読書日記777:同志少女よ、敵を撃て
タイトル:同志少女よ、敵を撃て
著者: 逢坂 冬馬
出版社:
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1942年、独ソ戦のさなか、モスクワ近郊の村に住む狩りの名手セラフィマの暮らしは、ドイツ軍の襲撃により突如奪われる。母を殺され、復讐を誓った彼女は、女性狙撃小隊の一員となりスターリングラードの前線へ──。第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
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本屋大賞の受賞作です。もともと気になっていた作品ですが、楽しみに読んでみました。
故郷の村をドイツ兵に蹂躙されたソ連の少女 セラフィマは、母を殺したドイツ狙撃兵への復讐を誓う。狙撃兵の養成学校でセラフィマは自身と同じような境遇の少女達に出会いー。
第二次世界大戦中のソ連を舞台に、少女セラフィマを主人公とした「魔女」と呼ばれた女性狙撃兵たちの話です。狙撃兵として成長していくセラフィマと、その内面、様々な戦友との出会いと別れが、しっかりとした筆致で描かれています。
ドイツ兵と、自身の家族を侮辱した上官への復讐を糧に成長を続けるセラフィマ。唐突に訪れる戦闘と戦友との別れ。その中でまた成長を続けるセラフィマ。やがて「女性のために」戦うことを決意したセラフィマは、過酷な決断をすることになります。酸鼻を極める戦場の描写も秀逸ですが、戦闘後のセラフィマの決意と展開が非常に印象に残る作品でした。
本書の中に、一般兵と狙撃兵の精神性の違いについて描かれた箇所があるのですが、そこの描写は納得できます。目立つことを嫌いながらも誇りを持つ狙撃兵と、恐怖を攻撃性で上塗りすることで戦場に立つ歩兵。戦場が兵士の精神を生き残るために最適化していく、という記述には戦争の本当の怖さが描かれていると感じます。戦場は命だけでなく人間性をも奪ってしまうのですね。
ー本作を読んですぐに思い出したのが「スターリングラード」という映画です。本書でも描かれている激戦地 スターリングラードを舞台に、ジュード・ロウ演じる凄腕の狙撃兵がドイツの狙撃兵と激戦を繰り広げる作品ですね。まさにあの激戦が舞台で、読みながら何度も映画の舞台が眼に浮かびました。
人を獣に変えてしまう戦争の恐ろしさと、その戦争の中でも女性として、女性を守ろうとし続けた一人の少女が印象に残る作品です。戦場が背景のため残酷描写は目白押しですが、お勧めできる作品です。
この著者は本作が第一作目なのですね。今後の作品にも期待です。
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