読書日記758:逃避の名言集
タイトル:逃避の名言集
作者:山口 路子
出版元:大和書房
その他:
あらすじ----------------------------------------------
逃げなさい。周囲から見れば「とくに深刻な事情」があるわけではないけれど、いつの時代も人間は「生きるのはつらい」と嘆いている―。坂口安吾、三島由紀夫、岡本太郎、サガン、ピカソ、草間彌生…。時代の異端児たちは「生き抜く」ために、何からどのように「逃避した」のか。絶望にうちひしがれているとき、誰にも理解されないかなしさを抱いているとき、人生そのものにぐったりと疲弊しているとき、胸に響く言葉。
感想--------------------------------------------------
特に深刻な事情があるわけではないけれど私にはどうしても精神的な逃避が必要なのです。
「悲しみよ こんにちは」で有名なサガンの上記の言葉で始まる本書を、私はその前書きを読んで買うことを決めました。まさに上の言葉がしっくりきましたし、上の言葉のようなことを考えている人が決して少なくない、と前書きに書かれていたのがその理由です。
前書きに書かれているように、ある程度の歳を重ねると、鋭い感受性を持つ人は、「生き続けるという、ただそれだけのことがたいへんなことなのだ」と知ってしまいます。そんな人生に前向きに立ち向かえる人もいれば、どこかへの逃避を必要としている人もいます。そんな「逃避」について前向きに本書はとらえてくれています。
本書は、その内容に大きく共感できる人と、全くピンとこない人に読者が大別される本だと思います。最初の方に書かれていますが、共感できる人はきっと「自分に疑いを持つ人」であり、ピンとこない人は「自分に疑いを持たない人」なのでしょうね。どちらが良い・悪いではなく、そのような生き方しかできない自分を人は受け入れるしかなく、そして両者はなかなか相互に理解しにくいのだろうな、と感じます。
「人付き合い」「恋愛」「家庭」「仕事」「日常」「良識」・・・本書では様々な事柄からの逃避の言葉が書かれています。多くは日本を含めた世界中の作家や音楽家の言葉であり、映画からの引用です。そしてどの言葉も、逃避を責めることなく、許容してくれます。社会人として長い年月を経た今だからこそピンと来る言葉も数多くあり、長い年月を生き、自分や周囲、その境界や関係性について考えないと、浮かばない言葉も多いと感じます。そして同じように考え、悩んできた人にとっては、励みにもなり、共感を感じられる言葉や、励みになる言葉が非常に多いと感じます。実際、私にとっては非常できる言葉ばかりでした。
・「自分に疑いをもたない人」との会話は時間の無駄です
・ただ生きている、それ以上のことを求めてはいけないのです
・すぐに群れたがる人は、「個」というものを知らない人です
・苦悩から逃避していたら一流になれないというのは嘘です
私が共感を得た言葉の一部です。これらの言葉に共感を覚えた人は、ぜひ読んでみてください。苦しみやしんどさが、ほんの少しかもしれませんが、きっと軽くなるのではないかと思います。
ただ生きている、それ以上のことを求めてはいけないのです
人によっては自分を持て余しその扱いに困り、苦悩している人も多いと思います。悩み苦しみ、それでも自分で自分を引き受けざるを得なくて、自分以外の誰かになれればいいのにと思いつつも、それはそれで嫌で苦しくて。そんな人にはこの言葉。本当に、この通りだと思います。
この本を読んでいるときに、若手の将来有望な俳優さんの自死のニュースに遭遇しました。「なんで?」と思い、あれだけ将来有望で、全てを持っているような人でも死を選んでしまうのか、と本当に残念で惜しい気持ちになりました。
同時に、この本に書かれているような言葉に出会えていたのだろうか、また、もし出会えていなかったら、もし出会えていたら少しは変わったのだろうか、と考えずにいられませんでした。軽々しいことは書けませんが、私自身はこの本に出会えて本当によかったと感じます。逃避を選ぶことは恥ずかしいことでもなく、ある種の人間にとっては絶対に必要なことである。本書を読んで、そのことをもっと多くの人に知って欲しいとも感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
この記事へのコメント