タイトル:ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
476年、西ローマ帝国が滅亡し、地中海は群雄割拠の時代へと入った。台頭したのは「右手の剣、左手にコーラン」を掲げ、拉致と略奪を繰り返すサラセン人の海賊たち。その蛮行にキリスト教国は震え上がる。イタリア半島の都市国家はどのように対応したのか、地中海に浮かぶ最大の島シチリアは?『ローマ人の物語』の続編というべき歴史巨編の傑作、全四巻。豪華カラー32頁つき。
感想--------------------------------------------------
塩野七生さんの作品です。十字軍物語を読み始めたばかりなのですが、ローマ人の物語で語られてきたローマの滅亡と十字軍の時代を結ぶのが本作だと知り、まずはこちらを読んでみることにしました。
ローマ帝国の滅亡と共に、北アフリカを中心にイスラムの勢力が増して行く。その中で中心を担っていたサラセン人たちは海賊としてシチリア島を攻略し、イタリア本土にも攻め込んで行くー。
暗黒の中世。その呼び名がしっくりとくる時代の物語です。海賊として沿岸部は愚か内陸部まで攻め込むサラセン人たち。略奪と殺戮を繰り返していく彼らに怯える時代はまさに暗黒の中世です。常に海賊たちに怯えながら暮らさなければならない時代とは、人生とはどんなものなのか、想像するだに恐ろしいです。このような世の中でも生きていかなければならない人々の心には絶望しかなかったのだろうと想像します。文章にしてしまうと一文ですが、とんでもない数の人間が殺されていたのでしょう。
イスラムに攻略され陥落するシチリアの都、パレルモにシラクサ。援軍を送ることも叶わない法王たち時の権力者たち。内乱とイスラムの戦いに明け暮れる世界では、人々の文明は確実に退化して行くようです。このあたりは現代もきっとそうなのでしょうね。大規模な世界戦争など起きようものなら、今の文明は間違いなく衰退するのでしょう。
一方で巻末に書かれていますが、シチリアを舞台にキリスト教とイスラム教が入り交じることで新しい文明が開花して行きます。特にパレルモは顕著なようですね。指導者たちが戦いに明け暮れようとも、商人たちは金を稼ぎ、文明の交流を推奨して行きます。このあたりにまだ希望があると感じます。
本作はサラセンの塔と呼ばれる海賊を見張るための塔のカラー描写がページの後半に載っており、当時の様子を現代に、読み手に伝えています。イスラムを破った稀なる戦い、オスティアの戦いが表紙ですが、この絵も美しいです。さて、次巻も楽しみです。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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