読書日記713:去年の冬、きみと別れ
タイトル:去年の冬、きみと別れ
作者:中村 文則
出版元:幻冬舎
その他:
あらすじ----------------------------------------------
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか?それは本当に殺人だったのか?「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は―。
感想--------------------------------------------------
「教団X」の中村文則さんの作品です。映画化もされています。
二人の女性を焼き殺した罪で投獄されている写真家。彼の取材を引き受けた僕は、彼や彼の姉の異様さに圧倒される。この事件の真実はー。
独特な書き方の作品です。一人称の僕の視点から語られる物語は謎を孕んだまま物語が進んでいくのですが、文章作品でありながら、その場に「あるもの」を描写していく書き方は写真や映画のようでもあります。本作品の中で写真は重要な意味を果たすのですが、そこと絡めているようにも感じられます。前振りや冗長な描写を一切省いた文章もその印象を強めます。まさに物語を「切り取った」作品です。
独特な描写の中で著者がこだわっているのは人の本質なのかもしれない、と思ったりもしました。写真家である被告の残した著名な写真では人の本質が隠され、被告は写真を撮ることで人の本質を抜き取り、人形師の作った人形は本物よりも本物に近付く。一方で、殺された一人の女性は全盲だったー。目で見えることと、見えないこと。人の本質と、虚飾。本質は見えないところにあり、それは常に隠されるがふとしたときにその化け物のような本性を現すー。
僕は化物になることに決めた。
タイトルの言葉に続く言葉ですね。ある一人の男の悲しい復讐の話でありながら、人の本質を描いた作品です。謎や仕掛けは山ほどあり、それを完全にといたとはとても言えません。でも、それでも、印象に残る作品です。これだけの物語を二百ページ足らずの分量で抑えているというのは驚きでもあります。無駄を極力排除しつつ、読者に理解させるだけの熱量を持った、濃密な作品でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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