読書日記729:盤上に散る
タイトル:盤上に散る
作者:塩田 武士
出版元:講談社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
唯一の家族だった母を亡くした明日香は、遺品から一通の出されなかった手紙を見つける。宛名は「林鋭生様」。それが将棋の真剣師の名だと知り、明日香は林を捜すことに。「新世界の昇り龍」と呼ばれ、ある対局後に、忽然と姿を消したという男と母との関係は。昭和を生きた男女の切なさと強さを描いた傑作。
感想--------------------------------------------------
「罪の声」の塩田武士さんの作品です。「罪の声」がよかったので読んでみました。本書のタイトルになっている「盤」とは将棋の盤のことで、一人の真剣師を巡る話です。また本書は「盤上のアルファ」という別の作品の続編にもなっています。本書だけを読んでも楽しめますが、「盤上のアルファ」を読んでいるともっと楽しめるのだと思います。(私も未読ですが)
母を亡くし、遺品の中から真剣師 林鋭生あての手紙を見つけた明日香。林鋭生とは?母と素性の知れない真剣師の間になにがあったのか。明日香は鋭生を探し始めるー。
明日香とちんぴら崩れの達也の二人が、真剣師 林鋭生を探す旅が物語の主になります。伝説的な強さを誇りつつも姿を消した真剣師 林鋭生。死んだ母との繋がり求めて鋭生を探す旅は、二人を過去に引き込んでいきます。
「真剣」と呼ばれる賭け事の世界で綱渡りのような生活を送ってきた鋭生。そしてそのような生き様を許してきた昭和という世の中。まだ世の中に隙間があり、どこにも行き場のない人間がその隙間で生きていくことができた時代。いろいろなものが整っておらず、不便ではありますが、それを補って余りあるものがあった時代。そうしたノスタルジックな感覚もそこはかとなく漂わせています。
物語は大阪・関西を中心に展開します。関西の名物や情緒も漂わせています。そして物語の最後だけ、視点が明日香たちから切り替わります。昭和という時代を背景に一人の真剣師の生き様を描いた物語といえると思います。
本書の最後に、ドラマ版「盤上のアルファ」で林鋭生を演じた石橋蓮司さんと著者の対談が掲載されています。これを読むと「盤上のアルファ」も読みたくなりますね。グリコ森永事件の「If」を描いた「罪の声」といい、昭和を描くのが得意で好きな著者なのでしょうね。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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