2016年08月20日

読書日記606:「子供を殺してください」という親たち



タイトル:「子供を殺してください」という親たち
作者:押川 剛
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘…。究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する。現代人必読、衝撃のノンフィクション。

感想--------------------------------------------------
ショッキングなタイトルに手に取ってみました。本書は精神障害者移送サービスを営む著者が、その体験を通して統合失調症やパーソナリティ障害に陥った子供たちやその親の事例、さらにはそうした人々への社会的なサポート体制、法的整備にまで言及した本です。

「子供を殺してください」というタイトルはやや大げさに過ぎるのではないか、と感じていたのですが、読み始めてすぐにその感覚が誤りであることがわかります。本書で紹介されている事例で扱われている人々は本当にぎりぎりのところで患者である家族と向き合っています。

入院した子供から「殺すぞ」という脅しの電話が日に何十回もかかってくる家庭、刃物で切りかかってくる息子、徹底的に両親を束縛し自由を完全に奪い取る息子とその言いなりになる両親。この本で紹介されている家族の有り様に読んでいて絶句します。精神的にも肉体的にも経済的にも追い込まれていく家族は、いまの日本では増えているそうです。

本書ではそのショッキングな数々の事例の紹介の後に、いまの社会的なサポート体制や、診療報酬の観点から患者の受け入れを拒む医療施設、改悪ともいえる精神保健福祉法の改定について説明していきます。なにより恐ろしいのは、本書の事例でも紹介されているような、明日にも凶悪犯罪を引き起こしかねない患者を「地域でサポートさせる」方向に法律が変化している点です。結果として、医療機関は手を引き、地域行政は患者を持て余し、事件を起こして初めて警察に引き取られる、ということになるようです。これまでにもこのような行政・司法の在り方が原因で失われた命もあるのかと思うと、本当に残念でなりません。先日の相模原での痛ましい事件についてはどうなのでしょうね。推測の域を出ませんが、あの事件の加害者も「いつか何か起こす」と周囲から思われていたようですので、この例の一つなのかもしれません。

本書の最終章では、「本人に問題があるケースでは、多分にしてその家族にも問題があり、家族も含めてケアすることが必要」と書かれています。先日紹介した「言ってはいけない」では本人のパーソナリティの八割近くは遺伝的な要素で決まるとのことですが、逆に言えば残りの二割は環境要因で決まるわけで、家族の有り方、協力、心の持ち方は非常に重要であることをしみじみ感じました。

本書で著者は、対象者をスムーズに医療や福祉、司法に繋げるための警察官OBによるスペシャリスト集団の設立を提唱しています。公の施設ですとなかなか介入しにくいところにもこうした組織なら介入できると思いますので、ぜひ設立すべきかと感じます。

本書では数々の事例が扱われていますが、その事例に共通していると感じたのは、「どのケースでも家庭は比較的裕福である」ということです。だからこそ、著者の運営する施設に相談に行けるのですが、逆に言うとどこにも相談できず、経済的にも破たんしている表にも出てこない家庭というのが多くあることも容易に想像できます。あとがきにも書かれている通り、「個」の尊重が優先される今の時代、こうした本当に支援が必要な人にこそ公の支援が届くようにならないものか?と思う次第です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年08月13日

読書日記605:言ってはいけない―残酷すぎる真実―



タイトル:言ってはいけない―残酷すぎる真実―
作者:橘 玲
出版元:
その他:

あらすじ----------------------------------------------
この社会にはきれいごとがあふれている。人間は平等で、努力は報われ、見た目は大した問題ではない―だが、それらは絵空事だ。進化論、遺伝学、脳科学の最新知見から、人気作家が明かす「残酷すぎる真実」。読者諸氏、口に出せない、この不愉快な現実を直視せよ。

感想--------------------------------------------------
本書は最近のベストセラーとなっていた本です。面白そうなので買ってみました。

ひと言で言ってしまうと、「人間はほぼ遺伝子に支配されている」ということを様々な事実や研究データをもとに示した本です。身体能力はさることながら、知能、疾病、犯罪歴、などなど、人生の大半は遺伝子に支配されているー。つまりは人間は生まれながらに平等でもないし、努力すれば必ず叶う訳でもないということを、明確に示した本です。まさに「言ってはいけない」わけです。

