読書日記719:騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編


タイトル:騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編
作者:村上 春樹
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
物語はここからどこに
進んでいこうとしているのか?

その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。

感想--------------------------------------------------
*本感想には一部ネタバレを含みます。

第一部の続きです。本作は第二部、つまり本巻で完結しています。

屋根裏で見つけた『騎士団長殺し』の絵をきっかけとして私の周りにはふしぎなことが起こり始める。顕われたイデアである騎士団長、完璧に見える谷を隔てた隣人、そしてー。

一部、二部で千ページを超える作品ですが、長さはあまり感じません。そして読み終えた後には心に残る何かがそこにあります(村上春樹作品全般に言えることですが)。そしてこれは「1Q84」を読んでいるときにも感じたことですが、本書もまた読み終えてもすべてが明確になった訳ではなく、一方で明確にする必要さえも感じない作品です。

イデア、騎士団長、メタファー、スバルフォレスターの男、免色という隣人、夜になると響く鈴の音、裏山の井戸のような穴…。イデアとメタファー、観念と暗喩、目に見えるものと、目に見えないもの。そして物語の中では現実とそれ以外の境界が次第に曖昧になっていきます。そもそも、現実とはなんなのか?今の現実と、明日の現実は同じものなのか…?そうした疑念が読みながら心の中に浮かび上がってきます。


「この世界には確かなことなんて何ひとつないかもしれない」
「でも少なくとも何かを信じることは出来る」

物語の後半で語られる言葉。これが全てを表しているように感じられます。どれだけ世界が発展しても、不思議なことは必ず残る。それら全てを明らかにすることは出来ないけれど、何かを信じて進むことはできる。信じることで前に進もうとする私と、信じる根拠を見いだすためにバランスを撮り続けようとする免色。対照的なその二人が出会ったことも、別れたことも必然であったのだな、と読みながら感じました。

確かなことなんて何も無い世の中で、主人公の「私」が、それでも何かを信じて前に進み始めるまでの物語。個人的にはそのように解釈しました。読み手によって様々な捉え方ができて、読み手の誰の心にも残るものがある。そんな作品でした。

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*いつも読んでいただきありがとうございます。前回でブログ記事が1,000回となりました!
 よくこんなに続いたと思います。まだまだのんびり更新していければと思います。
 よろしくお願いします!

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A

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