読書日記769:護られなかった者たちへ


タイトル:護られなかった者たちへ
作者:中山 七里
出版元:NHK出版
その他:

あらすじ----------------------------------------------
仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。三雲の死体発見から遡ること数日、一人の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か?なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか?罪と罰、正義が交錯した先に導き出されるのは、切なすぎる真実―。

感想--------------------------------------------------
佐藤健さんと阿部寛さんが出演の映画の原作です。読んでみたいと思っていました。

福祉保健事務所の所員が両手足を縛られた餓死死体で発見される。異様な死体の裏に隠された、犯人の意図とはー。そして第二の事件が起きるー。

仙台を舞台とした連続殺人事件。その背後には震災により壊滅的な打撃を受けた被災地の人々の心情と生活があります。生活保護を受けざるを得ない生活状況と、逼迫する福祉財政。結果として被害を被るのは生活保護支給者であり、生活保護支給の判断をする人々なのだな、ということが読んでいてよくわかります。

本作は犯人を追う笘篠と蓮田という二人の刑事の視点と、利根という一人の前科者の青年の視点が入れ替わりながら進んでいきます。犯人を追う中で気づかされていく「善人」「人格者」と言われていた被害者の素顔が明かされていき、徐々に犯人に収束されていきます。また前科者としての苦しさと、触れた優しさ、その喪失といった利根の視点もしっかりと描かれていると感じます。

本作はもちろんフィクションであり、事実に即さない点もあるかと思います。しかし餓死している人が存在し、生活保護をめぐる犯罪が発生している点は事実であり、読者にそこに興味を抱かせるという点では、間違いなく成功している作品だと思います。国民の払った税金が、必要のないところに行くのではなく、本当に必要とされる人に行き渡る仕組みが必要なのだな、と実感させられます。

本作を読んでいると日本の将来について暗澹たる気持ちになりますね・・・。高齢者が増えて若年層が減る将来、日本の生活保護の必要性はさらに増す一方で生活保護費は減るため、その間で苦しむ人は今後さらに増えると容易に想像できます。生活困窮者はますます増え、比較的余裕のある人々も自分の生活を守るために精一杯になり、ますます余裕のない社会になっていくんでしょうね。。。貧富の差も今以上に開くため、富裕層を狙った犯罪も増加すると思われます。

行政だけでは限界があるため、官民協業が必要になるのでしょうが、そこにはやはり利権を巡る癒着などの問題が生じるのだろうな、と思ったりもします。難しいですね。。。

淡々とした語り口であり、ドキュメンタリーと違ってミステリ小説ではありますが、読んで損はない作品だと思います。興味のある方は是非一読をお勧めします。一方で登場人物はあくまで著者の代弁者とも感じます。感情を前面に出して動くようなものではない、とも感じました。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A

この記事へのコメント