読書日記734;絶唱


タイトル:絶唱
作者:湊 かなえ
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
五歳のとき双子の妹・毬絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵―。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう(「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている(「約束」)。誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。喪失と再生を描く号泣ミステリー。

感想--------------------------------------------------
湊かなえさんの作品です。「楽園」、「約束」、「太陽」、「絶唱」という四編から構成される中編集です。

四編には共通しているところがいくつもあり、さらに登場人物も一部重なっています。共通点としては、トンガ共和国が舞台として描かれている、阪神淡路大震災が背景としてある、四編とも主人公が心に秘密や鬱屈を抱えた女性であること、などです。特に阪神淡路大震災とトンガは両極端な例として描かれていると感じました。まさに地獄と楽園ですね。震災がきっかけで心の傷を負った女性と、その女性が行き着いた楽園であるトンガ。その描き方は対照的です。

どうしても「告白」やその他の作品を読んでいると、この著者は心の奥底の暗いところ、鬱屈を効果的に描く人、後味の悪い終わり方をする作品を書く人、というイメージですが、本作を読み終えてそのイメージはだいぶ変わりました。正直、デビュー作の「告白」が強烈すぎたためその印象だけが残ってしまっていましたが、本作は心の深いところ、鬱屈を描きながらもそこからの再生を描いていて、普通に読んでいて読後感がすっきりとする作品でした。こんな作品も書けるんだ、この人、っていう感じです。(だいぶ失礼ですね…。)

四編の中で個人的に印象に残ったのは「太陽」です。夜の仕事で生計を立てるシングルマザーとその娘。望まぬ妊娠、出産とその後の選択肢の無い人生。その中で見つけた希望とその顛末。最後に物事の見え方が180度変わる展開はよい方向に期待を裏切ってくれました。

個人的には最近のこの著者の作品の中ではかなり好印象です。最後の「絶唱」の後半部ではリアルと小説が混在してきているようにも感じられましたが…本作は著者の経験を下書きにしているんでしょうかね?最近は人気が高すぎて多くの書籍が映像化されていることもあり、逆に手を引いていたのですが、少し読んでみようかな、という気持ちにもなりました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A

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