読書日記740:天冥の標 6 宿怨 PART3


タイトル:天冥の標 6 宿怨 PART3
作者:小川一水
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
西暦2502年、異星人カルミアンの強大なテクノロジーにより、“救世群”は全同胞の硬殻化を実施、ついに人類に対して宣戦を布告した。准将オガシ率いるブラス・ウォッチ艦隊の地球侵攻に対抗すべく、ロイズ側は太陽系艦隊の派遣を決定。激動の一途を辿る太陽系情勢は、恒星船ジニ号に乗り組むセレスの少年アイネイア、そして人類との共存を望む“救世群”の少女イサリの運命をも、大きく変転させていくが―第6巻完結篇。

感想--------------------------------------------------
*ネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

天冥の標の六巻<宿怨>の三冊目です。西暦二千五百年代の太陽系を舞台とした人々の物語は、一つの結末を迎えます。

致死率の非常に高い病気 冥王斑に感染し、回復するもウィルスを体内に宿したままのため人々から忌み嫌われ隔離されてきた冥王斑 回復者<救世群>。身体の硬殻化と異星人の力を得ることで並外れた戦闘力を得た<救世群>は長年の怨みー<宿怨>を胸に、人々への復讐を開始するー。

宇宙艦隊による戦闘、人並みはずれた戦闘力を持つ者の戦い、異星人のもたらした超兵器ー。スケールが大きく、世界観がしっかりと作りこまれ、登場人物たちが生き生きとして躍動する。これぞSF!という展開に胸躍ります。

<救世群>の頭首、ヤヒロ家のモウサ、イサリ、ミヒル。<救世群>と対峙するMHD社のアイン、遠く太陽系を離れた恒星系を目指す光帆船、ジニ号。木星大気内で地球規模の羽を展開して八千年間風力発電を続け、莫大な電力を蓄えるとともに大赤斑の元ともなっていた異星人の建造した宇宙艦ドロテア・ワットー。こうした、一見、荒唐無稽に見えつつもそうは思わせない物語の展開、設定の厚みがたまりません。

<酸素いらず>のアイネイア一統、<医師団>のセアキ家、<恋人たち>、<穏健なる者>、そして<救世群>、<咀嚼者>、ノルルスカインとミスチフ、と物語りは一巻のメニー・メニー・シープ以来の大きな転換点を迎えていきます。一巻では地に足がついていない間があり、何がどうなっていくのかよくわからなかったのですが、一巻へと到達する過去の話が二巻以降で語られていくに連れて、物語の分厚さが増し、各登場人物への思い入れも強くなっていきます。

物語の最後は衝撃的な結末ー太陽系の壊滅となってしまいますがーこの次の巻以降で、生き延びた人たちの物語がまた語られていくのでしょう。イサリとアイン、ミゲラの関係と、そこに立ちはだかる<救世群>の女帝、ミヒル。巻は変わってもまだこの時代の物語は続きそうですね。

もうここまできたら途中で引き返すなんてありえませんね。慣性に従って最後まで読みきります。読み終えてしまうのがもったいない作品ですね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S

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