読書日記770:ペッパーズ・ゴースト
タイトル:ペッパーズ・ゴースト
作者:伊坂 幸太郎
出版元:朝日新聞出版
その他:
あらすじ----------------------------------------------
少しだけ不思議な力を持つ、中学校の国語教師・檀(だん)と、女子生徒の書いている風変わりな小説原稿。
生徒の些細な校則違反をきっかけに、檀先生は思わぬ出来事に巻き込まれていく。
伊坂作品の魅力が惜しげもなくすべて詰めこまれた、作家生活20年超の集大成!
感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。この方の作品はつい手に取ってしまいます。
飛沫感染した人の未来をほんの少しだけ見ることの出来る中学教師の檀先生は、事件に巻き込まれていく。一方で教え子の一人は、ネコジゴハンターが活躍する小説を書いていたがー。
様々なテーマをもとに小説を書かれている伊坂幸太郎さんですが、本作の下敷きにあるのは、ニーチェの「ツァルトゥストラ」の中の言葉だそうです。私は読んだことがありませんが、『永遠回帰』といった「ツァルトゥストラ」の中の言葉が本作の中でよく使われています。
「今と同じ人生を繰り返すとして、その人生を生きたいか?」
「なぜ真面目に控えめに生きている人間が酷い目に遭わなければならないのか?」
こうした根本的な問いかけが根底にある中で物語りは進んでいきます。物語はこれまでの伊坂作品と同じように軽く、テンポよく進んでいきます。テーマは重いのですが、このテンポのおかげでとても読みやすく感じます。
真面目に、控えめに生きている人間が、酷い眼に遭ってしまうー。
このテーマは特に最近の伊坂作品に共通していると感じます。真面目に生きてきた人間が、突如として理由もなく理不尽な眼に遭うー。こうした現実をどう受け止めて、その先の人生を生きていくのか。その生き方について、著者は様々な作品を通じて語っていると感じます。
読んでいくと気付くのですがーこの作品に出てくるネコジゴハンターと、とあるサークルの仲間は生き方が対照的だな、と感じます。自分の起こした罪に相応しい罰を与えようとするネコジゴハンターと、何もしていないのに理不尽な眼に遭うサークルの仲間たち。そして物語のテーマである問いの一つが甦ってきます。
理不尽なものであっても、この人生をもう一度、生きたいと思うだろうか?
神の視点から見たら答えが分かっている人生を生きる意味はなんだろうか?
そうした重い問いに、登場人物たちは独特の軽さで向かい合っていきます。特にネコジゴハンターの二人、ロシアンとアメショーがいいですね。
伊坂作品は大好きなので、今後も読んでいくつもりです。次回作も楽しみにしています。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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