読書日記749:天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART1


タイトル:天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART1
作者:小川 一水
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」―いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける―「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。壮大なる因果がめぐるシリーズ第8巻前篇。

感想--------------------------------------------------
天冥の標の八巻のその一です。ようやく一巻へと話が繋がりました。異世界のできごとと思われていた一巻での出来事が、長い時を経た地球人の末裔、太陽系でのできごととわかり、救世群や<恋人たち>の成り立ちなども分かってきます。ここまで最初から考えて作られた物語なのでしょうか。そうだとすると、凄いことだと思います。

救世群の女王、ミヒルの姉であり、妹の不興を買って何百年も冷凍睡眠についていたイサリ。目覚めたイサリは、滅びたはずの人類が、生き残り、繁栄していたことを知るー。

ようやく、本当にようやく、一巻で始まったメニーメニーシープの世界に戻ってきました。エランカ、ラゴス、アクリラ、セアキ。一巻の登場人物が非常に重厚に感じられます。二巻からこれまで十冊近くにわたり、現代から西暦二千八百年代のメニーメニーシープの物語に至るまでの様々な出来事について語られているからに違いありません。凄まじいまでの構想力です。

本巻では一巻で語られていた物語が、イサリの目から語られていきます。一巻では獰猛な獣、咀嚼者としての側面しか見られなかったイサリ。しかしここまで読み進んで来た人たちは、イサリこそがすべてを知っていて、本当に来るべき厄災を知っている者だと知っています。繰り返される物語は、同じでありながらも全く違った意味を持って読者につきつけられます。

解き放たれた本当の厄災である救世群たち。そしてなす術無く撃破されるアクリラ、セアキたち。殺され、略奪されるセナーセーの住人。なんとか生き延びたエランカ、そしてロボットであるフェオドールとカヨ。物語の役者が、その背景まで含めてようやく出揃った感覚です。ここから先の巻で、ようやくにして一巻の続きを読むことが出来ます。全十巻の七巻までを使って一巻に続く過去を語り、そこからようやく物語が前に進むー繰り返しになりますが、もの凄い構想力です。

イサリとミヒルの戦い、虐げられた歴史を持つ救世群ー咀嚼者と恋人たち、人類、酸素いらずの面々、そしてノルルスカインとミスチフやオムニフロラ、カルミアンたち。太陽系規模にまで広げられた物語はどこに着地して行くのか、本当に楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):

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