻冬舎
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL…。情けないけど、愛おしい。そんな登場人物たちが作り出す、数々のサプライズ。

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。「アイネクライネナハトムジーク」という本書のタイトルは小夜曲とも称されたモーツァルトの有名な曲ですね。誰しもが聞いたことのある曲ではないでしょうか。本作も本屋大賞にノミネートされた作品です。

本書には「アイネクライネ」、「ライトヘビー」、「ドクメンタ」、「ルックスライク」、「メイクアップ」、「ナハトムジーク」の六編が掲載されています。「メイクアップ」までの五編が緩く繋がり、最後の「ナハトムジーク」でそれまでの話がまとまっていく、というストーリーです。あとがきにも書かれていますが、本書の最初の二編はミュージシャンである斉藤一義さんの楽曲とコラボする形で書かれています。二作目の「ライトヘビー」をはじめとして歌を売る人として「斉藤さん」というのが登場しますが、これはこのミュージシャンの斉藤さんから取っているのでしょうね。

本作は伊坂作品にしては珍しく、全編にわたって恋愛要素が満載です。また殺人要素はゼロです。なので安心して読めるのですが、伊坂作品は恋愛作品もいいですね。一般的な恋愛作品とは違って、ほのぼのとしているというか、伊坂作品ならではのユーモアが散りばめられていて、読んでいてとても楽しくなります。べたべたしていたり、悲壮感があったり、というわけではなく、笑って話せる恋愛という感じでそれがすごくいいです。最後の「ナハトムジーク」では現在と過去が入り混じりながら物語を結末に導いていくのですが、笑って終われるこの結末がまたすごくいいと感じました。

本作には一つの鍵としてボクシングのヘビー級のタイトルマッチの試合が出てきます。伊坂作品である「あるキング」にも野球が出てきましたが、どちらの作品にも共通しているのは、スポーツというものに観客の期待を載せて描いている点だと感じました。見る人の思いが伝わるから、その思いが乗るから、スポーツは面白いんでしょうね。そしてそうしたスポーツの見方をとても丁寧に描いていると感じます。

伊坂作品はまた最新作として「火星に住むつもりかい?」が出ていますね。こちらも楽しみに読んでみたいと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
posted by taka at 20:16| Comment(0) | TrackBack(1) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする