読書日記782:半導体戦争


タイトル:半導体戦争
著者: クリス・ミラー (著), 千葉 敏生 (翻訳)
出版社:早川書房
-----------------------------------------------------
半導体は石油を超える「戦略的資源」だった――
気鋭の経済史家が鮮やかに解き明かす、いびつな業界構造と米中対立の新側面
-----------------------------------------------------
最近、熊本のTSMC工場の労働者の賃金が近隣企業に比べて高いとか、台湾の半導体企業であるTSMCの話題を時折り耳にします。テレビでも眼にしたことがあり、半導体業界に興味を持って読んでみました。

本書は半導体の進歩と、半導体をめぐる様々な人と企業、国家の歴史について書かれた本です。半導体が世に現れ真空管に取って代わりはじめた頃の話から始まり、、インテルやテキサスインスツルメンツ、AMD、TSMCといった企業の半導体をめぐる戦略、アメリカ、日本、台湾、ロシア、中国といった各国のせめぎあいについて非常にわかりやすく、ダイナミックに書かれています。私はほとんど知見がありませんでしたが、この一冊を読むだけで半導体の歴史や現状の問題点などについて理解が進みました。

電化製品のみならず、身の回りのありとあらゆるものに組み込まれた半導体は人の生活と切っても切り離せないものになっています。最近の半導体不足の問題をとっても、半導体の供給が滞ると人々の生活に多大な影響が出ることがよく分かります。

そんな半導体は多くの国と企業のサプライチェーンで成り立っており、単一の国家や単一の企業で賄えるものではなくなっている、さらにその中でも製造に特化したTSMCは非常に重要な役割を占めている、ということが本書の最後のほうで語られています。

最先端の半導体は10nmを切っているのですね。。。本書を読んで衝撃を受けたところでもあります。一昔前まで数十nmの話をしていたと思ったのですが、、、。原子数個分という超微細な半導体を製造するために、EUVと呼ばれる超短波長の紫外線を用い、さらにそのEUVを照射できる装置もオランダのASML社のみ、さらにその装置製作のための部品や材料も多くの企業の協力がないと調達できない、など、関連する一社が損なわれただけでも半導体を生産できなくなる状況、そしてそのようなサプライチェーンをめぐって各国が利権のために条件を突きつけあう複雑な状況が本書を読んでいるとよく分かります。

特に本書の後半では膨大な市場を盾にライセンス供与や技術移管を迫る中国と、サプライチェーンを盾に交渉を迫るアメリカを中心とした各国の姿が描かれており、各国首脳もこの問題を重視していることがよく理解できました。日本のすぐ側で、想像していたよりも遥かに熾烈な争いが起きていることには驚きを覚えます。

複雑で全貌を把握できている人はほとんどいないと想像される半導体のサプライチェーン、その一角にほころびが生じただけでも様々な企業や国家に大きな影響が出る。我々の生活を支える半導体は絶妙なバランスの上で製造、生産されていることがよく分かる本でした。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック