読書日記755:天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと


タイトル:天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと
作者:小川 一水
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは、メニー・メニー・シープ世界成立の歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエランカは、スキットルら“恋人たち”の協力も得て、“救世群”への反転攻勢に転ずるが―シリーズ第9巻前篇。

感想--------------------------------------------------
天冥の標の9巻その一です。全十巻、十七冊の対策も残すところ本巻含めて五冊。早く読みたいような、読み終わるのが惜しいような。

自分たちが住む世界が箱庭の閉じた世界であることを知り、外の世界へ、真実へと旅を続けるイサリ、カドム、ラゴスたち。多くの人間と、異星人、様々な存在がそれぞれの思惑で動き、物語は変転していくー。

本作を読んで思うことですが、読み進めて幾たびに物語が重厚感を増していきます。一巻ではどこか浮いていた<海の一統>や<恋人たち>という存在も、これまでの巻の積み重ねでその歴史が、重みが語られ、しっかりと物語に根付いて来ていると感じます。救世群、カルミアン、恋人たち、海の一統、ノルルスカインとミスチフ、議会ー物語の背景が、登場人物がとても複雑なのにそこに重厚感が積み重なることで、壮大な物語となっていきます。その様をこれまでの巻を通じて見せつけられ、太陽系の壮大な一大絵巻を見せられているよう。この物語のスタートは、二巻で語られていた現代の、二千年代初頭の地球なんですよね。八百年の時を描くその技量と卓越した想像力、構想力には脱帽です。物語が深い。

本巻で印象に残ったのはエランカたち議会のメンバーが法と選挙のあり方について苦悩し、メニー・メニー・シープに住む人々が各々の生き方、あり方に独白調で苦悩するシーンです。法とは選挙とは、生きていくとはどういうことなのか。安寧の生活を送る我々には通常では想いを馳せることのないことについて、その根本的な意味を本書では語っていきます。

冥王斑から逃れ、ブラックチェンバーを一つの国に仕立てていったアイネイアたちスカウトの面々の活動が語られていた7巻でも感じたことですが、生きるために何が必要なのか、生きていくのがやっとの世界で、法や選挙がどのような効果を持つのか、そのことをこの作者はしっかりと描いています。国が傾くとは、国が滅びるとは、国が生き残るには、といったことをしっかりと書けるこの著者は、国や共同体のあり方についても相当に考えられたのだろうな、と感じます。

その一方で本巻の最後に書かれていた副流意識の語らいといった抽象的で超スケールの話もしっかりと書いていくー。いやあ、読み進めていくうちにどんどん面白くなってきますね。「男子三日会わざれば、刮目して見よ」の言い回しには笑ってしまいました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S

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