2014年11月06日

読書日記514:ローマ人の物語〈26〉賢帝の世紀〈下〉



タイトル:ローマ人の物語〈26〉賢帝の世紀〈下〉
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
安全保障の重要性を誰よりも知っていたハドリアヌスは、治世の大半を使って帝国の辺境を視察し続け、帝国の防衛体制を磐石なものとした。しかしその責務を無事終えローマに戻ったハドリアヌスは、ローマ市民の感覚とは乖離する言動をとり続け、疎まれながらその生涯を終える。そして時代は後継者アントニヌス・ピウスの治世に移るが、帝国全域で平穏な秩序は保たれ続けた。それはなぜ可能だったのか。

感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の二十六巻になります。「賢帝の世紀」の下巻ということで、五賢帝時代の三人目と四人目、ハドリアヌスとアントニヌス・ピウスの話です。

ローマ帝国内をほぼ隅から隅まで自分の眼で見て回り、各地で必要な対策を取り続けたハドリアヌスと、そのあとを継いで保守的で秩序だった統治を行ったアントニヌス・ピウス。しかし塩野七生さんの文章は二人を単なる賢帝としてだけではなく、個人としてどのような人間だったか、までしっかりと描いているため、読み手に人物像がよく伝わり、想像力を刺激されます。

アンティノーという名の美少年を愛し、とらえどころのない性格のために周囲を困らせ、最終的には偏屈爺と成り果ててしまったハドリアヌスと、温厚で穏やかで嫌う者など誰もいなかったアントニヌス・ピウス。特にハドリアヌスは「これで賢帝なのか?」と首を傾げたくなるような人物ですが、多様な文献からそのように人物像をくっきりと描き出す著者の腕前にはいつものことながら感嘆します。

本巻を読んでいて思うのですが、歴史というものをローマと日本で比べてしまうとその大きな違いに驚かされます。西暦百五十年頃の話ですが、ローマでは既に街道が敷かれ、政治体制もしっかりと整い、ローマ帝国という仕組みがしっかりと根付いています。一方で日本はこの頃、まだ弥生時代であり、聖徳太子の現れるまでもまだ四百年近くの時が必要です。

周囲を異民族に囲まれた地と、周囲を海に囲まれた地の違いは大きいかと思いますが、これだけ以前から国家を建設し、機能的に運営してきたローマ人というのは、すごいものだ、と感じます。

次巻からは「すべての道はローマに通ず」ということでローマ帝国最盛期の話ですね。また楽しく読むことにしたいと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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2014年09月21日

読書日記505:ローマ人の物語〈25〉賢帝の世紀〈中〉

*忙しいため、少し更新の頻度を下げていく予定です。



タイトル:ローマ人の物語〈25〉賢帝の世紀〈中〉

作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
トライアヌスの後を継ぎ皇帝となったハドリアヌスは、就任直後、先帝の重臣を粛清し、市民の信頼を失っていた。しかし大胆な政策や改革を実施することにより人気を回復。そして皇帝不在でも機能する組織固めを確実にしたハドリアヌスは紀元121年、念願の帝国視察の大旅行に旅立つ。目的は帝国の安全保障体制の再構築にあった。治世の三分の二を費やした、帝国辺境の旅。それを敢行した彼の信念とは…。


感想--------------------------------------------------
「ローマ人の物語」文庫版の二十五巻です。「賢帝の世紀<中>」ということで、ローマ帝国が最も安定していた五賢帝時代、「至高の皇帝」ことトライアヌス帝の後を継いだハドリアヌス帝の時代の話です。

ハドリアヌス帝の特徴を簡単に表すとすると、「旅人皇帝」といった具合でしょうか。皇帝であった時期の三分の二を旅に費やした皇帝、ということだそうです。そしてもう一つ、皇帝に即位した際に、先帝トライアヌスの側近を四名、粛清しています。このことがハドリアヌスの印象を一時的にしろ、悪くしたようです。

どの巻を読んでいても思うのですが、著者である塩野七生さんの女性的な感性が生きているのが本シリーズの特徴かと思います。ハドリアヌスと、トライアヌスの妃であったプロティナの関係に関する描写や、フランスの女流作家ユルスナルの手による「ハドリアヌスの回想」における代父であり粛清の実担当者であったアティアヌスとハドリアヌスのやり取りの回想の描写、さらにそこに著者の思いを込めた著者なりの描写など、このような描写は過去の偉大な歴史化であっても男には真似のできない描写ではないかと思います。

