読書日記754:チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷


タイトル:チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
十五世紀末イタリア。群立する都市国家を統一し、自らの王国とする野望を抱いた一人の若者がいた。その名はチェーザレ・ボルジア。法王の庶子として教会勢力を操り、政略結婚によって得たフランス王の援助を背景に、ヨーロッパを騒乱の渦に巻き込んだ。目的のためなら手段を選ばず、ルネサンス期を生き急ぐように駆け抜けた青春は、いかなる結末をみたのか。塩野文学初期の傑作。

感想--------------------------------------------------
塩野七生さんの本です。なんと1970年初版。いまから50年前の本ですが、本当に面白かった。チェザーレ・ボルジア。この人のことは全く知りませんでしたが、凄まじい生涯です。

チェザーレ・ボルジアのチェザーレはシーザーのことです。自身を偉大なる王と信じ、自らの王国を持つことをのぞみ、その望みのためにヨーロッパ中を戦乱に巻き込み、戦乱の中に消えた男。ボルジアの名を持ち、法王を父に持ち、権力を欲しながらもなんと魅力的な男なのか、と感じます。

自身の欲望を隠しもせず、若くしてついた枢機卿の座を捨て、ヴェネツィア、フィレンツェ、フランス、スペイン、その他あらゆる諸国を自身の望みのために戦火に巻き込んだ男。目的の前に立ちふさがる者は容赦なく殺し、奪う冷酷な男。しかしその男を本書では非常に魅力的に描いています。暗殺、裏切りに満ちた三十一年の生涯でありながら、そこに卑しさはなく、孤高の姿が描き出されています。

自身の欲望のため。そのためだけに動き、あらゆるものを利用しているのに、そこには冷徹さと共に魅力も感じます。本書を読んで伝わってくるイメージはまさに孤高。部下を統率し、勝利をもたらす男。大国がバランスゲームを演じる中世ヨーロッパでまさに綺羅星のような存在に感じました。

この時期はまさに日本でも群雄割拠の戦国時代。立ち位置はなんとなく織田信長にも被ります。暗殺や裏切りに満ち、若くして時代を駆け抜けた男ですね。ーしかし、このような人たちはどのような感性なのでしょうね。欲望のために人を平気で切り捨て殺している時点で常人と同じ神経とは思えないですし、やはりどこかに凄まじいものがあるのだろうな、と感じます。

漫画でも描かれ、劇にもなるチェザーレ・ボルジア。その魅力を十分に伝えてくれる作品でした。彼がもしマラリヤで病まなければ、また違った歴史もあったのかもしれないですね。そう感じさせる本でした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S

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