「努力は遺伝に勝てないのか」、「あまりにも残酷な美貌格差」、「子育てや教育は子供の成長に関係ない」の三つの章からなる本ですが、特に興味を持って読んだのは最後の「子育てや教育は子供の成長に関係ない」ですね。親として当然、興味を持つ箇所ですが、本書によると知能や音楽、スポーツといった能力はほとんど遺伝に支配され、唯一影響を及ぼすのは子供の所属する友達グループですが、親の教育効果はほとんどないと書かれています。親のできる事はあまりに少ない、親からの教育はなんなのか、、、と思う反面、自分が子供の頃を思い出すとなんとなく納得したりもしますね。親としてできる事は子供の可能性の芽を潰さない事と、子供の可能性に気付いてあげる事、この二点ぐらいなのだろうな、と感じます。才能は自ら開花させるものなのでしょう。

「人の行動の大半は遺伝子によって支配されている」という本書の主張には納得できる面もありますが、一方で遺伝子の呪縛から逃げ出す事はできないのだろうか、とも考えてしまいます。人は誰しも自分が快適だと思う環境や、趣味・思考も異なりますが、これも遺伝子の傾向によるのだろうか、とか、その趣味思考から逸脱できないだろうか、とか考えてしまいますね。事実であっても少し不気味に感じてしまいます。

『社会的な動物であるヒトは上手にウソをつくために知性を極端に発達させ、ついには高度な自己欺瞞の能力を身につけた』

本書のあとがきに書かれている文章です。ヒトは実際には遺伝子に支配されていて、その好悪や趣味、思考なども遺伝子レベルで決定づけられているのに、その説明や言い訳だけのために理性を働かせているー。このようにも読めますね。理性は全く役に立たない訳ではない、とその後に書かれていますが、ヒトはその行動の多くをどうしようもない遺伝子レベルに支配されているのだ、と思うと、少し気が楽になったりもします。「あの人のあの好意は遺伝子がそうさせているのだからしょうがない」っていう感じでしょうか。

本書の主張は、「遺伝子によってヒトはデザインされていて、生まれながら不平等である」という不都合な真実に目を背ける事なく、逆にそれを受け入れた上で、違いを認める社会を作り上げた方がいい、というものです。納得はできる一方で、遺伝子的に弱者となってしまった人たちに取っては救いがない、とも感じます。

この著者の本は面白い本が多そうです。また読んでみようと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年07月30日

読書日記603:捨てられる銀行



タイトル:捨てられる銀行
作者:橋本 卓典
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「金融検査マニュアル」は廃止、地域の顧客にリスクをとれない銀行は消滅する!新しいビジネスモデルが求められる時代に生き残る銀行とは?金融マン、経営者必読のスクープレポート!

感想--------------------------------------------------
レビュープラス様に献本いただきました。いつもありがとうございます。

本書「捨てられる銀行」は共同通信社の記者による本です。中身は主に森金融庁長官の地銀に対する新方針、改革の三人のキーマン、金融庁ばかり向いて顧客の事業や地域の活性化に貢献しない地銀の有り様、そうした地銀の中でも光る地銀、これからの行方、といった具合です。

読んで感じるのは地銀のひどい状況です。金融庁の挙動には敏感に反応するのに、貸出先が苦境に陥った瞬間、一緒に事業を見直す事もなく、撤退する銀行。ドラマなどでよく見る、泣き崩れる工場の社長を尻目に撤退するスーツ姿の銀行マン、というあの構図です。結果として地域の地場産業は崩壊し、地域は廃れていくー。そんな状況があちこちで起きているようです。こうした状況を打破しようとしているのが森金融庁長官のようですね。融資先企業の価値向上や地方創世に関わるべき、という明確な方針を打ち出し、地銀の改革に邁進しています。

