タイトル:ローマ亡き後の地中海世界2: 海賊、そして海軍
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
北アフリカを拠点とするサラセンの海賊に蹂躙されるイタリアの海洋都市国家。各国は襲撃を防ぎ、拉致された人々を解放すべく対策に乗り出し、次々と海軍が成立。二つの独立した国境なき救助団体も組織された。イスラム勢力下となっていたシチリアにはノルマンディ人が到来し、再征服。フランスとドイツを中心に十字軍も結成され、キリスト教勢力の反撃の狼煙が上がり始めた―。
感想--------------------------------------------------
「ローマ亡き後の地中海世界」、その第二巻です。北アフリカからやってくるサラセン人の海賊の脅威を退けるため海軍を組織するジェノバやアマルフィ、ピサ、ヴェネツィアといった海洋国家軍と、救出に特化した組織の活躍が描かれていきます。
海賊による脅威が長年の間、これだけ大きかったということを読んで初めて知りました。北アフリカから来襲し、人を攫って奴隷として働かせるサラセン人と、彼らを買い戻す役割を持った救出修道会と救出騎士団。誘拐と買い戻しがビジネスとして成り立ってしまっていた時期が数百年も続いていたということが、まずは驚きです。
奴隷を買い戻すことで死後に聖人に列せられたマタのような人がいる一方で、買い戻してくれるのであれば、と頻繁に攫うようになる海賊たちもいて、そこで均衡が成り立っていた、というのが恐ろしくもあります。一番の犠牲者は、北アフリカに拉致され、「浴場」と呼ばれる衛生環境も整わず、医療設備もない施設で死ぬまで働かされることになる一般市民であることは間違いありません。このような史実を読むといつも思うのですが、正義とか道徳とかいった概念は、本当につい最近、人々が生きることに困らなくなってから生まれた概念なんだな、と思います。
数百年にわたって何万人もの人々を救出した救出騎士団と救出修道会。それはつまりその何倍もの人々が攫われ、助かることなく死んで行った人の数も膨大に上る、ということです。現在のように戦争や災害で死んだ人々の数が正確に分かるようになる以前では、本当にとんでもない数の人々の命が簡単に損なわれていたんだなあ、としみじみ感じます。
何度も編成され、最終的には失敗する十字軍についても本巻では触れられています。数百年という、我々が生きる年月の何倍もの期間を海賊は地中海を荒し回り、救出騎士団や救出修道会がさらわれた人々を買い戻していた、という史実、そこに描かれることのない、人々の悲しみ、恐れ、憎しみ。本当に、時は、歴史は、人のあらゆるものを飲み込んで、綿々とつながっていくのだな、と感じさせられました。
さて、もうこの人の本は全て読もうかな、ぐらいに思っています。次も楽しみです。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
この記事へのコメント