読書日記743:億男


タイトル:億男
作者:川村 元気
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「お金と幸せの答えを教えてあげよう」。宝くじで三億円を当てた図書館司書の一男は、大富豪となった親友・九十九のもとを訪ねる。だがその直後、九十九が三億円と共に失踪。ソクラテス、ドストエフスキー、福沢諭吉、ビル・ゲイツ。数々の偉人たちの言葉をくぐり抜け、一男のお金をめぐる三十日間の冒険が始まる。

感想--------------------------------------------------
川村元気さんの作品です。「世界から猫が消えたなら」などが有名で、最近はドラえもん映画の脚本でも有名です。

宝くじを当てて三億円という大金を得た一男。大金の使い方を相談した大金持ちの九十九(つくも)は、その三億円とともに姿を消す。九十九を探す過程で九十九の友人たちの「億男」たちに話を聞く一男はー。

誰もが憧れる大金持ち「億男」。その億男になってしまった一男について描かれた物語です。様々な億男と会話して行く一男ですが、一貫しているのは、「大金を得ただけでは人は幸せになれない」ということです。「世界から猫が消えたなら」でも感じましたが、この方の小説は物語の形式をとってはいますが、説話に近いと感じました。「お金を持っただけでは幸せになれない。それは○○だからだよ」と終始言われている気がします。この辺りは好き嫌いが別れるでしょうね。非常に文章が読みやすいだけに、そう感じる人は多いと思います。

大金と引き換えに信頼を失った人、大金を持ったために人を金を通してしか見れなくなった人ーその人生は様々ですが、読んでいて感じたのは、きっとこの著者もお金には困らない人なのだろうなーということです。「大金を持っただけでは幸せになれない」それはそうなのですが、、、世の中にはお金がなくて困っている人の方がよほど多く切実です。そちらからの視点が薄くて、どこか金持ちから見下されている感を読んでいて感じてしまいました。「お金に困っているみたいだけどさあ、大金を持っただけでは幸せになれないよ?わかってる?」みたいなね^^

お金に対しては誰もが自分なりの考えを持っていると思いますが、、、個人的には世の中の多くの人はお金に縛られていて、お金のために働いているんだろうな、と思います。お金を稼がなくてもいい、自由に使えるお金が山ほどある、そんな人はきっと、かなりの自由を感じられているのだろうと思います。信頼や人生の意義、そうしたものよりも明日の食べるものや住居に困る人が多くいる中で、この物語に出てくる登場人物たちは、やはり大金を持ったことでどこか世の中から浮いているようにも感じました。特に後半の一男の奥さんの選択がね、、、。おいおいそんなわけないだろ?って感じです。

お金を持たない人も、持つ人も、何かに不安を感じている。きっとこれは間違いないことなんでしょうね。明日を暮らすお金をどう稼ぐか、老後の資金をどう貯めるか、今持っているお金を失わないか。真摯に働いている人、お金と切実に向き合っている人ほどそれを強く感じるのではないでしょうか。「世の中お金じゃない」言うのは簡単ですが、、、きちんとお金と向き合えていないか、お金に困っていない人の言葉?のように思えて仕方ありませんでした。

正直、今の世の中ではお金を持っていない人はもちろん、どれだけお金を持っていても、不安は感じるのだろうな、と思います。それは社会の行く末が見えないから、ということが一番大きい理由なんでしょうね。だから生活を保障してくれるお金に対して誰もが執着してしまう。本書はそんな現実と少し離れた物語、とも感じました。本書の登場人物のような悩みを持てる世界は、ある意味幸せだとも思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B

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