お金を借りた先を支援し、健全な事業経営をしてもらって、利息を返してもらうー。これが当たり前の流れですが、現在の銀行はそうでもないようです。「経営の健全化」を合い言葉に自らの経営だけを考え、お金を貸す事による貢献、という本業を忘れてしまい、まさに顧客から「捨てられる銀行」が増えてきているようですね。しかしそんな中でも光る銀行がいくつか紹介されており、これらの銀行は非常に魅力的に映りました。

もう少し踏み込むと、本書では「銀行が自分たちの業務の「本質」を忘れ「金融検査マニュアル」という「形式」重視に移ったことが悪化の元凶」と書かれているように感じます。いつしか「本質」や「本題」を忘れ、「形骸化」してしまうー。こうした例は銀行に限らず製造業や小売りなどいろいろなところで見受けられるように感じます。つまりは「本質」を伝える事がなにより重要になる訳ですが、ここを見失わずうまく伝えていく方法はないものなのだろうか??といったことを考えてしまいました。「ビジョナリーカンパニー」にも書かれている「基本理念」の伝承ですね。世の流れに左右されず、ここがうまく言っている企業は残っていくのだと思います。

本書を読んでいると、昔のテレビ番組「プロジェクトX」を思い出しました。文章はダイナミックで、金融・経済に詳しくないと読みにくい箇所は確かに少しありますが、それを補ってあまりある臨場感があります。たいへん興味深く読める本でした。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年07月23日

読書日記602:ママ、もっと自信をもって



タイトル:ママ、もっと自信をもって
作者:中川 李枝子
出版元:日経BP社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
『ぐりとぐら』の誕生秘話が、ここにある。保育士として働いた17年間、子どもから教えてもらったことは、子どもはみんな「お母さんが大好き」ということでした。

感想--------------------------------------------------
レビュープラス様に献本いただきました。いつもありがとうございます。

ぐりとぐら」の名前を知らない人はいないのではないでしょうか。本書は「ぐりとぐら」の作者で児童文学作家の中川李枝子さんが育児について書かれた本です。

本書は二部構成となっており、第一部は保育園の主任保母として十七年勤めてきたご自身の経験をもとに、ご自身の子育て観について書かれています。戦時中に育ち、戦後間もなく保育園の「主任保母」として働くことになった著者は、幼少の頃からの読書の経験を活かし、育児に邁進していきます。

そして第二部は読者である母親たちからの子育てに関する質問に対して、著者が回答する形式で、話が進んでいきます。まさに今、子供を育てている世代からの質問に、母親として、保母として育児に携わってきた著者の回答が光ります。

全体を通じて考えたのは「時代」という言葉と「本質」という言葉です。著者が生まれたのは戦前であり、戦時中を学生として過ごし、戦後に保母として働き始めています。世代的には四十代である私の親の世代ですね。だからかもしれませんが、著者の子育て論、「子育てに正解はない。お母さんは自分の気持ちに正直に、素直に自然に育てればいい」という論は、私には非常にしっくりときます。また読書に非常に重点を置いている点も同じです。よい本との出会いが人を作る。これもよくわかります。

一方で、実際に三歳児を持つ親としての目で見ると、第二部のお母さんたちの質問というのも非常によくわかります。これはまさに我が家の悩みであり、切実な状況である親にしてみると、著者の回答はどこか安穏として感じられる部分もあったりします。
ただ、著者の回答はどれも非常に本質的だと感じます。「保育園と幼稚園どちらがいいのか」、「PTAでうまくやっていくには」、「子供に辛くあたってしまう」こうした悩みは多くの親がお持ちなのでしょうが、著者はその問いに対してやや一歩引いた視線から、適切な回答を出しているように感じました。

「子育ての時期はあっという間に終わってしまう。だから、子育ての辛い今の時期こそ楽しむべき」

こうしたことを言いたいんだなあ、というのがひしひしと伝わってきました。確かに長い人生を思うと、親と子供が共に過ごす子育ての期間なんてほんのわずかなんでしょうね。このあたりも著者の人生経験からの言葉だと思いました。いろいろな情報が溢れるこのような時代だからこそ、流されず、焦らず、自信を持つこと。それが本書のタイトルにもつながってくるのでしょうね。