また一方でハドリアヌスの旅程や各地で行なった数々の対策などもしかりと綿密すぎるほどに描いており、このあたりはさすがだな、とも感じさせます。綿密な調査に基づいた説明をベースとしつつ、最後に少しだけ女性としての感性を活かした想像を乗せ、歴史を歴史でありながら人の物語にしていく。素晴らしい腕前だなあと、感心せざるを得ません。

さて、まだ五賢帝時代の話はあと一巻続きます。アントニヌス・ピウスとマルクス・アウレリウス、この二人の皇帝の話も楽しみに読んでみたいと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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2014年08月06日

読書日記498:ローマ人の物語〈24〉賢帝の世紀〈上〉



タイトル:ローマ人の物語〈24〉賢帝の世紀〈上〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
紀元二世紀、同時代人さえ「黄金の世紀」と呼んだ全盛期をローマにもたらしたのは、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの三皇帝だった。初の属州出身皇帝となったトライアヌスは、防衛線の再編、社会基盤の整備、福祉の拡充等、次々と大事業を成し遂げ、さらにはアラビアとダキアを併合。治世中に帝国の版図は最大となる。三皇帝の業績を丹念に追い、その指導力を検証する一作。



感想--------------------------------------------------
塩野七生さんのローマ人の物語の二十四巻です。「賢帝の世紀」の上巻ということで、ここから三巻に渡って帝政ローマ時代の中でも最も輝いていた、五賢帝時代の話になります。そして上巻で紹介されるのは五賢帝の中でも「至高の皇帝」と呼ばれたトライアヌス帝です。

ネルヴァ帝の後を継ぎ、皇帝となったトライアヌス。彼はローマ皇帝では初めての属州出身の皇帝だそうです。そして皇帝となったトライアヌスはダキア族との戦いへと進み、数多の公共建築物を造り、パルティアとの戦にも突き進んでいきます。

本書を読んで思い浮かぶ「至高の皇帝」トライアヌス帝の人物像ですが、一言で言ってしまうと、「まめな人」です。元老院をないがしろにせずその話をよく聞き、属州裁判にもよく出席し、アドバイスを請われれば厭うことなくよく回答をする。皇帝ともなればアドバイスを請う人も尋常な数ではありませんので、その一つ一つに答えていたとなると、相当に大変だったのではないかと思います。ある程度国家が安定してくると、トライアヌス帝のように欠点なく、事細かく目配りし、対策を怠らない人がやはり好かれるのだろう、と感じさせます。逆にカエサルなどは変革の時期には目立ちますが、国家の安定期にはさほど目立たない人なのかも、と思ったりもします。

また一方でトライアヌス帝は、著者の塩野七生さんをして、「書くのがうんざりする」ほどの数の公共建築物を造り上げた人でもあります。防衛、内政統治、インフラ整備が時の皇帝の仕事だとすると、トライアヌス帝はそのどれをもそつなくこなしていった皇帝、というイメージです。もちろん、ここに至るまでの多くの人々の功績あっての今であることは間違いありませんが。

また本巻を読んでいて思うのは、こうした歴史を明らかにしていく現代の学者たちの熱意です。トライアヌス帝時代の文献はほとんど残っていない、と巻の最初に書かれているにもかかわらず、ダキア戦役の様子を描いたトライアヌス柱や、トライアヌスと小プリニウスの間の往復書簡といった数少ない手がかりをもとに、当時の様子を再現していく様はすごいと感じさせます。想像と検証のプロセスを果てしなく積み上げていくことで歴史を再現していくこの作業は、まさに熱意がないとやっていられないでしょうね。本当に脱帽ものです。

帝政ローマ時代の最盛期ということで、内政面や建築物に関する記述が多く、ダキア戦役やパルティア遠征などはあっても、国家を揺るがすような軍事面での大きな動きはなく、国が安定しているのがよくわかります。読み続けてきた「ローマ人の物語」も半分を超えました。塩野七生さんの語り口は相変わらず私にとっては非常に読みやすく、理解が進みます。次の巻も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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2014年05月31日

読書日記485:ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉



タイトル:ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ヴェスパシアヌスの長男として皇位に就いたティトゥスは誠実を身上とし、ヴェスヴィオ山の噴火によるポンペイの全滅、そして首都ローマの火災という惨事にも対策を怠らなかった。しかし、不運にも病に倒れ、その治世は短命に終わる。続いて皇帝となった弟ドミティアヌスは、死後「記録抹殺刑」に処せられる。帝国の統治システムを強化し、安全保障にも尽力したにもかかわらず、なぜ市民や元老院からの憎悪の対象になったのか。


