読書日記772:クララとお日様
タイトル:クララとお日さま
作者:カズオ・イシグロ
出版元:早川書房
その他:
あらすじ----------------------------------------------
人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。生きることの意味を問う感動作。愛とは、知性とは、家族とは?ノーベル文学賞受賞第一作、カズオ・イシグロ最新長篇。
感想--------------------------------------------------
読みたいと思っていた本ですが、ようやく読むことができました。ご存知の方も多いと思いますが、著者のカズオ・イシグロは2017年前にノーベル文学賞を受賞した方です。ノーベル文学賞といえば毎年のように村上春樹さんが話題に上りますが、その村上春樹を敬愛する方が受賞、ということで話題にもなりました。本書はそのカズオ・イシグロのノーベル賞受賞第一作目の作品、ということで期待して読んでみました。
AF(人工親友)であるクララは、ある日ジョジーという女の子の家族に買われていく。病弱なジョジーの母親がクララを望んだ本当の目的はー。
本作品は、AFというアンドロイドやロボットに似た存在であるクララの視点から物語が語られていきます。他のAFと比較しても好奇心旺盛で優しい性格のクララは、ジョジーの力になるべく奮闘していきます。太陽光をエネルギー源として動くクララはお日さまのことを敬愛し、奇跡をもたらす存在として崇拝していきます。
物語は人型のロボット(AF)であるクララの視点から語られることを意識してなのか、細部まで明確に詳細に語られていきます。また時折り彼女の視点が彼女の心情(?)や、対象の心情を反映して、幾つものブロックに分割されたりもします。
このような視点で描かれる世界はその底に漂う雰囲気や背景は暗く重いのに、私にはどことなく明るさを、美しさを伴って描かれているように感じられました。日々、様々なものごとに頭を悩まされていると忘れがちですが、前提として我々が住む世界は本当に美しいー。そう著者が語っているようにも感じられます。特にタイトルにもなっているお日様の描写や、ジョジーたち家族の住む家の周囲に広がる草原の描写にそれを感じます。
遺伝子の適正処置を受けている人と受けていない人、高い学力を持つ人とそうでない人、富を持つ人とそうでない人。様々な格差と偏見に満ちた社会。そしてジョジー、そのボーイフレンドのリック、ジョジーの母親 クリシー、リックの母親 へレン。彼ら、彼女たちは人との関係性で様々な社会的背景で苦労を強いられます。これらの苦労は我々が体験しているものと同じものかもしれませんね。そして物語の後半で、読者は一つの奇跡を眼にします。
クララを一人の少女として、人として見たとき、一読者として感じることは、「彼女の人生はきっと幸せなものだったに違いない」ということです。たとえ人間であっても、彼女のような人生を望む人は多いのではないでしょうか。途中までは物語がどこに着地するのかはらはらとしていましたが、読み終えて残るのはすっきりとした後味のよさです。こうした物語を描けるのはさすがだなあ、と感じました。童話じみたところもありますが、近頃の物語には稀有な、美しいものが心に残る作品と感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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