タイトル:テスカトリポカ
著者: 佐藤 究
出版社:KADOKAWA
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メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。第34回山本周五郎賞受賞。
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読んでみたいと思っていた作品です。テスカトリポカとはアステカの偉大な神の名前で「煙を吐く鏡」を意味するそうです。神に生贄の心臓を捧げるアステカの儀式を背景とした現代の闇の臓器移植ビジネス。クライムサスペンスですね。読み始めると止まらなくなる面白さでした。
メキシコ移民の子供として生まれたコシモは人並外れた体躯を誇る手先の器用な真面目な少年だったが両親を失い少年院に入ることになる。一方でメキシコではカルテルの争いを生き延びたバルミロが日本人からビジネスを持ちかけられる。運命の糸は多くの人々を臓器移植ビジネスに結び付けていくー。
クライムサスペンスという名が相応しい作品です。心臓を生贄に捧げるアステカの儀式と臓器移植ビジネス。かなり暴力的な血の流れるシーンも多く、そのようなシーンが苦手な人には全く向きません。しかしクライムサスペンスとしては一級品です。
語られるアステカの儀式と神々の物語が、本書の背景として非常に効果的です。生贄の心臓を求める神々と、神々へ心臓を捧げる儀式、そのシーンが物語り本編をさらに際立たせていきます。身の毛もよだつようなシーンも多いのに、不思議と読むことを止められません。
カルテルを追われ、いつの日か故郷に戻ることを目指すカルテルのボス、自分の腕に絶対の自信を持つ心臓外科医、ストレスに悩まされる保育士、そして人並みはずれた体躯のコシモー。登場人物も個性的であり、それぞれの思惑と欲望が交錯し、物語を芳醇なものに仕上げています。
物語の終わり方もとても納得のいくものでした。おそらく地球上のどこかで、この物語に描かれているような違法臓器ビジネスが展開されているのだろうな、とも感じました。
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