感想--------------------------------------------------
塩野七生さんの「ローマ人の物語」の二十三巻です。<危機と克服>の下巻ということで、内乱を終息させたヴェスパシアヌス帝の後を継いだ長男と次男、ティトゥスとドミティアヌスの二人の皇帝の話です。

ティトゥスの治世は二年と短く、その後を継いだドミティアヌスは死後に<記録抹殺刑>という刑を課せられた皇帝でもあります。しかしドミティアヌスは北方ゲルマン人の侵攻に対処すべく、リメス・ゲルマニクス、つまりは<ゲルマニア防壁>と呼ばれる壁を作った人物でもあります。

この二人の後には続くのが五賢帝と呼ばれる五人の皇帝の時代、まさにローマの最盛期になりますので、本シリーズのタイトルとなっている危機と克服はまさに成就した、と言ってもいいかと思います。

暗殺され、<記録抹殺刑>という不名誉な刑を課せられたドミティアヌス帝ですが、著者は決してこの皇帝を悪くは書いていません。むしろ公共投資に熱心であり、水道や道路を整備し、蛮族の侵入にも対策を講じるなど、善政を敷いた皇帝として描かれています。しかしいかに善政を敷き、厳格に政治に臨もうとも、厳格すぎると逆に味方がいなくなってしまうようですね。そうしたバランス感覚が残念ながら欠如していたのがドミティアヌスだったように感じられます。そしてそれはまた、いかに皇帝が絶対の力を持っていようとも、元老院や市民をないがしろにした場合、治世を続けることは非常に難しいと言う、ローマの絶妙な、まさに著者が言うところの「デリケートな」政治が成り立っていたことを表してもいます。

本巻の最後にはドミティアヌスの後を継いだ五賢帝の最初の一人、ネルヴァも描かれています。齢七十にして皇帝となり、後継者トライアヌスを選定したネルヴァ帝。この先の五賢帝時代も非常に楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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2014年05月21日

読書日記483:ローマ人の物語〈22〉危機と克服(中)



タイトル:ローマ人の物語〈22〉危機と克服(中)
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
三人の皇帝が相次いで倒れ、帝政ローマの統治機構に制度疲労が生じ始めていた頃、それを裏付けるように、辺境で異民族の反乱が勃発した。西方のゲルマン系ガリア人が独立を宣言したのだ。一方、東方ではユダヤ人が反抗を続け、帝国は一層窮地に立たされる。この苦境の中に帝位へ登ったヴェスパシアヌスは、出自にも傑出した才能にも恵まれていなかった。しかし時代が求めた別の資質、「健全な常識人」を武器に、彼は帝国再建に力を注ぐ。


感想--------------------------------------------------
塩野七生さんの「ローマ人の物語」の文庫版の二十二巻です。「危機と克服」の中巻ということで、「暴君」の名で現代でも有名な皇帝ネロとその後の三人の短命だった皇帝のおかげでぼろぼろになったローマとその復興の話が中心です。

内戦に疲弊するローマの横ではガリアやユダヤ人が反乱を起こし、ローマからの独立を画策します。しかしその試みは三人の皇帝の後に立った皇帝ヴェスパシアヌスとその息子達や仲間達により鎮圧されていきます。さすが最強のローマ軍団、実際の戦闘となると圧倒的な強さを見せるようです。このあたりはまだまだローマの力は衰えていません。

様々な方策を使ってネロたち先代皇帝によって減り続けたローマの国庫を復活させるヴェスパシアヌス。その試みはひとまずは成功し、なんとか彼の代でローマは再びかつての繁栄を取り戻し始めたように感じられます。…しかし本作を読んでいると時折り本当に強く感じるのは「平和はただでは手には入らない」という言葉です。内戦に外敵、さらには異教徒の存在。様々な数多くの要因が交錯する広大なローマで平和を維持するというのは並大抵の努力ではなかったはずです。我々には想像もできないほど大変だったのではないかと思います。

このヴェスパシアヌスという皇帝は耳慣れない名前ですが、あのローマのコロッセオを建築した人、と言えば少し馴染みが沸くかもしれません。我々がローマと聞いてすぐに思い浮かべるあのコロッセオだけでなく本巻では映画「テルマエ・ロマエ」でも有名となった浴場、テルマエの名前も出てきたりします。二千年近く前にこれだけの建築物を残すことのできたローマは当時の一大都市だったのでしょう。どんな街並みだったのか、想像するだけでも楽しくなります。

さて次巻は五賢帝時代へと続く直前の話です。次の巻も楽しみです。


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