読書日記762:つけびの村


タイトル:つけびの村
作者:高橋ユキ
出版元:晶文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
2013年の夏、わずか12人が暮らす山口県の集落で、一夜にして5人の村人が殺害された。犯人の家に貼られた川柳は“戦慄の犯行予告”として世間を騒がせたが…それらはすべて“うわさ話”に過ぎなかった。気鋭のノンフィクションライターが、ネットとマスコミによって拡散された“うわさ話”を一歩ずつ、ひとつずつ地道に足でつぶし、閉ざされた村をゆく。“山口連続殺人放火事件”の真相解明に挑んだ新世代“調査ノンフィクション”に、震えが止まらない!

感想--------------------------------------------------
ネット上でたまたま出会った作品です。興味を持って読んでみました。

2013年7月、山口県の人口わずか12人の限界集落で5人が殺される放火殺人事件が発生したー。すぐに逮捕された犯人は、なぜ凶行に走ったのか?集落を取材し続けた著者は集落の実態を目の当たりにするー。

本作はノンフィクションなのですが、私の身の回り、都市圏の生活とかけ離れたその集落の様子に、フィクションじゃないのか?と思わせるほどです。三津田信三さんの作品や、横溝正史さんの八つ墓村を彷彿とさせます。

噂が支配し、住人同士が裏では互いのことを悪く言い合う集落。「刺した」「殺される」「死んだ」といった言葉が日常の噂話で笑いとともに語られるその様子に、著者同様、寒気を感じます。しかもこの話は実話です。噂話が一つのきっかけとなり凶行に走らせたこの犯行は村独特のものと感じますが、一方でこうした村は日本の各地にあるだろうと容易に想像もできます。このような犯行が起きかねない温床が各地にあるという状況に怖気を感じます。

「家族のような村」。人口十人ちょっとの村はまさに家族だと思いますが、その中で他人同士が密に繋がれば、必ずこのような状況になるのだろうな、と感じます。コミュニケーションをとることは重要ですが、適度な距離感とある種の無関心と適度な善意が背景にないと、どこかでいつかはこの村のように破綻すると感じます。きっとこれは村だけでなく、企業や学校といった人の集まる場ではどこも同じだろうな、と感じます。

話が飛躍しますが、、、社会では「一体感」、「同一感」といったものが重視されてきましたが、これから必要なのは「寛容」なのだろうな、と感じます。他者と違うことを良いとみなすこと、許すこと。不幸や不平等を笑い飛ばしてしまえるほどの許容と寛容。しかしこうした許容や寛容を身につけるには自分に余裕があることが必要で、その余裕が年毎に失われていっているなあ、って感じます。むしろ不幸や不平等にあった人を「なにやってんのあいつ」って笑い合う風潮さえありますもんね・・・。おそらくこうした村の「余裕のなさ」とそれに発する不寛容がこの事件の背景にもあるのだろうな、と感じます。

しかし恐いな・・・。コロナで不況→生活苦の人が増える→犯罪の増加、までは間違いなく連鎖すると思います。コロナで生活様式が変わったことにより大きな利益を上げている業界もあるはずで、そこへの人の流入をうまくアシストする仕組みがあれば、不況への歯止め策の一つとなるとも考えられます。

集落の住人への粘り強い聞き込みや女性ならではの村の状況を緻密に描いた描写、各住人の個性の描写が、犯人や集落の異常さを浮き彫りにしていき、読者に静かな恐怖を掻き立てます。フィクションよりも怖いノンフィクション、と感じました。熟読して一日で読み終えてしまいました 笑


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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