読書日記736:フーガはユーガ
タイトル:フーガはユーガ
作者:伊坂 幸太郎
出版元:実業之日本社
その他:2019年 本屋大賞ノミネート作品!
あらすじ----------------------------------------------
常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。
感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。久しぶりに読みました。いつ読んでも、この人の作品は「また読もう」と思えます。
風我と優我の双子は父親の虐待に苦しみながらもたくましく生きていく。そんな二人には、誕生日だけに起こる、ある秘密があったー。
伊坂幸太郎さんの作品には不幸な境遇の人が現れることが多いと感じます。それは虐待に苦しむ子供だったり、子供を亡くした親だったり。伊坂幸太郎さんは独特のユーモアのある筆致でその悲しみを描きながらも、それでも前を向いて生きていく人たちを多く描いてきていると感じます。それは「死神の浮力」だったり、「ホワイトラビット」だったり。
本作の主人公たちの双子もそうです。父親に意味もなく殴られ、虐待から逃げ、居場所を持たない少年時代を過ごし大人になっていく子供たち。そして双子の少年たちの周りにもそのような不幸の陰はちらつきます。しかし二人はそうした不幸に立ち向かい、二人だけの持つ秘密でなんとか切り抜けていきます。
「理不尽な、だけどどうしようもない暴力や不幸に負けない人の強さ」。こんな言葉が本書を読んでいると心に浮かびます。人は生まれて、最後には死ぬ。その間をどう過ごすか、どのように不幸から身を隠し、小さな幸福を掴むのか。「生きる」という、誕生と死の間の時間をどう過ごしていくのか。そんなことを読みながら考えました。これは「ホワイトラビット」でも考えたことですね。不幸やどうしようもないこともある。でもそれをユーモアを交えながらうまくやり過ごそうよ。そんな風に言っているように感じられました。
小学生時代に近所で起こった誘拐殺人事件、風我の恋人の秘密、優我の小さな恋、そして別れと出会い。どうしようもないことも多いけど、それでも登場人物は皆、前向きでそこには小さなユーモアがあります。その辺りがやはり本作も面白い。心が少しだけ明るくなり前を向けるようになる作品です。本作も読んで良かった、と思える作品でした。
伊坂幸太郎さんの作品は外れがないのでいつも読んでしまいます。既に出ている未読の本も読む予定です。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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