タイトル:マルドゥック・アノニマス 5
作者:冲方 丁
出版元:早川書房
その他:
あらすじ----------------------------------------------
ウフコックを探すには、まずはハンターを知る必要がある―そう考えて“楽園”を再訪したバロットは、ハンターとオクトーバー一族の意外な過去に辿り着く。“クインテット”の結成以前に、彼に何があったのか?引き続き捜索と調査を行う一方でバロットは、ストリートでの過酷な経験を経て、エンハンサーとなった少女アビーを家族に迎える準備を進めていた。かつての自分のように、信頼できる相手を求める少女を救うために。
感想--------------------------------------------------
マルドゥック・アノニマスの最新巻です。もう五巻。まだ五巻。どちらの言い方もできると思いますが、シリーズ最長となる作品、いつまでも読んでいたい気分です。
マルドゥック市を支配しようと暗躍するハンター、そんなハンターを支配下に置こうとするシザースたち、ハンターに囚われたウフコックを探し出そうとするイースターとバロットたちー。過去と現在が交錯しながら、物語は速度を増していくー!
ウフコックを手に入れるまでのバロットの心を丁寧に描きつつ、悪徳の長であるハンターと、ウフコックを手に入れた後のバロットの戦いを描く巻です。過去と現在の場面が切り替わりながら展開される物語は、バロットがどうやって「現在」に辿り着いたのか、その道を丁寧に記す話でもあります。
バロットの成長の物語。それが本巻を読んで感じた言葉です。自分と境遇の近い少女、アビーに対して寄り添うバロット。彼女を見捨てず、突き放さず、しっかりと見つめる彼女の姿は、自身の過去に寄り添う姿に重なります。
それは昔の自分を弔う涙ではなかった。
スラムにいる少女と友達になった気分だった。
この言葉にバロットの成長が見て取れます。過去の自分を葬ることなく、過去の自分をも今を形作る自分の一部として受け入れたバロット。スラムで生きた過去と、法学生として生きる今があるからこそ、アビーを受け入れることができるバロット。派手なアクションこそ少ないですが、マルドゥック・アノニマスという物語において、ルーン・バロットという人間を描くに際して、本当に重要な巻だと思います。この巻を読んで思うのは「もう、バロットは大丈夫」ということ。悲惨な過去も悲劇も、これから待ち受ける壮絶な未来も、彼女なら乗り越えていける。そう感じさせる巻です。
さてそんなバロットとハンターの邂逅、そしてシザースの中核を担うボイルドの忘れ形見との物語が次巻の肝になってくるのかな?ナタリアを通して過去の自分と再び向き合うことになるであろうバロット。そこでバロットは何を感じ、ナタリアに何を語るのか。今から楽しみでしかたありません。
アノニマスで完結なんですかね?この先もずっと続いて欲しい物語です。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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