読書日記765:三体


タイトル:三体
作者:劉 慈欣
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?本書に始まる“三体”三部作は、本国版が合計2100万部、英訳版が100万部以上の売上を記録。翻訳書として、またアジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた、現代中国最大のヒット作。 --このテキストは、hardcover版に関連付けられています。

感想--------------------------------------------------
世界最大のSF賞、ヒューゴー賞のアジアで初の受賞作品と聞いて読んでみました。

ナノマテリアルの学者である汪森は、「三体」と呼ばれるゲームを体験する。三つの恒星が不規則に出現し、文明の勃興が繰り返される三体世界。その正体は?世界で繰り返される物理学者の死との関連はー?

文化大革命の描写から始まる本書は、もう一人の主人公である葉文潔の家族の痛々しい描写から始まります。そこから時を経て葉文潔と汪森の描写へ。正直、最初の方は物語の場面や展開が次々と変わるため付いていきにくいところがありましたが、後半になり物語を貫く一本の筋が見えてくると俄然、面白くなります。

本書の特徴は物語のスケールの大きさだと思います。宇宙規模で語られる物語の壮大さ、三つの恒星の登場と消滅により文明の勃興が繰り返される三体世界、さらに宇宙の彼方の星々との邂逅など規模は宇宙規模です。物語のこの発展性は読んでいて面白く感じました。


一方で物語の終盤で語られる陽子の高次元・低次元展開の下りは序盤での伏線回収のために無理をしているなあ、と感じたりもしました。またナノマテリアルワイヤーの箇所やエネルギー界面による信号増幅の箇所など、いろいろと読んでいくと、物理的にどうなの?と思うところも少しあったりしますが、エンターテイメントとしてはありだと思います。また中国の文化的・社会的背景を知っていればもっと面白く読めたのだろうな、と思う箇所もあります。


本書はそのスケールの大きさから私はすぐに先日読了した「天冥の標」と比較したくなります。正直、和製SFの「天冥の標」の方が個人的には読みやすく、面白く感じました。「天冥の標」も世界的に広まっていけば、大ヒットしてた可能性もあるのかもな、と感じたりもしました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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