あとは本について書かれた以下の分が胸に刺さりました。この言葉も真実でしょうね。

「いくら作家や作品に詳しくても、楽しんでいなくては無能である」

これは本書の著者のことばではありませんが、胸に刺さる言葉です。本を読むことを楽しめているか。それは常に自分に問い続けたいところです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年07月09日

読書日記600:生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った



タイトル:生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った
パク・ヨンミ (著), 満園 真木 (翻訳)
出版元:辰巳出版
その他:

あらすじ----------------------------------------------
北朝鮮では、死体が放置される道を学校に通い、野草や昆虫を食べて空腹を満たし、“親愛なる指導者”は心が読めて、悪いことを考えるだけで罰せられると信じて生きてきた。鴨緑江を渡って脱北した中国では、人身売買業者によって囚われの身になり、逃れてきた場所以上に野蛮で無秩序な世界を生き抜かなければならなかった―。「脱北したとき、私は“自由”という意味すら知らなかった」―およそ考えうる最悪の状況を生き延びた少女は、世界に向けて声を上げはじめた。

感想--------------------------------------------------
*記念すべき600回!

脱北という言葉は多くの人が聞いたことがあるかと思いますが、脱北者の実態について書かれた本というのは、まだまだ少ないかと思います。本書は北朝鮮から中国へ逃げ、さらに中国から韓国へと亡命した女性、パク・ヨンミの自叙伝です。北朝鮮を出たのが十三歳のとき。いまでもまだ二十三歳という若さです。

本書に描かれた北朝鮮の実態、脱北先での中国での生活には驚きを通り越して戦慄さえ覚えます。経済の崩壊により餓死する人間にあふれる北朝鮮では、当たり前のようにあちこちで人が死んでいて、死体をよけながら学校に通っていたそうです。病院でも処理できない死体が山積みにされ、草花や虫を食べる生活を送る北朝鮮の人々。そんな生活でも何よりも金一族が最優先され、ちょっとした言動ですぐに収容所に送られる生活。まさに地獄ですが、その生き方しか知らない著者にはその生活こそが普通と感じられます。

脱北先の中国では人身売買の商品として扱われ、信じては裏切られる生活を繰り返すヨンミ。極寒のゴビ砂漠を渡りモンゴルに亡命し、そこから韓国に入るヨンミは韓国でようやく自由を手に入れ、ひたすらに知識を吸収していきます。

読みながら、私は何度も巻頭にあるヨンミとその家族の写真を見返しました。「生きる」というただその一つのためにあらゆる屈辱に耐え、尊厳を捨ててきたヨンミ。生まれた国が違うだけで、ここまで悲惨な生活を送らなければならないのか、と鳥肌が立ちます。読み終えて改めて写真を見直すと、とてつもなく強い家族の写真に思えました。

本書で書かれている「自由」という言葉はことさら重く、心に響きます。まさにその「自由」を持つことを許されない国に生きていたヨンミにとって、「自由」というのは大変価値のあるものであることがよくわかります。日本のようにある程度の自由が保証されている国で口にする「自由」という言葉とは重みが違うのでしょうね。


「人を助けることで、自分の中にずっと人を思いやる気持ちがあるのだと分かった。」


韓国に移り、多くの知識を吸収し、人間らしさを取り戻していくヨンミ。その過程の中で出会う上の言葉は、本当に胸に刺さります。「生きる」という一時のためになんでもやり、他人に裏切られ、時に恐ろしい目に遭ってきたヨンミ。彼女のような人間が、世の中には多くいるのだと思うと、戦慄を覚えます。それと同時に、国家の崩壊というのは大変な犠牲を国民に強いるのだ、ということもわかります。

月並みな言葉ですが、彼女のような人間が、皆、笑顔で暮らせる日が来ることを祈らずにはいられません。ここでも紹介した「そして戦争は終わらない」や「スノーデンファイル」のような事実に基づいて書かれた本には、圧倒的な迫力がありますが、本書もその例に漏れません。北朝鮮の真実、脱北者の真実を知る絶好の書だと思います。




総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
posted by taka at 08:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする